鋼殻のレギオス~ご都合主義   作:ペコ

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第二話

sideレイフォン

 

 

 

「ここがツェルニか……」

 

 

グレンダンを出て約一ヶ月後、レイフォンは学園都市ツェルニの地を踏んでいた。

 

道中汚染獣の群れに何度か出くわしたが、バスに乗っている乗客は天剣授受者たるレイフォンがいることへの安心感からか、むしろもっとよく見ようとする人間ばかりだった。退屈なバスでの生活もあってか普段はシェルターにいてその姿をみることの出来ない幼馴染みも双眼鏡を持ってその中に入っていたくらいだ。 もちろんそんなことをしていたのはグレンダン出身の人達ばかりではあったが

 

しかしようやくバスの旅から解放されたというのにレイフォンはくたびれていた。

 

「やっと着いた……」

 

理由は簡単だ。

 

何せ放浪バスは狭い空間であり、その中で時間を潰す一番の手段は会話であり、そしてレイフォンと同乗していたのはグレンダンの同い年の武芸者達だ。 尊敬の視線とともに尋ねられる質問の数々に元々話すことは、まして大勢と話すことの苦手なレイフォンに相当なプレッシャーを与え、結果、レイフォンは疲れきっていた。

 

「や、やっと解放された」

 

隣でジト目を向けてくる幼馴染みの姿すらろくに見ることなく

 

とりあえずその日は疲れから黙って宿舎に直行し、リーリンと別れるとすぐに眠りに落ちた。

 

幸いなことに同室の者はいなかった。

 

 

 

 

そして翌日、あまりの眠気に目を擦りながら歩き、リーリンにシャキッとしなさい!と怒鳴られながら歩いていたレイフォンの目の前でそれは起きた。

 

「なんだとぉ!?」

 

「やるか!?」

 

突然の怒鳴り声、そして漂う闘いの気配、グレンダンにおいて非常に慣れ親しんだ気配だ。

 

「まったく……どこの都市でも一緒なのね」

 

それを感じ取ったリーリンが隣で呟いていたが聞いてはいない、レイフォンにとって彼らは自分の平和な朝を乱した狼藉者だ。

 

次の瞬間、喧嘩をしていた二人は地面に叩きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

一時間後。

 

そしてレイフォンは呆然とした気分で生徒会室にて直立していた。

 

「とりあえず座ったらどうかな?」

 

そういって目の前にいる銀髪の眼鏡をかけた生徒が椅子を指し示した。

 

「あ、はい」

 

そう答えて座ったもののまだ現実感が出ない、なにせ寝ぼけなまこでぼぅっとしていたらいつの間にか生徒会室に連れてこられていたのだ。ちなみに連れていかれる時の幼馴染みの視線が一番堪えていたりする。

 

 

「先ずは感謝を、君のお陰で新入生達に怪我人が出ることはなかった」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

とりあえずは無難にそう答えておく、なにせ感謝を述べるためだけならここに呼ぶ意味がわからない、そしてわからない以上、自然と相手の意図を探ることになる。

闇試合の一件以来、そうした世渡りに必要な技術を多少は学んだレイフォンだった。……まあ、恋愛というか人の機微には相変わらず疎いまんまだが。

 

「新入生の帯剣許可を入学半年後にしているのは、こういう、自分がどこにいるのかをまだ理解できていない生徒がいるためなのだけど……やれやれ、毎年のことながら苦労させられるよ」

 

あくまでも爽やかに苦笑する生徒会長に、レイフォンは相手の意図を読むことができずにただ気の抜けた相槌を打つのみだ。

 

「それでここに君を呼んだ理由なんだが……」

 

生徒会長が、いやカリアンがそう言いかけたとき……

 

コンコン

 

扉をノックする音が聞こえた。

 

「ああ、やっと来たか………入ってきたまえ」

 

しかしカリアンはこの来客をどうやら待っていたようで、ノックした人物を部屋に招き入れた。

 

「失礼します。 第5小隊隊長 ゴルネオ・ルッケンスです。生徒会長お呼びですか?」

 

そう言って入って来たのは銀髪の大男だった。しかしそれに反して愛嬌のある顔立ちをしている。

 

「ああ、呼んだよ」

 

その人物を手招きするカリアン。 一方レイフォンは顔見知りの登場に驚いていた。

 

「まあ、君もかけたまえ、それで知っていると思うがゴルネオ君、彼がレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君だ」

 

「どうも、昨日はお世話になりました」

 

「とんでもない、当然のことをしたまでです。ヴォルフシュテイン卿、 困ったことがあったら何でも申し付けてください」

 

「……わかりました」

 

もう呼ばれかたについては諦めたとばかりにため息をつくレイフォン。ちななみにゴルネオに気をとられていて何故自分が天剣授受者であることを知っているのかという疑問は抱いていない。

 

