原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話   作:蘭 ノイ

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19話 決裂(エレン奪還作戦)

 

 

(ノア視点)

 

 記憶が雪崩れ込んできた。

 フィアン、そいつは夢の中での同期だった。

 

 夢で見たのは巨人になる力を持っていて、マーレというものに付き従っていた人のようだった。

 

 これは誰の、いつの話だ?

 

 

「ノアさん……ノアさん、ノアさん!」

 

 

 遠くからベルトルトの声が聞こえる。

 

 

「ハッ……!!

 ッハア、ハア…」

 

 マーレという国の話を夢で見たのは覚えているが、その後何か、怖い夢を…見た気がする。

 俺の額には冷や汗が浮かんでいた。

 

 

「やっと起きた……!

 魘されていましたけど、大丈夫ですか?」

 

 周りを見渡すと、自分は枝の上に寝っ転がされていた。上の枝にはライナーとベルトルトが居て、エレンはベルトルトの横で捕まっている。

 

 そういえば俺は、記憶を見る前、何をしていたんだっけ。

 

「ノア、説明しろよ!

 お前がそっち側って、どういうことだよ!」

 

 エレン……。

 そうだ、俺はエレンを助けに来たんだった。

 

 

 さっき見た記憶は…ベルトルトが憧れている人の、記憶なのか?

 どうして俺に…

 

 

 俺の、記憶なのか……?

 

 

「しっかりしてください、ノアさん。

 俺たちは、戦士です。あなたの背中を追って来ました。

 協力、してくれますか?」

 

 

 同期であるベルトルトが敬語なことに違和感しかないが、これからどうするべきだ?

 

 どう切り抜ければ、時間を稼げる?

 

 

 俺が頭をフル回転させている時、

 

 

 ピーッ

 

 

 近くから指笛の音が聞こえた。

 

 

「またか!?誰だ!!」

 

 

 二ファだ。

 俺は咄嗟に指笛を鳴らす。

 

 

「ちょっと、ノアさん、何を…」

 

 

 二ファはこちらの方向へ真っ直ぐ来た。

 

 

「あの……これってどういう状況?」

 

 

 流石の二ファも困惑している。

 

 そりゃそうだ。計画にこんなことは無かったから、驚くのも無理はない。

 

 しかし、十分時間は稼げたようだった。

 

 

「二ファ、お前を待ってたんだよ。

 時間は稼げた。」

 

「そう、それならいいけど。

 どんなことをしたらエレンがこんなに敵意剥き出しになるのか教えて欲しいわね。」

 

 そういえば、敵に意識を向けていたため、エレンの様子はよく分かっていなかった。

 

 そう思ってそちらを伺うと、エレンの切断されている腕の先端は血に染っていた。大方、巨人化しようとしたのだろう。そして、俺の方をキッと睨みつけていた。

 

 再会した時とはえらい違いだ。

 

 

「エ、エレン…

 冗談だよ、今までのは、全部嘘だ。

 時間を稼ぐための、嘘なんだよ。」

 

 

 ……許してくれなさそうだ。

 

 

「おい、どういうこと…」

 

 ライナーも困惑しているらしく、声を上げたが、怒っているエレンの声にかき消された。

 

 

「はあ?そんな嘘があるかよ。

 お前は、あの日俺の故郷を壊した巨人の一員だったんだろ?

 俺はそんなことも知らず、お前と仲良くやってたってことだろう?

 面白かっただろうな。何も知らずにお前のことを仲間だと思ってた俺は!!」

 

 

 今回のやり方は間違いだったかもしれない。

 時間を稼ぐにも、もっと他に方法があったはずだ。

 俺の安易な考えは、少なからずエレンを傷つけたようだった。

 

 

「エレン、ノアは、仲間よ。

 さっきまでだって、ウトガルド城の巨人を全て殲滅したのは、ノアだわ。

 しかも、トロスト区の時には非公式だけれども、ノアが1番巨人を倒したのよ?

