原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
俺は、今日の午前中、リヴァイ兵長に個人訓練をつけてもらうことになった。
…
事の発端は、リヴァイ班のみんなで休みの日の午後、ポーカーをしていた時のことだった。俺は前世の記憶でトランプを作ることが出来たので、リヴァイ班の皆さんに一緒に遊んでもらうことにしたのだ。
というのも、この世界には…
娯楽がない!
だからこそ、俺はトランプを自作するまでに至ったのだった。
当然、エレンを誘って、ペトラさんを誘ったら、リヴァイ兵長も来て、残りの3人の先輩たちも来て…と、思ったより大所帯になったが、人数は沢山いた方が楽しいだろう、と思って始めた。
何回もポーカーをした後、オルオさんが、
「これは、賭けとかはないのか?」
と、言った。
流石に賭けるものがないと、スリルがないな、と思った俺は、
「このゲームは普通は何かを賭けるものなんですよ。」
と、説明した。
「お、そしたら俺たちも何か賭けようぜ!」
エレンがそう話し出して、話し合った結果、5試合やって、それぞれ得点を出す。そして、最終的に得点の1番低い人が、1番高い人に何かをすること。
そして、その内容はここにいるみんなが納得するものにしよう、ということに決めた。
俺は前世からやっているから強いが、他の人はどうだろうか。
兵長は、ブラフなんかも得意そうだし、強いだろう。
エレンは持ち前の運の強さで勝っていきそうだ。
他の4人は…分からないな…。
そんなことを考えていた。
が、結果は…
1番、ノア
2番、エレン
3番、エルドさん
4番、グンタさん
5番、オルオさん
6番、ペトラさん
7番、リヴァイ兵長
…という、あまりにも予想外な展開になってしまったのだった。
「へ、兵長…あの、賭けは気にしなくても大丈夫です。本当はポーカーは賭けなしでもできるゲームなんです。」
俺は恐ろしくなって、さっき吐いた嘘のことまでバラしていた。
というのも、なぜ兵長が負け越していたかというと、恐ろしく運が悪いことにあった。兵長の運は全て、巨人と戦う時のために取っておいてあります!とでも言うように、今回は全く運が働かなかったのだ。
手札が揃わなければ勝ちようがない。
これは、兵長の責任じゃない。
「……いや、約束は守ろう。ちょうどいい。お前に教えることがあった。
明日の午前中は個人指導だ。それでいいな?」
な、なんだと!?
兵長の個人指導…貴重すぎる!!
「えっ、はい!よろしくお願いします!」
俺は腰を90度に曲げてお辞儀していた。
兵長がポーカー会場となっていた、食堂から出ていってしまった後、俺は尋ねる。
「あの……みなさんも、兵長の賭けたものは、それでいいですよね?……一応聞いておきますけど。」
コクコクと全員が頷いていた。
「お前、兵長の個人指導って……やったな!
俺も受けたいよ…」
エレンが俺の肩を叩きながら羨ましがってくる。
「兵長の…個人指導…。どうして俺は五番なんだ!今こそ俺の運を使うべき時だったのに……!」
オルオさんは悔しさのあまりいつものキャラが崩れていた。
兵長の個人指導……楽しみだけど、兵長は、『ちょうどいい』と言っていた。いずれはするつもりだったということだろうか。
俺はこの日の夜は、グッスリとは眠れなかった。
気分は明日の遠足を楽しみに待つ園児だった。
…
翌日、できるだけ朝早く起きて、服を着替えて、地下室から階段を登って1階のロビーのような場所に行ったが、そこでは既に兵長が柱に寄っかかって待っていた。
兵長を待たせないようにと、何時もより1時間早く起きたのに…もういる…だと…!?
兵長が早寝早起きタイプなのは確かだった。
「おはようございます、兵長。待たせてしまってすいません。」
「おはよう。早速出掛けるぞ。」
「え、どこに…?」
兵長は俺の言葉を聞くなり、ついてこいとでも言うように、スタスタと先を歩いていってしまった。
俺は遅れないようにその背中を追う。
行先は少なくともこの、旧調査兵団本部内では無いようだった。
厩で馬を連れて、その後馬に乗って何分か。
この辺には何も無いと思っていたが、そういえば巨大樹の森があったな。俺は巨大樹の森のことを思い出していた。
そう。目的地は巨大樹の森だった。
しかし、何の訓練だろうか?
