経済学の話をするガングートとイントレピッド   作:ヒルベルト

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貿易や交易について

私はバドワイザーを、ガングートはカールスバーグをもう一杯注文した。

グラスはすぐに私たちのテーブルに置かれた。

私とガングートは同時にグラスを手に取り、ビールを口に含み、グラスをテーブルに置いた。

 

そこでガングートが一言。

「せっかくだから、私は国際経済の話を始めよう。」

 

何が「せっかくだから」なのかよくわからなかったけれど、私の方も「せっかくだから」聞いてみようという気になっていた。

 

「とは言っても、国際経済の場で行われていることも、結局…。」

「『交換』であり、『貸借』である…でしょ?」

「その通り。」

 

さっきから手つかずだった照り焼きチキンとアボカドのサラダを口にしてから、ガングートは続けた。

「改めて『交換』の意味を確認しよう。」

「そもそも『交換』とは、()()()()持っている物・余っている物を引き渡して、持っていない物・不足しているものを受け取る行為だ。」

「例えば遊牧民と農耕民が畜産物と農産物を交換する、という風にな。」

「だが先程も話に出たことだが、『交換』はいつも成立するわけではない。」

 

「例えばソヴィエト・ロシアがアメリカに『オニノフグリ』を輸出したが、アメリカに『オニノフグリ』と交換できるような財物がなかったとする。」

「そうすると、『オニノフグリ』の輸出はソヴィエト・ロシアからアメリカに対する『貸し』ということになる。」

「このときソヴィエト・ロシアからは『オニノフグリ』が、アメリカからは『借用証』が…アメリカドルが『輸出』されることになるわけだ。」

「この例はフィクションです。実在の、あるいは歴史上の事実や状況などとは一切関係ありません。」

 

最後の一言は誰に向けて言ったセリフだったのかしら。

 

「…『オニノフグリ』って、何?」

「30年ぐらい前のゲームに出てきたアイテムだ。何でも『流行性痴呆症』とかいう奇っ怪な病気の特効薬…と言う設定だったそうだ。交換できるような財物がない物の例として引用してみた。」

 

一体どういうゲームだったのかしら。

あと、このときは私もガングートも気づいていなかったけど、「オニノフグリ」という名前はさりげなく下ネタの入った名前だった。

 

「この例でソヴィエト・ロシアは『オニノフグリ』と引き換えに、アメリカから『借用証』としてのアメリカドルを手に入れたが。」

「ここには酷い勘違いが生じる余地がある。」

 

「勘違い?」

 

「武力に依ることなく世界を征服できるかもしれない、という勘違いだ。」

「アメリカに『貸し』を作ったことで、アメリカに対して優位に立てたという勘違い。」

「アメリカドルという『借用証』を拠り所にして、アメリカを従属させることができるという勘違い。」

「輸入を抑え、輸出を促進して世界中に『貸し』を作り、その『貸し』を根拠にして、全世界を従わせることができるという勘違いだ。」

 

「それって勘違いと言うより、もはや妄想じゃない?」

 

「そう、妄想と言っても良いだろう。」

「だが過去を振り返ると、こんな妄想に取り憑かれた人間は確かにいた。」

「重商主義者とか、貿易差額主義者と言った連中だ。」

「『借用証』としての貨幣やその代用物こそが『富』だと考えた連中だな。」

「彼らはどうやら、『貸し』を与えた相手には何を要求しても構わないと考えていたらしい。」

「そして『貸し』を与えた相手を従属させ、従わせることが『富』である、と。」

「いくら『貸しを返してもらおうか』と強く迫ったところで、無いものは差し出せないし、不可能なことは実行できないのにな。」

 

カールスバーグをまた一口して、ガングートは続けた。

「『交換』は、『貿易・交易』はあくまでも()()()()持っている物・余っている物を引き渡して、持っていない物・不足しているものを受け取る行為だ。」

「そしてそうすることによって『豊かさ』を実現する行為だ。」

「持っている物・余っているものを()()()()売りつけて、相手を従属させる行為ではない。」

 

 

 

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

P=C’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

・P:価格

 

 

 

ζ =σ’δ/(σ’+δ)

ρ =δ/(σ’+δ)

 

・δ :自国側の貸付希望額

・σ’:相手国側の借入可能額

・ζ :『貸し』の額

・ρ :『金利』

 

 

「これが『交易・貿易』の仕組みを表す式というわけね。」

「そうだ。」

 

「δが()()希望額になっていて、σ’が()()可能額になっているところにちょっと違和感を感じるわ。」

「先に『貸借』の仕組みを表す式を導出したとき、δは()()希望額になっていて、σは()()可能額になっていたと思うんだけど。」

 

 

「この式においてQやζは、()()()()()()()()()()()()を示している。」

「Qはそのまま輸入品・相手国から提供されるサービスだが。」

「ζは、相手国から『借用証』として入ってくる何か―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であると()()した。」

「例えば、現代なら外貨、古代あたりなら金や銀、貴金属といったところか。」

「貿易や交易の場で、外貨や金銀・貴金属を求めるということは、相手国から『借用証』を求めるということであり、相手国に()()()()()()()()()()()ということだ。」

