原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
(ノア視点)
シガンシナ区の壁から現れた大量のマーレ兵を相手に俺たちは善戦していた。
しかし、マーレ兵を相手にする兵士に人員を割いているため、鎧を相手しているハンジ班は勝敗を決める決定打が無く、苦戦しているようだった。
鎧の巨人は壁の上に登って状況を確認した後、焦ったような様子で、団長の思惑通りこちらに降りてきた。
焦っているのは大方、獣の巨人を二ファとリヴァイ兵長が相手しているところが見えたからなのだろう。
大半のマーレ兵は倒して、残り十何人かのみになった時、俺はいつか二ファに言われたことを思い出した。
『これからパラディ島勢力は戦力をあげるために軍事開発を行っていく』
という言葉だ。
現在マーレとパラディ島を軍事的に比較したら、圧倒的にマーレの方が上だ。そうなるとマーレの技術を盗んだ方が軍事開発は上手くいくんじゃないのか?
生憎俺のループの記憶は軍事開発という面では全く役に立たない。細かいところは覚えていないし、そもそも生産する立場じゃなかったため、作り方なんか分かるはずがない。前世の記憶も、平和な世界に生きていた1市民だったため、軍事開発に役立つ記憶は全くと言っていいほど無い。
けれども、マーレ兵の十何人かを捕虜として捕まえたならば、彼らが知っている情報を何か聞き出せるかもしれない。
そう考えた俺は、マーレ兵との対峙の指揮をハンジさんに任されたうちの1人である、エルドさんにこのことを持ち掛けた。
「エルドさん!」
「なんだ?ノア、何か思いついたのか?」
「はい。彼ら敵兵士の情報があったら、これから我々の役に立つ時があると思います。なので、彼らを捕虜として拘束するのはどうでしょうか。」
「そうか。確かに、ただここで全員殺してしまうよりはそっちの案の方が良さそうだな。
皆、聞いてくれ!
残りの敵兵士は拘束しろ!」
エルドさんが納得してくれるか不安だったが、エルドさんは俺の提案を聞いた後すぐ、他兵士たちに命令をしてくれた。
「「「「「了解!」」」」」
「エルドさん、ありがとうございます!」
「いや、これが最善だと俺も思うからな。
さて、もうここは俺たちだけで大丈夫だ。これが終わった後すぐに鎧の援護にも行く。
ノアは本来の作戦通り、超大型と対峙しているアルミン班の援護をしたほうがいい。」
「はい!
エルドさん、お互いに無事で、この戦いを切り抜けましょう!」
「ああ!」
そんな会話をしてから、俺がその場を離れようとした時、
空が陰った。
あまりに不自然な影のでき方に不思議に思って上をむく。
周りの人たち、そしてエルドさんも同じように上を向いていたようだった。
「あれは……何だ?」
上を見た瞬間、誰もがわかった。
空が陰ったのではなく、何かが光を遮ったのだと。
そしてそれは、よく言えば兵器、率直に言えば鉄の塊のようにも見える巨大な物体だった。
俺はそれを前世で聞いたことがある。
飛行艇だ。
周りの人達はそれが何かは分からないにもかかわらず、何か嫌な予感がしたのだろう。全員の時が止まったように感じた。
これは、敵の兵器。つまり援軍だ。
どうやらこちらを何がなんでも潰したいのはマジだったみたいだ。
「あれは……何だ?敵の兵器だということは分かるか…どんな攻撃がくるんだ?」「空を……飛んでいる!」「あんなのに勝てやしない!」「なんだよ、あいつは!」
人は未知というものに弱い。
本来はここにいる仲間たちも未知であったはずの巨人というものと戦っていたはずだったのだが、習性や倒し方がもう分かっていてそれを授業で習ったものに対して未知とは言わないだろう。
ここにいる仲間たちは巨人に関して言えば、エキスパートであると断言出来る。
しかし、それ以外の未知。あの鉄の塊である飛行艇は倒し方も分からないし、習性も何も、情報がない。
その事に狼狽えて、混乱、もしくは士気が下がっている状態になった仲間たちも多くいたが、長年調査兵団をやっている先輩方はそうではなかったようだった。
「あの敵については現状何も分からない。が、敵の何かしらの思惑があることは確かだ!
