原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話   作:蘭 ノイ

18 / 37
13話 犠牲(第57回壁外調査2)

 

 

(ノア視点)

 

 

 長距離索敵陣形の中央後方に位置する俺たちは、少なくとも今は、上手くいっているように感じていた。

 

 しかし、この陣形は広がっている。かろうじて隣の班が見えるほどの距離なのだ。

 遠くで上がっている、最前線の人達の煙弾は流石に見えない。

 

 つまり、俺たちの知らないところで、激戦が繰り広げられているのかもしれない。

 ……いや、壁外なのだから、巨人たちは沢山いることだろう。今だって、どこかで俺たちの同志は戦っている。

 

 エルヴィン団長から聞いた今回の作戦内容から多少外れている部分があることから、ここの時点で何かイレギュラーが起こっていることは間違いない。

 

 先程からずっと、進行方向が東のまま変わらないのだ。

 

「報告します!口頭伝達です!

 右翼索敵、壊滅的打撃!

 索敵一部、機能せず!

 以上の伝達を、左に回してください!」

 

 リヴァイ班として固まって動いている俺たちに、近づいてきた兵士がそう言った。

 

 右翼側が壊滅的?右翼側は……アルミン、ライナー、ジャン、それに、クリスタのいる方向だ。

 俺の……悪夢の通りかもしれない。

 

 俺の悪夢によると、アルミンとライナーとジャンが、異形の巨人と戦っていたはずだ。

 エルヴィン団長の言っていた、襲撃は、あいつのことかっ!

 

 

「聞いたか、ペトラ。行け!」

 

 

 

 ペトラさんが左に伝達を回しに行った後、俺は、黒い煙弾が右翼側から上がったのが見えた。

 ――奇行種か?

 

 こんな所までもう来てしまったのか?

 俺たちは、この陣形で1番安全な場所にいるはずだ。

 

 ここまで来ている、という事は、そちら側は壊滅的……伝達の通りだ。

 

「エレン、お前が打て。

 ……なんてザマだ。ヤケに陣形の深くまで侵入させちまったな。」

 

 エレンは、黒の煙弾を打った。

 

 

 

 

 やっと森が見えてきた。

 巨大樹の森だ。

 

 先程の黒い煙弾で知らされた奇行種から出来るだけ離れるために東へ東へと進路を変えていって当たったのは、その森だった。

 しかし今回の作戦からすると、ここは色々と都合がいいだろう。

 

 けれども、他の者はどう思うだろうか?

 なぜ、ここまで巨人が陣形に入り込んでいるのに、撤退しないのか。そう思っていることだろう。

 命令に従わない者もいるかもしれない……。

 

 

 

 俺も、調査兵団も、ここからが勝負どころだ。

 

 

 

 森に差し掛かるところまで来た。

 俺は他に、役目がある。

 

「リヴァイ兵長!俺はエルヴィン団長から事前に指示を貰っています!

 ここから単独行動します!」

 

「ああ、聞いている。行け。」

 

「はい!」

 

「おい、ノア!?どこに行くんだ!?

 お前…帰ってくるよな?」

 

 俺はエレンの言葉には、手を振るのみに留めた。

 

 

 立体機動装置のグリップを強く掴む。

 これから、絶対に、死んではいけない。

 

 そう思いながら、俺は、森の入口まで行って待機していた。

 

 

 

 

 あいつが来るとしたらここからだ。

 いつ来てもいいように、刃は出して、遠くの様子を伺いながら木の上で立って待つ。

 

 横を見ると、同じように木の上に立っている調査兵が何人もいた。奥にはクリスタやミーナ、ベルトルトも見えた。

 

 大丈夫。作戦通りだ。

 ここに立っている調査兵たちは、森に入ってくる巨人を引き止める役割を与えられているのだろう。

 

 ジャンやアルミンのいる班も見える。

 ジャンは俺の姿を確認したなり、こちらに向かってきた。

 

「ノア!無事だったか。」

 

「ああ、ジャンもね。」

 

「これは、一体どういうことだ?

 ただ、木の上に突っ立ってるだけなんて…」

 

 ジャンはどうやらこの状況にイライラしてるようだ。

 何も理由を言われずに、ここに突っ立ってるだけだったら、俺だって何が何だかよく分からなかった。

 

 やはり、あのエルヴィン団長の質問。『敵は、なんだと思う?』という質問に答えられた者にだけ、この作戦は伝えられている。

 恐らく、ジャンたちの班長でさえ伝えられていないのだから、ほぼ全ての兵が理由も分からないままここで巨人を食い止めている、という状況だ。

 そういうことなら、俺も説明はしない方がいいのかもしれない。

 

「俺にも何が何だか…。ただ、ここで巨人を引き止めるという意味では、木の上にいることはある程度有効ではあると思うよ。」

 

 今にも、俺たちの下では巨人たちが集まって来ていた。

 

「ひいっ…。こんなことになんの意味があんだよ!