「だからこの式ではδを()()()()()とした。」

「それでσ’は相手国が保有している外貨…いや、相手国から見れば自国通貨だな…あるいは、金銀・貴金属を示している。」

「するとσ’は()()()()()()()()()()()()()を示していることになる。」

「だからこの式ではσ’を()()()()()とした。」

 

「だが、自国に流入する外貨や金銀・貴金属が『借用証』…『貸し』ではなく、『借り』だということも確かにありうる。」

「だからδを貸付希望額、σ’を借入可能額と名付けたとき、少し悩んだことを白状しておこう。」

 

「ここではρを『金利』と呼ぶことにした。」

「相手国が出す『借用証』の価格、という意味を持たせたかったのだが…適切であったかどうかはわからない。」

「定義上1を超えることができないから、ρを何かの価格とするのはそもそも無理があるのだが。」

「それでも『借用証』の発行数を示すσ’が大きくなればρは下がるし、σ’が小さくなればρは上がる。」

「『借用証』への需要を示すδが大きくなればρは上がるし、δが小さくなればρは下がる。」

「このことから、ρは『借用証』の価格そのものではないにしても、価格を示す数値であると思っても良いだろう。」

「ρが『借用証』の価格を示す数値であるとすれば、ρは金銀・貴金属の価格を示しているし、外貨の価格を…為替レートを示していると思っても良いだろう。」

 

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

P=C’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

・P:価格

 

 

 

ζ =σ’δ/(σ’+δ)

ρ =δ/(σ’+δ)

 

・δ :外貨、金銀・貴金属などへの需要

・σ’:相手国側の通貨、金銀・貴金属の供給量

・ζ :流入している外貨、金銀・貴金属など…『借用証』

・ρ :為替レートを示す量

 

 

「繰り返しになるが、『貿易・交易』はあくまでも()()()()持っている物・余っている物を引き渡して、持っていない物・不足しているものを受け取る行為だ。」

「そしてそうすることによって、お互いを豊かにする行為だ。」

「だが、持っている物・余っているものを()()()()売りつけて、相手を支配できるのではないかという勘違いをしてしまったとき。」

「『貿易・交易』は戦争になり、金銀・貴金属、外貨…通貨などは、兵器になってしまうのだ。」

 

そう言うと、ガングートはカールスバーグを口にした。

深い意味はないけど、私は少し襟を正して話の続きを待った。

 

「ニュース番組などで、国と国が何か貿易のことで揉めているという話をするとき、キャスターは何か難しく、ややこしい話をしているように思える。」

「国と国が貿易のことで揉めている、というのは取りも直さずその国同士の間で『貿易という戦争』が繰り広げられていると言うことだ。」

「それでキャスターの話がどれだけややこしく、難しそうであったとしても、『貿易という戦争』で行われていることは単純だ。」

「『貿易という戦争』の当事者がしていることは、結局『輸入を抑制し、輸出を促進する』…ただこれだけなのだ。」

 

「『輸出を抑制する』とはどういうことなのか…。」

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

 

「まあ単純には、輸入に制限をかけてしまうこと、輸入に対して高額の関税をかけてしまうことだ。」

 

D=2 W=2 S’=1 C’=1

「この条件下では輸入量Qは1になるが、ここで輸入に対して高額の関税をかけたとすると…それは相手国の費用C’が高くなると言うことを意味する。」

「そこでC’=2とすると…。」

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

 

D=2 W=2 S’=1 C’=2

Q=0.66

 

「相手国からの輸入量Qは1から0.66になる。そしてこれをS’に代入してQを計算し直す…を繰り返すと。」

 

Q=0.66

Q=0.49

Q=0.39

 

「最終的に輸入量Qは0になり、供給規模S’も0になってしまう。」

「これは相手国の産業に打撃を与えたと解釈することもできる。」

「これだけでも正に『貿易という戦争』が行われていると言えるだろう。」

 

「では『輸出を促進する』とはどういうことなのか…。」

「まずは売れるような商品・サービスを開発すれば良いのだが。」

「それは確実ではないし、面倒くさい。」

「だがもっと手っ取り早く…と言うより安易に輸出を促進する方法はある。」

「自国の通貨供給量を増大させて、為替レートを下げることだ。」

 

ζ =σ’δ/(σ’+δ)

ρ =δ/(σ’+δ)

 

・δ :外貨、金銀・貴金属などへの需要

・σ’:相手国側の通貨、金銀・貴金属の供給量

・ζ :流入している外貨、金銀・貴金属など…『借用証』

・ρ :為替レートを示す量

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

 

「相手国が通貨の供給量σ’を拡大して為替レートρを下げたとする。」

「これは相手国からの『借用証』が手に入りやすくなることを意味する。」

「この『借用証』は、『商品引換券』としての意味もある。」

「ルーブルが手に入れば、ルーブルで売られているものが手に入りやすくなるし、ドルが手に入れば、ドルで売られているものが手に入りやすくなる。」

「だから『借用証』の…外貨や金銀・貴金属の流入は、相手国からの輸入を、()()()()()()を促進するというわけだ。」

 