森、というと、訓練兵時代は専ら立体機動の訓練だったが…
「リヴァイ兵長、これから何をするんですか?」
俺は馬を繋いで、歩いている間に兵長に話しかけた。
「お前の戦い方はある程度把握している。
連撃を使うと聞いたが、それは本当か?」
「はい。ですが、今の成功率は50%程です。」
「半分か…それは、使えねえな。そっちも鍛えなきゃいけねえのか。
今回の目的は、回転斬りだ。」
「回転斬り?」
「俺がよく使う技だが、巨人の項を狙える位置についたら、そこから回転を始める、そして、その回転の力を使って巨人の項を削ぐ。これが使えれば、巨人の四肢の切断も楽になる。それに…お前は筋力が低いだろう。だから、稀に一撃じゃ巨人の項を削げない時がある。違うか?」
「その通りです…。」
それが今、俺の1番の課題だった。巨人の項を一撃で削げないんじゃあ、今までは複数体1の戦いは細かい立体機動の動きを駆使できたからこそ得意だと豪語していたが、これからは1対1の戦いでも苦労するだろうと不安に思っていたところだった。
「項を狙う時も、回転斬りを使えれば、お前の戦闘の幅も広がるだろう。」
一撃で倒せるなら、それが一番いい。しかし、それが、成功するのか?回転斬りが、連撃が成功するのか?自分の命が掛かっているところで賭けに出る訳にはいかない。
そう思って今まであまり練習の機会が無かったのだ。立体機動装置の使用が許されるのは、訓練中か、実戦。それと、特別な許可を貰った時のみだ。
そういう意味でも、今回の個人指導は俺にとってありがたいものだと改めて理解した。
回転斬りだけだったら、誰でもできる。普通の兵でも極たまに回転斬りをしている所を見るが、それを兵長のように使いこなせるかと言ったら、無理だろう。
しかし、せっかく時間を使ってもらってるんだ。絶対に習得してやる!
そんな気持ちで挑むこと1時間…
できそうな気がして、できない。
というのも、ただ回転するだけだったらやはり俺でもできたのだが、それによって自分の力を増幅させる、という感覚がよくわからなかったのだった。
巨大樹の森の1本の木には、俺の失敗した回転斬りの後が、痛ましくも刻んであった。
リヴァイ兵長は最初に2、3回俺に回転斬りを見せてくれた後、すぐどこかへ行ってしまった。
え、個人指導…とは、どこへ…?
と、思ったが、忙しいリヴァイ兵長のことだ。きっと書類仕事なんかに追われているんだろう。
そう考えて、俺は、頭に焼き付けたリヴァイ兵長のお手本を参考に、回転斬りの練習を延々と続けた。
回転斬りは加速が命だ。できるだけ、巨人の背後から、加速の距離を取って、回転斬りをするんだ。
…
…
その日の午後になって、ようやくリヴァイ兵長がやってきた。
お昼ご飯は、こんなこともあろうかとサンドイッチらしきものを持ってきていたので、それを俺は食べていたところだった。
「ノア、回転斬りは、できるようになったか?」
いきなり背後からそう言われて、そりゃあびっくりした。飲み物も無いものだから、俺はサンドイッチを喉に詰まらせそうになった。
ゲホッゴホッ
「いきなり話しかけて済まなかった。
差し入れだ。早く飲め。」
そう言ってリヴァイ兵長は水とパンをくれた。
俺が昼食を食えないことを心配してくれたようだった。
俺は、兵長から水を受け取って、サンドイッチを流し込んだ。
「ありがとうございました。助かりました…」
しかし、わざわざ部下のために、往復何分もかかる道を通って、昼食を持ってきて、差し入れしてくれるなんて…。そんなに部下思いの上司がこの世にいるだろうか。
俺は、リヴァイ兵長の優しさに脱帽だった。
「回転斬りは、まだまだ完成には程遠いですが、いつもの1.3倍程の威力は出るようになりました。」
「そうか……。毎日やってれば威力は上がっていくだろう。」
「毎日?立体機動装置の許可は下りるのでしょうか?」
「ああ、俺の特別訓練ということにしておく。」
特別訓練……!
心踊る単語だ。
「とにかく、今日は帰るぞ。訓練は午前中のみの約束だ。」
「はい!ありがとうございました。」
そんな感じで、リヴァイ兵長の個人指導は幕を閉じた訳だが、その日から午前中の2時間は、巨大樹の森で、回転斬りと連撃の練習をすることになった。
…
何日もやっていく間に俺は、連撃はほぼ100%に近い確率でできるようになっており、また、回転斬りも、1.8倍程の威力で出せるようになっていた。
何事も反復練習なんだな。
自分の筋力の無さのせいで、巨人との戦闘が不安だったが、これなら補えそうだ。
兵長!本当に、ありがとうございます!
俺は、兵長への感謝は、もちろん現実でも何回もしたのだが、心の中でも、感謝している。
それでも感謝しきれないほど、この訓練の成果は大きい。
次の壁外調査でも大いに役立つことだろう。
第57回壁外調査の日は着々と近づいて来ていた。