原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
俺の人生はあの時、終わるはずだったんだ。
「グリシャ……お前が、使命を果たしてくれ…」
「おい、ノア!何故ここに…何故、私を庇った!?」
何故、だろうか。お前が、あいつと同じ、復讐を果たそうとする目をしているからか?それとも、復讐心の中に垣間見える、優しさに心打たれたからか?
どうしてかは、分からない。
けど、
「おい、おい!どういうことだよ!説明しろよ!」
お前の声は、あいつに似ている気がする。
…
俺には、生まれた時からもう1人の人格のような者がいた。そいつは俺に囁いて、いつも上に逆らうことを強要してくる。
自由を自分の手で掴み取れ、圧力に屈するな。そんなことを、何度も。
でも、俺は今までそいつの言いなりになったことは無かった。
俺がそいつに体を乗っ取られることも1度も無かった。
ある日、あいつは俺に、こう囁いた。
『抗え……己の運命を人任せにするな。
エルディア復権派の首謀者を守れ』
…
「なあ、ノアは、どうして戦士候補生なんかになったんだ?」
ある日、ジークは俺にそう聞いてきた。
「うーん、そうだなあ、反抗するため、かな?」
「ちょ、ちょっと、誰がどこで見てるか分からないんだよ?マーレに反抗なんて、命が幾つ合っても足りないよ。」
ジークは慌て気味にそう言う。しかし、俺が言っているのは、そういうことじゃない。
「違う違う、マーレに反抗している訳ではなくて、俺が反抗してるのは……」
「反抗してるのは……?」
「……まだ、ちびっ子のお前には早いかな。」
ジークは7歳になったばかり。子供にしては早く成長しているが、俺の複雑な事情は難しいだろう。俺も説明できる気がしない。
「えええ〜、なんだよ。教えてくれよ。」
「ま、お前が1人前になったらだな。」
「1人前…?巨人を継承したらってことだね?
…………そんなの、ずっと先じゃん!」
「まあな、生まれてからちょっとのお前じゃ、1年でも長すぎると感じるんだろうけど、意外とあっという間だぞ?」
「言い方がおじさんっぽいよ……」
「酷いな!?」
俺はまだ10代なんだが、最近になって周りにおじさんっぽいと言われる数が増えてきた気がする。
「そういえば、今日はなんでここに来たんだ?」
今日は1日休日で、宿舎で過ごしていた所をジークに突撃されたのだった。
「あのさ…
僕、聞いちゃったんだ。
今度、ノアが戦争に行くって……ほんと?」
「ああ、まあ、巨人を継承したからな。もしかして、心配してくれてんのか?」
「うん……そりゃあ、心配だ。
戦争に行くってことは、死ぬかもしれないってことだろ?」
ジークは不安そうにこっちを見てくる。
ジークは昔から俺に懐いてくれた可愛い後輩だ。
安心させたいと思った。
「大丈夫だ。俺が死ぬわけないだろ?
戦士候補生の時も、首席みたいなもんだったしな。
戦争でもなんでも、俺は死なないよ。」
「そっか……。
自慢かよ、ノアは懲りねえな。前、自慢の件でフィアンと一悶着あったばっかじゃないか!」
「お、ジーク、お前も言うようになったな!
なんだ?先輩に向かって説教かー?」
冗談めいた口調でそう返す。
「えっ!?違うよ!!」
ジークは必死に否定する。
軽口を叩けるまでジークと仲良くなれたのは、彼の父親の影響もある。グリシャさんには感謝しかない。
ただ同時に、彼の親子関係は良好とは言えない状況なのは知ってはいた。が、このことを衛兵に伝えると、彼ら、グリシャさん達は捕まって余罪を調査されるだろう。それがバレると結構マズイ。
ジークのことはどうにかしてやりたいが、俺と同じ目的を持つ、グリシャさんのことも見捨てられなかった。
ジークにはいつも励まされている。
巨人を継承して初めての戦争に少なからず緊張していた俺は、ジークに救われた部分も多々あった。
「…………ありがとな、ジーク。」
「え?」
ジークは頭にハテナを浮かべているが、伝わっていなくてもいい。
…
『おい、確証が無いのにあんなこと言っていいのかよ?次の戦争でお前は死ぬかもしれないぞ?』
心の同居人はそう俺に語りかける。
こいつはいつも俺の不安を誘発するような言葉を言いやがる。
「そんな事分かってるよ。俺は死ぬかもしれない。
けどな、人間じゃないお前には分からないかもしれないけど、人間ってのは約束を大事にする生き物なんだ。
約束があれば、守るために頑張れる。そういうことだってあるかもしれないだろ?」
『俺が、人間じゃない……か。
これからは何回もそう言われるかもな。』
「これからは……?