 ただ、ここで突っ立ってることに!

 大体、今回は兵站拠点作りが目標じゃないのか?

 こんなところで巨人を集めても、何かメリットがあるとは考えづらいがな。」

 

 ジャンの言うことはもっともだ。

 そもそも、今回の目的は、兵站拠点作りでは無いのだから。だから、こんなことをジャンたちは命令されているわけだ。

 これからの作戦では、ジャン達がやっていることもお守り程度の効果しか無いかもしれないが…。

 

「その通りだな。しかし、俺にも分からないものは分からないからな…」

 

 嘘をつかなきゃいけないこういう時に俺の動かない表情筋は役に立つ。今も、しれっとした顔をして、俺はジャンと話していた。

 

 嘘は苦手なんだけどな。

 今回ばかりは俺も腹を括ってこの嘘を突き通さなければならない。

 

 

 そこにアルミンも近づいてきた。

 

「命令に従うしかないよ。ここで文句を言っていたって、何かできる訳じゃない。

 今は組織を信じて、ここにいることしか出来ないよ。」

 

 

 と、言っても、アルミンはそう言うが、自分の足下に巨人が群がっている様子は、精神的な負担が大きい。

 1歩でも足を踏み外したら、巨人の口の中へ真っ逆さまだろう。

 

 

 俺は、みんなの為にも足下に群がっている巨人達を倒してからここを離れたいところだったが、それをしたら、後々に響いてくることは容易に想像がつく。

 これからはガス量とブレードの数を見極めて、戦うことになるからだ。

 それに、いざという時にガスやブレードが無かったら、本末転倒だ。

 

 

 

「そうだ!ノア、聞いてくれ。

 僕達は、さっき、足の早い、エレンたちと同じように知性を持った巨人と戦っていたんだ。

 そいつがもうすぐここにも来るかもしれない。

 

 あいつはエレンかどうか分かるまでは、下手に僕達を殺せないんだ。

 ノアがあいつと交戦しないことを願っているけど、命令ということもあるかもしれない。

 そんな時は、フードを被るんだ。

 そうしたら、あいつはエレンかどうか分からないやつは下手に殺せないだろうから、ノアを殺すことは出来ないだろう。

 ただ、これが今の状態でもあいつに効くかどうかは分からないけど…」

 

 アルミンがそんな情報を教えてくれた。

 

「そうなのか。

 ……お前達は、そいつと戦って、どうだった?勝ったのか?」

 

「いや、足止めを少しできただけだ。

 その足止めすら、命懸けだった。

 僕は、もうすぐで死ぬところをジャンに助けて貰ったんだ。」

 

「俺の窮地もアルミンが救ってくれたよな。」

 

 アルミンも、ジャンも本当に無事でよかった。

 

 しかし、俺が昨日見た、悪夢の通りだ。アルミンとライナーとジャンが、異形の巨人と戦った。

 

 さらに、俺の悪夢の信憑性が上がった。

 悪夢……アルミン達が異形の巨人と戦っていた場面と、他に、何か俺は大事なことを忘れている気がするが、思い出せない。

 

 

「にしても、よくあの状況で、あそこまで頭が回ったな。エレンが死んだことをあの巨人に知らせれば、動揺するだろう…と。」

 

「いや、あの時は必死だったんだ。

 ……でも、

 あ、いや、なんでもない。」

 

 ジャンとアルミンが、俺にはなんだかよく分からない話をしていた。大方、その異形の巨人との戦いのことだろうけど。

 アルミンは何か考えがあるようだが、俺たちに言わないということは、まだ言うべきではないということなのだろう。

 

 

 

 そんな話をしているところで、また前方から黒い煙弾が見えた。

 大方、あいつ。アルミン達と戦った、あいつだろう。

 そして、俺が今から足止めする相手でもある。

 

 

『くれぐれも、死なないように。』

 エルヴィン団長はそう言っていたが、そう上手くいくだろうか?

