木葉散る頃   作:とんでん

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清しこの夜
 
 
 


若葉

 

 

 ────一言でまとめるなら、恥の多い生涯だった。

 

 

 

⁕⁕⁕⁕⁕⁕

 

 

 

 昔、天才だったことがある。

 

 とある分野、それも一部分においてのみだったが、神童と称されるような子どもだった。

 だからだろうか。高慢ちきで交友関係の下手くそな、嫌な性格になってしまったと思う。なにせ親も先生も友だちも一番になる度に手放しに褒めちぎってきた。そして毎年のように校長先生に名前を呼ばれるような生活をしていれば、いやでも自分が突出しているのを自覚してくる。

 幼いコミュニティで暮らす井戸住みの蛙がふんぞり返るのは簡単だった。そもそもこっちは大した努力もせずただ楽しいことを気の向くままにやっているだけで、それを社会的に評価したら一等になるのである。当然悪い気はしない。苦労しないで手に入れたささやかな名声はいつだって甘かった。

 

 肥え太った蛙が現実を知ったのは、中学に上がってすぐのことである。天才と呼ばれていた自分は、本物の天才に出会った。

 彼(でも彼女でもいい。そこはあまり重要でないから。)は、全てが自分と違った。発想もセンスも他とは全く異なる。独特にすら見えるが、しかしよく精査すると合理的で無駄がなく、常に最適解をたたき出していた。根本的なところから非凡だった。

 

 対する自分は、凡庸としか言えない。酷くつまらなくて、ありきたりだ。彼と比べたら何もかもが愚鈍。そもそも比べること自体がおこがましい。どう見たって自分は足元にすら及ばないのだから。

 

 天才でなくなった自分は、生まれて初めて二番手に甘んじた。その後の人生を常に彼の下で過ごすことになるような嫌な予感に気が狂いそうだった。そしてそれは本当になった。

 それまで一番を譲ったことがなかった自分は、そこからずっと彼の一歩後ろを歩むことになったのである。

 

 自分の不幸を一つ上げるとするならば、大海に通じる程度の実力のある蛙だったことだろう。彼に準ずることにはなっても、それ以上下の地位に落ちて行くことはなかった。

 そしてその天賦より僅かに欠けた才に、彼はひどく気を良くした。

 

 ────今まで、競い合うような、ライバルみたいな人がいなかったから。

 

 とても嬉しい、と彼は言った。心底嬉しそうな顔に、灼熱のように煮えた腸をよく覚えている。結局、仲良くして欲しいと告げた彼に、自分は曖昧に濁すことしかできなかった。

 

「ライバル同士に、こんなに差はないだろう。」

 

 そう言ってやれればどんなに良かったかと思う。はねのけてやれば良かったのだ、あの能天気な野郎を。

 しかし、できなかった。嫉妬と屈辱に狂って、いっそ憎んですらいたくせに、自分は彼を拒絶できなかった────だって、認めてくれたのだ。天才が、自分のことを。

 

 そう考えてしまって、泣き出しそうになって、こっそり物陰で声を押し殺した。

 彼が天才なのは本当のことだ。骨身に染みて理解していた。だがどこかで理解したくなかった。返り咲ける未来をまだ夢見て、がむしゃらに努力を重ねていた。だのに自分から負けを認め、才能に跪いてしまった。

 歪む視界も痙攣するようにひくつく喉も、ツンとする鼻も何もが惨めだった。悔しい。彼のことなんか大嫌いだ。いなくなってしまえばいい。だが仮に彼が消えたあとに自分が勝利を収めても、それはただ繰り上がっただけに過ぎない。自分の力が彼を上回ったわけではない。自分は一生彼に勝てない────。

 

 どうにかなってしまいそうな、そんな中のこと。更に最悪なことが起こった。大嫌いだったはずの彼のことが、だんだん好きになり始めたのだ。

 思えば同じジャンルで努力を重ねてきた自分たちが話が合わないわけがない。おまけに性格が悪いと自負している自分にも屈託なく話しかけてくれる彼は、ひょうきんで面白いやつで、早い話居心地が良かった。彼は自分の親友になったのである。

 