 敵だったら、そんなことする必要なくない?」

 

 

 二ファは、状況が分からないにも関わらず、とりあえずはエレンを落ち着かせようとしてくれる。

 二ファのフォローがありがたい。

 

 エレンも二ファの言葉を聞いて、冷静さを取り戻しているようだった。

 

 

 その時、パァン、と乾いた音が薄らと聞こえてきた。

 

 緑の信煙弾が見える。

 

 ……調査兵団だ!

 

 時間稼ぎは上手くいった。あとはもう少しだけ、こいつらの足止めをするんだ。

 

 

「……調査兵団だ!

 いくらなんでも、早すぎる!」

 

 ベルトルトはそう言うが、調査兵団が諸手を挙げて守らねばならない、人類の希望、エレンが捕まってるこの状況だと、この速さにも納得だ。

 

 それにしても、よくこの場所を突き止められたな。俺と二ファは悪夢で予測出来たが、調査兵団内にもう1人、悪夢を見れるものがいるのだろうか?

 

 

「おい……

 

 ノアさんは、味方なのか、敵なのか、どっちかハッキリしてくれ。」

 

 ライナーが焦った様子でそう言う。

 

 

「そりゃもちろん…敵だね。

 俺たちの故郷を、そこに住む人達を殺したお前らの味方なんて、たとえ天変地異が起こっても……ないね。」

 

 

「……お前ぇええ!!!」

 

 ライナーは怒りの感情のままに俺の方向へ1歩踏み出したが、ベルトルトがそれを止めた。

 怒りのままにこちらの懐に飛び込んできてくれるのを狙っていたが、少なくともベルトルトは冷静だった。

 

「ライナー、今あの人に近づいても、返り討ちにされるだけだ。」

 

「じゃあどうやって勝つんだよ!」

 

 

「…これしか無いよ。」

 

 

 そう言ったベルトルトは、即座にエレンの腕を掴んで、ライナーのいる枝に飛び移る。

 

 

「エレン!!」

 

 

 俺は思惑通りに敵が騙されてくれたこともあって、どこか油断していたのかもしれない。

 エレンは、またもや連れ去られた。

 

 エレンはベルトルトの隣に転がされていたため、エレンがベルトルトに掴まれて、離れていくのはコンマ何秒という間の出来事だった。

 

 

「ベルトルト、流石だ!

 このまま逃げ切るぞ!」

 

 ライナーはそう言って巨人化するが、絶対に逃がしてやらない。

 

 俺と二ファは直ぐに追撃する。しかし、上手くベルトルトに躱されてしまう。

 

 

「ノア、止まって!」

 

 

 そう、二ファが唐突に叫んだ。

 

「どうしてっ…」

 

 俺は突然の事に理解が追いつかなかった。

 

「前前!前見て!」

 

 二ファの言う通り前を見ると、視界が一気に開けていた。

 

 森の本当に端まで来てしまったようだ。

 

 このまま立体機動で進むのは困難だろう。

 

 仕方ないので、先程、指笛を連絡用に使うために繋いだ馬を連れてくる。

 

 

「さっきはありがとう、二ファ。

 しかし、随分なタイムロスになっちゃったな。」

 

 

 騎乗した後、最後にライナー達を見た場所まで行くと、ライナーたちはもう既に何百メートルも前にいた。

 

 

「こりゃ、追いつけるかしら…」

 

「…追いつかなきゃいけないんだよ。何としても、エレンを取り返すんだ。」

 

 

 俺と二ファは全速力で馬を飛ばす。

 

 調査兵団と思わしき大人数の兵士たちは近づいてきていて、もう少しで追いつくような気配がしたが、ギリギリまだ間に合っていなかった。

 

 俺たちは体感3分ほどしてからようやく、彼らの背後までたどり着いた。

 

 

「エレンの取り返しは調査兵団に任せるのよ!私たちは、足止めに集中!

