原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話   作:蘭 ノイ

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 お待たせしてしまってすいません!


22話 原点(ウォール・マリア最終奪還作戦前夜)

 

 

(ノア視点)

 

 俺が自分の病室で団長と兵長、そして二ファと話した日から数日後。俺は走れるくらいまで回復したということで、病院からも退院した。

 病院って、前世の病気のことを思い出すからあまり好きじゃないんだよな。苦手な病院から抜け出すことが出来て、俺の心は晴れていた。

 

 それにしても、俺の記憶、それは複雑なようで、よく分からないところも多かった。

 俺が前世と呼んでいる記憶も、実際は前世なのか怪しい。そもそも俺の1つ前の人生は、マーレの戦士訓練兵だったはずだ。病気なんか引いてないはずなのに、俺の前世の記憶は、《病気で病院から1歩も出れない生活》だったと訴えている。

 よく分からない。

 

 

 話を戻すと、俺は退院して、そしてまた訓練を始めた。始めは感覚が取り戻せず、立体機動装置を操ることさえも苦労したが、慣れてくると前の感覚を思い出せるようになっていった。

 

 

 そうして俺が回転斬りも連撃も難なくできるようになるまで回復した頃、新たな作戦内容をエルヴィン団長から直接伝えられるとの伝令が回ってきて、俺は団長の執務室へ向かった。

 

 

 俺はノックをして、部屋の中に入った。

 

 

「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

 

「ノア、よく来てくれたね。

 漸く次の作戦が決まったんだよ。」

 

 

 それから団長に聞いた作戦は、思ったより単純で、思ったより、正攻法だった。

 

 

「団長は、これがベストだと、そう考えているんですね?」

 

「ああ、我々は十分な戦力を有している。絡め手を何回も使うよりも、こういう作戦の方が、臨機応変に動きやすい。

 これが、現状の戦力を生かせる方法だと考えているよ。

 敵はどんな手を使ってくるか分からない。ましてや、君たちの言っていた『記憶』とは違って、今の敵の戦力は鎧、超大型、そして獣の巨人で全てなのだろう?ということは、今回は何がなんでも、敵はこちらを潰す策を用意してくるかもしれない。

 戦場では君たちやハンジ、アルミンにも指揮を執ってもらうことになるが、それでいいかな?」

 

「はい。自分に出来ることは、何でもするつもりです。

 ところで、二ファの配置はどうなりますか?

 この間嘘を吐いたこともあり、信用が無いのは重々承知ですが、彼女もこの壁内人類を思う内の1人です。今回の作戦に加えた方が…戦力的にも有力だと思うのですが。」

 

「彼女も、今回の作戦に加わってもらうつもりだよ。もちろん、裏切る可能性も兼ねて、リヴァイと同じ配置についてもらう。彼女は強いようだが、この前の様子を見る限り、リヴァイには勝てないらしいからね。

 もちろん君も裏切る可能性があるが、そこまでは考慮しきれない。これまでの功績を含めて、私は君を信頼しているんだ、ノア。

 今回の作戦は、頼んだよ。」

 

「はい、団長!」

 

 

 前のカラネス区での作戦では、俺の力は使えないとして、地下牢に残された。しかし、今回は団長に信頼され、俺は作戦の一端を任されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたよ、ノア。次の作戦は俺たち104期の裁量にかかってる…らしいね。」

 

 アルミンは執務室から出た俺に話しかける。

 正確には、アルミンの知恵次第なところがあった。

 しかし、俺と二ファがいない世界では、絶望的な状況の中で、アルミンとエレン、たった2人で状況を打開する策を思いついたアルミンだ。それに加え、今回は戦力は十分。アルミンはどんな状況でも、良い作戦を考えて指揮を執ってくれると信じている。

 団長も、アルミンのその知恵と、これまでを乗り切った104期の兵士達を信頼しているからこその今回の作戦なのだろう。

 

「アルミン、お前の力量次第なところもある。

 プレッシャーかもしれないが、俺も、他の104期もついているんだ。

 今回は…失敗は許されない。

 間違っても、自分を犠牲にして…とか考えるんじゃないぞ?」

 

「……うん。ノアじゃないんだから、1人で突っ込んだりしないよ。

 僕の力量次第…か。」

 

「大丈夫だ。お前は人に思いつかないことを思いつく才能がある。アルミンが考える時間は俺が稼ぐ。だから、思う存分、考えればいいだけだ。」

 

