原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話   作:蘭 ノイ

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結構長めです。


14話 命令(第57回壁外調査3)

 

 

『エルドさん!

 ノアも……さっきの兵士達のように、死んでしまうかもしれないんですよ!?また、見殺しにするんですか!?

 もう、これ以上は…

 誰かを…救えたかもしれない誰かを、失うのは嫌です!』

 

 エレンは自分の手を噛もうとした。が、

 

『エレン!お前は、人類の唯一の希望なんだぞ!こんなところで無闇に巨人化するな!

 それに、俺と、約束しただろう!?

 共に巨人を絶滅させるって!』

 

 

 俺は、そう言った。

 

 

…

 

 

 

 約束…

 

 『お前を1人で巨人と戦わせるなんて事は、絶対にさせない。』

 『お前と一緒に、いつか巨人を絶滅させる。』

 

 これはつまり、俺が死なないことを保証する言葉だ。

 しかし、これから俺は……。

 

 でも、いつか分かる時が来るはずだ。

 ここで、俺が約束のことを言った本当の意味に。

 

 

 

「約束………。お前は、死ぬつもりはないんだな!?」

 

 ここで、本心を言わなければ、後で俺もエレンも、迷ってしまうだろう。

 

 

「ああ!絶対に、俺は生きてお前と一緒に巨人を絶滅させる!

 俺を、信じろ!エレン!」

 

 

…

…

(エレン視点)

 

 

 仲間を信じるか、己の力を信じるか。リヴァイ兵長ですら、どっちが正解かなんて、分からないと言っていた。

 それなら、自分が後悔しない選択をするべきだろう。

 

 ノアを信じてこの場を託すか、

 自分の力を信じて巨人になって女型の巨人と戦うか。

 

 俺の結論は、考える間もなく出ていた。

 

 

 

「ノアを、信じる!」

 

 

 

 俺は自傷行為をするために持ち上げていた手を下ろし、少し先に行っていた先輩たちと合流する。

 

 俺たちリヴァイ班は、ノアのおかげで撤退できたのだった。

 

 

…

…

(ノア視点)

 

 

 エレン達が撤退した。

 

 良かった。これで心置き無く、こいつと戦える。

 

 

 フェイントで顔の前に近づいた時、また俺は、女型と目が合った。

 グレーの目と、金髪。絶対にどこかで見たことがあるはずだった。

 

 しかし、相手が考える時間を与えてくれる訳もない。

 間髪入れず、俺は立体機動装置を細かく動かす必要があった。

 

 さっきと同じようにやれば……

 

 

 左足にワイヤーを刺して、その後右手に刺してから、刃こぼれしているブレードを使って、目を狙った。

 

 1発は外したようだが、1本の刃は、相手の目に突き刺さっていた。

 

 

「ああああぁぁぁあああ!!!」

 

 女型は声を上げて苦しんでいたが、その声を傍目に聞きながら、俺は更なる連撃を繰り出そうとしていた。右腕に1発、右足に1発。そして、項。

 

 右腕と右足は、攻撃が入った!

 

 しかし、そいつはすぐ左手で項を守った。そのため、項への斬撃は入らない。

 

 くそ、しぶとい奴だな。

 

 俺はすぐさま左腕を狙った。

 

 難なく削げる。

 

 

 

 ――これで終わりだ!

 その中身は誰なのか、教えてもらおう。

 

 

 そう、俺は勝利を確信していた。

 

 項を削ぐために、アンカーを刺す。

 

 

 

 

 しかしそいつは、既に右手を修復していた。

 

 

 どうして!?10秒も経っていないはず!

 

 最初に攻撃した左足は、まだ修復していないようだった。

 

 ――右腕を優先的に修復したのか!?

 

 予想外だった。

 そんなことができるなんて、聞いていない。

 

 いや、こいつは元から予想外の巨人だったんだ。通常種でも、奇行種でもない。中に人間が入ってる巨人。

 

 俺が、間違えた。

 

 

 俺は、項を狙っていた所を、既に修復していたそいつの右手に捕らえられていた。

 

 

 

 仕方ない。

 

 

 まだ、強いとは言えないが、やるしかないだろう。

 

 俺は、エレンのように、左手を思い切り噛んだ。

 

 

 

 ドーン!!!