 おーけー?」

 

 

 二ファは最後に計画の確認をしてから、立体機動に移る。

 俺もそれに続くように立体機動のトリガーを引きながら、応えた。

 

「了解!」

 

 

 

 

 それから少しすると、調査兵団が到着した。

 

 俺と二ファがライナーに攻撃を仕掛けてからすぐ、ライナーは胸の辺りで手を置いて、エレンを担いでいるベルトルトをその手の内側に避難させていた。

 俺たちはそれに拒まれて、エレンの救出は叶わなかったが、攻撃を続けたこともあって、ライナーの速度を落とすことには成功した。

 

 

「追いつけない速度じゃない!間に合うぞ!」

 

 遠くからそんなジャンの声が聞こえてからすぐ、ミカサを筆頭に、104期の同期達が鎧の巨人の、ベルトルトとエレンを匿っている手の周辺に乗り込んできた。

 

 

「生きてたのか!

 ノアと……二ファ!? どうしてここに…、いや、今はそんなことを言ってる場合じゃねえか!」

 

 ジャンが同期達の気持ちを代弁するようにそう言う。

 

「ノア……本当に、ノア…なんだね?

 …良かった!生きてると思ってたよ!」

 

 アルミンはそれだけを言ってから、ベルトルトがいるであろう、手の内側を睨みつける。

 

「アルミン…お前らも、よく生き残ったな。

 …細かいことは後で話す。まずはこいつらをどうにかするぞ!」

 

 俺もそう言ってから、手の内側の様子を伺う。

 

 中ではエレンが暴れて、鎧の巨人の手を蹴っているようだった。

 

「暴れるな!」

 

「そりゃ無理があるぜ、ベルトルト。

 そいつをあやしつけるなんて、不可能だろ?

 うるさくてしょうがねえ奴だよな!…よく分かるぜ。

 俺もそいつ、嫌いだからな!一緒に締めてやろうぜ。なあ、出てこいよ。」

 

 ジャンとエレンが喧嘩していた訓練兵時代を思い出す。

 

「ベルトルト、返して!」

 

 ミカサはエレンを取り戻すことで頭がいっぱいのようだった。

 

「なあ、嘘だろ?ベルトルト、ライナー!

 今までずっと、俺たちのこと騙してたのかよ。

 そんなの……ひでえよ!」

 

「2人とも、嘘だって言ってくださいよ!」

 

 コニーとサシャ。こいつらは本当に、同期たちとは一生の仲間だと思ってただろう。

 俺も、裏切り者がいることに気づく前までは、そう思っていた。

 

「おいおいおい、お前らこのまま逃げ通す気か?

 そりゃねえよお前ら!3年間、ひとつ屋根の下で苦楽を共にした仲じゃねえか!

 ……ベルトルト、お前の寝相の悪さは芸術的だったなあ。いつからか、みんなお前が毎朝生み出す作品を楽しみにして、その日の天気を占ったりした。

 けどよお前、あんなことした加害者が、被害者達の前でよくも、ぐっすり眠れたもんだな!」

 

 

 あんなに訓練兵時代、みんなの兄貴分のような存在だったライナーが、ベルトルトが、裏切り者だなんて俺も信じたくなかった。

 

 

「全部嘘だったのかよ?

 どうすりゃみんなで生き残れるか話し合ったのも、おっさんになるまで生きて、いつかみんなで酒飲もうって話したのも、全部…嘘だったのか。

 なあ!お前らは今まで、何考えてたんだ!」

 

 あの時は、未来(さき)のことを話せたんだっけ。

 

「本当に、シガンシナ区も、トロスト区も、ベルトルトとライナーがやったの?

 どうして……

 何か、特別な理由があったんだよね?巨人になって、街を襲撃しなくちゃいけない理由が…」

 

「クリスタ、こいつらがあたしら人間の街に危害を加えた理由なんて、そんなの明確じゃないか。こいつらは、大量殺人鬼で、猟奇殺人がお得意なんだからな。」

 

「ユミル…どういうこと?」

 

「つまり、こいつらは頭が狂っちまった殺人鬼か、もしくは人を殺すことに快感を覚えてる輩だってことだ。

 アハハ!

 最高だよ。

 あんだけ正義感語ってたライナーも、いっつも静かなベルトルさんも、巨人だったなんてな!

 どうやったら人殺したやつが、正義とか規則とか語れるんだよ!

 ベルトルさんもよ、あんだけ存在感なかったのに、巨人は超大型だってな!