ここで私はちょっと口を挿んだ。

「でも…。」

「何だ?」

 

「『商品引換券』としての外貨、金銀・貴金属の流入によって相手国からの輸入が促進されるというけど…。」

「うちのAdmiralって、商品券とかをもらっても全然使わない人なのよね。」

「そんなものより現金がいいなあとか言ってた。」

「だから『商品引換券』が入ってきたからって、ホントに相手国からの輸入が促進されるのかなぁって思っちゃうんだけど。」

 

「う…それは確かにその通りだ。」

「でも『商品引換券』が手に入れば使う、と言う者は一定数居る。」

「例えば私と提督が『商品引換券』を貰ったとする。」

「それで提督が使わなかったとしても、私が使えば、『商品引換券』の効果はあると考えられるだろう。」

 

「お前が言った通りの事情もあるし、劇的、というわけには行かないだろうが。」

「相手国から『借用証』が、『商品引換券』としての外貨、金銀・貴金属が手に入り易くなれば、相手国の輸出は()()()()促進される。」

「それは相手国の費用C’が、相手国からものを手に入れる費用C’が()()()()下がることを意味している。」

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

 

D=2 W=2 S’=1 C’=1

Q=1

 

「ここで為替レートρが下がったことによって、費用C’が…そうだな、0.75に下がったとすると。」

 

Q=S’DW/(C’D+WS’)

 

D=2.00 W=2.00 S’=1.00 C’=0.75

Q=1.14

 

「これで相手国の生産規模S’が1.14に上昇したとすると…。」

 

Q=1.14

Q=1.20

Q=1.23

 

「最終的に相手国の生産規模S’は1.25にまで上昇する。」

「相手国は輸出を促進することによって、経済成長を成し遂げたわけだな。」

「見方によっては、相手国はこちらを食い物にして経済成長を成し遂げたように見える。」

「そのためにばら撒かれた相手国の通貨は、ある意味兵器なのだと言えるかもしれない。」

 

「ちなみに相手国が為替レートρを下げるために通貨をばら撒くとき、相手国自身の中にも通貨をばら撒くことになる。」

「相手国内にばら撒かれた通貨は、相手国内の投資・貯蓄になるが…急に拡大した投資・貯蓄が、不況・恐慌の遠因になるかもしれないことは、先に話した通りだ。」

「使いどころを誤れば、自らを滅ぼすことになるかもしれない点でも、通貨は兵器だと言えるかもしれないな。」

 

 

国際経済というものについて…。

国際経済と言っても、そこで行われていることはやっぱり『交換』と『貸借』だ。

 

※『交換』の仕組み

Q=S’DW/(C’D+WS’)

P=C’DW/(C’D+WS’)

 

・D :自国の需要規模

・S’:相手国の供給規模

・W :自国の需要能

・C’:相手国の費用

 

・Q:輸入量

・P:価格

 

 

※『貸借』の仕組み

ζ =σ’δ/(σ’+δ)

ρ =δ/(σ’+δ)

 

・δ :外貨、金銀・貴金属などへの需要

・σ’:相手国側の通貨、金銀・貴金属の供給量

・ζ :流入している外貨、金銀・貴金属など…『借用証』

・ρ :金利…為替レートを示す量

 

今回説明はなかったけど、流入している『借用証』…外貨、金銀・貴金属などは、相手国への『貸し』ではなく『借り』であることもある。

 

国際経済における『交換』…『貿易・交易』とは、[[rb:お互いに>・・・・]]持っている物・余っている物を引き渡して、持っていない物・不足しているものを受け取る行為だ。

そしてそうすることによって、この世界を豊かな世界にする行為だ。

でもこの世には「世界中に自国商品を売りまくって、自国はどこからも何も買わなければ、自国は世界の覇権を握ったことになるんじゃないか?」という妄想が生じることがある。

 

そんな妄想に取り憑かれたとき、『貿易・交易』はある意味で戦争になる。

輸入を制限することによって相手国の産業・生産に打撃を与え、通貨や金銀・貴金属をばら撒いて輸出を促進し(見方によっては)相手国を食い物にして自国の生産を拡大させる。

 

ガングートは『貿易という戦争』と言っても、そこで行われていることは「輸入を抑制し、輸出を促進しようとすること」だけだと言った。

 

今でも貿易についての揉め事が、ニュース番組で話題に上がることはある。

ニュースに流れる当事者の主張がどんなものか、ちょっと思い起こしてみる。

すると結局お互いに「相手国は(貿易によって世界の覇権を握るという)妄想に取り憑かれている!我々はその妄想を正さなければならない!」言い合っているだけだ。

それで結局、お互いに「輸入を抑制し、輸出を促進しようとすること」に躍起になっている。

それで結局、貿易という行為がどういう行為なのかが忘れ去られてしまっている。

 

 

ガングートは妄想に取り憑かれたとき、貿易は戦争になると言っていたけど。

そんな妄想って、本当に実在しているのかしら。

もしかすると、そんな妄想なんて本当はどこにも存在していなくて、ただの誤解があるだけなんじゃないかしら。

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