 

 

 

 周りの木々が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 俺は以前、窮地に至ったら、巨人化することをエルヴィン団長に相談していた。

 

 エルヴィン団長は、まずは窮地に至らないように努力しろ、と言っていたが、俺が巨人の力を使うだろうことは、予測していたようだった。

 

 

 だからこそ俺も巨人化実験をしていたのだろう。

 エルヴィン団長とハンジさんの元で。

 

 

…

 

 

 あれは、1週間ほど前――

 

「今度はようやく、ノアの巨人化実験の許可が降りたよ!

 エルヴィンの予定がやっと空いてね。」

 

 そう、ハンジさんが言って、旧調査兵団本部へ入って来たのだった。

 

「またか。」

 

 リヴァイ兵長は面倒くさそうに呟く。

 

「またかって……今度はノアだよ!

 うへへぇ、早く見たいな……」

 

 またヨダレを垂らしている…

 デジャヴ…

 

「今回も、俺とこいつらはついて行っていいんだよな?」

 

 そう言ってリヴァイ兵長はリヴァイ班の先輩とエレンを指さす。

 

「あ、今回着いてくるのはエルヴィン団長のみらしいよ!」

 

「ああ?

 何かあんのか?」

 

「私にもよく分からないけど、そういうことだから!今日1日、ノアを借りてくね!

 バイバーイ。」

 

「え、ちょっと!?ハンジさん?」

 

「おい、ちょっと待て!」

 

 ハンジさんに腕を掴まれて、半ば引き摺られながら俺は食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 その時の巨人化実験は、エレンと違って成功した。

 

 しかし、俺は井戸の中で巨人化したが、煙だけ出て一向に姿が見えない様子を不思議に思い、ハンジさんが井戸に近づいたようだ。

 

 

 ハンジさんが井戸を覗き込むと――

 

 

「小さい。エレンより小さいよ。10メートル……いや、7メートルも無いかもしれない。

 

 しかし……成功だ!

 まさか、巨人になる瞬間を見れるなんて!」

 

 

 井戸の深さより随分と小さい巨人が現れていた。

 

 

「ハンジさん!どうだったんですか!?」

 

 なかなか応えをよこさないハンジさんに、ハンジさんの直属の部下、モブリットさんが叫ぶ。

 

 

「成功!成功だよ!

 予想外に小さくて、見えなかっただけだ!」

 

 

「そうか。それは良かった。意思はありそうなのか?」

 

 エルヴィン団長がそう言いながら近づいてくる。

 

「うーん、どうだろう…

 ノア!聞こえるかい!?聞こえたら、手を上にあげてくれ!」

 

 井戸は案外広くて、小さい巨人であった俺からしたら、手を挙げるのも容易だった。

 

 ハンジさんの指示に従って、俺は手を挙げる。

 

「凄い!私の指示で手を挙げたよ!!

 ノア、そこでクルっと一回転して!!!」

 

 ハンジさんは巨人に会話が通じたことに興奮しているようだった。

 

 ハンジさんの指示通り、一回転する。

 

「わああああああ!!!凄いよ!

 今度は………」

 

「ちょっとハンジさん!落ち着いてください!

 もっと他に実験することが山ほどあるでしょう!?」

 

 ハンジさんのそんな様子に、モブリットさんが待ったをかける。

 

「ええー、いいじゃん、モブリット!せっかく初めて巨人になった姿のノアを見れたんだし!

 ノア!今度は踊ってくれる!?」

 

「そんな初めて記念みたいに言わないでください!