そもそも空に飛べる敵にできる攻撃手段は今のところこちらには乏しい!
あの敵に関しては、まずは様子を見るべきだろう!
それでいいだろうか!?」
「「「はい!」」」「「了解です!」」
ハンジさんがすぐさま全員をまとめて指示を出し始めていた。
「ノアは一刻も早くエレンたちの班と合流するんだ!いいね?」
「はい!」
こちらが大丈夫なのか気になる気持ちも多少はあるけれど、やはり同期たちのことがずっと頭から離れなかった。
もし俺が寄り道している間に彼らが死んでしまったならば。
いや、そんな縁起も無いことを考えるべきじゃない!
俺は同期達の元に急いで向かった。
…
…
(ハンジ視点)
ノアがアルミン班に戻る少し前…
ノアを、銃を持つ敵兵士たちの相手に向かわせた後、鎧の巨人が壁から降りてきたのを見計らって、私たちは鎧の巨人の殲滅へと向かった。
当初の予定では能力を持つ巨人を殲滅する作戦だったため、獣と鎧、そして超大型の三体を3部隊に分かれて倒すことになっていたが、敵兵士が大量に出てくるというイレギュラーがあり、そこで銃撃戦が始まったため、そちらはエルド率いるリヴァイ班の先輩組中心の部隊に任せた。
そのため鎧に対抗するための戦力が減り、鎧の巨人に決定打を与えられるまでには至っていなかった。
鎧の巨人には当初はエレンに相手をしてもらい、エレンが作った隙を使って雷槍を打ち込み、仕留める予定だったが、ベルトルトの危険性を考慮してエレンにはそちらの捜索に向かって貰うことになった。
エレンが居れば、もしもベルトルトが巨人化した際、ほかの104期たちはエレンを盾にすることができる。さらにベルトルトはエレンを殺してしまう可能性を考えない訳にはいかないため、エレンの近くでは巨人化出来ないと踏んでの事だ。
その代わりライナーを仕留めるための雷槍は多めに持ってきており、更に雷槍を使える人材は多めに配置している。
雷槍――それは、鎧の巨人の硬い鎧をも打ち砕けるように、生身の人間でもあの鎧に対抗できる手段として考案された武器だ。着弾した後に爆発するという特性上、必ず退避できる場所で、更に打ち込んだ後に余裕を持って離れることができるような状況でないと、使うことは難しい。
当初の予定のようにエレンが隙を作ってくれるならまだしも、巨人化できない兵士のみで雷槍を鎧の巨人に打ち込むのは至難の業だった。
これでも何発かは敵に命中して、ダメージは与えられているが、それも僅かなものだ。
被害も出始めている。鎧の巨人はエレンを探している様子を見せていたが、我々が雷槍を使いだした途端、先にこちらを仕留めてから探しに行くことに決めたようだった。
かの巨人の攻撃力は確かなもので、硬質化を使いながら、的確にこちらの兵士を減らしていた。
しかし、そろそろ壁から出てきたマーレ兵との戦いにも決着がつく時だろう。エルド達に任せたそこら一体のマーレ兵の殲滅は上手くいっているようで、現在は残りの十何人かを拘束している様子だった。
ところが、エルド達敵兵士駆逐班の援護を待っている最中、それは起こった。
空に、謎の飛行物体が現れたのだった。
私はとにかく、混乱している調査兵団をまとめるために、様子を見ようと言ったが、私自身も混乱しているのは確かだった。
あれは、何だ?このタイミングで来るということは敵勢力の援軍だろう。
どんな攻撃をしてくるのか。これからどんな作戦を立てればいいのか…。
ああこんな時にエルヴィンがいれば……!
