原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
(ノア視点)
トロスト区奪還作戦の後から、エレンは憲兵団の所有する地下牢に閉じ込められていた。
エレンが人類の勝利に貢献したのはあの場で見ていた誰もが知っていたが、奪還作戦の最初に暴れていたということもあって、危険物扱いのようだ。
……俺も、1歩間違ったらエレンと同じ立場だったのかもしれない。そう考えるとヒヤッとした。
そのことに関して近々、裁判が開かれるらしい。
裁判と言っても、兵団同士の裁判で、
憲兵団は身柄を拘束して、最終的に死罪にすることを、
調査兵団はリヴァイ兵士長を責任者とすることで、調査兵団の一員としてエレンを迎え入れることを主張していると、専らの噂だ。
そして、どちらの意見を受け入れるか、判断するのは3つの兵団のトップである、ザックレー総統だ。
…
エレンが審議所に入ってきた。
アルミンとミカサは、俺と一緒に昼食を取っていた所を、証人として呼ばれていた。恐らく、昇降機の前で説得したのがあの2人だからだろう。俺はエレンがどうなるのか自分の目で見るために、一般向けに解放されていた傍聴席にいた。
そしてもし、エレンが殺されるとなったら――
兵団に刃を向けることも厭わない。
その、覚悟があった。
「そこに膝まづけ!」
エレンは手錠をつけられて、柱に固定されていた。
「では、始めようか。エレン・イェーガー君だね。君は公のために命を捧げると誓った兵士である。違わないかい?」
今回の審議を決める、ダリス・ザックレー総統だ。
「はい。」
「異例の事態だ。この審議は通常の法が適用されない、兵法会議とする。決定権は全て私に委ねられている。君の生死も、今一度改めさせてもらう。異論はあるかね。」
「…ありません。」
「察しが良くて助かる。単刀直入に言おう。
やはり、君の存在を隠すことは、不可能だった。
君の存在をいずれかの形で公表せねば、巨人とは別の脅威が生まれかねない。
今回決めるのは、君の動向をどちらの兵団に委ねるかだ。
憲兵団か、
調査兵団か。
では、憲兵団より案を聞かせてくれ。」
憲兵団の主張は、俺が噂で聞いた通り、エレンを拘束して、解剖してから、殺すこと。
そして、調査兵団の主張は、エレンの巨人化を利用して、ウォール・マリアを奪還することだった。
しかし、憲兵団が始めた話はエレンの過去にまで遡っていた。エレンはミカサを誘拐犯から助けるために人を殺したことがある、ということだった。
そんなこと、知らなかった。
9歳……俺と既に出会っていたはずだ。
どうして……、そんな大事なこと黙ってたんだ。
だから、ミカサとエレンは家族のようでいて、家族じゃなかったんだ。
俺は、数年ぶりの謎が解けたような達成感もありながら、その大半はどうして俺に教えてくれなかったんだという怒りと悲しみに覆い尽くされていた。
「いかに正当防衛とはいえ、根本的な人間性に疑問を感じざるを得ません。果たして彼に人類の命運、人材、資金を託すべきなのかどうか。」
憲兵団の、ナイル師団長がそう言う。
「そうだ!あいつは子供の姿でこっちに紛れ込んだ巨人に違いない!」
「あいつもだ…。人間かどうか疑わしいぞ!?」
傍聴席に居た1人がミカサのことを指差してそう言った。
「そうだ!念の為に解剖でもした方が…」
幾ら何でもおよそ6年前の殺人、それも正当防衛のものでエレンもミカサも人間性が疑わしいと言われるのはおかしいだろう。
それに、ミカサは巨人どうのこうのとは全くの無関係なはずだ。
俺の周りの一般傍聴席でも、根拠の無い憶測が飛び交っていた。
俺がそれに耐えきれなくなって、声を上げようとした時、
「待ってください!俺は化け物かもしれませんが、こいつは関係ありません!無関係です!」
エレンが反論していた。
「信用できるか!」
「真実です!」
「庇うってことはやっぱり仲間だ!」
「違う!!!」
ガシャンッ
エレンが手錠を柱に打ち付けた音が室内中に響き渡る。
「いや、違います。しかしそちらも、自分たちに都合のいい憶測ばかりで話を進めようとしている。
だいたいあなた方は、巨人を見たことも無いくせに、何がそんなに怖いんですか?
…………力を持ってる人が戦わないで、どうするんですか!
生きるために戦うのが怖いって言うなら、力を貸してくださいよ!
この、腰抜けどもめ!
いいから黙って、全部俺に投資しろおお!」
『全部俺に投資しろ』……?