 しかし、俺があいつと交戦しなかったら、被害がもっと拡大するだけだ。

 

 目の前では、先程黒い煙弾を打ち上げた調査兵が食われていた。

 こいつは手強そうだ。

 

「アルミン、ジャン!俺は、あいつを食い止めなきゃいけねえ。お前らも、その下の巨人共に食われるなよ!」

 

「お、おい!やめとけ!あいつは今までの巨人とは段違いに強えぞ!」

 

「ノア!?それは命令なの?それとも、君が自分で考えての行動なの!?」

 

 

 アルミンが咄嗟に考えたのは、訓練兵時代の会話だ。訓練兵団に居た時に、同室の1人が死んだ後、同じ部屋の皆で話し合った時の事だ。

 命令か、意思か。

 命令なら……ノアが死ぬようなことは無いはずだ。ノア自身が、命令で死ぬのは嫌だと言っているのだから。少なくとも死ぬつもりで戦いに向かうことは無いだろう。

 しかし、ノアの意思であいつに立ち向かうなら……

 そう考えたアルミンは、何故だか嫌な予感がした。

 

 

 

「…………俺の、意思だ。

 あいつを食い止めなきゃ、エレン達が危ない!ここで出来るだけ時間を稼ぐ!」

 

 

 

 俺は嘘を、吐いた。

 お前たちが後で悔やまないように。

 いや、こう言っても、どうして止められなかったんだ、とお前達は悔やむだろうが…

 

 

 

「時間を稼ぐって、どのくらい!?

 あいつを倒せる算段はあるの?」

 

 それは…団長達が先で待っているから、そこまでだ。

 しかし、今それを言う訳にはいかない。

 俺はアルミン達は絶対にそうでは無いと言いきれるが、万が一、アルミンかジャン、どちらかがスパイだった時に取り返しのつかないことになる。

 

「ごめん、アルミン、ジャン!俺はもう行く!」

 

 もうあいつが迫ってきている。

 行かなきゃいけない。

 

「あ、ちょっと!待ってよ!」

 

「おい、ノア、何してんだ!戻ってこい!」

 

 俺は、フードを被った。

 2人の叫ぶ声を背中に、木々を立体機動で駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 ……見えた!

 

 あいつだ。

 

 

 あいつはもう、森にちょうど差し掛かったところまで来ていた。

 エレン達の班は、もう森の中央部分までは進めただろうか?

 

 ……いや人の心配は後だ!

 

 そいつは、俺の立体機動装置の音を聞いて、こちらを振り返った。

 鋭い目付きで、グレーの瞳をこちらに向けた。

 

 どこかで、見たことがあったような気がする…

 

 そいつは、こちらを、ただじっと見ただけだった。

 

 フードを被っているから、エレンかどうか分からないのかもしれない。

 

 なんにせよ、好都合だ。

 

 俺は、自分に出せる最速でそいつの足を狙う。

 そいつは身の危険を感じたのか、右手で項を守ってまた走り出したが、右手を上に上げながら走るのは、スピードが遅くなるという欠点がある。

 俺は、全速力で走っている異形の巨人には追いつけなかったかもしれないが、今の速度なら簡単に追いつけた。

 

 

 

 まずは腕にアンカーを刺す。そして、そいつが腕を振ったその時に、足の腱にアンカーを刺して、ブレードを振り抜く。

 

 やったか?

 

 

 

 しかし、思いどおりにはいかなかった。

 

 

 

 ――浅い!

 

 

 俺がブレードを振り抜く寸前に、女型は足を上げようとしていたらしく、俺の斬撃は十分とは言いがたかった。

 

 現に、そいつは速度は落ちたが、まだ走れている。

 

 

 ――もう1回!

 

 

 今度は項にアンカーを刺す。そいつはまだ右手を項に当てていた。

 アルミンの予測、女型の巨人が知性のある巨人だっていう推測は当たっていそうだ。

 

 こいつは自分の弱点を理解している。

 

 

 それに、なぜかは分からないが、俺を殺そうとはしない。

 

 

 俺は今度は左腕にアンカーを刺し、回転しながら振り抜く。

 そして、連撃で右足を狙った。

 

 リヴァイ班でやってきた、回転斬りと連撃の成果だ!

 

 次は……

 上手くいった!