 出来すぎにも程があるっての!

 アハハハハ!」

 

「ちょっと、ユミル!」

 

 

 クリスタは信じられないような様子だったが、ユミルは驚いた様子はなく、いつもの調子だった。

 

 大量殺人鬼。そうだ。今までエレンを取り返すことに集中していたせいで、考えてはこなかったけど、こいつらがシガンシナ区を滅茶苦茶にした元凶。こいつらのせいで、兄は死んだ。こいつらのせいで、仲間が死んだ。

 

「俺は、お前らを、絶対に許さない。

 どんな事があっても、どんな理由であっても。

 お前らは、俺らの敵だ。」

 

 子供がこんな、大量殺人をするということは、何かしら裏にそれを目論む奴がいて、相応の理由があってこんな事をしたのだろう。

 が、どんな事情があっても、殺人は殺人。1度失ったものは戻らない。

 

 人だけじゃない。故郷であるシガンシナ区も今や巨人に支配されているし、俺の人生だって、あの襲撃がなかったらもっと平穏に過ごしていたことだろう。

 こいつらの行いで、何千人何万人もの人間の人生が変わった。

 

 その罪は、許されるものではない。許されてはいけない。

 

 俺がそう言ったあと、今までずっとだんまりだったベルトルトが口を開いた。

 

 

「誰が……人なんか殺したいと、思うんだ!

 誰が好きで、こんなこと…こんなことしたいと思うんだよ!人から恨まれて、殺されても当然なことをした。取り返しのつかないことを…

 でも、僕らは罪を受け入れきれなかったんだ。兵士を演じている間だけは、少しだけ、楽だった。

 嘘じゃないんだ!確かにみんなを騙したけど、全てが嘘じゃない!本当に仲間だと思ってたよ!

 僕らに、謝る資格なんてある訳ない。けど、誰か、お願いだ…誰か僕らを、見つけてくれ!」

 

 

 今更被害者面か。

 本当に、落ちるとこまで落ちたな。ライナー、ベルトルト。

 いや、元からこういう奴らだったのか。俺が知らないだけで、元から。

 

 

 

「お前らー!

 そこから離れろ!」

 

 

 幼い頃から聞き慣れたこの声…

 ハンネスさんか!

 

 今回のメンバーは調査兵団だけじゃないのか。

 よくよく見れば、薔薇の制服も、馬の制服も見えた。駐屯兵団も、それに憲兵団まで前線に出てるんだ。

 

 

 

 何が起きたのか、確認しようと後ろを向くと、巨人を引き連れてこちらに走ってくる、調査兵団の姿があった。

 

 

 エルヴィン団長だ。

 

 

 団長は、何を、しているんだ?

 

 

 

「あんた達、とりあえずここから離れるわよ!」

 

 今まで一言もライナーやベルトルトに話しかけなかった二ファは、そう言って離脱した。

 

 俺と同期もそれに続く。

 

 

 無事に自分たちの馬に乗り移ることに成功してから、俺は考える。

 

 そういえば、妙だ。トロスト区の時に兵団というものから抜けたのだとしても、二ファにだって訓練兵時代の記憶はあって、ベルトルトやライナーなんかに言いたいことの1つや2つはあるはずだ。

 それなのに、二ファは何も言わなかった。

 何か、あったのか?

 

 

 俺たちは巨人の後ろを追うように馬で駆けていた。

 大量の巨人を引き連れたエルヴィン団長の部隊は、鎧の巨人に突っ込む前に散開し、上手く大量の巨人を鎧の巨人に当てることに成功していた。

 

 鎧の巨人は抜け出そうともがいているが、上手くいっていない。

 

 

「なんだこりゃ、地獄か?」

 

 大量の巨人が巨人を襲っている光景に、思わずジャンが呟く。

 そんなジャンの言葉に応えるように、エルヴィン団長は鎧の巨人がいる方角へ馬に乗って走っていく。

 

 

 

「いいや、これからだ。

 

 総員、突撃!!!

 

 人類存亡の命運は今、この瞬間に決定する!