エレン……、迷った末に言う言葉がそれかよ!
幾ら何でもそんなこと言ったら……
「ハッ…構えろ!」
憲兵団がナイル師団長の指示で、銃をエレンに構える。
エレンが殺されるかもしれない!そう思って1歩を踏み出しかけた時――
ドゴンッ
それは、おおよそ人を蹴っている音とは思えなかったが、目の前ではリヴァイ兵士長がエレンのことを蹴っているのが見えた。
ドゴッボコッガスッゲシッ
そんな音が、何回も繰り返された。見てられないほど痛々しかったが、エレンの射殺は免れたようだった。
…………エレンには悪いが、リヴァイ兵長が蹴っている音がリズム良く聞こえたのはここだけの話だ。エレンには悪いが。
俺はすぐその思惑に気づいたが、他の傍聴席の人々は、リヴァイ兵士長の行動に目を疑っている様子だった。
「……これは持論だが、躾に一番効くのは痛みだと思う。
今お前に必要なのは言葉による教育ではなく、教訓だ。しゃがんでるから、ちょうど蹴りやすいしな。」
痛みで教育するなんて…何時代の出来事ですか?
蹴りやすいって…リヴァイ兵士長が蹴るためにエレンはしゃがんでるんじゃないんですが…。
幾ら何でもやりすぎだ…。
「………待て、リヴァイ…」
ナイル師団長がリヴァイ兵士長を止める。
「なんだ」
「危険だ。恨みを買ってそいつが巨人化したらどうする。」
「…何言ってんだ。
お前ら、こいつを解剖するんだろ?
こいつは巨人化した時、力尽きるまで、20体の巨人を殺したらしい。
敵だとすれば、知恵がある分厄介かもしれん。
だとしても俺の敵じゃないが…。
だがお前らはどうする。
こいつを虐めたヤツらもよく考えた方がいい。
本当にこいつを殺せるかどうか。」
リヴァイ兵士長はもっともな事を言っている。エレンを殺すにしても殺さないにしても、巨人化したエレンに勝てる程の実力が必要だ。
少なくとも今ここにいるもので巨人化したエレンに勝てるのは、俺の知っている限りだとリヴァイ兵士長か、ミカサか、自惚れかもしれないが、俺くらいだろう。
しかしそもそも俺とミカサはエレンを殺すなんてことはありえない訳だから、つまりこの場ではエレンを殺せる人物はリヴァイ兵士長のみということになる。
「総統!御提案があります。」
調査兵団の、エルヴィン団長がザックレー総統に提言する。
「なんだ?」
「エレンの巨人の力は、不確定な要素を多分に含んでおり、危険は常に潜んでいます。そこで、エレンの管理をリヴァイ兵士長に任せ、その上で壁外調査に出ます。」
「エレンを伴ってか?」
「はい。エレンが巨人の力を制御できるまで、人類にとって利がある存在かどうか、その調査の結果で判断していただきたい。」
「エレン・イェーガーの管理か…。
出来るのか?リヴァイ。」
「殺すことに関しては間違いなく。問題はむしろ、その中間がないことにある。」
「結論は出たな。」
そう言って、ザックレー総統はガベルを叩いた。
…
…
あの後、エレンの身柄は調査兵団に委ねられることが正式に決まった。
とにかく、死罪なんてことにならなくて、一安心だ。
しかし、エレンはリヴァイ班に配属されて、旧調査兵団本部、という辺境の地に行くこととなった。
それもそうだ。
エレンは巨人化する恐れがある。
ということは、人気のない場所で過ごす必要がある。
しょうがない事だった。
…
…
(エレン視点)
あの裁判の後、俺とリヴァイ班に配属されている先輩兵士たちは、馬で旧調査兵団本部へと移動していた。
「旧調査兵団本部。
古城を改装した施設だけあって、趣とやらは1人前だが、こんなに壁と川から離れたところにある本部なんてな、調査兵団には無用の長物だ。まだ志だけは高かった結成当初の話だ。
しかし、このデカいお飾りが、お前を囲っておくには最適な物件になるとはな。」
リヴァイ班と呼ばれる先鋭班の先輩がそんなことを教えてくれた。
リヴァイ兵士長が後ろから着いてきているのを見る。
しかしながら、乗馬中にそんな長台詞を言って、舌を噛まないのだろうか?先鋭班だから、馬の扱いにも慣れているのかもしれない。
「調子に乗るなよ、新兵。巨人だかなんだか知らんが、お前のような小便くさいガキにリヴァイ兵長が付きっきりになるなんt…
ああああああぁぁぁ!!」
そんなことは無かった。先輩は、案の定、舌を噛んで、悶絶していた。
…
