魔法少女リリカルなのは Acta est fabula 作:めんどくさがりや
「く、はは、ははははは。ははははははははは‼︎」
とある場所にて、メルクリウスは眼前の光景に笑う。
黒いバリアジャケットを纏った金髪の少女ーーフェイトが海上にて荒れ狂うジュエルシードの魔力の渦をたった一人で食い止めようとしている。
たとえ才能や実力があろうとあれをたった一人で食い止めようとするとは無謀の一言に尽きる。だからこそ面白い。
「ああ、見たまえよカイン、ヴィクトリア。たった一人の少女が愚かにも災害の渦に身を投じている。使い魔もいるようだが明らかに劣勢だ。それでも彼女は武器を手に取る。己が母がまた笑ってくれると信じて。儚く、健気な、憐れな少女。プレシア・テスタロッサが己が娘の代替として作り上げた存在、フェイト・テスタロッサ。君と通ずるところがあるとは思わんかね?カイン」
『・・・それは僕に対する嫌味か?』
不機嫌そうに言うカインにメルクリウスは苦笑する。
「そんなつもりはないのだがね。言葉通りの意味だよ。彼女は母のため、君は妹のため、その身を投げ打った。自己犠牲の精神、とでも言うのかな?なんにせよ面白い。私はあの様な人間が嫌いではない」
『そんなことはどうだっていい。介入するのか?』
「ふむ・・・」
ここでどうするか。このまま傍観していたとしても何ら問題はない。いやむしろ、フェイトと彼らの壁が薄くなるので万々歳なのだが、まだ足りないものがある。
ではどうするか。まず自分が介入するのは論外。カインも顔が割れている。ならば、ジュエルシードの術式を変えるか?そう思案していると、傍らにいる白い少女が言う。
「父様」
「どうかしたかね?」
メルクリウスが聞くと少女ーーヴィクトリアが言葉を紡ぐ。
「私が行きましょう」
『君がかい?』
カインの言葉にコクリと頷く。
「はい。あなたも父様も、共に管理局に面識があるのでしょう?でしたら、未だ顔が割れていない私が行くのが得策かと」
ちなみにヴィクトリアの教育場所は周囲から時間軸を切り離しているため、どれだけいても肉体的に年をとる事はない。ゆえにヴィクトリアは精神的に成長して言動がかなり変わったのだ。
「・・・そうだな、たしかにその通りだ。では、許可しよう我が娘よ。ああ、ついでにジュエルシードを2、3個ほど回収してきてくれたまえ」
「ジュエルシードを、ですか?」
ヴィクトリアが首を傾げながら言う。カインも疑問に思ったのか怪訝そうに言う。
『君はあれに興味がないんじゃなかったか?』
「ああ、その通りだ。しかしあの宝石は不安定ながらも媒体としては優秀なのでな。改良し、少しばかり利用させてもらおう。む?ちょうど魔導士達も出てきたようだ。実戦にはちょうど良かろう」
「交戦した場合は無力化だけで良いのですか?」
「ああ」
「わかりました。ではーーー」
そう言うとヴィクトリアは瞠目する。
『魔鏡起動』
その言葉と共にヴィクトリアは目を開く。その瞳は今までと違い、紅い瞳になっていた。
メルクリウスは、ヴィクトリアに聖遺物を与えなかった。ヴィクトリアが出来損ないであったわけではない。むしろ予想以上に才能があった。しかし、メルクリウスは彼女に聖遺物ではなく、平行世界にて使用された技術による力を与えたのだ。
その力の正体は端的に言えば天使の力を使えること。その力は強大で、聖遺物の使徒であっても一定の力量を持たねば手も足も出ないほどである。
「調子はどうかね」
「はい。全てにおいて正常。"式"の起動も問題無く実行出来ます」
「それは重畳」
メルクリウスはそう言うと一歩下がる。それを確認してヴィクトリアは再び言葉を紡ぐ。
「
その言葉と共にヴィクトリアの背へと光が収束していき、形を成していく。
「モード"エノク"より、シェムハザ実行ーー」