 エレン無くして人類がこの地上に生息できる将来など、永遠に訪れない。

 エレンを奪い返し、即、帰還するぞ!

 

 心臓を捧げよーー!!!」

 

 

 エルヴィン団長の言葉に、各兵団の兵士たちも、それに続く。

 

 

「進めーー!!!!」

 

 

 団長がそう叫んだ瞬間――

 

 

 団長は、俺たちの視界から消えた。

 

 

「団長…?」

 

 誰かが呟く。

 

 

 後ろを振り向くと、団長は巨人に腕を食われていた。

 

 誰もが足を止めて後ろの光景を、凝視していた。

 

「エルヴィン団長ーー!!」

 

 

 

「進めー!!

 エレンはすぐそこだ!

 進めーー!!!!」

 

 

 エルヴィン団長の必死の発破に、兵士達は馬を走らせ、鎧の巨人に着々と近づいていった。

 決して少なくはない犠牲を払いながら。

 

 

 巨人を掻い潜って鎧まで辿り着くのは至難の業だ。

 俺と二ファは、計画通り、サポートに徹する。

 あの状況でベルトルトの相手をするなら、頭脳戦になるだろう。

 その適役は、俺じゃない。

 

 近づいてくる巨人をできるだけ相手にしながら、他の兵士の様子を確認する。

 

 

 一番最初に鎧の巨人の元に辿り着いたのは、ミカサだった。

 しかし次の瞬間、俺が見た時には、ミカサは巨人の手の中にいた。

 

「ミカサ!!

 ……っ、クソッタレが!離しやがれ!!」

 

 ジャンはその事にいち早く気づいて行動していた。

 ジャンがその巨人の目を斬ったことで、ミカサは開放された。

 

 

ミカサ、ジャンに続くようにして、アルミンもベルトルトとエレンのいる場所へ辿り着く。

 

 

「ベルトルト!」

 

「……アルミン!」

 

 アルミンは、何かを思いついたような顔をして、ベルトルトにこう言った。

 

「…………いいの?2人とも。

 仲間を置き去りにしたまま、故郷に帰って。

 アニを、置いていくの?

 アニなら今、極北のユトピア区の地下深くで、拷問を受けてるよ。……彼女の悲鳴を聞けば直ぐに、体の傷は治せても、痛みを消すことが出来ないことは分かった。

 死なないように細心の注意が払われる中、今この瞬間にも、アニの体には休む暇もなく、様々な工夫を施された、拷問が…!」

 

「悪魔の末裔が!

 根絶やしにしてやる!」

 

 そうしてベルトルトの注意が一瞬緩んだ隙に、エルヴィン団長がベルトルトとエレンを引き剥がすように斬撃を加え、ミカサが落ちるエレンを掴んで離脱した。

 

 

「総員撤退!」

 

 

 団長の声が聞こえると共に、その場にいた全員が立体機動から馬に移って隊列を組む。

 撤退命令に従って、団員は馬を走らせた。

 

 

 しかし――

 

 

 その上を黒い影が、物凄いスピードで通り過ぎていった。

 

 

 

 頭上を、巨人が飛んでいた。

 いや、()()()()()()()

 

 

 

「ライナーの野郎、巨人を投げて寄越しやがった!」

 

 

「エレン、ミカサ!」

 

 

 アルミンの視線の先を追うと、ライナーが投げた巨人の衝撃で落馬したエレンとミカサが薄らと見えた。

 

 

(エレン視点)

 

 

 忘れはしない。

 

 あの日、母さんを食った巨人だ…。

 

 

「エレン!」

 

 あいつの手が迫ってくる。

 

 母さんを、食った手だ。

 

 ミカサは俺を庇うように前へ出る。が、

 

「ううっ

 ぐ、うらぁ!!」

 

「ハンネスさん!」

 

 ハンネスさんがその手を止めた。

 

「ハハハ、こんなことがあるか?なあ、お前ら!

