小隊長との対抗戦、それは武芸科の生徒にのみ告げられたのだが、今話題のルーキーレイフォン・アルセイフについての情報とあってか、その話はあっというまにツェルニ中に広がることとなった。
なにせ新入生対抗戦で圧倒的な実力を示したレイフォンが今度は小隊長達と戦うとあってその注目度はうなぎのぼり。 あちこちで賭けが始まり、一般生徒からは見物したいとの声が続出した。
そして、いち早くその声に応えたカリアンはすぐさま舞台を整え、一般生徒の観覧を許可。さらに前回以上に大々的に取り上げるため週刊ルックン等の取材許可や、TV中継、ラジオでの特番といった話をまとめあげあっという間に小隊長対抗戦をツェルニ挙げての一大イベントにしてしまった。
「いいのか? こんなに話を大きくしてしまって?」
「構わないさ、なにより前回の新入生対抗戦で気づいたのだが、一般生徒からこういうイベントを行うとかなりの収入を得られることがわかってね、富はあって困るものではないし、前回のレイフォン君の試合映像フィルムをちょっと実家の伝手を使って販売の話を他都市に持ちかけたところ非常に好感触でね。 どうやらかなりの利益が見込めそうなんだよ(レイフォンからは当然不許可)それに後がない対抗戦を前に一般生徒もかなりぴりぴりしているからね、ガス抜きにもなって一石二鳥だよ」
「お前は……まあ、お前に武芸者の理念をとやかく言っても仕方がないしな。 どうせ辞めるつもりも今更ないのだろう? なら思いっきりやるのだな」
「そのつもりだよ」
こうしてカリアンとヴァンゼの話し合いは終わり…
「うう…胃が痛い……」
レイフォンは再び大観衆の視線に晒されることが確定して憂鬱になるとともに、胃を痛めるのであった。
そして対抗戦当日
流石に何連戦もしたらレイフォンがきついだろうとということで対戦する小隊長は第一小隊長ヴァンゼ・ハルディ、第三小隊長ウィンス、第五小隊長ゴルネオ・ルッケンス、第十小隊デイン・ディー、第十四小隊長シン・カイハーン、第十七小隊長ニーナ・アントークとなった。
レイフォンとしては別に何連戦だろうと構わなかったのだが、相手が減るということは試合時間が短い、イコール視線に晒される時間が短いということでそれに合意。
こうしてお互いの考えや思惑がたまたま重なった結果人数は減らされた。
サイド:ニーナ
「よう、ニーナ 浮かない顔してどうした?」
私が試合を前に控室で集中していたところ、シン先輩が話しかけてきた。
「そんなに顔色良くないですか?」
「あー、いやなんつうかどうもお前さんらしくねえ感じがしてな。 あのルーキーに何か思うところでもあるのか?」
シン先輩の言うルーキー レイフォン・アルセイフ。今日私が戦う相手であり、このツェルニに現れた超新星である。
「ま、確かに気になるのも無理はねえな。 なにせお前さんは一年にして小隊員なんてエリートだったがやっこさんはその上をいくまさかの隊長就任、しかも小隊長じゃなくて中隊長ときたもんだお前さんが気にするのも無理はねぇ、てか武芸者なら誰もが気にしてるだろうさ」
シン先輩はそういったが私が気にしているにはそれだけが原因ではない
彼は入学式の時暴れた新入生を的確に鎮圧した。それを見たとき私はようやく十七小隊をスタートできると思った。 ーーしかしそれは叶わなかった。
「悪いがニーナ君 彼にはやってもらうことができたのでね」
直談判に行った会長には断られ
「ニーナ・アントーク お前ごときが天剣をヴォルフシュテイン卿を扱おうなどおこがましい」
同席していた第五小隊隊長ゴルネオ・ルッケンスには鼻で笑われた。
ならばと出向いたグレンダンから来た新入生たちにもすげなく断られ
「我々はヴォルフシュテイン卿に師事する、あなた方から学ぶことなどない」
そしてどうやらあのフェリでさえなにやら彼について調べていた。
自分では動かせなかったものを動かし、周囲から絶大な尊敬と敬意を受けるレイフォン、彼は何者なのか
ニーナは思い悩み、そしてこの大会で明らかにしようと決意する。
「それではお待たせしました小隊長対抗戦スタートです!」
アナウンスを受けてニーナは席を立った。
第一試合 レイフォンVSニーナ・アントーク
大歓声を受けながら二人は前に出る今回は勝ち抜き戦になっている。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