「考えるだけ……ね。簡単そうに言ってくれるね。」

 

「簡単だろ?トロスト区奪還作戦なんて突飛な作戦も思いついたアルミンなら、大丈夫だ。」

 

「そうだね。……そう思わないと、やってられないよね。」

 

 

 今回の作戦では、104期の兵士たちのみで、超大型巨人と対峙する事になった。それは、俺たちが信頼されている証でもあり、一種の賭けでもあった。俺たちさえ乗り切れば、この作戦は勝ったも同然だろう。

 恐らく俺らが少人数で超大型の討伐に向かうのは、その絶大な範囲に被害を及ぼす、超大型の巨人化の性質のせいだ。

 超大型巨人の巨人化が1度成されてしまうとその周囲を爆風で薙ぎ倒し、周囲にいる人間を区別なく焼き払う。つまり、大人数で向かっても少人数で向かっても、巨人化してしまったとしたら皆焼け死んでしまう。

 そのため、万が一超大型が巨人化しても、ワンチャンエレンや俺の巨人に乗って退避や防御ができる少人数である、リヴァイ班の104期兵が適切だと考えられたのではないだろうか?

 

 その代わり鎧を担当する先輩兵士達の任務が完了したら、こちらの援護に回ってくれることになっている。超大型がもし巨人化したとしても、その後から援護に来る分にはその巨人化時の爆風を受けることはないからだ。

 俺たちが仕留められない場合でも、彼らが来るまでの時間を稼ぐことが出来れば、超大型に勝てるだろうとのことだ。今回の作戦は消耗戦になる。長期戦になればなるほどこちらが不利になっていくことが予想されているから、早く終わる分にはそれでいいんだが…。

 

 

 

 アルミンと話しながらそんなことを考えている間に、どうやら俺たちは執務室から離れ、中庭の外廊下まで来ていたようだ。

 

 

「アルミンに、ノア!そこで2人で作戦会議か?俺も混ぜろよー!」

 

 そう言って、決意を固めていた俺たちに割り入ってきたのは、コニーだった。

 コニーの後ろには、サシャ、ジャン……などなど、今回の作戦で共に戦うものたち。

 

 そして……

 

「ヒストリア…!…と、ユミル。」

 

 女王になったヒストリアまでもが、ここに集まっていた。

 

「なんだ?私はオマケか?」

 

 ユミルは彼女自身の意向で、調査兵団を抜けて、女王直属の兵士になったようだ。近衛騎士とでも言うべきだろうか?

 ユミルはヒストリアの為ならば何でもする奴だ。詳しくは分からないが、こいつは恐らく、無理を言ってこの立場を手に入れたのだろう。

 

「ヒストリア、こんなところに来て大丈夫なのか?」

 

 俺は思わず聞いてしまう。

 ここは調査兵団本部。

 女王が簡単に来るような所じゃない。

 

「ちょっと近くまで用事があったんだけど…

 ノア達、これからウォール・マリア奪還作戦に行くんでしょう?だから、顔を見ておこうと思って。」

 

「次の用事があるってのに、この女王サマときたら、見に行くって聞かないんだから。」

 

 ユミルが呆れ顔でそう言う。

 

「そうか。ヒストリア、ありがとな。」

 

 ヒストリアは、女王になっても変わらないな。

 

「じゃあ、そろそろ行くね。早く行け行けって、ユミルがうるさいから。

 ……頑張って。生きてまた、ここに戻ってきてね。」

 

 

 

「女王サマが予定通り動いてくれりゃ、私もこんな口うるさく言わないんだけどね。」

 

 そんな前と変わらないような会話をしながら、ヒストリアとユミルは向こうへ歩いていった。

 

 

 

「ところでノア、お前はもう大丈夫なのか?」

 

 ジャンにそう聞かれる。

 

「ああ、もう体は何ともないし、立体機動装置の感覚もだいぶ戻ってきた。」

 

「そうか、そりゃよかった。

 次の作戦はお前のそのぶっ壊れ性能の力がねえと成り立たねえしな!」

 

「ジャンこそ、腕は鈍ってないだろうな?」

 

「もちろんだ。」

 

 

 

「…ところで次の作戦は、私たち一緒の班なんですよね!

 絶対、巨人をぶっ倒して、いっぱいお肉食べましょうね……ヘヘヘヘ」

 

「サシャ、お前…肉食べることしか頭にないだろ。」

 

 サシャとコニーはいつも通りだ。

 

 

「けどよ、次の作戦って俺らの力量にかかってんだろ?……ちょっと怖いと思わねえか?

