原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話   作:蘭 ノイ

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2話 シガンシナ壊落

 

 

 ……思えば、あれは予兆だったのかもしれない。

 

その日、僕はまた夢を見た。よく分からない、ビュンビュン町中を飛び回る人達と、その人たちを食べていく気持ち悪い顔した巨人。

 僕は救えなかった命に後悔しているようだった。

 壁を超えるほどの大きな巨人と目が合って、そして見えたのは動けないカルラさんの姿。

 そして、

 そして、

 誰かが僕の目の前で……

 

 真っ赤に染って……

 

 

 

 

 

 その日は、エレンとミカサと一緒に薪を取りに行ったんだ。

 駐屯兵団という、壁の修理や警備をする兵団に所属する、ハンネスさんを筆頭とする3人の大人達が昼間から酒を飲んでいて、エレンがお得意の正義感を発揮して突っかかっていった。

 

「一生壁の中から出られなくても、メシ食って寝てりゃ生きていけるよ…でも…それじゃまるで家畜じゃないか……」

 エレンの言葉が胸に刺さった。

 

 その後、僕達は自由の翼を見たのだ。

 調査兵団が帰ってきた。

 それはエレンは英雄の凱旋だって言ってはばからなかったけど、あれは、僕には戦に敗れたもの達の行進に見えた。

 いや、僕だけじゃない。町の人たちもそのボロボロの姿に悲しみと怒りをぶつけていた。

 

 ミカサはエレンに、調査兵団は諦めろと壁に叩きつけて言っていたが、あれで諦めるならエレンじゃない。

 あいつはきっと、何があっても調査兵団に入るんだろう。

 その時僕はどうする?

 将来の不安を感じながら帰路に着いた。

 

 そうして家に帰り、お昼ご飯を食べてからまたあの秘密基地に行く道中、川沿いでエレン、アルミン、ミカサの3人に会った。

 

「あ!ノア。偶然だね。こんなとこで会うなんて。壁、ここからならよく見えるよね。」

「うん。いつ見ても頑丈そうだ。」

 

 エレンの顔は焦燥感を感じる。

 

「エレン、何かあった?ミカサもなんだか元気ないな?」

 

 2人ともどうしたのだろうか。

 

「エレンが調査兵団に行きたいと言っていたことを、私がカルラに話した。」

 

 ははーん、それで、反対されたって訳か。

 

「そういう事か。」

 

 

「くそ!なんで外に出たいってだけで白い目で見られるんだ。」

 

「それは、壁の中に居ただけで100年ずっと平和だったからだ。王政府の方針として、外の世界自体に興味を持つことをタブーとしたんだ。」

 

「自分の命をかけるんだ。俺らの勝手だろ!」

「絶対ダメ。」

 

「僕もそんな自暴自棄な態度で命をかけることには反対だな。

 ……きっと、命も、巨人と戦うことも、そんな甘いもんじゃない。具体的な目的がないと、ただ何も出来ずに自分の命を散らすだけだ。

 命は、自分だけのものじゃない。」

 

 前世で何年も入院して、隣の病人が昨日は元気に話していたのに、今日突然ポックリ逝ってしまうことだってあった。

 でも、残されたものは、その人がどんなに安らかに逝ったって、痛みを感じずに逝ったって、悲しむんだ。

 

 命は、自分だけのものじゃない。

 

 

「でも…外の世界に出ないと、一生家畜のままなんだぞ!」

 

「そうだね…それに関しては賛成だよ。人類はいずれこの壁から出るべきだ。この壁の中が未来永劫安全だと信じきっている人もどうかと思うよ。

 100年壁が壊されなかったからと言って、今日壊されない保障なんか、どこにもないのに…」

 

 

 

 

 アルミンがそう言った瞬間、いきなり稲光が目に入り、すぐにドーンという、花火のような音。そして、その煙の中から出てきたのは…

 

 

 

「あ………ヤツだ…………巨人だ…」

 

 

 

 

 誰が呟いたかも分からないような程皆が思ったことだった。

 その声も、人々の逃げ惑う足音と叫び声にかき消された。

 

 

 

 僕達もすぐ人の波に飲まれた。

 人の流れは内地へと向かう門の方へ向かっていったが、それに逆らうように走っていく足が4本。

 エレンとミカサだ。

 彼らの家は外門の近くだったはず。

 ちょうどあの壁からはみ出るほどデカい巨人が現れた前方辺りだったはず。

 