 

 女型は腕と足をダラーンと垂らして、地面に膝をついていた。

 

 一先ずこれで、足止めは成功と見ていいだろう。

 

 お土産とばかりに、俺は左足と右手にも斬撃を入れた。

 

 殺せとは、命令されていない。ここで、足止めをするのが俺の役目だ。

 そして、この後は――

 

 行方をくらます必要がある。

 

 俺は、今度はさっきより、フードを深く被って、そこから飛び去った。

 

 

(エレン視点)

 

 

 俺は、ノアが単独行動に行った後も、この状況がよく分かっていなかった。

 しかし、それは先輩達も同じようだった。

 もしかしたら、リヴァイ兵長でさえも……

 

 黒い煙弾が後ろから上がっている。

 右翼側を壊滅させた巨人か!?

 

 

「お前ら、剣を抜け。

 それが姿を現すとしたら……一瞬だ。」

 

 

 その時、後ろからドンドンドンドン、という音が聞こえた。

 

 なんだ?

 

 

 そう思って振り返ったら、物凄いスピードで迫ってくる、巨人がいた。

 

 

 あいつは、普通の巨人とは何かが違う!

 本能がそう感じていた。

 

「走れ!」

 

 リヴァイ兵長がそう言う。あいつを倒さないのか?

 このまま馬で掛けていても、解決にはならない。

 

「速い!この森の中じゃ、事前に回避しようがない!」

 

「追いつかれるぞ!」

 

「兵長!立体機動に移りましょう!兵長!」

 

 俺たちの周りには兵士達が沢山いたはずだ。増援は…………来ていなかった。

 

 どうして!?皆死んじまったのか!?

 

 巨人の足音が近づいてくるのが聞こえる。

 

「兵長!!指示を!!!」

 

「やりましょう!あいつは危険です!俺たちがやるべきです!」

 

 オルオさん達も、俺たちで倒すべきだと主張している。絶対にここで、先鋭班であるリヴァイ班がやるべき相手だ!

 

「ズタボロにしてやる!」

 

 エルドさんが刃を抜きながら、そう言う。

 俺たちは、兵長が、やれ、というのを待っていた。

 

 しかし、兵長は……何も言わずに前を馬で駆けているだけだ。

 

 巨人がそこまで走ってきている。

 少しずつではあるが、俺たちに迫ってきているのが分かる。

 

「……リヴァイ兵長!?」

 

「兵長!」「指示をください!」「このままじゃ追いつかれます!」「奴をここで仕留める!そのためにこの森に入った!そうなんでしょう!?兵長!」「兵長、指示を!」

 

「全員、耳を塞げ。」

 

 その命令に咄嗟に従った。

 そうして、兵長が打ったのは……

 

「音響弾!?」

 

「お前らの仕事はなんだ?その時々の感情に身を任せるだけか?

 ……そうじゃなかったはずだ。

 この班の使命は、そこのクソガキに傷1つつけないよう、尽くすことだ。

 ……命の限り。」

 

 リヴァイ班の使命は、俺を守ること?俺を監視するためなんじゃなかったのか!?

 

 

 

「俺たちはこのまま、馬で駆ける。いいな?」

 

「了解です!」

 

 ペトラさん!?

 

「駆けるって…一体どこまで!?」

 

 それに、奴は…

 後ろを振り返ると、またさっきより近い位置まで来ていた。

 

 増援が、来た。

 

「増援です!早く援護しなければ、やられます!」

 

 あの巨人の周りを立体機動で飛んで、足止めしようとしている兵士たちが2人いた。

 

「エレン!前を向け!」

 

「グンタさん!」

 

「歩調を乱すな!最高速度を保て!」

 

「エルドさん…!

 なぜ!リヴァイ班がやらなくて、誰があいつを止められるんですか!?」

 

「おあぁああああ!!!」

 

 兵士のうち1人が、あの巨人に、木に叩きつけられて落ちていった。

 

「1人死んだ!助けられたかもしれないのに!

 まだ1人戦ってます!まだ今なら間に合う!」

 

「エレン!前を向いて走りなさい!」

 

「戦いから目を背けろって言うんですか!?仲間を見殺しにして逃げろってことですか!?」

 

「ええ、そうよ!兵長の指示に従いなさい!」

 

「見殺しにする理由が分かりません!それを説明しない理由も分からない!なぜです!?」

 

「兵長が説明すべきでないと判断したからだ!それが分からないのは、お前がまだヒヨッコだからだ!分かったら黙って従え!」

 

 ハッ……

 

 いや、1人でだって戦えるじゃないか!

 巨人の力があれば、1人だって戦える!

 ……なんで俺は人の力にばっか頼ってんだ?

 自分で戦えばいいだろ!