 上手くいくかは俺ら次第…巨人に勝てるかは、俺ら次第…。」

 

 ジャンが今にもプレッシャーに押しつぶされそうな顔で言う。

 

「ジャン、そんなに心配しなくても、俺らなら大丈夫だ。」

 

 俺はジャンを励ますつもりでそう言った。

 

「お前、どうしたんだ?何か憑き物が取れたような、そんな感じがするけどよ。」

 

「なんだろう、記憶を見たからかな。あれだけの事を乗り切ってきた自分なら、そして、104期の同期と一緒なら、なんでも出来る気がするんだ。」

 

 

 そう言った俺の方を見て、ジャンは固まる。

 

 

「あのさ…俺にはノアのこの状態が恐ろしく感じてならねえんだが、お前らはどう思う?」

 

「恐ろしいです!こんなに生を感じるノアは初めてです。もしかして……今のノアは仮の姿とか…」

 

「ひいい!本体は、悪魔に乗っ取られて、仮の姿だけ心が綺麗なまま残されて…現世に迷い込んでしまったのか!…………いや、そしたら仮の姿のままの方がいいかもしれねえな。このまま残して本体には戻さない方が…」

 

「お前らに聞いたのが間違いだったよ……。」

 

 ジャンが怯えているのをよそに、すぐサシャとコニーは乗っかっておかしい方向に持っていく。

 

 

「いや、さっきも言った通り記憶を見て、なんでもできる気になっているだけなんだが…」

 

「そうだよ…そろそろ悪ノリやめねえと、昼食の時間過ぎてんぞ?」

 

 エレンの言う通り…って、昼食の時間?

 

「忘れてた!」「早く行かねえと食いっぱぐれちまう!」「エレン、なんでもっと早く言ってくれないんですか!」

 

 

 皆忘れていたようで、口々にそんなことを言って廊下を走り出した。

 

 

 

 

 皆が居なくなった廊下で、俺はエレンとミカサ、そしてアルミンの3人の幼なじみだけが残った。

 

「みんな行っちゃったね。僕達も行かないと。」

 

「そうだね。でも、この4人になるのも久しぶりじゃない?」

 

「そうだね。」「うん。」「そうだな。」

 

 俺は、シガンシナ区で4人で遊んでいた頃を思い出して、懐かしく思った。

 

「じゃあ、競走しよう!

 1番最後に食堂に着いた奴は、1番最初に着いた奴の言うことをひとつ聞く。それでいいな?

 よーいドンッ」

 

「ちょっと、ノア、早いよ!」

 

「抜け駆けなんて、ずるい。」

 

「ノア、まだ誰もやるなんて言ってねえぞ!?」

 

 そう言いながらも、皆走ってついてくる。

 

 俺は、本当にあの頃に戻ったような気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦前夜。

 調査兵団の兵士達の英気を養うために、その日は宴が開かれた。

 

「今日は特別な夜だが、くれぐれも民間人に悟られるなよ。兵士ならば騒ぎすぎぬよう英気を養ってみせろ!」

 

 

「え、肉…?なに、これ。……肉?」

 

「……まぁじかよぉ」

 

 

 そうして俺たちの前に広げられたのは、肉だった。

 そのあまりの珍しさに、コニーもサシャも人の言葉を喋ることが出来なくなってしまったようだ。

 

 

「今晩は、ウォール・マリア奪還の、前祝いだ。

 カンパーイ!」

 

「「「「「「うおおおおお!!!」」」」」」

 

「あれ、ちょっと!?」

 

 幹事のついさっき言った『騒ぐな』という言葉も忘れるほど皆興奮して、盛り上がっていた。

 

 食べ物を前にした人間は、時にその本性を表すという。調査兵団も例に漏れず、肉を前にした彼らは、肉をかけて争いあっていた。

 

 サシャは、案の定人の尊厳というものを失い、獣と化して肉に食らいついていた。それをコニーが羽交い締めにし、ジャンが肉を取り返そうとしている。

 

「てめぇふざけんじゃねえぞ!芋女!