それは翼だった。ただの翼ではなく、光子で出来たそれに触れればどれほど鋭い剣であろうと塵になるまで粉砕する光翼である。
「では」
短く言うと、ヴィクトリアは予備動作無しで一気に飛翔する。
その行き先は、魔導士達がいる魔力の渦。
◆
所変わり、魔力の渦が巻くすぐそば。アースラで状況を見ていた彼らはたった一人で無謀な行いをしているフェイトを傍観していることを否と断じて、この場へと転移したのだ。
「くっ、ユーノ‼︎大丈夫か‼︎」
「なんとか‼︎」
落雷や竜巻を回避しながらも渦を止めるべく奮戦する。
「みんな離れて‼︎」
なのはとフェイトの砲撃魔法の準備が整ったようでなのはのレイジングハートとフェイトのバルディッシュが凄まじい魔力を纏っている。
「ディバイィィィィンーーーバスタアァァァァ‼︎」
「サンダァァァァーーーレイジィィィィィィ‼︎」
そして二人が大技を放つ。莫大な魔力の一撃が放出され、ジュエルシードに直撃する。
かと思えたその瞬間、
「ーーーモード"エノク"より、アザゼル実行ーーグリゴリの指導者たる汝に命ずる、開門せよ」
その言葉と共に、荒れ狂う魔力の渦も、なのはとフェイトが放った砲撃魔法も、一瞬で消え去った。
全員が驚愕する中、澄んだ少女の声が聞こえてきた。
「これが、ジュエルシードですか」
そこにいたのは一人の少女だった。白い髪に白い肌、紅い瞳の少女。無表情ながらも整った顔立ちをしており、まるで精巧に作られた人形のようである。
その眼前には青い宝石ーージュエルシードが複数浮かんでいる。未だ封印されていないため、魔力が漏れ出して今にも暴走してしまいそうだ。
少女はそれを見てため息を吐く。
「外側の魔力を消すだけでは再び暴走してしまうのですね」
そう言うと、少女はジュエルシードに手を掲げて、不気味な祝詞を唱える。
「ATEH MALKUTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM AMEN 」
彼女の華奢な体躯から魔気が吹き上がる。それは魔鏡の力、彼女の内にある天使の能力を発動させる。
「
アクセス、マスター」
すると、少女の手に黄金に輝く光の枷が現れる。
「モード"エノク"より、サハリエル実行ーー」
すると少女はその枷をジュエルシードに向けて放つ。枷はジュエルシード全てに当たり、瞬時に封印する。サハリエルは呪縛魔術に長けた天使の力であるため、こういったことにも使用できるのだ。
「封印完了。しかし、このようにしなければすぐさま暴走する不安定具合。なるほど、父様が塵芥というのも頷けます」
一人呟くと、少女は魔導士達の方を振り向く。
「はじめまして。私の名はヴィクトリア・クリミナトレス。我が父の命により、ジュエルシードの確保に参りました」
少女ーーヴィクトリアはそう言うと、その手に持つジュエルシードを三個ほど手に取る。
「とはいえ、私が父より命じられた回収数は三つ。私としても残り三つは無用の代物ですので」
淡々とヴィクトリアは述べる。それを王城は険しい表情のまま、一つ呟く。
「・・・天使か」
その言葉にヴィクトリアが反応する。
「
瞬間、ヴィクトリアへとフェイトが向かっていき、バルディッシュを振るう。
「無粋ですね」
それを軽く避ける。
「ジュエルシードを渡してもらいます」
「さっさと渡さないとガブッといくよ‼︎」
それにヴィクトリアは興味深そうにフェイトとアルフを見る。
「実力差がわからない程愚かではないようですが、それ以上に成し得る必要がある。ゆえに引けぬ。なるほど、素直に感心します」
ですが、とヴィクトリアは言葉を区切る。
「だからと言って、我が父の願いを翻意にするわけにもいきません」
瞬間、ヴィクトリアから殺意が放たれる。