いや、彼は片腕を失っているから前線に来るのは現実的ではない。
しかしそう思ってしまうのも無理は無い。エルヴィンの判断力がこれまでの調査兵団を救ってきたと言っても過言ではないから、彼の判断には皆信頼している節がある。
彼がいれば、未知の驚異にも立ち向かえる。そんな根拠の無い安心感があった。
エルド達の方を見ると、どうやら拘束された彼らを見張る何人かを残して、それ以外の、エルド達何人かの指揮官の指揮下にいた兵士たちがこちらの援護に駆けつけていた。
エルドがその先頭で私に話しかけた。
「ハンジさん!
目標の敵兵士は十数名を残して殲滅完了。残りの十数名は情報を吐かせるために拘束しました!
これより鎧の巨人の討伐の援護をします!」
「了解!よくやった、エルド!
こちらは鎧の巨人に雷槍を当てられずに苦戦しているところだ。
彼の隙をつければ、雷槍を当てられるんだが…」
「やはり、エレンがいないのが痛手ですね…」
「ああ、そうだね…。でも、ここを任されたのは私たちだ。絶対に勝たなければいけない。
彼らは彼らで、大変な仕事を任されているのだから。」
エレンを中心とする、104期の後輩たちは、ジャン、アルミン、ミカサ、エレン、ノア、サシャ、コニーの7名のみで超大型を説得する作戦だった。彼らは失敗したら更に被害の出る、相当なプレッシャーのある役どころだ。
後輩たちがプレッシャーに耐えて立ち向かっているのだから、私たち先輩が「出来ない」と言う訳にはいかないだろう。
「皆!鎧を倒して、勝利の祝杯をあげるとしよう!」
…
それから私たちは鎧の巨人と戦闘になった時の作戦で立てたように、まずは鎧の巨人の顎の関節部分を狙って雷槍を着弾させた。
調査兵団の仲間たちの見事なコントロールで顎関節に刺さった雷槍は爆裂し、鎧の巨人の口が空いたところに雷槍をぶち込んで項ごとライナーを吹き飛ばした。
「やりましたね、ハンジさん!」
「ああ……そうだね…」
私の直属の部下であるモブリットが私にそう言って近づく。
「これでウォール・マリア奪還にも1歩近づいたんですよ!何がそんなに不満なんですか?」
「いや、不満という訳では無いけど…。
……おかしいと思わないかい?」
「何がですか?」
「敵がこんなに私たちの思い通りになるなんて。
それに、敵が出てきた位置もおかしい。こんな壁際に出てきて、鎧が私たちに囲まれてもここから動かなかったということは、何かこの場所にメリットがあるということだよ。
それに、上で飛んでいる、敵の援軍だと思われる飛行物体…。あれも何かしらの意図があってあそこにいるのだろうが、鎧がピンチだったのに、何もしてこなかった。」
「確かに、ハンジさんの言う通りですね。」
「そもそもライナーはまだ動けるはずなんかないよね?ライナーの状態は、確認した?」
「はい。何人も、何回も確認して本人の意識はないはず…との事。それに、あれだけの爆風を受けてまだ動ける者がいるとすれば、それはもう、化け物ですよ。」
もう一度ライナーを一瞥する。彼の巨人の皮膚は蒸発し始めていて、彼自身の体も調査兵達によって巨人の項部分から引き出され始めているところだった。
そんな時だった。
「うぉぉぉぉおおおおおおっ!!!」
そんな叫び声が聞こえて、今確かに気絶ことを確認したはずの鎧が起き上がったのが見えた。
「彼はなんてタフなんだ!なぜまだ立ち上がれる!?」
どうしてまた起き上がることができたのか、何の意図がある叫びなのか。
「なんで…っ」「さっき確かに死んでたはずだ!」「鎧の上で中身の人間を出そうとした奴らがやられた!」
鎧の周りにいた兵士達は動揺を隠せない様子だった。
私自身も実際驚いている。援軍が来ることは想定していたが、鎧の巨人があの状況で、また意識を取り戻すとは…まさかとは思ったがそんなことは無いだろうと思っていたが…。
「とにかくまずは状況を立て直してから、もう一度雷槍で仕留める!