 自分が何してっか分かってんのか!」

 

「やめてくれ、サシャ!俺、お前を殺したくねえんだ!」

 

「コラ!1人で全部食うやつがあるか!」

 

 そう言ってジャンが、やっとのことで肉を取り返すと、今度はサシャがジャンの手を噛んだ。いや、食ったと言った方が正しいか。

 

「うわああああ、食ってる食ってるううう!!!」

 

「サシャ!その肉はジャンだ!分からなくなっちまったのか!?」

 

 現場はこの通り阿鼻叫喚である。

 

「コニー、早くサシャを落として。」

 

 ミカサの言葉に、コニーは、

 

「やってる。でもこいつ意識ないのに、動いてんだよ!」

 

 サシャの食欲もそこまで来ると、思わず感心してしまう。

 

 

 

 

 しばらくはサシャも動いてはいたが、コニーとジャンの奮闘によって、やがて動かなくなり、まるで罪人のごとく縄に縛られて、柱に括り付けられていた。

 

「こうなるとサシャも可哀想だな。あれだけ食べたいって言ってた肉を食べられないなんて。」

 

「いや、あいつは丸ごと食らいついたんだぞ!?

 …自業自得だ。」

 

 なんだか心ここに在らずといった表情だったエレンも、あのサシャの食い意地には、呆れ顔だった。

 

 

 

 俺は徐ろに自分たちのテーブルを見る。サシャの件で一悶着あった俺らの肉は、何事も無かったかのように綺麗に切って取り分けられていた。

 

 同じ机には、憲兵団から調査兵団に移ってきたという、マルロというやつがいるのが見えた。調査兵団から憲兵団へと移るのはよく聞くが、憲兵団から調査兵団というのは、非常に珍しいと思う。

 彼とエレン達は俺が眠っていた、クーデターの時に知り合ったらしい。同じ机に座るくらいなのだから仲は悪くはないのだろうが、ジャンはマルロと考え方の点で少々口論になっているようだった。

 俺はそれを他所(よそ)に、久しぶりの肉を味わって食べる。

 

「だーかーら、お前まだなんの経験もねえんだから、後衛だっつってんだろ?」

 

「確かに俺はまだ弱いが、だからこそ前線で敵の出方を探るにはうってつけじゃないか。」

 

「なんだ?いっちょ前に自己犠牲語って勇敢気取りか?」

 

「しかしその精神が無ければ、全体を機能させることはできないだろう。」

 

「あのな、誰だって最初は新兵なんだ。新兵から真っ先に捨て駒にしてたら、次の世代に続かねえだろ?だから、お前らの班は見学でもして、生きて帰ることが仕事なんだよ。

 

 1番使えねえのはぁ!?

 1にも2にも突撃しかしねえ死に急ぎ野郎だよ。なあ!?」

 

 

 

 あ、いつもの流れだ。と、俺は悟った。

 

 

 

「ジャン……そりゃ誰のことだ?」

 

 

 

「お前以外にいるかよ、死に急ぎ野郎は。」

 

 

「それが最近わかったんだけど、俺は結構普通なんだよなぁ。そんな俺に言わせれば、お前は臆病すぎだぜ。ジャン。」

 

 エレンが普通だったら、世の中の奴は全員普通だよ…。俺は心の中でそう思った。

 

 あーあ、この流れだと、104期訓練兵名物、エレンとジャンの喧嘩勃発って感じだな。

 

「いい調子じゃねえか!イノシシ野郎!!!」

 

「てめえこそなんで髪伸ばしてんだこの勘違い野郎!」

 

 ジャンが髪伸ばしている件については俺も気になっていたので、ナイス、エレンと言いたいところだ。いや、皆気になってた。あれのせいでジャンのちょい悪感が増し、なんだか元々の悪人面がさらに強化されたような気がする。……それも、そこら辺のチンピラとかそういう方向で。

 

 

「おい…なんだ?」「顔以外にしとけよ…」

 

 104期しか知らないこの名物行事は、エレンとジャンが大声で怒鳴り合うことで有名だ。部屋中にこの喧嘩騒ぎは響き渡っていた。

 この宴の最初に幹事が『騒ぐな』と言っていたはずだが……相変わらず自由だなー…、と俺は遠い目をしておく。

 

「てめえ」「破けちゃうだろうがっ!」

 

 いやエレン、そこ気にするか?