 ノアも!従わなくていいですからね!」

 

 井戸の中で踊るというのは、流石に無理があった。

 

 

…

 

 その後、巨人化をどうやって解くか分からなかった俺は、1時間ほど巨人のままでいた。

 俺が巨人化に成功して、意思もある状態だと分かったエルヴィン団長はすぐに執務室に戻ってしまったようだった。

 

…

 

 1時間ほど経った後、俺の巨人化は解けた。

 全身がだるかったが、動けないほどではなかった俺は、井戸から出て、椅子に座って紅茶を飲んでいた。

 

 あの、エレンがティースプーンを落とした席だったため、あの時の事を思い出さなくもなかったが、俺が最初に噛んだ手の傷は、もちろん塞がっていたので、あの時のように、予想外の巨人化は起こらなそうだった。

 

「ありがとうノア。

 また次やる時は、巨人から人に戻る訓練もしなくちゃね!

 その他にも、巨人は声帯を持っているのか、喋れるのか、とか、武装できるのか、とか、どんな風にノアが巨人の中に入っているのかも調べたいところだけど…ふふふふふふ」

 

 ハンジさんが思ったより怖い…

 

 エレンがやっていた時は他人事だと思っていたが、いざ自分が実験される被検体になったら、いつか殺されそうな恐怖がある…。

 

 なんてったって、ハンジさんは、巨人の実験のためなら笑いながら俺に怪しげな注射なんかを打ってきそうだし、ニコニコとした顔で妖しげな薬剤をグルグル回して調合していそうだ。

 

 その日はそれだけで終わったが、それから毎日のように巨人化実験は行われ、俺の巨人の能力は高められていった。

 ……ハンジさんに恐怖しながら。

 

 しかしながら、次の作戦でこの力を使うかもしれないということが分かってからは、この実験をしておいて本当に良かったと思ったものだ。

 

 これをしてなかったら、巨人から出ることもままならなかったかもしれない。

 今は、この実験のおかげで、巨人から出るということはほぼ完璧に出来るし、その日の調子によっても違うが、一日に最大で3度まで巨人化できるようになったのだ。

 

 

…

 

 

 あの実験のおかげだ。

 

 俺は、女型と対峙しながら、そう思っていた。

 

 俺の巨人化の時の影響で、あいつの右手は吹き飛んだようだった。

 

 今はこちらにアドバンテージがあるが、それでも互角とは言い難い。元から俺の巨人の姿は女型よりも遥かに小さいのだ。

 

 俺は地面と木々を猿のように飛び回りながら、そいつの四肢を狙う。

 先ずは、四肢を使い物にならなくしてから、こいつの項を狙わないと、俺が殺られる。

 

 俺はそいつの左腕を噛み切る。

 

 巨人の身体を噛む、というのは想像以上に気持ち悪いが、生きるか死ぬかの状況だ。迷っている余裕はなかった。

 

 そいつは、両腕が無くなってはいたが、鋭い蹴りを繰り出してきた。

 足があっても厄介だが……

 俺はすぐさま女型の腕を見る。

 

 良かった…。さっきは10秒も経たずに修復していた右腕は、30秒経っても修復していない。

 

 度重なる損傷で、多少は弱体化しているのか?

 

 しかし、先程俺がブレードを投げて突き刺した目は、修復しているようだった。

 

 俺はその間にも、左足の腱を噛み切ろうとする。

 しかし、そいつは暴れ回ってしまって、容易には噛み切れない。

 

 仕方がない。この様子じゃ足は攻撃出来ないだろうから、先にさっき修復したらしい目からやるか。

 目は、正面から狙う必要があるため、口で食われる可能性がある。その分危険だとは思うが……

 

 

 俺は一旦巨人化した状態を解除する。

 

 

 そして、その隙も狙われないように、すぐに巨人の体から離脱する。

 

 

 俺がさっき入っていた巨人の体が蒸発して、白い煙が広がっていた。

 

 これは目眩しに使えそうだ。

 

 俺は素早く刃を抜いて、立体機動で白い煙が晴れる上の位置まで来た。

 

 そして、ブレードをそいつの目に飛ばす。

 

 今度は…2発入ったみたいだ。

 

 おまけとばかりに修復しかかっている右腕を攻撃してから、左足にアンカーを刺して、刃を振り抜いた。

 

 浅い――が、俺はすぐさま連撃で項に攻撃しようとする。

 

 今なら行ける!