一方カリアンは目の前のやり取りに驚いていた。

 

「なんだ、二人は顔見知りかね?」

 

「はい、ですが先日自分が挨拶に参上したばかりです。 陛下と兄からヴォルフシュテイン卿のサポートをするよう命ぜられましたので」

 

「はい、実際顔を会わせたのは今回で二回目です」

 

「そうか、なら話が速くて助かるよ。 実はレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君。 君には小隊に所属してもらおうと思っているんだがゴルネオ君はどう思うかね?」

 

カリアンがそう言うと、ゴルネオは驚いた顔をした。それを聞いてレイフォンは首を傾げる。

 

「えーと? 汚染獣を倒すチームのことですか?」

 

グレンダンでは汚染獣戦闘の基本はやはり集団戦であり、その最小単位が小隊である。実際養父であるデルクも小隊長を務めていたはずだ。それが集まって中隊、大隊を編成する。

 

「いや、そうではないよ。 まあ、ここはゴルネオ君に説明をお願いしよう」

 

「………わかりました」

 

そう返事するとゴルネオはツェルニに於いて小隊とはエリートの集団のことであり、スキルマスターなどと呼ばれる存在であること、そしてその主な役割は都市戦での中心を担うことであり、一般武芸者を率いることであり、いわば幹部候補生のことである。そしてツェルニは過去の武芸大会で惨敗しており、セルニウム鉱山が後一つしかない状況でもう後がないと説明した。

 

 

「えっと……つまり僕に都市対向戦で戦って欲しいと?」

 

確かにそのくらいならお安いご用だ。 自分としても留学先が潰れてしまうのは避けたい。

 

「ああ、そういうことだよ。 ただ……悪いんだが君には手加減して欲しくてね」

 

「手加減?」

 

「ああ、確かに君は強い、おそらくプロの世界に身を浸した君から見ればここにいる学生なんて相手にもならないだろう。 だがここは育てる場所なんだ。 いくらなんでも君に依存するような形になるようなことは望ましくない。 皆の成長を止めてしまうからね」

 

カリアンの話を聞いたレイフォンは一応は納得した。

 

「分かりました」

 

「ああ、悪いけどよろしく頼むよ」

 

「それでだ。 ゴルネオ君に来てもらったのは彼の小隊入りについて意見を聞きたかったのと、同じグレンダン出身である君に今年の新入生を統制してもらおうと思ってね」

 

「どういうことですか?」

 

「レイフォン君の影響か知らないが今年は大量のグレンダン出身の新入生が入ってきたからね、実力に足る者がいるのなら新しく小隊を立ち上げるのも悪くないかと思ってね」

 

「………はぁ、しかしそれならヴォルフシュテイン卿のほうが適任かと」

 

「そうかい? しかし一応は小隊長を務めている君じゃないとそういったことは行えないよ。 なにせいかにレイフォン君が天剣授受者といってもここは学園都市、グレンダンではないし、まだ新入生である彼に任せては周りが納得しないだろう」

 

そう言われてゴルネオは黙る。 しかしそのまま言いなりにはならない

 

「……ではヴォルフシュテイン卿にサポートをお願いするくらいならいいでしょう?」

 

「うん、それくらいなら問題ないよ、ヴァンゼには話を通しておくから早いうちに頼むよ。 それからレイフォン君。 小隊の件に関してはまた人をやるからそれまではゴルネオ君のサポートを頼むよ」

 

「わかりました。 しかしそれならお願いがあるのですが」

 

カリアンが話をまとめようとしたところでレイフォンは口をはさんで、先程話を聞いた時から考えていたことを披露した。

 

それを聞いたカリアンは話をまとめながら呟いた。

 

「………成る程。 つまりグレンダンから来た学生は皆、君に師事したいと言っていてそのための場所を提供してくれれば小隊入りするし、先程の話も実行しやすくなるというわけか……」

 

そういってカリアンは五秒ほど考えこんでいたがすぐに顔を上げた。

 

「わかった建築科に専用の道場を建てさせよう。 それまでは建築科の実習区域の空き地を使うといい」

 

「ありがとうございます」

 

「いやなに、君の協力を得られるなら安いものだ。 それに少々条件をつけさせてもらうよ」

 

「条件……ですか?」

 

レイフォンが警戒した目を向けるとカリアンは何でもないというように両手を振りながら答えた。 急な提案に対応する機転といい今の自分にたいする対応といい、なかなかに侮れないというのがレイフォン

のカリアンの評価になりつつあった。

 

「ああ、いやなに大したことじゃない、他の学生もその道場に入門できるようにして欲しいということだけだよ」

 

「……それですか?」

 

「ああ、それだけだ。 とはいえ始めは君たちだけになるとは思うが……」

 

「いえ、それならば大丈夫です。 話は以上でしょうか?」

 