 

「あいつら何やってんだ?」

 

 先程ジャンと口論を繰り広げていたマルロも、これには困惑のようだ。

 

「オラァ!」「ドウッ…」

「この野郎っ!」「ディリャッ」

 

「なにか始まったぞ?」「……騒ぐなって言ったのに…」

 

 

 殴り合いにまで発展してしまったようだ。

 

 

「マジな話よ、巨人の力が無かったら、お前何回死んでんだ?その度にミカサに助けて貰って…これ以上死に急いだら、ぶっ殺すぞ!」「…セイッ!」

 

「そりゃ肝に、命じとくよ!」「ドリャッ」

 

「お前こそ母ちゃん大事にしろよ、ジャン坊!」

「それは忘れろおお!!」「ワッシャッ」

 

 なんだ?セイとかワッシャとか…食らった時の声、独特すぎだろ!

 

「止めなくて、いいの?」

「うん。いいと思う。」

 

 ミカサとアルミンは、傍観の姿勢だ。

 俺もアレに関わるのは御免蒙りたい。

 

 

 

 

 2人も、流石にもう誰かが終わらせてくれないかとソワソワしている様子がみえた頃、

 

 

 

「オイ、お前ら全員はしゃぎすぎだ。もう寝ろ。

 あと掃除しろ。」

 

 

 

 リヴァイ兵長が来て、宴はお開きとなった。

 

 

 

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いって…自分で言うのもなんだがな、俺はもっと大事にされた方がいいと思う。」

 

 エレンは会場から外に出ながらそうぼやく。

 俺とアルミン、ミカサもそれについて行くように外の風に当たりに行った。

 

「大事に、か。エレンが大事にされてる姿なんて思いつかないなあ。いつもこき使われてない?」

 

 エレンで思い浮かぶのは巨人の力で作戦の重要部分、失敗が許されないポジションにいる所か、掃除してるところか、雑用を任されてるところくらいだ。

 

「お前もそう思うか?実は俺も最近、他の兵士よりもこき使われてる気がしてな…」

 

 

「むしろ、僕はさっきの喧嘩に関しても、怪我してもすぐに治るからな…って思って見てるよ。」

 

「ひでえ話だ。」

 

「自分から仕掛けたくせに。」

 

「でも、元気が戻ったね。」

 

 

「教官に会って良かったよ…別に、元気が有ろうと無かろうと、やることをやるつもりだ。でもそうだ。楽になったよ。考えてもしょうがねえことばかり考えてた。

 なんで俺にはミカサやノア、リヴァイ兵長みてえな力がねえんだって…妬んじまった。

 でも兵長だってお前だって、それにノアだって…1人じゃどうにもならねえよな。だから俺たちは、自分に出来ることを何か見つけて、それを繋ぎ合わせて、大きな力に変えることが出来る。

 人と人が違うのは、きっとこういう時のためだったんだ。」

 

 キース教官…か。訓練兵時代、俺ら104期を散々(しご)いてくれた教官だ。俺はリハビリで忙しくてついていけなかったが、最近エレン達は教官に会いに行ったらしい。詳しいことは分からないが、教官が何か知っていることがあったらしく、ハンジさんたちも付き添っていた。

 

 

「うん。きっとそうだ。」

 

 

 エレンの言葉に、俺は旧リヴァイ班にいた時のペトラさんの言葉を思い出す。あの時ペトラさんは俺に、もっと周囲を頼れと言ってくれた。それは確かに大切なことで、周りと協力して成果を出てきた彼女の言葉だからこそ、スっと心の中に入ってきた。

 

「そうだよな。俺も、最初は1人でなんでも出来ると思ってたけどな。他の奴らの力に頼らないと、どこかでガタが来るって事が分かったんだ。

 皆の力に助けられて、代わりに皆を俺が助けて。そうやって誰だって生きてるんだよな。」

 

 

 

 

 

 

 そう俺が言った後、階段下に人が通ったのが見えた。

 その人はどことなく死んだはずのハンネスさんに似ていて、俺たちは思わず、その人にハンネスさんの面影を重ねた。

 

 

 

 

「ウォール・マリアを取り戻して、襲ってくる敵を全部倒したら、また戻れるの?あの時に。」

 

「戻すんだよ。でも、もう全部は帰ってこねえ。ツケを払って貰わねえと。」

 

「そうだな。…俺たちはもう兵士だ。あの頃とは違う。けどな、あの頃とは違うから、故郷を取り戻すために戦えるんだ。戦う、力があるんだ。あの頃の俺は、兄さんが巨人に食われるのを見てるしかなかった。けど、力を手に入れた。

 次の作戦は、絶対成功させる。」

 

「俺もだ。あの頃とは、母さんが殺されるのを見てるだけだった時の、ガキだった俺とは違う。」

 

「私もシガンシナ区を、取り戻す。」

 