 

 

 

 そう思ったが……

 

 

 カキーン!

 

 

 おれのブレードは弾かれて、刃はボロボロになっていた。

 

 弾かれた…?

 そいつの項を見ると、何やら薄い水色の結晶のようなもので覆われていた。

 

 これが、こいつの能力か……?

 

 

 

 こんなの、倒しようがないじゃないか!

 

 

 

 俺が軽く絶望していた所だった。

 

 

 そいつは、

 

 「あああぁああああ!!!」

 

 と、耳が痛くなるほど大きな声を上げてから、

 左足を修復して、駆け出した。

 

 

 

「逃がさねえよ!」

 

 

 

 俺は、こいつの倒し方は検討も付かなかったが、もうすぐすればリヴァイ兵長がやってくるはずだ。

 

 それまで時間を稼ごう。そう考えてそいつを追った。が、そいつは急にこちらを振り向いて、修復した左腕で攻撃を仕掛けてきた。

 

 俺は立体機動で避けようとする…が、その時、

 

 

 

 ドドドドドドドッ!!

 

 

 

 そんな地響きのような音が聞こえた。

 

 

 

 

 ……こいつ、何かやりやがったな?

 

 

 

 

 女型は一瞬その音の方向に目を向けてから、また走り出した。

 俺は逃がすまいとしてまた追いかけようとしていたが、俺と女型との間には…

 

 

 

 大量の巨人がなだれ込んでいた。

 

 

 

「おい……マジかよ」

 

 女型がこいつらを呼んだのか?

 

 こんなの、更に勝ち目がないじゃないか。

 

 

 俺は、女型を逃がさんと、巨人たちを無視して行くことも考えたが、

 このまま巨人たちを放置して行ったら、エレンたちリヴァイ班の撤退に影響があるかもしれない。

 

 そう思って、泣く泣く女型は諦め、ここで巨人を駆逐することにした。

 

 

…

 

 

 

 何体巨人を倒しただろうか。最初は人間の姿の方が慣れている分強いため、そちらで戦っていたが、すり減ってくるガスとブレードに、人間の状態でずっと戦うことは不可能だと感じた。

 そのため、ある程度時間が経った後からは、巨人の姿で巨人たちを倒していた。

 

 ……いつまで経っても減ってる気がしない。

 

 気が遠くなる作業だった。

 

 

…

 

 

 そいつらを全滅させた時、俺は本日3度目の巨人化をしていた。

 

 訓練の時だってこんなにキツくはなかった。

 

 そう思うほど、俺の体も心も疲弊しきっていた。

 

 もう、ここには巨人はいないよな?

 そう安心して、俺は気絶した。

 

 

…

…

(ジャン視点)

 

 

 

 俺たちはまだ、巨人を食い止めるために森の外周付近の木の上で待機していた。今も足元を見ると、巨人が群がっているのが見える。

 何分くらい経っただろうか。先程までノアもここにいたはずだが、あいつは、俺達もさっき対峙した女型の巨人を追って、森の中へ入っていってしまったようだった。

 

「なあアルミン、あいつ…大丈夫かな?」

 

「大丈夫だと…信じるしかないよ。」

 

 俺は少しでも心を紛らわせる為に、中身の無い会話を延々と続けていたところだった。

 

「なあ、あいつ、自分の意思だっつってたよな?

 なら、ノアは…死ぬつもりなのか?」

 

 そういうことではないのは分かっていたが、あいつが何か隠しているような素振りを見せていたのが気になっていた。

 

「そんなことは…絶対にない!

 ……と、思いたい。

 けど、ノアが何かを僕らに隠しているのは事実だ。ノアの意思で女型と戦うのだとしても、僕らに対して何も、確信的な理由を言わないところが怪しい。

 帰ってきたら、とことん聞いてやろう。ノアが、黙っていることについて。」

 

「なあ……今回も、『今度』は、あるはずだよな?