 ……見てろよ。

 お前らの母ちゃんの仇を、俺が、ぶっ殺すところを!」

 

「ハンネスさん!」

 

 ハンネスさんは、あの日、母さんをこいつに殺された日と同じように、俺たちに背を向けて、巨人に立ち向かっていった。

 

 あの日とは違う、頼もしくも勇気のある、後ろ姿だった。

 

 

 

(ノア視点)

 

 こんな展開は、悪夢にはなかった。

 二ファの、悪夢には。

 

 でも、俺はこの光景に既視感があった。

 

 二ファの夢の内容を聞いて、計画を聞いた時に、何か足りないと思っていたもの。

 

 それは、ハンネスさんの――死亡だ。

 

 

「このままじゃ、ダメだ。

 このままじゃ…!

 ハンネスさんが、死んでしまう!!!」

 

「ノア!そうならねえために、早く援護に行くぞ!

 おっさんに続けー!」

 

 ジャンはそう言って、全速力で馬で走って行こうとするが、援護に行こうとする俺たちを行かせんとするように、ライナーは俺たちの方へ巨人を投げていた。

 

 飛んでくる巨人のせいで、全くハンネスさんに近づけない。

 

 エレンが死んでもいいっていうのか?

 

 

「邪魔すんじゃねえよ、クソッタレが!」

 

 

 俺たちはそれでも、前に進み続ける。

 

 

 

(エレン視点)

 

 

 1人戦うハンネスさんを見て、ミカサが助けに行こうとするが、先程、巨人の手に握られたことで怪我をしていたミカサを俺が止めた。

 あの怪我じゃ、立体機動もままならない。

 

 俺自身がハンネスさんを援護するために、巨人化しようとするが、

 

 出来なかった。

 

 

 

(ノア視点)

 

 

「ジャン!」

 

 アルミンが叫んだ後すぐ、巨人がジャンの進行方向目の前に降ってきた。

 

 幸いにも、直接当たって潰されるのは避けられたが、巨人が着地した時の衝撃で、ジャンは落馬して気を失ってしまった。

 

「ジャン!

 大丈夫か!? ジャン!」

 

 アルミンは咄嗟にジャンを抱えて迫り来る巨人から逃げた。

 

「アルミン、巨人の相手は俺に任せろ!お前はジャンを…」

 

「分かった!」

 

 

 アルミンはそう返事をして、比較的安全地帯の木陰へ、気を失っているジャンを引きずりながら移動させた。

 

 俺は近づく敵を片っ端から倒していた。

 

 

 数が多すぎる!

 

 ハンネスさんの援護に行かなきゃいけないってのに……クソッ

 

 

 

 

(エレン視点)

 

 ハンネスさんが、巨人に掴まれた。

 

 今、巨人になんなきゃ、意味ねえだろ!!

 

 

 俺は必死に自傷行為を繰り返す。

 

 

 でも――

 

 現実とは、こういうものだ。思うようにならない。上手く、いかない。

 

 

 ハンネスさんは、俺らの目の前で、下半身を巨人に食われた。

 その後、ハンネスさんは、巨人に何回も噛み砕かれていた。

 

 あの時、勇気が無くて立ち向かえなかったハンネスさんが、折角立ち向かえたってのに、俺は、何をしていた?

 

 

「アハハハハ、アハハハハハハ!!!

 何にも、何にも変わってねえなあ、お前は!

 何にも、できねえじゃねえかよ!!

 何にも!!!!

 

 ……母さん、俺なにも、何にも出来ないままだったよ…。」

 

 

 もう、何もかも上手くいかないような気がした。

 運命が、俺を見放しているような、気がした。

 

 

 

「エレン、そんなことないよ。

 エレン、聞いて。

 伝えたいことがある。

 

 私と、一緒に居てくれて、ありがとう。

 

 私に、生き方を教えてくれて、ありがとう。

 

 私に……マフラーを巻いてくれて、ありがとう。」

 

 

 いや、ミカサが、いる。まだ、俺たちは生きている。

 ハンネスさんのお陰で……。いや、ハンネスさんだけじゃない。この作戦に関わった全ての人のお陰で、生きている。

 

 

「そんなもん、何度でも巻いてやる。

 これからもずっと、俺が何度でも!」

 

 

 せめて、何も出来なくても、最後まで生きるために足掻く責任が俺にはある!

