魔法少女リリカルなのは Acta est fabula   作:めんどくさがりや

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◇からBGM:『Juggernaut』


天使と黄金・下

「ATEH MALKUTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM AMEN」

 

淡々と、彼女は式を紡ぐ。相手を過小評価などしない。自らの父が黄金の名を与えた、それだけで相手が相応の強者であることがわかる。だから出し惜しみはしない。

 

「YOD HE YAU HE ADONAI EHEIEH AGLA 」

 

ヴィクトリアから魔気が吹き荒れる。

 

我が前にラファエル(BEFORE ME RAPHAEL)ーーー

我が後ろにガブリエル(BEHIND ME GABRIEL )ーーー

我が右手にミカエル(AT MY RIGHT HAND MICHALEL)ーーー我が左手にウリエル(AT MY LEFT HAND URIEL)ーーー 我が前に五芒星は燃え上がり、(BEFORE ME FLAMES THE PENTAGRAM)我が後ろに六芒星が輝きたり―――(BEHIND ME SHINES THE SIX-RAYED SATER)

されば神意をもって此処に主の聖印を顕現(ATEM MALKTH VE-GEBURAH VE-GEDULAHLE-OLAM)せしめん

アクセス、マスター」

 

そしてヴィクトリアは自らに宿す天使の名を紡ぐ。

 

「モード"エノク"より、バラキエル実行ーーー」

 

瞬間、王城は何かを感じ取り、双剣をガードするように構える。すると凄まじい衝撃が走る。

 

「くっ・・・‼︎」

 

今の一撃は直感が働いたために防御出来た。もし、少しでも防御が遅れていたら身体をばらばらに引き裂かれていただろう。

なおもヴィクトリアの攻撃は続く。彼女が腕を振るうたびに斬撃のようなものが飛んでくる。

だが、王城もやられ放題で済まさない。

 

「痴れ者が・・・図に乗るなぁ‼︎」

 

その叫びと共に王城の背後の空間が歪み、そこから剣や槍などといった武器が現れる。その何れもが目を奪われる程の煌びやかな装飾に彩られ、抑えようのない圧力を放っていた。それは正しく正真正銘、貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)たる宝具である。

さしものヴィクトリアも、それには目を見開く。

 

「その散り様で(オレ)を興じさせよ、雑種‼︎」

 

その言葉と共にそれらが射出される。ただやみくもに打ち出されるわけでなく、その全てが標的を撃ち抜かんと正確に放たれている。

しかし、相対する者も常人ではない。凄まじい速度で避け、弾き、攻撃を無効化する。

その時、ヴィクトリアの頭上から王城が双剣を振り下ろしてきた。

ヴィクトリアは腕を交差させてその一撃を防御する。

ヴィクトリアは自らが受け止めている黄金の双剣を見て口を開く。

 

「なるほど・・・黄金とは貴方自身を指し、始まりは貴方が所持する英雄が振るいし武具の原典を示す。ゆえに始まりの黄金(イニティウム・アウルム)。バラキエルを以ってしても砕け得ぬ奇跡の結晶。そちらの彼が作成した物や彼女が生み出した剣も中々でしたが、急増の奇跡では叶わないようですね」

「雑種の尺度で物事を測るな。しかし、ようやく確信したぞ」

 

王城は忌々しげにヴィクトリアを睨む。

 

「忌まわしき神の尖兵たる天使の因子をその身に宿す。反逆天使とは良く言ったものよ。あの男の趣味の悪さが良く理解できる」

「父様からすれば、この世界の全ての事柄は父様の創る恐怖劇(グランギニョル)の舞台装置であり、私を含めた全ての者はそこに舞う演者に過ぎません。私の力はただ父様の望むままに振るうのみです」

 

そう言うと、再度腕を振るう。王城も双剣を振るい、再び攻防が始まる。

 

「私から一つ質問があります」

 

激しい戦闘の最中、ヴィクトリアが口を開く。

 

「貴方は何を望んでいるのですか?」

「何・・・?」

 

ヴィクトリアの問いに王城は怪訝そうに言う。唐突な問いに王城は質問の意図がわからずに問う。

 

「どういう意味だ」

「言葉通りです。貴方にも渇望があるのでしょう?飢え、渇く程に欲する願い。希いって追い続ける、見果てぬ夢が」

「・・・・・・」

 

渇望。そんなものを自分は持ち得ていると?あらゆる財を手中に納めても、まだ足りぬものがあると?

 

「馬鹿な」

 

ありえない。自分は渇望(そんなもの)など持っていない。

 

「戯言ばかりを。貴様は誇大妄想狂か何かか?さぞかし世の中が楽しかろう」

 

心の内の動揺を隠しながら言う。

 

「たしかに(オレ)は今の現状にいささか物足りなさを感じるが、所詮はその程度だ。狂い果ててまで欲するものなど何もない」

「・・・では、あなたは何も必要としていないと?自らに敵対する者を蹂躙する。越えるべき難問を凌駕する際に得られる達成感を何一ついらないと?」

「くどいぞ傀儡師」

 

自分は今の状況を良しとしているのだ。対等の敵がいないのは不満を感じるが、渇く程のものでもない。

祐介や蓮華との戦いなども無聊の慰め程度にしか思っていない。

そもそもだ。

 

「渇きを感じ得るのは人として当然でーーー」

 

 

ーーードクン。

 

 

「では、貴方はーーー」

「・・・待て」

 

これはなんだ?この傀儡師とは今日初めて出会った筈だ。それで間違いないのだ。だというのに、何故自分はこの問答に既知を感じている?