「ああ、わざわざ呼び出してすまないね。 ゴルネオ君も後は頼むよ」

 

「わかりました」

 

そう言って二人は会長室を辞した。

 

 

 

 

 

 

 

「………さてレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君とグレンダンの武芸者達か………彼らはツェルニを守ってくれるのだろうか?」

 

二人が去った会長室でカリアンはそう呟いた。

 

しかしそれも一瞬、次の瞬間には打てる手は打っておくとばかりに精力的に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、会長室を出たレイフォンとゴルネオは話ながら頼まれごとをこなすべく打ち合わせをしていた。

 

「すいませんヴォルフシュテイン卿。 このようなことをお願いしてしまい……」

 

「いえ、構いませんよ。 それより会長の言ってた話はどうします?」

 

「はい、そちらに関しては自分が準備しておくので用意ができたらお呼びします」

 

「わかりました。………しかしやはりここでは貴方が上級生ですし敬語は辞めませんか?」

 

「いえ、天剣授受者であるヴォルフシュテイン卿に対しため口などとても……それに自分は王家からもサポートするよう仰せつかっておりますので……」

 

「……わかりました」

 

 

真面目で実直なゴルネオの態度に何をいっても無駄だと悟ったのだろう。 結局レイフォンが折れた。

 

「では準備ができたらご連絡差し上げます。 それまでは小隊入りを控えていただけるとありがたいです」

 

そういってゴルネオは頭を下げて去っていった。

 

それを何となくながめていたレイフォンだったがふと幼馴染みの顔を思い出して青くなると慌てて教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜!? 本当にりっちゃんの言った通りだ」

 

慌てて教室に入ったレイフォンを迎えたのは見知らぬ女子の声だった。

 

二つに括った明るい栗色の髪をした女生徒だ。

 

「ね? 私の言った通りでしょ?」

 

そう言って幼馴染みがリーリンが笑う。

 

「本当だ。 いや、よかったなメイ?」

 

「あぅっ!」

 

そう言って傍らの少女に声をかける赤髪の少女とそれに恥ずかしそうに反応する黒髪の少女。

 

それが教室に入ったレイフォンを迎えた光景だった。

 

「えーと……リーリン? これは何?」

 

とりあえず状況を知るべく幼馴染みに声をかける。

 

 

「あー、うん紹介するわね、こっちが……」

 

「ハイハーイ! 一般教養科一年ミフィ・ロッテンでーす! それからそっちの背の高いのがナルキ・ゲルニ 君と同じ武芸科。 で、こっちのかくれんぼしてるのがメイシェン・トリンデン一般教養科ね。 で、三人ともクラスメイトで交通都市ヨルテム出身だよ」

 

説明しようとしたリーリンを遮って茶髪の女の子ミフィが一気にまくしたてた。 困惑しながらも幼馴染みを見れば苦笑しながら頷いていたので、自分も自己紹介をする。

 

「僕はレイフォン・アルセイフ。 槍殻都市グレンダン出身だ」

 

「わお、武芸の本場! だからあんなに強かったんだ」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

「アホ、リーリンの幼馴染みって時点で同じ都市出身に決まってるだろ。 それよりほら、メイ……」

 

赤毛の少女ナルキに背を押されて黒髪の少女メイシェンが前に出る。

 

「あの、ありがとう……ございました」

 

それだけ言うのが精一杯という様子でメイシェンは再びナルキの背に隠れてしまう。

 

「悪いね、こいつは昔から人見知りが激しいんだ」

 

「それでも、入学式で助けられたからってお礼をしたいって。ねえ?」

 

ミフィにそう言われてメイシェンはさらにナルキの背に顔を押し付けてしまった。

 

助けた……というとレイフォンには全く覚えがないが件の二人を打ち倒す前に人混みを掻き分けたのはぼんやりと覚えている。 たぶんそのときに助けたのだろう。 なんて考えたところでレイフォンは寒気が走った。

 

ギギギッっとまるで油のたりないゼンマイ人形のような動きで原因を探ると、案の定、先程から一言も言葉を発していなかった幼馴染みが言葉の代わりに不穏な気配を発していた。

 

これには覚えがある。 確かロンスマイア家の少女クラリーベルが訪ねて来たときもそうだった。確かその日は一日中不機嫌で居心地が悪かったのをよく覚えている。

 

レイフォンが冷や汗を流していると……

 

「(…………レイフォンったらこっちに来ても相変わらずなんだから……)」

 

と何事か呟いた後、リーリンはすぐにいつもの雰囲気に戻った。 この辺り女とは恐ろしいものである。

 

「まっ、立ち話もなんだし、お茶にしない?」

 

そして次の瞬間にはミフィからの提案に笑顔で答えているのだからレイフォンにはもうなにがなんだか分からなかった。

 

 

 

その後、女四人の会話に圧倒されながら、くたくたになるレイフォンの姿があった。

 

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