 

 

 「ああああああああああぁぁぁあああ!」

 

 

 俺が母さんとハンネスさんを食った巨人に拳を振り抜いた瞬間、

 

 ビリビリビリビリッ

 

 何か電流が走ったような感覚がして、

 大量の巨人がそいつに群がって来た。

 

 

 

(ノア視点)

 

 ビリビリビリビリッ

 

 脳裏に稲妻が走った。

 これが、『座標』ってやつか。 

 

 この展開は、計画通りだ。……でも、

 

 俺はエレンとミカサの方を振り向く。さっきまであの巨人の周りを飛び回っていた兵士の姿は無く、エレンが己の拳で巨人の手を殴っていた。

 

 やはり、ハンネスさんは…

 

 二ファはどうしてこのことを言わなかったんだ?

 どうして、計画はハンネスさんを救うための物じゃなかったんだ?

 どうして、俺は、ハンネスさんを救えなかった?

 

 これじゃあ、あの時と同じだ。

 

 何も出来ずに逃がされて、兄さんが巨人に食われた、あの、幼い自分と。

 

 あれから何年も経ったってのに、まだ俺は何も出来ないガキなのか。

 

 

 二ファ、お前がこのことを話していれば、何か出来ることがあったかもしれないのに。

 お前の目的は、みんなを救うことじゃ、ないのか?

 

 

 

 いや、何かがおかしい。

 

 

 

 ……ハッとなる。

 俺は、気づいてしまった。

 この協力関係の抜け道を。

 

 

 あいつの目的は、()()()()救うこと。ただ、みんなの定義は人それぞれだ。

 

 それに、悪夢の事を聞いた時、あいつはこう言った。

 

()()()()()()()()()なんかは、その人がどこでどうやって死ぬのか、とかが、それが起こる日の前日に分かるよ』

 

 

 二ファにとって大事な人。それは、俺にとっては大事な人じゃないかもしれないし、俺にとって大事な人も、二ファにとっては大事な人じゃないかもしれない。

 今までだって、俺は、名前も知らない兵士達の命が散っていくのには、知らん振りをしていたじゃないか。

 その人は、きっと、誰かの大事な人だったはずなのに。

 

 自分の手で救えるものには限りがある。守れるものには、限度がある。たとえそれが、自分の大事な人の大事なものだったとしても、切り捨てなきゃいけない時もある。

 

 二ファは、何かを守るために、切り捨てることを選んだのかもしれない。

 

 

 それに二ファに、協力関係で何をすれば良いか聞いた時は、

 

『君は、私の悪夢の内容と忠告を聞いて、()()()()()を救うために動いて欲しいの。

 私も、君の悪夢と自分の悪夢をすり合わせて、()()()()が救えるように努力するから。』

 

 

 『救える人達』『沢山の人』。そこには、救えない人達がいるってことだ。

 

 

 何故、俺はこんなことに気が付かなかったんだろうか。

 何故、俺は二ファの言うことを鵜呑みにして、二ファの立てた計画をそのまま実行したのだろうか。

 

 あいつだって裏切るかもしれないし、元々目的は俺とは少し違うものだったのに。

 

 

 

 

 エレンの謎の力によって、巨人たちは兵士達から離れ、逆に鎧の巨人の方へ向かっていった。

 

 その度に、巨人の力を持つ俺もビリビリと、電流のようなものが走るが、人間の姿で、ただ撤退するだけなら影響はない。

 

 俺たちはこの機会を逃さずに、エレンを連れて撤退した。

 

 しかし、そこには二ファの姿はなかった。思えば、鎧の巨人の手を同期たちで囲んだ後、散開した時から、二ファは姿を消していた。

 

 どこで、何をしていたのだろう。

 

 あいつの考えることは分からないし、ハンネスさんを殺した意図も分からない。

 最初からあいつは謎だらけ、秘密だらけだったんだ。

 あいつが死んだフリをしていた件についても、結局説明はなかった。

 

 そんなやつを信用出来るわけがない。

 

 協力関係は、打ち切りだ。今度会った時、そう言おうと決めた。

 

 

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