皆!班ごとにまとまってもう一度だ!」
「「「「了解!!」」」」
切り替えてライナーを仕留めようとした矢先の事だった。
「ハンジさん!空を飛んでいる物から、何か人が落ちてきています!」
モブリットの声に、私は彼が指差す方向を辿る。
彼の言うとおり、何かが落ちているのは確認できたが、それが人かどうかは分からなかった。
「あれは…?」
しかし、すぐ後に鳴り響いた轟音によって
ドォンッッ!!!!
眩い光に、ちょうどモブリットに言われてそちらの方向を見ていた私は思わず目を瞑った。
爆風に耐えてから、そちらを見上げると、そこに出現していたのは、高さ60m級の巨人。
「あれは……超大型巨人!!超大型巨人が出現した!!!」
…
…
(ノア視点)
エルドさん達の班、ハンジ班の先輩たちと分かれてから俺は、周囲にベルトルトが居ないか探しながらも立体機動装置を使って同期達の居るであろう方向へと向かっていた。
シガンシナ区は思ったよりも広く、幼少期、ここで過ごしていた頃よりも何倍も広く感じた。
屋根にアンカーを刺して飛んでいると、図らずとも自分の知っている区域に差し掛かった。
小さい頃はここを歩いていたな、とか、ここの公園よく行ってたな、とかそんなことを考えていた。
秘密基地の場所はあそこだったし、俺の顔を見るためにエレンに連れて行ってもらった川は、あの川だ。
まだここを離れてから5年しか経っていないのに懐かしく感じるのは、この5年間が余程思い出として濃い物だったということだろう。
しかし、建物が倒壊していてどこなのか分からない所も結構あった。分かる建物もあることから、この辺は俺が昔住んでいた所だということは分かるのだが、あそこはよく行ってた八百屋だったはずなのに、そこには何の面影もない。
シガンシナ区襲撃のことを思い出す。
あれのせいで故郷を追われたのは確かだが、あの出来事が無ければ、かけがえのない仲間に出会える事もなかった。
複雑な気分ではあるが、あの出来事を肯定する気はない。
シガンシナ区襲撃の影響で被害にあった人数は計り知れない。
俺の兄もその1人だった。
兄が死んだ場所はここより内門に近い場所で、もう既に通ってきたはずだが、その正確な場所も分からなかった。
あの時は自分が間違えたから兄は死んだんだと思っていた。いや、自分に言い聞かせていた。
しかし、今なら分かる。あれは、しょうがなかったことなのだと。
選択に間違いも正解も無い。そこには結果が転がっていて、あとからあれは間違いだった、あの選択は良かったと言うのは簡単だが、選択を下した時にそれが分かるはずもない。
俺の選択がどんなものだったとしても、兄が死ぬのは避けられないことだった。それが起こることを知っていない限り。
俺は二ファと共に、今まで人が死ぬのを何回も回避することに成功してきたが、それは何回もやり直せるということと、先に起こることがある程度分かるこの能力があったからだ。
兄のことに関しては、どれだけ足掻いてもこのループの力がない限り変えることは出来なかっただろうと思っている。
あれは、仕方の無いことだった。この世界が、巨人という人を喰う化け物がいる、ただただ残酷な世界だった。それだけだ。
…
俺は何分かシガンシナ区を飛んで、ようやくアルミンたちに合流することが出来た。
「ノア!そっちはもう大丈夫なの?」
「うん。マーレ兵士達はあらかた片付いて、エルドさんにこっちに戻れって言われたから。
ベルトルトは?見つかった?」
「いや……見つかっていたらここで話している余裕なんか無いよ。」
「そうか…。」
「この地域はだいたい隅々まで探したし、まだ探していないところはあるけれど、どこも壁の近くなんだ。
ベルトルトが超大型巨人を使うなら、壁の近くじゃなくて中心部だと思って探したんだけど、宛が外れたみたいだ。
……いや、もしかしたらもっと違う方法で隠れているのかもしれないけれど。」
中心部には居ないのか…。壁近くに隠れている可能性は低いと思うし…。
「もしかしたら、このシガンシナ区にはいないのかもしれない。」
「僕もそう思っていたところだ。
君たちの『記憶』のとおり、ベルトルトは樽の中に隠れていて、兵長や二ファが見つけてくれたとしたらそれが1番だけれど…何か腑に落ちないんだ。
そもそもあの上の、飛んでいる兵器は『記憶』には無かったし、ベルトルトも他の場所にいると考えた方がいいのかもしれない。」
アルミンの言葉に、俺は飛行艇を見上げる。
あれは一体どんな意図があって持ってきたのだろうか?