 今度、あいつに聞けば良いんだよな?

 あいつ……生きてるよな?」

 

「ジャン……この話は、もうやめよう。

 ここでこの話をしたってしょうがないよ。」

 

 

「ああ……そうだよな。

 ……それにしても、こいつらさっきっから俺たちのいる木を登ろうとしてねえか?」

 

 

 さっきから気になってはいたが、触れずにいたことだ。さっきまではまだ、俺たちとの距離には余裕があった。だが今になって下を見るとすぐ近くまで登ってきているのが見えた。

 

 

 さっきより明らかに距離が縮まっている!

 

 

「お、おい…絶対こいつら近づいてきてるって!なあ、アルミン!」

 

「う、うん…。確かに、学習能力があるみたいだ。

 段々木を登るのが上手くなっているように見えるね。

 このままここにいては危険だ。もう1つ先の木に移ろう。」

 

「ああ!」

 

 俺たちは、立体機動装置を使って隣の木に移った。

 

 

 

 その時――

 

 

 

 ドン!!ドコン!!ドドンッ

 

 

 

 

 何やら、大砲の発砲音ような音が断続的に鳴り響いている。

 大砲なんて運んでいるところは見ていないが……

 

 しかし、大砲のようなものを使うとしたら、あいつに対してだろう。

 どうやら、あの巨人を捕獲しようとしているらしい。

 

「アルミン、今森の奥で何かやってる見てえだが、何となく察しがついてきたぞ。

 あの女型巨人を捕獲するために、ここまで誘い込んだんだな。もっと正確に言えば、やつの中にいる人間の捕獲だ。エルヴィン団長の狙いは。」

 

 女型の巨人の捕獲だとしたら、俺たちがここで巨人をただ集めているだけなのにも理由がつくし、この森は捕獲には割と都合のいい場所だ。

 この森の中なら、巨人は動きづらいのに対し、立体機動は動きやすい。こちらのほうが有利だ…とは言えねえが、より捕獲しやすい環境なのは確かだ。

 

「そして、奴の中にいる人間は、兵団の中にいる人間だ。

 お前もそう思ってたんだろ?」

 

 

「うん、兵団の中に諜報員がいるんだと思う。

 だからこそ、エルヴィン団長は事前に兵団の上層部にしか、この作戦の指示を出さなかったんだろう。」

 

 

「しかしなあ、エルヴィン団長のした判断は、正しいとは言えねえだろ。内部の情報を把握してる巨人の存在を知っていたらよ、対応も違っていたはずだ。

 お前のところの班長達だって…。」

 

 

「いや……間違ってないよ。」

 

「は…?何が間違ってないだって?

 兵士がどれだけ余計に死んだと思ってんだ!」

 

「ジャン…、後でこうするべきだったって言うことは簡単だ。でも、結果なんて誰にも分からないよ。

 分からなくても選択の時は必ず来るし、しなきゃいけない。

 100人の仲間の命と、壁の中の人類の命…

 団長は選んだんだ。

 100人の仲間の命を切り捨てることを選んだ。

 

 ……大して長くも生きていないけど、確信していることがあるんだ。

 

 何かを変えることの出来る人間がいるとすれば、その人はきっと、大事なものを捨てることが出来る人だ。

 化け物をも凌ぐ必要に迫られたのなら、人間性をも捨て去ることが出来る人のことだ。

 何も捨てることが出来ない人には、何も変えることは出来ないだろう。」

 

 

 

 俺達は、その後何やら叫び声のようなものをきっかけに巨人が突然奇行種になって、森の中央方面へ走り出したのを見た。

 今まで通常種だった巨人達が突然奇行種になったのだった。

 どういう原理かは分からないが、巨人達を食い止めるのが俺達の役割だったため、班長の指示で食い止めようとはしたが、なかなか上手くはいかなかった。

 

 

 

 しかし…青い信煙弾が見えた。

 エルヴィン団長の撤退命令が出たのだった。

 

 

 そして、作戦は終了した。

 

 

「失敗……か。」

 

 

 ここまで行って、失敗かよ。

 死んだ仲間達は何のために死んだんだ?