二人を闘技場の中心に残し、残りの隊長達は引いていった。
「準備はいいか?」
ニーナが問いかける。
レイフォンはこくりと頷いた。
「そうかなら……レストレーション」
ニーナが小さく呟く。 途端、ニーナの持つ二つの棒が変化膨らみが増し、光を吸い取るようなつや消しの黒が、天井の光を跳ね返すようになった。 握り部分がニーナの手に合わせて最適化する。打撃部分に環状の膨らみがいくつも生まれた。 ニーナの両腕がだらりと下がる。
先ほどまでと、重量感がまるで違った。
「鉄鞭……」
現れた武器を見てレイフォンがそうつぶやいた。 すでに普段のおどおどした様子は消え去り冷静にただそこにある事実を確認するかのように冷たい視線をそれに向ける。
「…レストレーション」
それに応えてレイフォンもダイトを復元する。
現れたのは天剣を模して作ってもらった白金錬金鋼(プラチナダイト)の剣である。
ちなみにそれを見て客席のリーリンが溜息をついていた。
二人がダイトを構えたのを見て審判が旗を掲げ
「始め!」
合図とともに振り下ろした。
「私は本気で行くぞ」
合図とともに、空気をひきちぎるような音を立てながらニーナが右手の鉄鞭を振るった。 鉄鞭の先はレイフォンの額に向かって突き出される。
(これは金剛剄でも痛いな……)
予想以上のニーナの一撃に内心驚きながらもレイフォンは冷静に相手を観察する。
いきなりだ。
間合いもなにもなくニーナが飛び込んできた。
右手の鉄鞭がそのままに突き出される。 狙いは先ほどと少し変わって胸。
その一撃をレイフォンは身をひねってかわした。そこに左手の鉄鞭が隙を見せた背中めがけて振られた。
しかしそれをレイフォンは背中に回した剣で受け止める。 重い一撃ではあったがレイフォンは巧みに力をそらして腕を痛めることなく受け止めた。
そのまま体を回転させて、鉄鞭の双牙から脱出した。
距離をとって仕切りなおす。
そうして互いに対峙しながら隙を窺う。 今度は慎重に、ニーナは間合いを計って動かない。
そうやって向き合いながらもレイフォンは試合前に会長に言われたことを思い出していた。
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「レイフォン君、君の実力ならあっという間に勝負をつけることができるのだろうけど、少しは…そう、最低五分は持たせてくれないかい?」
「それは構いませんが……何故です?」
「なに、小隊員というエリート集団のトップたる隊長がそう簡単に負ける姿を見せては、一般生徒に今年の武芸大会は大丈夫かと不安に思わせてしまうからね。まあ、多少は彼らのプライドも考慮してはいるが……あまりに圧倒的すぎると君に追いつこうという気概を失くしてしまいそうだからね」
「そうなってしまえばそこまでだと思いますけど……」
「まあ、そうだろうが。ここは育てる場所なのでね、頼んだよレイフォン君」
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そこまで思い出したところでニーナが再び動いた。
内力系活剄ー旋剄
次の瞬間にはニーナが目の前にいた。 そのまま重量の乗った一撃を繰り出してくる。先ほど受けてみてあの外観にふさわしい重量を備えていることは十分に分かっていた。それを操るニーナの筋力と練熟にレイフォンは内心舌を巻いた。
学園都市には未熟者しか来ないと聞いたが、小隊長ともなればそれなりのものを持ってるようだ。
しかし、レイフォンには、天剣授受者には届かない。
外力系衝剄の変化ーー蝕解
「つっ!?」
ニーナの一撃を迎撃したレイフォンの剣に触れた瞬間、ニーナは自らが自信を持って放った一撃が無駄だったことを悟った。 鉄鞭が、頑丈さでは武器の中では一二を争う己の武器が破壊された瞬間に……
「なっ!?」
慌てて後ろに下がって武器を確認するが、なまじ威力を乗せるため鉄鞭をクロスさせていたため両方ともやられた。
それを確認してニーナは驚いた視線をレイフォンに向けた。 自らの渾身の一撃をあっさりと受け止めた。 一体どれだけの膂力、内力系活剄なのだろうと、そして自らの武器は壊さず的確にこちらの武器だけを破壊した。 一体どれだけの技量なのだろうと
と、そこでレイフォンの姿が消えた。
内力系活剄の変化ー水鏡渡り
そしてニーナの背後に回ったレイフォンの一撃を受けて昏倒しながら、ニーナはレイフォンの呟きを聞いた。
「五分……」