原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
(ノア視点)
俺がリヴァイ班に入ってからどのくらいの頃だっただろうか。
「ようやくエレンの巨人の調査の許可が降りたよー!」
ハンジさん、という、分隊長をやっている偉い人がこう叫んで、リヴァイ班のいる、旧調査兵団本部へ駆け込んできた。
「リヴァイ、今日の予定は?」
「午前中は訓練、午後は訓練と清掃だ。」
「じゃあ、借りてって良いよね?
フフフフフフフ……」
ハンジさんは、何やら悪いことを考えていそうな顔をしていた。
それに対し、リヴァイ兵長は諦めの視線をハンジさんに向けた。
「エレンとノアが行く以上、リヴァイ班もついて行くことになるが…」
「もちろん、構わないよ。」
俺は何が何だか分からないまま、巨人の訓練を何かするんだな、と、あやふやに思っていた。
…
その後、巨人化するということは、広い土地が必要なため、広くて平らな土地に移動した。
「ハンジ…さっきはエレンの実験の許可が下りたと言っていたが、ノアはどうなんだ?」
リヴァイ兵長が俺も気になっていたことを聞く。
「ノア…っていうんだね。よろしく。
彼に関しては、許可が下りなかったんだよ。
是非、くまなく調べたいんだけどねー…
ああ、手とか、目とかどうなっているのかな?
やっぱり、目は彼と同じで、緑なのかな?
エレンと同じような体型なのかな?
はたまた、全く違う見た目をしているのかな?
彼は兵士としても優秀だと聞いているが、やっぱり巨人の力も強いのだろうか?」
……エトセトラエトセトラ。
ハンジさんの探究心は永遠に続いている。
完全に自分の世界に入っている!
調査兵団は変人集団と、前言った記憶があるが、その中でも1番の変人はこの人なのだろう。
なんてったって、巨人のことを考えてヨダレを垂らすほど興奮しているのだ。
これを変人と呼ばずしてなんと呼ぶだろうか。
しかし、この人が分隊長か…。
部下は苦労しそうだ。ハンジさんは優しそうではあるが…。
ハンジさんの横にいる部下の方は、特に被害を受けてそうである。
そんなことはいいんだ。さっきの、リヴァイ兵長の質問に関する、答えは、許可が下りなかった、だよな?
ということは、俺は今日は巨人化しないのか。
残念だ。実戦より前に1回試してみないと、実戦で使うには不安なのだが…。
1回くらいは機会があるだろうか?
とりあえず、今日はエレンのみのようだった。
…
エレンは井戸に入って、ハンジさんとリヴァイ兵長は井戸から離れてから、緑の信煙弾を打つ。
これが、エレンが巨人化する合図だ。
井戸で行うのは、万が一巨人が暴れても、すぐ拘束し、項を削げるように、という理由があるらしい。
……しかし、一向にエレンの巨人化した姿は見えない。
その様子に異変を感じたハンジさんとリヴァイ兵長が、井戸の近くまで寄って、エレンに事情を聞いた。
それによると、エレンは結局、巨人になれなかったようだ。
俺たちは束の間の休憩時間にリヴァイ兵長の薦めで紅茶を飲んでいたが、エレンは相当気落ちしているようだった。
「自分で噛んだ手の傷も塞がらないのか…」
「……はい。」
「お前が巨人になれないとなると、ウォール・マリアを塞ぐっていう大義もクソもなくなる。
……命令だ。何とかしろ。」
「はい……。」
上手くいかなかったものは、しょうがない。トロスト区奪還作戦の時は出来たのに、今回はなぜ出来なかったのだろうか?
リヴァイ班の皆は、エレンを慰めているようだ。
「そう気を落とすな、エレン。」
「しかし…」
「まあ、思ったよりお前は人間だったってことだ。」
「焦って命を落とすよりはずっと良かった。これも無駄ではないさ。」
「ああ。慎重が過ぎるってことは無いだろう。」
エレンは紅茶のティースプーンを持とうとしていたが、落としてしまったようだ。さっきの巨人化実験の時に思いっきり噛んだ自分の手の傷がやはり、痛いようだった。
「エレン、大丈夫か?しかし、どうして前は出来たのに、今回は出来なかったのか……?」
「俺にも何が何だか……」
エレンは、ティースプーンを拾うために手を伸ばしながら答えた。
そして、落ちたティースプーンをエレンが拾おうとしたその時――
ドーン!!!