お前、俺の中から出るつもりなのか?」
こいつは、一生俺の心の中にいるものだと思っていた。
もちろん、自分の心の中にもう1人の人格がいて、毎度毎度、邪魔な事を言ってくるのは鬱陶しいが、こいつの考えはたまに悪い方向に傾く時がある。例えば、自分の主張を通すためには、誰かの何かを奪うことも厭わないというような考えをこいつは持っている。
こいつを野に放したら危ない。
『いや……お前が死んだ後だよ。』
俺が死んだ後、か。
戦士候補生のジークにはこの事は言っていないが、俺が巨人を継承したのは832年。9つの巨人を継承した者の寿命は13年とされている。つまり、俺の寿命は845年まで。
「死んだ後…ね。その時お前はどうするつもりなんだ?」
『お前に教えてやる義理はねえ…が、まあ、簡単に言ったら元の体に戻るんだ。』
元の体…?こいつは元々人間ってことか。
『まあ俺の話はいいんだ。
人間には約束が必要…か。
それが守れなかった時、どう相手に弁明するつもりだ?』
「いや、守れなかった時のことはその時に考えればいいだろ。
まったく、お前はなんで毎回ネガティブな方向に話を持っていきたがるんだ。」
『……そうだな。俺は、悪魔みてえなもんだからな。』
悪魔…か。島の壁の中にいるエルディア人の呼び名もそうだった。
マーレで虐げられているエルディア人も、壁の中のエルディア人も、どちらも同じエルディア人なのに…。
しかし、こいつが悪魔…か。こいつの言っていることは半分くらい嘘だろうが、悪魔と言われれば、納得がいく。こいつは、俺の人生がめちゃくちゃになって、再起不能になるまでに陥って欲しいんだと思うからだ。
何故かは分からないが、こいつはいつも悪いことを言って、俺を狂わせようとしているんだ。
だが、憎めないところもある。
俺の中での雑談には、いつも入ってくるし、たまに助言なんかをしてくれることもあった。
『そういや、お前が約束した相手は、将来敵になるかもしれない奴らだぞ?戦士候補生、と言えば聞こえはいいが、所詮はマーレの駒だ。お前は、マーレに復讐したいんじゃなかったのか?そうだろ?』
マーレに復讐したい、そんな事を考えていたのは、今となりゃ、昔の事だ。
寿命を縮めてまで軍の中枢部に入ってスパイ的なことをしているのは、もちろんマーレに一泡吹かせてやりたかったからだ。
しかし、復讐は悪い方向に向かうだろうことは分かりきっている。あいつ…今話している心の同居人のおかげだ。あいつは、復讐心を原動力として動いている。俺は、死んでもあいつのようにはなりたくない。
復讐、ではなく、救済を目的とするべきだ。
「俺の今の目標は、マーレへの復讐じゃなくて、エルディア人の救済だ。ここにいるエルディア人も、壁の中のエルディア人も、両方救うために残りの寿命を使おうと思ってる。」
『……お前は、俺と同じだと思っていたが…そうか、お前は復讐を諦めたんだな?』
「お前とは一生同じなんかにはなりたくないね。
諦めたって言ったらそりゃ、揚げ足取りだろ。
復讐を諦めたんじゃなくて、違う方法と目的にシフトしただけだ。
……といっても、これからすることはまだ決まってないけどね。」
『そうか。』
それからそいつは、俺の中からどこかへ消えてしまうことが増えた。
こいつも忙しくなったのか?