頭にノイズが走る。これは一体・・・。

その時、ヴィクトリアが何かに感づいたのか別方向に顔を向ける。

 

「・・・了解しました」

 

そう言うと、ヴィクトリアは王城の方へ振り向く。

 

「父様より言伝を授かっております。曰く、『いい加減に偽りの心情を語るのはやめたまえ。己が渇望を封じ、それをさも当たり前のように振る舞うなど愚の骨頂。君の飢えは、渇きは、今のままでは決して満たされぬ。伽藍堂のままだ』、と」

「くだらぬな」

 

それを一言で切り捨てる。王城の中には未だに既知感が渦巻いているが、関係無しに言葉を紡ぐ。

 

「親子揃って戯言を述べるのが好きなようだが、あいにく(オレ)には貴様らを興じさせる道理など欠片も持ち合わせていない」

 

そうだ。(オレ)は他者を興じさせるような殊勝な心は持っていない。

ああ、それでもこの既知感は自らの中に広がっていく。

 

 

ーーードクン。

 

 

「ですが、貴方は父様より黄金の名を与えられた者。それを持つ者が飢えを持たぬなどありえない。何故ならーーー」

 

そうだ、そうだった。(オレ)ーーー私は、

 

 

 

()()()()()私は()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

その瞬間、

 

「ヴィクトリア・クリミナトレス」

 

その言葉は、全員の耳に浸透するような声音であった。

そして王城から息が詰まる程の圧力が放たれた。祐介達はその圧力に冷や汗が止まらず、なのはは恐怖を抱いている。そして、王城に目を向けた者達は驚愕する。王城の燃えるような深紅の瞳が、黄金に輝いていたのだ。

 

「いい加減にその達者な口を噤め」

 

一歩進み、傀儡師の言葉を寸断する。私の真実、私という存在へ願う祈りのカタチ。

何を願い、何を信じ、何を求めているかなど・・・見えぬ分からぬ。だが知っている。

理解不能で、説明できない心の解は、既に何度も繰り返してきた感慨なのだ。

この度し難い苛立ち、自分はこの後の行動を知っているだろうという絶望、嘲笑ーーー無限の虚無感。

それを壊し、頂に座したいという願い。ゆえにーーー

 

「もしこれ以上、くだらぬ戯言をほざくと言うのなら」

 

彼女へと殺気が叩きつけられる。ヴィクトリアはその殺気の強大さに目を見開く。

 

「その口、二度と開けぬようにしてやろう」

 

それはまさしく王の威厳。しかしそんなものは自分にとって些事であり、必要としないもの。何故なら王城 天牙とは己が作り上げた人形、飛沫の夢であるゆえに。(オレ)ではなく、私こそが己であるのだから(・・・・・・・・・・・・)

ヴィクトリアはそれに軽く息を吐いて言う。

 

「これは想定外ですね。今の貴方が相手では分が悪い。ゆえ、ここは引かせてもらいます」

 

そう言うと、ヴィクトリアは祐介達の縛鎖を解除して、帰還していく。

それをすぐさま魔導士達は追おうとするが、近くにあったジュエルシードが魔力を放ち始めた。

 

「な⁉︎どうして‼︎」

 

クロノが声を上げるが、王城は去っていくヴィクトリアを見て嘆息する。

 

「去り際に封印を解除したか。抜け目ない事この上ない」

 

そう言うと、一振りの剣を取り出して暴走寸前のジュエルシードへと向かい振り下ろす。

それだけで、ジュエルシードは三つとも砕け散った。魔導士達はそれに驚愕するが。

 

「・・・・・・」

 

王城の胸にあるのは虚しさだけであった。達成感も、何も感じ得ない。今までとは違う。

 

(オレ)であった時期が長かったか?」

 

一体いつからこうなった?何故こうも満たされぬ?わからん、わからんが先の言葉が頭の中で反芻する。

 

『貴方にも渇望があるのでしょう?飢え、渇く程に欲する願い。希いって追い続ける、見果てぬ夢が』

 

『いい加減に偽りの心情を語るのはやめたまえ。己が渇望を封じ、それをさも当たり前のように振る舞うなど愚の骨頂。君の飢えは、渇きは、今のままでは決して満たされぬ。伽藍堂のままだ』

 

「渇望、か・・・くだらぬな」

 

その呟きは、虚空へと消えていった。

 

 

「・・・・・・」

 

メルクリウスの側に立つカインは海の向こうへと視線を向けたまま一言も言葉を発さない彼を怪訝そうに見る。

いつもなら役者がかった言葉で喋り続ける彼が無言のままにいる。

その時、側に白い少女ーーーヴィクトリアが降り立った。

 

「父様、ただいま戻りました」

「・・・・・・」

 

なおもメルクリウスは言葉を発さない。

 

「父様?」

『おい、カール・クラフト』

 

そこでようやく気付いたのか、メルクリウスこちらに目を向ける。

 

「?・・・ああ、戻ったのか」

「父様、どうかなされたのですか?」

 

それにメルクリウスは首を横に振る。

 

「なんでもないよ。さあ、帰ろう。今日はここまでだ」

 

そう言って歩き出す。その刹那、メルクリウスは再び海に視線を向けて呟く。

 

「そうか、君がか」

 

その目は、喜びと憂いを帯びていた。かつて無い喜びと嘆きが入り混じった目。

メルクリウスはぽつりと呟いた。

 

「君が私の、■■■■だったのか」




少しばかり修正、改変しました。
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