 

 そんなことを考えられたのも一瞬で、この緊急事態において他人のことを考えられる余裕なんか僕にはなかった。

 

 僕の思考を支配していたのは、兄の安否だ。その時の僕にとって兄が1番優先すべき人だったのだ。

 僕は人の流れに従うように、自分の家をめざした。

 

 家は内側だ。

 兄なら大丈夫なはず。

 いや、絶対に大丈夫だ。

 

 根拠の無い希望的観測を並べてやっと、狂わないでいられた。

 

 大好きなお兄ちゃん、無事でいてくれ…

 

 

 

 

 その頃、エレン達も自分たちの家に向かっていた。

 

 この辺だ。

 左右に見える巨人を横目に、自分たちの家への道をたどって、そこを曲がったら家が見えるという曲がり角。

 

 曲がった先には…

 

 倒壊した家と、近づいている巨人、

 そして、

 

 家に足を挟まれて動けないでいる、エレンの母、カルラの姿があった。

 

 

「母さん!

 ……ミカサ、そっちを持て!この柱をどかすぞ!」

 

「わかった!」

 

「せーの!」

 

 

「せーの!」

 

 

 何回も持ち上げようとしているが、子供二人の力でできることには限界があった。

 

 

 そこに、ハンネスが到着して、巨人を倒すと言ってくれた。

 

 エレン達は少し安心したが、

 

 巨人の方に向かっていったハンネスがこちらに戻ってくる姿に一抹の不安が過ぎった。

 

 そして、エレンたちの方へ駆け寄ってきたハンネスは……エレンとミカサを持ち上げて内門の方向に走り出したのだった。

 

 

「おい、ハンネスさん!?母さんがまだっ!

 やめろぉぉおおお!」

 

 

 エレンは自分の母親が巨人に食べられるところをただ、見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 母親の死を間近で見たエレン、母親と慕っていた女性が巨人に食われたミカサ、親しくしていたカルラの命を見捨てざるを得なかったハンネス。3人とも、心は疲弊していた。

 

 エレンはやり場のない思いをハンネスにぶつけた。

 

「もう少しで母さんを助けられたのに!余計なマネするんじゃねぇよ!」

 

 しかし、ハンネスは、

 

「エレン、お前が母さんを助けられなかったのは、お前に力が無かったからだ。俺が……俺が巨人に立ち向かわなかったのは、俺に勇気がなかったからだ!すまない。」

 

 自分と、エレンの弱さ、無力さが招いた結果だと、現実を突きつけたのだった。

 

 ハンネスは自分の腕から抜け出した子供2人を見て、自分の無力さを改めて痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 ノアは自分の家が半壊しているところを見て、焦燥感に駆られた。

 

「母さん!父さん!お兄ちゃん!誰か、返事してよ!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「誰かいるならお願いだから返事してくれ!」

 

 

「……ノア。生きていたか。良かった…」

 

「お兄ちゃん!」

 

 奥の部屋からお兄ちゃんが出てきた。少し足を引きづっているようだった。

 

「お兄ちゃん、なんで避難してないの?早く行かなきゃ。母さんと父さんは?」

 

 

「母さんと父さんは………死んだ。この家の、瓦礫の下にいるだろう。」

 

「え……」

 

 

 前世でも僕は親の死というものを経験していなかった。

 親が死ぬより先に僕が死んだからだ。

 

 思えば先に逝くものは楽だ。

 苦しんで生きていかなくて済むから。

 他人の死に泣くことなく生を全うできるから。

 

 僕は前世は幸せだったのかもしれない。

 けど、同時に僕の死を悲しむような大切な人たちを不幸にしたんだ。

 

 

「ほんとうに?本当に母さんと父さんは、もう助からないの?」

 

「ああ。俺が見た。とりあえず、悲しむのは後だ。早く避難しないとっ」

 

「そ、うだね。僕達だけでも生き残らないと。」

 

 そう。事態は悲しむ暇を与えてくれない。

 涙を流している時間はない。

 僕は生きなきゃいけない。

 大切な誰かを悲しませることのないように。

 

 

 

 

 それは、避難している時の事だった。

 大通りの人の波を掻き分けながら内門へと進んでいた僕達は、壁内に入ってくる巨人が着々と数を増やしていることに気づいていた。

 このままでは生き残れない。

 早く行かないと。

 しかし、半壊した家の瓦礫に潰されたらしい兄の足は、時間経過で悪くなっていって、次第に歩くことすらままならなくなった。

 