…
この前、戦士候補生の期間を終えて、俺は顎の巨人を継承した。
その何ヶ月か後、俺の耳にはこんなニュースが入ってきた。
【エルディア復権派が捕縛され、全員楽園送りになる。】
そんなニュースだ。
そして、もう1人の人格である、奴はこう言った。
『抗え……己の運命を人任せにするな。
エルディア復権派の首謀者を守れ』
俺はいつものようにそいつの言うことに逆らおうと思っていたが、昔マーレに復讐心を持っていた俺は、エルディア復権派には期待を寄せていたのもあり、エルディア復権派の首謀者を守る。それも悪くはないなと思った。
それに、復権派の首謀者は…グリシャさんだ。グリシャさんには散々お世話になった。今、恩を返す時だろう。
そこで、楽園送りを実行するためにパラディ島に向かう船に潜入して、影から見よう。
そして、あわよくばエルディア復権派を助けよう。
そう思っていた。
楽園送りは着々と実行された。俺に入る隙はなかった。マーレ軍の兵士は数が多く、さすがに数で攻められたら一溜りもないし、今俺がここにいることがバレたらワンチャン顎の巨人を他のやつに継承させるために食われる可能性もある。
事実上の死刑だ。
名前も知らないエルディア復権派の人のためにそこまでする正義感は生憎持ち合わせていなかった。
しかし、グリシャさんは別だ。グリシャさんとは面識がある。昔、俺はエルディア復権派に誘われたんだ。ただ、その時戦士候補生だったこともあって、巨人を継承してマーレに復讐する道を選んだんだが、その後も何かとグリシャさんは親のいない孤児であった俺を気にかけてくれるようになっていた。
エルディア復権派も残りの一人。親玉であるグリシャさんだけとなったとき、それは起こった。
マーレの死刑官であった、エレン・クルーガーが反逆を起こしたのだ。
マーレ側の司令官を殺し、グリシャを助けた。
そして、彼らは話し合った後、グリシャがエレン・クルーガーを食べて、進撃の巨人を継承したようだった。
俺はグリシャのその後の行動が気になって、グリシャの後ろにバレないようについて行った。
その道中、グリシャは無垢の巨人に食われそうになったんだ。
俺は咄嗟に飛び出して、庇おうとした。巨人になろうと自傷行為をしようと思ったが、間に合わず、俺は巨人に丸呑みされる所を間一髪で避けて、右腕と右肩を持ってかれた。
「グリシャ……お前は、使命を果たしてくれ!」
「おい、ノア!何故ここに…何故、私を庇った!?」
理由は分からないが、俺は咄嗟に庇おうと飛び出していた。
「おい、おい!どういうことだ!説明しろ!」
目の前に巨人がいるってのに、こいつは呑気に俺に話しかけていた。
「早く逃げろ!俺の傷は治るし、こいつを止められるのは俺しかいない。グリシャさんはさっき巨人を継承したばかりだろ!
俺も継承してから時は浅いが、戦士候補生をやっていたこともあって、巨人の扱いには慣れた!
だから、グリシャさんは早く逃げてくれ!
……足手纏いなんだよ!」
俺は早口で突き放すようにそう言った。生憎、右腕が修復するまで巨人化は出来ない。
「お、おい…待てよ……」
「グリシャさんが死んだらどうすんだよ!エルディア復権派の願いは果たされないまま、歴史の闇に消えていくだけだ。」
「そうか、足手纏い…なんだな?
ノア、ごめん。お前の無事を祈ってるよ。」
グリシャは納得したような顔をしてその場を離れた。
啖呵を切ったのはいいが、俺は実際まだ巨人の扱いには慣れていないし、右腕が治らない限りは巨人化すら出来ないだろう。ここが俺の死地になるだろうことは明白だった。
俺が死を覚悟したその時――
……フィアンが見えた。
フィアンの受け継いだ、車力の巨人が見える。
いや、あいつがここにいるわけがない。
なんせマーレのある本島とは海ひとつ超えた、パラディ島なのだから。
俺の最期の光景は、フィアンの受け継いだ、車力の巨人だった。
…
…
俺は、分かっていたはずだった。ただ、現実から目を背けていただけだ。
見て見ぬふりをしていただけだ。
転生してすぐの頃。シガンシナ区で生まれてまだ数日という時。俺の部屋に何者かが忍び込んで、こう言った。
「どうして、君が、ここにいるんだ?……死んだはずじゃ…、いや、君がここにいては、私が壁外から来た人間だということがバレてしまう。あの時助けてくれたのは紛れもなく君だが、ここで死んでもらうより他ない。」
あの声はよく聞き覚えのあった声のはずだった。
俺が乳幼児の頃、毒を盛って殺害しようとしたのは、エレンの父、グリシャ・イエーガーだった。