 俺達は、何のために生きている?

 

 

…

…

(リヴァイ視点)

 

 

 女型の捕獲は、失敗した。

 

 あいつの硬質化に手間取っているうちに、女型が叫んで巨人が集まってきたのだった。

 その場にいた調査兵全員で迎え打ったが、巨人の圧倒的な数には勝てなかった。

 

 先程まで女型がいた場所は巨人たちに喰い荒らされて跡形もなくなっており、そこには巨人の死体と、そこから出る白い煙のみが蔓延していた。

 

 そしてエルヴィンは、撤退命令を出した。

 

「やられたよ」

 

 エルヴィンは意気消沈した顔をしていた。

 

「なんて面だ、てめぇ…そりゃ」

 

「敵には、全てを捨て去る覚悟があったという事だ。まさか、自分ごと巨人に食わせて、情報を抹消するとは…」

 

「審議所であれだけ啖呵切っておいて、このザマだ。このままノコノコ帰ったら、エレンも俺達もどうなることか…」

 

「帰った後で考えよう。今はこれ以上損害を出さずに、帰還できるよう尽くす。今はな。」

 

 

 俺の班にはエレンを隠すために巨人とは距離を取るように言っておいたはずだ。

 撤退命令が伝わってないかもしれねえ。

 

 

「俺の班を呼んでくる。」

 

「待てリヴァイ。ガスと刃を補充していけ。」

 

「時間が惜しい。十分足りると思うが?

 …なぜだ?」

 

 これ以上戦う必要も無い訳だ。ガスとブレードは今ある分で足りると思っていたが、

 

「命令だ。従え。」

 

 エルヴィンがそう言うということは何かあるかもしれないということだろう。

 

「……了解だ、エルヴィン。お前の判断を信じよう。」

 

 

…

 

 

 俺は、ガスとブレードを補充した後、自分の班を探し始めた。

 案外あいつらはすぐ見つかった。

 あいつらは、立体機動で本部へ直行している最中だった。

 

「てめえら……一体どういうことだ?俺は、巨人からエレンを離すように言ったはずだ。」

 

 本部には、女型の巨人の残骸と、それに群がっていた巨人が今もいる。

 

「リヴァイ兵長!

 俺たちは、女型の巨人に遭遇したんです!

 今、ノアが交戦中です!」

 

 班を任せたエルドがそう叫ぶ。

 女型の巨人…。あいつの中身は巨人に食われてなかったということか。

 エルヴィンの言ったことは、こういうことだった訳か。

 

「兵長!ノアを…ノアを、助けてください!」

 

 エレンも声が枯れそうな程叫んでいる。

 

 ……そうか、エレンとノアは同郷で幼馴染だったそうだな。

 

 しかし、

 

「……ダメだ。お前らを送り届けてからだ。」

 

 ここでエレンが居なくなったら元も子もない。

 それに、

 

「ノアは元からそういう命令だ。」

 

 あいつは班で訓練していた時も、ずば抜けて優秀だった。命令は必ず遂行するだろう。

 

「命令…?命令だから、なんだって言うんですか!

 ノアは、俺達を助けてくれたんです!

 それに、ノアも、貴重な、巨人化できる人間なんじゃないんですか!?」

 

 エレンの言うことはもっともだ。だが、

 

「ノアも確かに貴重な人間だ。だがそれで、エレンもノアも失っては大損害だ。

 それに、この班は、エレン…お前を守るための班だ。このことを疑問に思わねえのか?

 本部に帰ってから、じっくり考えるんだな。」

 

 俺は、そう言ってから、半ば強制的に本部まで同行した。

 オルオ、ペトラ、グンタ、エルドの4人は苦い顔をしながらも従っていたが、エレンは終始、ノアを助けろとピーピー喚いていた。

 

 そして、俺達が本部に着いたその時、それは聞こえた。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!」

 

 女型の叫び声だ。……また巨人を呼んだのか?