 

 そう思って、俺は自分の手を噛んで巨人になろうと思った。しかし…

 

「何をしてるの、エレン!それが許されるのは、あなたの命が危うくなった時だけ。私たちと約束したでしょう!?」

 

 ……いや、でも、今戦っている人を見殺しにする訳にはいかない。

 また、手を噛もうとする。

 

「エレン!」

 

「お前は間違ってない。やりたきゃやれ。

 俺には分かる。…こいつは本物の化け物だ。

 巨人の力とは無関係だが、どんなに力で抑えようとも、どんな檻に閉じ込めようとも、こいつの意識を服従させることは、誰にもできねえ。

 エレン、お前と俺たちの判断の相違は、経験則に基づくものだ。だがな、そんなもんはあてにしなくていい。

 

 選べ。自分を信じるか、俺やこいつら調査兵団組織を信じるかだ。

 俺には分からない……ずっとそうだ。自分の力を信じても、信頼に足る仲間の選択を信じても、結果は誰にも分からなかった。

 だから…まあせいぜい、悔いが残らない方を自分で選べ。」

 

 

 後ろではまだ1人の兵士が戦っているのが見える。

 俺が巨人化したら助けられる命なんだ!

 そう思って再度手を噛もうと思った。

 

 

「エレン!……信じて。」

 

 ペトラさんの必死な顔、

 そして、あの時、あの、巨人化実験の時に先輩たちが噛んだ、手の傷……

 ペトラさんの手にはその時の傷が残っているのが見えた。

 

 

 

 

『ごめんね、エレン。マヌケで失望したでしょ。

 ……でも、それでも、私たちはあなたを頼るし、私たちを頼って欲しい。

 だから、私たちを……信じて。』

 

 

 

 まだ、後ろで戦っている兵士の、立体機動の音が聞こえる。

 

 

 

 …………俺は…、俺は……

 

 

 

「エレン!遅い!さっさと決めろ!」

 

 

 

 

「……進みます!!!」

 

 

 

 

 

「うわあああああ!離せっ!」

 

ドンッ

 

また、1人死んだ。

 

 

 

くっ……ごめんなさい!!

 

 

 

 

 

「目標加速します!」

 

「走れ!このまま逃げ切る!」

 

 

 ……逃げ切るなんて…不可能だ。

 

 でも、死にそうだけどな。仲間を見殺しにしてでも、皆前に進むことを選んだ。

 

 リヴァイ兵長は…前を見続けている。

 先輩たちも…兵長を信じて全てを託してる!

 

 俺も…彼らを信じるんだ!

 彼らが俺を…信じてくれたように!

 

 

 

 

 

 その瞬間――

 

 

 

 

「打てーーー!!!」

 

 

 

 

 

 エルヴィン団長の声が響いて、今まで俺たちを追ってきたそいつを――拘束した。

 

 

 

 

 

 

 

「少し進んだところで馬を繋いだら、立体機動に移れ!

 俺とは一旦別行動だ。班の指揮はエルドに任せる!適切な距離であの巨人から、エレンを隠せ!班は任せたぞ!」

 

 

 そう言って、リヴァイ兵長は飛び去っていった。

 

 まさか……あの巨人を生け捕りに!?

 

 

(ノア視点)

 

 俺は、異形の巨人と戦ってから誰もいない所を見計らって戦場を離脱した。

 フードを深く被っているため、俺が誰かは誰も分からないだろう。

 

 当初の予定通り、リヴァイ班を守るため、そのリヴァイ班を探していた。

 出来るだけ木々を飛び移って移動する。

 立体機動装置の音は案外響くので、割と近くにいくと聞こえるのだ。

 

 リヴァイ班は簡単に見つかった。

 リヴァイ兵長を抜いた5人分の立体機動装置の音が、捕獲した巨人から離れるように響いていたのだ。捕獲した巨人の周りに調査兵団が沢山いるこの状況では、逆に見つけやすかった。

 

 しかし、妙だ。前を駆けている事が確認できたリヴァイ班の他にも1人多めに立体機動装置の音が聞こえる。

 

 それが、近づいてきている!