「命までは奪いません。ですが、立ち向かうというのなら手足の一、二本は覚悟してください」
ヴィクトリアはあくまでジュエルシードの回収が目的であり、戦闘が目的ではない。たとえ交戦状態に陥っても、無力化させるだけだ。
すると、フェイトの隣になのはが近づく。
「見てるだけなんて出来ないよ。だから、私も一緒に戦う」
決意を込めた目でなのはは言う。
「たしかにな。彼女が何者であれ、やる事は一つだ」
「ああ、私も同感だね」
祐介と蓮華も剣を構える。
「敵対意思を確認。戦闘を開始します」
◆
まず最初に向かったのは祐介と蓮華。前方から蓮華が、後方から祐介が向かっていくが。
「無駄ですよ」
振るわれた剣は光子の翼に触れた瞬間、粉微塵に砕け散った。
「たとえ形を為した奇跡と言えど、所詮急造で創られた贋作に過ぎません」
相手を間違えてはいけない。相手は人に非ず。魔の道に半歩程踏み込んだ程度で彼女は、魔鏡は倒せない。
「ディバインシューター‼︎」
「フォトンランサー‼︎」
なのはの誘導弾とフェイトの魔力弾がヴィクトリアへと向かっていく。だが、
「無駄だと言っているのがわからないのですか?」
ヴィクトリアはその翼の羽ばたきだけで、魔力弾を跳ね返す。
二人はそれを避けるが、その瞬間ヴィクトリアが二人へと光弾を放つ。
「きゃあ⁉︎」
「うあっ‼︎」
咄嗟に障壁を張ったようだが、光弾の直撃により、障壁ごと飛ばされた。そして数度交戦した後、ヴィクトリアはめんどくさげに嘆息する。
「いい加減、飛び回られるのは面倒です」
そう言うと、ヴィクトリアは魔導士達へと両手を向ける。
「モード"シェムハザ"ーーー
その瞬間、ヴィクトリアの手の先に黄金に輝く縛鎖が出現する。回避しようとするが、もう遅い。
「モード"エノク"より、サハリエル実行ーーー」
それと同時に魔導士全員が縛鎖に捕らえられる。
全員が抵抗しているが、縛鎖はビクともしない。
「それは物理的な力でしか解けませんよ。貴方達ではーー」
瞬間、ヴィクトリアへと何かが凄まじい勢いで向かって行った。ヴィクトリアも咄嗟に防御するが、少しばかり吹き飛ばされた。
「・・・なるほど、例外もいましたか」
そこには一振りの剣を携えた王城がヴィクトリアを睨めつけていた。
「この程度の縛鎖など、千切れぬとでも思ったか?見縊るなよ傀儡師」
傀儡師という言葉にヴィクトリアは反応する。
「傀儡師、ですか・・・」
「貴様の身体、内に何を飼っているかは大体検討はつくが、趣味が悪いにも程がある。もっとも、蛇に比べればマシなのだろうがな」
「その観察眼は見事と言えます。流石、父様より
「吐かせ。あの蛇より与えられた祝福など呪いでしかないだろう」
二人が何を話しているのかはわからない。だが、王城が出した一つの単語は見過ごせるものではなかった。
「蛇だと・・・?」
蛇、王城がその言葉で呼称する存在はただ一人。
「ヴィクトリア、だったな」
「はい」
祐介の言葉にヴィクトリアは短く返答する。
「君はあいつの、メルクリウスの仲間なのか?」
その言葉にヴィクトリアは緩く瞼を閉じる。まるで何かを思案しているようだ。そして彼女は目を開けると、小さく首肯する。
「肯定します。私は、父様の手により生み出された存在であり、歯車の一つ。メルクリウスは、私の父です」
その言葉に目を見開く。
「メルクリウスに子供がいたのか⁉︎」
あの男が妻子持ちなど信じられない。そう思っていると、王城が溜め息を吐く。
「戯けが、あの蛇が真っ当な子など作るわけもなかろう。過程も含めてな」
そう言うと王城は二振りの剣を取り出す。
「此処で落ちるがいい、蛇の落とし子よ」
その言葉にヴィクトリアは両腕に光剣を生み出す。
「落ちるのは貴方です。此処に反逆天使としての責務を全うします」
そして次の瞬間、二人は激突した。