 

「女型か?」「……ノアが!」「兵長、早く行ってください!」「俺達は大丈夫です!」「本部なら、調査兵が沢山います!俺達でエレンは必ず守ります!」

 

 オルオ、エレン、ペトラ、グンタ、エルドが口々にそう言う。

 

 本部なら、こいつらも一応は安全だろう。

 

 そう思って、俺はこいつらを本部に送り届けてからそこを離れ、女型の巨人とノアを探しに行った。

 

…

 

 それは、森の西側だった。

 俺が行った時にはもう、女型の巨人は跡形もなくなっていた。

 

 

 そこには、返り血で血塗れになったノアが、倒れているだけだった。

 

 周りには大量の巨人の死骸。既に皮膚が蒸発して骨になっている死骸もあった。

 

 ……これを全部、こいつがやったのか?

 

 これだけ大量の巨人を殺した新兵は見たことがない。それも、1人で。

 女型がどうなったのかは分からないが、俺はとりあえずノアを回収して、本部まで戻ることにした。

 勿論、深くフードを被せて。

 

 

…

…

(ノア視点)

 

 

 目が覚めたら、空中でした。

 

 木々が高速で過ぎ去っていく様子を起きた瞬間に見たら、誰だって恐怖すると思う…が、俺は大丈夫だった。

 というのも、兵長に抱えられていたのだ。なんというか、本当に、抱えるという言葉が1番適切な表現で、落ちないのか不安で身動ぎせずにいたが、俺の目が覚めたことは兵長に1発でバレた。

 

 

「……起きたか。大丈夫か?」

 

「は、はい。

 今はどこに向かっているんでしょうか?」

 

「本部だ。」

 

 本部……いや、あそこは人が沢山いるから、俺が行ってはダメだろう。

 

「兵長!まずは、エルヴィン団長の所へ連れていって貰えませんか?今は、俺の存在がバレると……」

 

 エルヴィン団長なら、適切な判断を下してくれそうだ。

 

「ああ、分かった。」

 

 リヴァイ兵長はそう言って、進路を変えた。

 エルヴィン団長も本部にいるかもしれない。それは不安だったが、そうではないようだった。

 俺は自分で飛ぼうかとも考えたのだが、ガスがほとんど無いことを思い出した。

 

 

「……状況を説明しろ。」

 

 

 リヴァイ兵長は、俺が気絶してから俺を見つけたらしく、その前の状況は分かっていないようだったため、俺は全てを説明した。

 女型に遭遇したこと。攻撃を入れたが叫ばれて、巨人を呼ばれたこと。

 

 

「そうか。女型は……」

 

「討伐出来ませんでした…。

 このまま帰ったら、エレンはどうなるのでしょうか…?」

 

「エレンだけじゃない。ノア、お前もバレたら大変だろうな。」

 

「でも、俺は……」

 

「ああ、分かってる。

 『死んだこと』に、するんだろ?」

 

 リヴァイ兵長には、伝えられている。

 俺の、今回の作戦での役割を…

 

 

…

 

 

 ――それは、数日前。

 エルヴィン団長に呼び出された時のことだ。

 

『それで、次の作戦は、表向きはカラネス区からの行路の確保だが、実際は、その巨人の確保を目的とする。』

 

 

『そこで、君にはその作戦内容と、そこでの君の立ち位置、役割を話そうと思う。話の内容的にも、ここで覚えてもらうことになる。いいね?』

 

『は、はい!』

 

 

 その後話された作戦内容は、こうだ。

 

 

 まず、俺はエレンを捕獲地点周辺まで守る。

 そして、女型が来たら、捕獲場所までエレン達が食われないように誘導と足止め。

 その最中に誰もいないところを見計らって戦場を離脱。

 捕獲地点を超えて対象を捕獲した後、リヴァイ兵長がリヴァイ班につけなくなったら、俺はリヴァイ班を追跡し、リヴァイ兵長が来るまでエレン達を守る。

 自分の命の危険があると判断した時は、戦場を離脱し、エルヴィン団長かリヴァイ兵長に伝える。

 そして、俺がリヴァイ班を追跡している間に、女型を拘束し、リヴァイ兵長が項を削いで、中身の人間を捕獲する。

 