 

 

 この森の中で単独行動しているとしたら、俺か、リヴァイ兵長か、

 

 巨人の中に入っていた奴だ。

 

 

 

 俺は、後ろを警戒する。

 リヴァイ兵長だったらいいが……

 リヴァイ兵長の立体機動装置の音のようには聞こえない。

 

 

 

 俺が、後ろを振り返ったその時――

 

 

 

 ブレードが、目の前に迫っていた。

 

 

 俺はほぼ反射で避ける。

 

 

 俺が、そいつの顔を確かめようとしたら、そいつは、

 

「巨人化しやがった!」

 

 

 俺も、リヴァイ班にバレてはいけないので、巨人化しようと手を噛もうとする…が、この後撤退させれば俺の『嘘』はバレないはずだ。

 

 俺は、巨人の状態で戦うことよりも、人の状態で戦うことの方が慣れていた。

 

「……クソッ」

 

 さっき両手両足に切り傷を入れて、足止めをしたはずの、あいつ。女型の巨人だった。

 

 エルヴィン団長達は失敗したのか!?

 

 俺は頭で考えながらも、アンカーを細かく刺し替えていた。

 こいつは、アンカーを掴むことがある。

 

 攻撃をするなら、目にも止まらぬ早さでしないと、間に合わない!

 

 

 

「ノア!どうして…別の任務に行ったんじゃなかったのか!?」

 

 エレンが叫んでいる。先輩たちも、俺が女型と戦っていることに驚きを隠せない様子だ。

 

「ノア、そいつは危険だ!新兵の手には負えない!」

 

「そうだ!そいつは桁違いに強い!お前が強いことは分かっているが、流石に1人では無理だろう!」

 

 エルドさんとグンタさんがそう言っているが、1度足止めをしたのは俺だ。

 こいつとは充分俺も戦える。

 そんな過信があった。

 

 しかしここで先輩たちに加勢してもらうべきだろうか。それとも、やはり撤退させるか……?

 

 

 

 ところが俺は、今になって昨日の悪夢の光景が蘇っていた。

 

 

 思い出した!

 そうだ。あの時、無惨な姿で死んでいたのは――

 

 ペトラさん、オルオさん、エルドさん、グンタさん…リヴァイ班の4人だったはずだ。

 

 

 どうして今になって、思い出したんだろうか。

 

 

 

 いや、俺がいなかったら、先輩たちは……死んでいたのかもしれない。

 ここで。この、女型との戦いで。

 

 

 

 俺が戦っている間にリヴァイ班の皆が殺されたら……助けにはいけない。

 俺は、女型と戦いながらリヴァイ班を気にする余裕は、流石になかった。

 

 俺が生きていると先輩やエレンに思わせないという意味でも、そして俺が戦いに集中するためにも、ここでリヴァイ班は撤退させた方がいいだろう。

 

 

 俺は、己の力を信じる。

 

 

 アンカーを刺して女型の周りを飛び回りながら、大声でこう言った。

 

 

「リヴァイ班は撤退して下さい!

 俺がここでこいつを食い止めます!」

 

 俺の言葉を聞いても、リヴァイ班は撤退する様子を見せない。

 

 

 

「でも、ノア!お前一人をここには置いていけない!」

 

「ノア、いくら貴方でも、ここで1人で戦うのは無茶よ!」

 

「思い上がりすぎだ!お前は初めて壁外調査に出た、新兵なんだぞ!身の程をわきまえろ!」

 

 エレン、ペトラさん、オルオさんがそれぞれそう言ったが、ここは、譲れない。

 ここでリヴァイ班に手伝ってもらったら、悪夢がそのまま現実になってしまう!

 

 

 

「リヴァイ班は撤退の命令だ!リヴァイ班の皆を思うなら、そして俺の事を思うなら、ここから離れてくれ!

 俺は、人が居ない方が力を出せる!」

 

 どうしてもリヴァイ班を撤退させなきゃいけない俺は、突き放すような言い方をした。

 

 エルヴィン団長の言った作戦通りなら、女型を捕らえた後、リヴァイ班は撤退の命令が出ているはずだ。

 少なくとも先輩たちは、命令には背かないだろう。これまでの経験の積み重ねがあるから。

 それが、調査兵団の為になると、分かっているから。

 

 でも、エレンは…どうだろうか?

 

「……分かった。リヴァイ班はこのまま撤退だ!女型の巨人はノアに任せよう!」

 

 エルドさんはそう言って、他の先輩たちも納得はしたようだ。

 

「エルドさん!ノアも……さっきの兵士達のように、死んでしまうかもしれないんですよ!?また、見殺しにするんですか!?

 もう、これ以上は…

 誰かを、救えたかもしれない誰かを失うのは嫌です!」

 

 エレンは自分の手を噛もうとした。が、

 

「エレン!お前は、人類の唯一の希望なんだぞ!こんなところで無闇に巨人化するな!

 それに、俺と、約束しただろう!?」

 

 俺は訓練兵時代の、あの時のことを思い出していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。