巨人化の音が辺りに響いた。
エレンの近くにいた俺たちは、もちろん吹き飛ばされそうになった……いや、実際に吹き飛んだが、体制は整えて受け身を取った。
「なんで今頃!」
エレンは動揺しているようだ。
しかし、リヴァイ兵長が守ってくれるなら、安心だ。
なので、俺は、エレンの巨人化の発動条件を考え始めた。
「落ち着け。」
「リヴァイ兵長!これはっ……!!」
「落ち着けと言っているんだ。お前ら。」
リヴァイ兵長が落ち着けと言っているのは、リヴァイ班の4人に対してだ。
その4人は、受け身を取った後すぐ駆け出し、エレンに刃を向けていた。
俺は、先程のエレンを慰めていたリヴァイ班の皆とは全く違う様子に、少し驚きながらも、これが彼らの仕事だから、ということは分かっていた。
「エレン、どういうことだ!」
「はい!?」
「なぜ今許可もなくやった!?応えろ!」
「エルド、待て。」
エレンの1回目の巨人化は、巨人に食われた時だ。そして、2回目は、穴を塞ぐとき。そして、今回は、スプーンを取るという動作で、巨人化した。
そうだったら、何か動作をしている必要がある…とか?いや、動作の定義が曖昧だな。手を上げる、とかでも動作になるんだったら、さっきの井戸の中の時も巨人になれたはずだ。
そうしたら、なんだ?
「応えろよ、エレン!どういうつもりだ!」
「いいや、それは後だ!俺たちに、いや人類に敵意がないことを証明してくれ。
……証明してくれ早く!お前にはその責任がある!」
逆に、さっきはなんでできなかったんだ?
人に言われた、命令されたことだから?
そうだったら、トロスト区の時はなぜ巨人になれたんだ。
「その腕をピクリとでも動かしてみろ!その瞬間てめえの首が飛ぶ!できるぞ俺は!本当に!試してみるか!?」
「オルオ、落ち着けと言っている!」
巨人を駆逐したい、または、仲間を助けたいとか、そういう想いが必要なのか?
いや、そうだったら今回のスプーンの件はどうなるんだ。
「兵長!エレンから離れてください!近すぎます!」
「いいや、離れるべきはお前らの方だ。下がれ。」
「なぜです!?」
「俺の勘だ。」
いや、もう少し広い部分で考えるべきだ。
エレンの巨人化できる条件の定義は広くしておかないと、どこかで矛盾が生じる。
巨人から出る、穴を塞ぐ、スプーンを取る…に、共通すること…。
「どうしたエレン!なにか喋れよ!」
「だから……」
「妙な動きをするな!」「早く証明しろ!」「エレン!応えろ!」「俺たちがお前を殺せないと思うのか!?俺は本気だぞ!」
「だから俺にも……」
周りが騒がしくて、考えづらすぎる!!!
あー、もう!
「早くしろ!」「聞こえないのか!?」「いいか!?やるぞ!」
「「ちょっと、
黙っててくださいよ!!!」」
エレンとハモってしまった。
と、いうか、先輩なのに、言い過ぎたか!?
俺の心臓はここにいる人たちとは少し違う意味で心臓がバクバクだった。
シーン…
空気が一気に悪くなった。もう考える所ではない。この状況は俺とエレンのせいだ。俺らがどうにかしないと…。
そう思っていた時だった。
「エレーーーン!!その腕触っていい?
ねえ、良いよね?良いでしょ!?
触るだけだから!」
ヨダレを垂らしたハンジさんが向こうから走ってきて、その勢いのまま話し出した。
こういう時に、空気の読めない人がいると固い空気が離散して、良いんだよね…
マジで助かった………。
エレンが許可を出さないうちに、もうハンジさんはエレンの手を触っていた。
「うわぁあぁあ!