 

 そういう作戦らしい。

 

 

「そして、君は……この作戦が終わった後からは、公にも、調査兵団にも、『死んだ』という情報を流すことになる。」

 

「命令ならばそれで構いませんが、どのような意図があるのでしょうか?」

 

「まず、エレンを狙っているのは恐らく、君たちの同期の可能性が高い。

 トロスト区奪還作戦…どうしてあの作戦は成功したのだと思う?」

 

 同期……か。怪しそうな奴はいっぱい居るが、三年一緒に暮らしてきて尻尾も出さなかったんだ。相当隠すのが上手いと見える。

 

「……エレンが巨人になって、岩で壁の穴を塞いだからでは?」

 

「ああ、もちろんそうだが、あの時、ど(・)う(・)し(・)て(・)巨(・)人(・)達(・)は(・)侵(・)攻(・)を(・)止(・)め(・)た(・)ん(・)だ(・)?」

 

「それは…」

 

 そう考えるとおかしい。

 シガンシナの時は、鎧の巨人が現れて内門を破ったんだ。

 だが、トロスト区に現れたのは超大型巨人のみ…

 

「あの時、巨人になれる人間がトロスト区に侵攻していたのだとしたら……イレギュラーは、エレンだったはず…」

 

「そう!つまり、エレンの巨人化を見て、侵攻を止めた。何かしらの理由があるとは思うが、そこはまだ分からない。」

 

 ということは…

 

「巨人になれる人間は、その時エレンの巨人化を自分の目で見た人間…。

 要するに、エレンが巨人化した周辺にいた104期訓練兵団が怪しい…ということですね?」

 

「そうだ。そこで、敵の巨人化出来る人間は、これからエレンを狙うだろうと推測できる。

 敵が巨人化出来る人間を狙っているのだとすれば、君の力は知らせない方が良いと考えた…。だが、君は、昇降機で仲間に自分の力を教えてしまったのだろう?」

 

 あの時は、必死だった。そこまで考えられなかったのだ。

 いや、同期の中に敵のスパイがいることを知っていても、3年間過ごした仲間は敵ではないだろうと思って、自分の力のことを話していたのかもしれない。

 あの時は、まだまだ甘かったのだ。

 

 

「……はい、そうです。」

 

「君が同期に巨人の力を教えていなければ、君の力を隠すのみに留めておけた。しかし、今の状況だと……君は『死んだ』という情報にして、狙わせないようにするのが、最善だと考えている。

 調査兵団としても、守る対象は1人の方がやりやすい。エレンは表向き、そして、君は裏での巨人化要員として、兵団に貢献してくれればと思っている。」

 

「そうですね。

 ……理由は分かりました。

 ところで、俺が匿われる場所は何処になる予定ですか?

 ただでさえ兵団の信用が薄い所を、もし今回の壁外調査で失敗したら、もっと兵団は危険な立場になるはずです。

 成功したら、今までより更に信用を得ることができ、もしかしたらエレンも正式に調査兵団として任命されるかもしれないという、ハイリスクハイリターンであることは分かってはいますが…。

 どちらの状況に転んでも安全な場所なんて無いように思います…。」

 

「…どちらに転んでも、君は私についてもらうよ。

 これからどうなるかは私にも分からない。しかし、私の近くにいた方が、指示も出しやすいだろうしね。」

 

 エルヴィン団長の直属の部下になるってことか……

 

 それって…超出世コースじゃないか!

 そう、あの時は呑気にも考えていた。

 

「ノア、最後に1つだけ、1番大事な命令がある。」

 

「なんですか?」

 

「くれぐれも、死なないように。」

 

 エルヴィン団長はそう言ってから、話は終わりだとして、俺は執務室を出ていったんだ。

 

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