「僕たちの故郷を、絶対に取り戻そう。」

 

 

 俺らはそう、

 あの時とは違う。

 兵士になったからこそ失ったものもあれば、兵士になったからこそ、出来ることもある。

 その選択に正解も間違いもなくて、そこには結果だけが転がっている。

 しかしひとつ言えるのは、あの時街を蹂躙する巨人たちを見ていることしか出来なかった俺たちは、力をつけてそいつらを倒すことも出来るようになった。

 その力を使って、あの日の屈辱を晴らす。

 

 あの日亡くなった全ての人達のために。

 今まで亡くなった全ての兵士のために。

 あの日故郷を無くした、自分自身のために。

 

 

 

「それだけじゃないよ。

 海だ。商人が一生かけても取り尽くせない程の、巨大な塩の湖がある。壁の外にあるのは、巨人だけじゃないよ。炎の水、氷の大地、砂の雪原…それを見に行くために調査兵団に入ったんだから!」

 

 海…溶岩、氷河に、砂漠か。俺はそれを情報としては知っているけれども、実際に見たことは1度もなかった。海は、マーレ時代に見たことはあるが、今世では無い。

 

「あ、ああ。…そうだったな。」

 

 エレンがそう曖昧に返したことに少しだけ不思議に思う。しかし、その後のアルミンとエレンの会話は、少しでも俺らに希望があるように思えた。

 

「だから、まずは海を見に行こうよ!

 エレンはまだ疑っているんだろう?見てろよ、絶対あるんだから!」

 

「しょうがねえ、そりゃ実際見るしかねえな。」

 

「約束だからね?絶対だよ!」

 

 

 エレンとアルミンはその話をずっとしていて、俺とミカサは、街灯も少ないおかげで綺麗に見える星々を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日はやって来た。

 

 日没直前。

 ウォール・マリア奪還作戦に出向く予定の調査兵団は、馬を壁の向こう側へと運ぶために、リフトに乗っていた。

 

「おおーい、ハンジさん!頑張れ!!!」

「ウォール・マリアを取り返してくれ!!」「人類の未来を、任せたぞ!」「リヴァイ兵長!この街を、救ってくれてありがとう!!」「全員、無事に帰ってきてくれよ!」「でも領土を取り戻してくれー!」

 

 

 これからウォール・マリアの奪還へと向かうためにトロスト区の壁の上に整列した兵士達を出迎えたのは、沢山の市民の声だった。

 

 

 これは、俺の知らない、調査兵団の成果だ。

 俺の知らない、同期や先輩兵士達の、大変な策略とその実行に成功した賜物だ。

 

 

 俺は、どうしてなんでも知っている気になっていたのだろう。彼らは俺の知らないところでもう、俺の何倍も成長していたというのに。

 今回の作戦は、アルミンの知恵と、俺の戦力だけじゃない。リヴァイ班に所属する104期一人一人の成果とその価値が認められて、そして信頼されているから104期班単独での超大型との対峙という、重要な任務を任されたんだ。

 

 

 

 

 

 

「「うおおおおお!」」「分かってるー!!!」

 

 俺が改めて同期を誇りに思っていたというのに…ジャンとサシャ、コニーは今までにない市民の応援というものにはしゃいでいるようで、それに返すように、叫んでいた。

 嬉しい気持ちも分かるが……なんだか締まらない。けど、俺らはそのくらいでちょうどいいのかもしれない。

 

 

 俺の左側では、団長と熟練兵士が話していた。

 

「調査兵団がこれだけ歓迎されるのは、いつ以来だ?」

 

「さてな…そんな時があったのか?」

 

「私が知る限りでは、初めてだ。」

 

 団長はそう言った後、腕を高く上げて、

 

「うおおおおおお!うおおおおお!」

 

 叫んだ。

 

 団長も叫ぶの!?

 いや、市民に答える必要があるもんな、そうだよな。俺は内心困惑しているが、団長のやることがきっと正しい。うん、そうだ…。

 

 

 

 

 団長はブレードを抜いて、いつものように宣言する。

 

 

「ウォール・マリア最終奪還作戦、開始っ!!!」

 

 

「進めー!!!」

 

 

 そうしてウォール・マリアを、シガンシナ区を奪還するための作戦が、今ここに開始された。

 調査兵団は馬で隊列を組んで、夕日の中、南へ向かう。

 

 俺たちの故郷へ。

 

 始まりの、場所へ。

 

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