あっっっつい!!!皮膚無いとクソ熱いぜ!こりゃすげえ熱い!!」
「分隊長!生き急ぎすぎです!」
やはりハンジさんの部下は色々と苦労してそうだ。
「ねえ、エレンは熱くないの?その右手の繋ぎ目、どうなってんの!?凄い見たい!!」
その言葉に、エレンはハッとなって、下の、繋ぎ目を見る。
「ハッ…そうだ、さっさとこの手を抜いちまえば……
こんなもんっ……」
エレンは力ずくで巨人から手を抜いた。
「おいエレン!妙なことするな!」
「えええっ、ちょっとエレン!早すぎるって!まだ調べたいことが…
……あっ」
ハンジさんが不自然に黙るものだから、俺はハンジさんの方を向いて、その視線を辿った。
……エレンの巨人の手に握られているのは…ティースプーン。直前に取ろうとしていたものだ。
「兵長…っ」
「気分はどうだ」
「あまり、よく……ありません。」
…
俺達はあの後、実験が出来るような雰囲気ではなかった為、旧調査兵団本部に戻っていた。
リヴァイ班の皆は食堂に座って落ち込んでいて、ハンジさんだけが何やら考え込んでいた。
そこにエレンとリヴァイ兵長がやってくる。
ハンジさんは先程エレンの手の中にあったティースプーンをエレンに見せていた。
「これを見てくれ。」
「ティースプーン、ですか?」
「そう。エレンが出した巨人の右手がこれをつまんでた。こんな風に、人差し指と親指の間でね。
偶然挟まっていたとは、ちょっと考えにくいね。しかもなぜか、熱や圧力による、変形は見られない。なにか思うことはない?」
「確か、それを拾おうとして、巨人化はその直後でした。」
「なるほど……今回巨人化出来なかったのは、そこにあるのかも…。巨人を殺す、砲弾を防ぐ、岩を持ち上げる。いずれの状況も、巨人化する前に明確な目的があった。恐らく、自傷行為だけが引き金になっている訳ではなくて、何かしらの目的がないとダメなのかもね。」
砲弾を防いだ?その件は俺は知らない。
……あの時か!トロスト区攻防戦の後、エレンが巨人になれることを知った駐屯兵団は、
……きっと、エレンに大砲を打ったんだ。
それを防ぐために、巨人になった…と。
「確かに、今回の巨人化は……砲弾を防いだ時の状況と似ています。…けど、スプーンを拾うために巨人になるなんて……なんなんだ、これは…」
エレン自身も混乱している。
そりゃそうだ。俺たちだって、巨人のことに関しては、これっぽっちも知らない。
エレンの、自傷行為が引き金になる、というのも俺にはよく分からなかった。
「つまり、お前が意図的に許可を破った訳では無いんだな。」
「はい!」
すぐさまエレンが頷くのを見て、リヴァイ班の先輩4人は、お互いの顔を見て頷き合った。
そして、
それぞれ自分の手を、エレンが巨人になる時のように、噛んだ。
「え、えぇぇ!?」
「み、皆さん…?どうして…」
俺も困惑していた。
「ちょっと!何やってるんですか!」
「いてえ…」
「これはキツイな…、エレン、お前よくこんなの噛み切れるな。」
「俺たちが判断を間違えた。そのささやかな代償だ。だからなんだって話だがな。」
グンタさんが、そう言うが…そこまでしなくても…。
「お前を抑えるのが俺たちの仕事だ!それ自体は間違ってねえんだからな!調子にのんなよガキ!」
オルオさんの言う通り、いざという時に俺たちの項を削ぐのが先輩達の役目だ。さっきの行動も間違いじゃないと思う。
ただ、勘違いだったのが間違いだったってだけで。
「ごめんね、エレン。私達でビクビクしてて…。
間抜けで失望したでしょ?
でも、それでも、私たちはあなたを頼るし、私たちを頼って欲しい。だから…私たちを、信じて。」
ペトラさんは、いや、先輩達は誠実だ。
己の間違いを認めて、謝り、そして、自らに代償を設けた。
誰だってできることじゃない。
リヴァイ班の皆の手には、その後も強く噛んだ後が、深く残っていた。