見たところ大砲のようなものはついていない。攻撃するためのものでないのであれば…
「アルミン、もしかしてあの中に…」
「ノア!あれって…人だよね?」
言葉を遮ってアルミンは飛行艇から落ちてくる黒い物体を指差した。
「人…やっぱりあれは…」
「ねえ、このままじゃあの人死んじゃうよ!敵は…何をしようとして、こんな残酷なことを…」
アルミンは敵がその人を空から落としたのだと思っているが、あれはきっと…
飛行艇が遠ざかっていくのが見える。
目の前が眩い光に包まれる。
ドオオンッッ!!!!
「あれは、ベルトルト、超大型巨人だ!」
俺は咄嗟に巨人化して爆風の衝撃からアルミンを守る。
近くにいなかった同期はどうなったか分からない。
しかしここはベルトルトが巨人化した場所から近い場所では無かったようだった。
ベルトルトが、飛行艇が遠ざかるのを待っていた時間があったから、上空のおかしな様子に気づいた者は素早く退避、または防御の姿勢を取る事ができたかもしれない。
俺は巨人化を解く。
巨人化はしている時間が長いほど疲れが溜まる。今ここで精神を削るべきでは無い。
「ノア…ありがとう。」
「いや…それにしても、ベルトルトが巨人化したということは…」
「第三の作戦になるね。
…ベルトルトと話す時間もなかった。その隙も、そもそも近づくことも出来なかった…!」
アルミンは悔やんでいるようだったが、これもしょうがない。
「アルミン、仕方がないことだったよ。敵が空の上にいるんだったら、もう近づく手段はこちらには無い。
切り替えていこう。」
「うん…そうだね。ノア、とにかく同期のみんなを集めよう。」
「ああ。皆無事だといいけど…。」
俺たちはそれからこの辺り周辺を回って同期の姿を探した。
そして、俺とアルミンがいた場所からそう遠くない場所にて、アルミン班の同期全員が巨人化したエレンに乗っているのが確認できて、安心した。
とにかく無事みたいだ。
「皆!そっちは大丈夫だった?」
「ああ!あいつの爆風なんて大したことなかったぜ!…って言いてえところだが、エレンが居なきゃ、一溜りもなかっただろうな。」
アルミンの確認にすぐさま返事をしたのはジャンだった。
「アルミンがいなくて心配したんですよ!他のみんなはここにいたからエレンに守って貰えたけど、アルミンは1人だったから…」
「でもノアが戻ってきてたんだな!」
「ノア、無事で良かった…!」
サシャ、コニー、そしてミカサが口々に心配していたと言う。
「うん。ノアがいたから助かったよ。皆も無事みたいで良かった。
…とにかく、今は次の作戦について話さなくちゃいけない。」
「ベルトルトが巨人化したから、ですね?」
ここを出る前に、団長が考えた作戦は3つ。
何事も無かった場合のもの、おおよそ『記憶』の通りに能力をもつ巨人が出現し、鎧と獣が巨人化した場合、そして、超大型巨人が巨人化した場合。
これ以外のイレギュラーな点については、現場のハンジさんやアルミンの指示に従うようにと言われていた。
「ああ、そうだ。超大型巨人が出現したから、作戦はプランCに移る。
皆分かっているとは思うけど、プランCのおさらいをしよう。
プランCは、長期戦だ。そのために食料や水も大量に持ってきた。獣の巨人は兵長達が引き付けているおかげで投石もないし、ここで夜を明かすことはできる。…今日のうちに、超大型巨人以外の巨人と決着をつけることが出来たら、ね。
超大型巨人は兵士達に立体機動装置で近づかれないように、全身から煙を出すはずだ。もし出さなければ、近づいて攻撃を入れてしまえばいい。
超大型巨人の全身から出る煙は、彼自身の筋肉を燃やして出しているものだと思われる。だから、ずっとその煙を出さなければいけない状況に陥らせたとしたら、いつかは煙を出せなくなるか、もしくは超大型巨人の大きな身体を支えきれなくなる。