俺とリヴァイ班の皆さんは、旧調査兵団本部に着いたその日から、リヴァイ兵士長の命令で、本部の清掃をしていた。
「上の階の清掃、完了しました。」
俺はリヴァイ兵士長に近づきながら、そう言う。
「俺は、この施設のどこで寝るべきでしょうか。」
「お前の部屋は、地下室だ。」
「また、地下室…ですか。」
裁判の前にいたのも、地下室だった。
あの、一日中日が当たらなくて今いつ頃なのか、朝なのか夕方なのかも分からないところが、また俺の部屋なのか…。
「当然だ。お前は自分自身を掌握できてない。
寝ぼけて巨人になったとして、そこが地下ならその場で拘束できる。
これは、お前の身柄を手にする際提出された条件の1つ。守るべきルールだ。
…部屋を見てくる。エレン、お前はここをやれ。」
「あ、はい。」
俺は、意外に思った。リヴァイ兵士長が、思ったより破天荒な人では無いことに。
「失望したって顔だね、エレン。」
リヴァイ班のペトラさんが急に柱の影から出てきて、俺に話しかける。
「はい?!」
「あ、エレンって呼ばせてもらうよ。兵長に習ってね。ここでは兵長がルールだから。」
「はい…それは、構いませんが…俺今、失望って顔をしていましたか?」
「珍しい反応じゃないよ。世間の言うような、完全無欠の英雄には見えないでしょ。現物のリヴァイ兵長は。思いの外小柄だし、神経質で、近寄り難い。」
確かに、そこも多少は意外だとは思ったが、1番は…
「いえ…、俺が意外だと思ったのは、上の取り決めに対する、従順な姿勢です。」
「強力な実力者だから、序列や型には嵌らないような人だと思った?」
「はい…誰の指図も意に介さない人だと…」
「私も詳しくは知らないけど、以前はそのイメージに近い人だったのかもね。リヴァイ兵長は、調査兵団に入る前、都の地下街で有名なゴロツキだったって。」
「そんな人が、なぜ…」
「さあね。何があったのか知らないけど、エルヴィン団長の元に下る形で、調査兵団に連れてこられたって聞いたわ。」
「団長に…?」
俺がそう呟いた後、ペトラさんがホウキで床をはき始めるのと、リヴァイ兵長がこの部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。
「おい、エレン!全然なってない。全てやり直せ。」
あれから俺は、リヴァイ兵長に何回もチェックされて、やっとのことで1部屋、掃除が終わったのだった。
…
その日の夜、ハンジ分隊長がここ、旧調査兵団本部に訪ねに来ていた。正確には、俺を。
ハンジさんは、巨人の実験をしていて、少なからず、捕らえた巨人達に愛情を注いでいるような、変人だった。
調査兵団は、まるで…変人の巣窟だ。
あの時、ハンジさんの巨人実験の話をもっと聞きたいと言ってしまったのが運の尽きだった。
ハンジさんに実験の話をもっと聞きたいと言ったら、快く了承して、巨人の実験の話を続けてくれた。
最初の実験から、丸1晩かけて。
明くる日の朝。ハンジさんと俺は、まだ食堂にいて、ハンジさんが嬉々として巨人実験の話を続けているところだった。
俺は、眠くてしょうがなかったが、自分から聞いたことなのに、途中で止めるのは申し訳なくて、こんな時間になってしまったのだった。
そんな時、食堂のドアを急いで開けた人がいた。
「ハンジ分隊長はいますか!?被検体が、巨人が2体とも殺されました!」
トロスト区奪還作戦後の掃討作戦で捕まえた巨人2体が殺された。
その報告を受けて、ハンジさんの班と、リヴァイ班と俺は、殺された2体の巨人が居たはずの場所へ急いで向かった。
※長い上に作者の自分語り等が入りますので、苦手な方は飛ばしてしまって大丈夫です。本編には関係ありません。
お久しぶりです。長い間待たせてしまってすいません!9話を読んで下さりありがとうございます。
この小説は元々パスワード投稿で完結させてから公開しようとしていたのですが、8話まで間違って投稿してしまいました。何も説明無く9話の投稿が遅れてしまいごめんなさい。8話までを消すことも考えたのですが、有難いことに皆さんのお気に入り登録や評価を頂けましたので、8話までを公開したままにしました。
お気に入り登録や評価をくださった方、本当にありがとうございます!!!
この度私の手元で一応完結しましたので、これからちょくちょく投稿していきます。是非最後まで読んで頂けたらと思います!