 その頃になると彼を目の敵にして、憎悪していた過去を恥じるようになった。だってよく考えたら道理が通っていない。子ども染みた真似だった。この年にもなって実力不足を棚に上げ他人を嫌うなんて、恥ずかしい。馬鹿げている。自分の器の小ささに嫌気がさす。

 ゆえに、嫌いになるのはいけないことだ。と自分の前にいる大好きなはずの、好きでいなければならないはずの背中を眺めながら言い聞かせた。これだけ良くしてくれている親友は、好きでいるべきだ。嫌悪なんて抱くべきじゃない。それは自然なことではない────────そうやって、愛すべき親友に、醜いものを殺して笑顔を向け続けた。

 

 

 ただやはり、嫌いなままでいられたらどんなに楽だったろう、と頭の片隅で常に思ってしまうから。

 一言でまとめるなら、己の前世は恥の多い生涯だった────────

 

 

 

 

 

 

 

「この場で必要なのは仲間同士の結束だ。私的な争いを持ち込むな。」

「ア、ハイ。」

 

 

 

 て、いうのを(雲隠れに同盟組みに行きテロリストに襲われ命がけの囮作戦を決行しようとしている緊迫した中で更に里の次期後継者云々などという重要な話をしている最中に)思いだしたのだが。

 

 あんまりにもあんまりな情報量に頭がパンクしかけ、敬愛する師匠の言葉に思わず普通に返事しちまった男は、「ヱ、お前そんなキャラだっけ?」とその場の全員に見られながら遠くを見つめた。あきらか今ので空気ぶち壊したよな、ごめんな。

 

 いやそんなことより、ととある男に成り代わった男は思考を無理くり元に戻した。

 

 

 

 俺また志村ダンゾウ(二番手)かよ!!!

 

 

 

 

 

⁕⁕⁕⁕⁕⁕

 

 

 

 

 

 志村ダンゾウ。忍ならぬSHINOBIが活躍する、超有名忍者漫画の登場人物である。

 

 Go●gleで検索すると「志村ダンゾウ クズ」とか「志村ダンゾウ 無能」とか出てくる上、某支部百科事典の関連タグの欄に「だいたいこいつのせい」「諸悪の根源」って載ってる、まあなんていうか老害ポジションにいる男だ。

 オブラートでガラス製品ばりの厳重な個包装をしても、やらかしてる所業が所業なため負のイメージがぬぐい切れない、ほんと行くとこまで行っちゃった悪役である。否、大を救うために小を捨てる考え方は理解できるし、NARUTOの世界にはもっと問題なのがいっぱいいるので一概には言い切れない。この辺の意見は結構分かれるだろうし明確には言わんが、見ていて気分が良いタイプのキャラクターでなかったことは確かだ。原作者の掌の上で転がされていたともいう。

 特に五影会談あたりの三代目との関係性が明かされたあたりは本当に辛かった。理由は押して図るべし。なんだこいつも二番手かよ・・・・・・オレはこうならないように気をつけよ・・・・・・と結構抉れた胸を抱え落ち込んだ日が懐かしい。因みに前世で漫画を進めてきたのは例の親友もとい彼だったもんで余計しんどかった。

 閑話休題。

 

 で、そんな志村ダンゾウに、どうやら自分は成り代わったらしい。いっそ殺せよ豚のように。

 

 

(決めた、オレは絶対に志村ダンゾウ(・・・・・・)みたいにはならない。)

 

 

 二代目の葬儀もそこそこに(あの人原作の回想的に金銀兄弟と闘って死んだのかと思ってたらなんか普通に帰ってきて二ヵ月生きて布団の上で安らかに死んだ。控えめに言って人間じゃない。)。先日まで任務に師の見舞いと忙しい日々を過ごしていたダンゾウは、白い式典服の海に混じって火影塔に立つ親友を見上げた。

 

(今度こそ清廉潔白に生きよう。羨んでも嫉妬しないように、素直に。)

 

 てか次こそは良い人間で終わりたいし。と眩むほどの青空に目を細める。

 

「おめでとう、ヒルゼン。」

 

 それを本人に面と向かって言えないうちは、器の大きさもたかが知れている。

 という心の声は、歓声の波があまりに大きかったから、聞こえなかったことにした。

 

 




本当はタイトルを「DANZOUクリーン伝」にする予定だったのですが、さすがにやめました。
センスが欲しい。
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