 僕が肩を貸して歩いていると、兄は突然止まってこう言った。

 

「このままだと2人とも助からない。俺は後で行く。お前だけでも先に行ってくれ。そして、助けを呼んでくれればいいから。」

 

「そんなことできないよ!その間お兄ちゃんはどうなる!?動けない体で、巨人からは絶対に逃げられないだろ!」

 

「お願いだ。お兄ちゃんの一生のお願いなんだ。お前が大切なんだよ。」

 

 

 今までお願いなんて1度も言わなかった兄の、最初で最後のお願い。

 僕はこのお願いには応えられない。

 

「僕だってお兄ちゃんが大切なんだ。母さんも父さんも亡くなった今、お兄ちゃんだけが僕の家族なんだ。絶対に見捨てない。絶対に、二人で生き残るんだ。」

 

 

 

「ありがとう、ノア。

 

 ……これがお兄ちゃんの最後の言葉だ。

 

 お前は後ろを見ずに走るんだ。分かったな。」

 

 

 

 

 お兄ちゃんはそう言うと、あれだけ足を悪そうにしていたのに、僕の手を振り切って後ろの、僕たちが来た方向に走り出した。

 最後……どういうことだ。

 お兄ちゃん、まさか……っ

 

 

 

 お兄ちゃんは後ろの遅れた母子の身代わりになって、巨人に体を掴まれた。

 

 

 

 僕はお兄ちゃんの最後の言葉を守れなかった。

 足は恐怖のまま内門の方へ向かっているのに、視線はお兄ちゃんの方へ向いているのだ。

 何がどうなっているのか分からなかった。

 

 

 

 どうして、お兄ちゃん、どうして…

 

 

 

 僕はお兄ちゃんが巨人に食べられる姿をただ、見ていることしか出来なかった。

 

 

 

『このままだと2人とも助からない。俺は後で行く。お前だけでも先に行ってくれ。そうして、助けを呼んでくれればいいから。』

 

 

 あの時、兄の言葉を聞いていれば、兄は巨人に食われることは無かったのだろうか。

 少なくともあんな惨い死に方はしなかったのではないだろうか。

 弟に生き残って欲しいから、兄は自分がいると弟は先に行かないと思って、巨人に食われたのか?

 

 

 

 

 ぼくがせんたくをまちがったからおにいちゃんはしんだ?

 

 

 

 

 

 僕の頭は恐怖を通り越して、何も出来なかった、否、()()()()()()()自分への怒りに変わっていた。

 

 

 地獄だ。神様は、僕が前世で頑張ったから、ご褒美に転生させてくれたんじゃないのか?

 

 

 

 僕が好きだった街は、

 

 美しかった街並みは、

 

 楽しかった思い出は、

 

 この街での平凡な生活は、

 

 大切に思っていた人々は、

 

 今日一日で、全て、巨人に踏みにじられた。

 

 

 

 

 

(エレン視点)

 

 

ハンネスさんに連れられたエレンとミカサは、内地へと出港する船の中にいた。

 

 

 

俺が弱いから、母さんは食べられたのか?

俺に力が無いから、母さんは……っ

 

 

 

そこへ目のハイライトを失った、死神のような表情をした少年が歩いてきて、座った。

俺達には気づいていないようだった。

 

 

 もしかして……ノア……なのか?

 

 

そいつは白い髪と淡いグリーンの瞳というところは一緒だが、纏う雰囲気が以前のノアとは大違いだった。

 

「俺は強くなる強くなる強くなる強くなるつよくなるつよくなる。…強くなって、もう間違えないんだ。」

 

ブツブツと下を向いて、ただそう唱える姿は、まるで悪魔のようだった。

 

 

しかし、俺はこの状況で他の人に気を使えるほどお人好しではなかった。

俺の事で手一杯だ。

 

俺の心の中は抑えきれない自分への怒りと、無力感と、巨人に対する怒りで埋め尽くされていた。

 

 俺は気づいたら、船から身を乗り出して、やり場のない怒りを叫んでいた。

 

 

「俺が、人間が弱いから、弱い奴は泣くしかないのか!? あいつら、この世から……駆逐してやる! この世から、一匹残らず!!」

 




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