その時を待つんだ。」
「だから、あれだけの量の食事があったんですね!」
サシャが目をキラキラさせている。
「サシャ…お前、分かってなかったのかよ…。あれは全部お前の分、じゃないからな!分かってんだろうが、今回は何日ここで過ごすことになるか分からねえ。少しずつ食べるんだぞ?」
「うぇへへへへっ」
ジャンがツッコミどころの多すぎるサシャにツッコミを入れているが、本人には届いていない様子だった。
「でも…これって…僕達は失敗したってことだよね。皆に期待されていたのに、気力的にも身体的にも大変になる、長期戦に持ち込むことになってしまった…。」
「アルミン、気に病むことはないって。
敵が空から落ちてくるなんて、誰にも分からなかった。そうでしょ?」
俺はアルミンを慰める。彼は今回ここを任されたことに誰よりも責任を感じていたし、失敗する訳にはいかないと誰よりも思っていたに違いない。
そもそも俺が『記憶』で見れれば良かったのだが、生憎ここは1回目。何の情報もなかった。
「そうだぜ、アルミン。あんなの、予想出来た方がおかしいって!」
コニーも俺に便乗して慰めている。
「でも、団長なら、分かったはずだ。あれだけのヒントがあって…あの飛行物体は何か怪しいことは確かだったのに…!」
「団長なら…って言ってもさ、ここには団長はいねえんだ。団長はそういうことに気づくことと、判断力に長けているのはまちがいねえけど、アルミンにもアルミンなりの良さがあると思う。
他人のそういうのを羨んでいたってしょうがねえよ。」
エレンは先程巨人化を解除していたようだった。
まだ煙に包まれているようだが、疲労感は無いようだった。
エレンはちょっと前まで兵長や、ミカサ、俺のような純粋な強さを羨んでいたようだったから、彼の言葉には説得力があった。
「エレン…そうか。そうだね。エレンの言葉なら、素直に頷けるよ。」
エレンとアルミンは彼らの中で、通じ合うものがあるみたいだった。
同じ幼なじみなのにと少し寂しいものはあるけど、俺だって、ミカサ、アルミン、エレンとそれぞれの関係があるのだからお互い様だと思ったし、クヨクヨしてるアルミンは見たくなかったので、立ち直って良かったと素直に思った。
「とにかく、僕たちの班は、ハンジさん達の班がいる、壁近くまで一旦撤退して、今日中に鎧を仕留められるように援護するか、もしくは超大型との相手をするべきか、現状を確認しに行こう。
超大型は街のど真ん中に出現した訳だし、そうそうハンジ班のいる北には追いつけないはずだ。」
俺たちは超大型よりも北よりにいたため、アルミンの指示で撤退を開始した。
…
撤退している最中。
また空が陰ったような感じがして空を見上げると、飛行艇が戻ってきていた。
もうベルトルトは降りたし、果たして次は何が起きるのか、検討もつかなかった。
「アルミン!まただ!また、あれが来た!」
俺は立体機動装置で飛んでいるアルミンを大声で呼び止めて、上を指差す。
まだ飛行艇はシガンシナ区にギリギリ入らないあたりに飛んでいるが、こちらに向かっているのは確実だ。
「今度は何が目的なんだ!もう能力のある巨人は出尽くしたぞ。」
アルミンは必死に頭を回しているようだった。
俺も頭が悪いなりに必死に考える。
しかし、何も思いつくことはない。
あれほどの大きさだったら10人…いや、20人くらい入るだろうか?
前世での飛行機といえば、旅客機だった。それだったら何百人という人が乗れたはずだ。
そうなると、ここからは小さく見えるあの飛行艇も、50人くらいは入るのだろうか?
人が入る?
そうなると、援軍があの飛行艇に入っている、ということは有り得ないだろうか?
「アルミン、あの中に人が入っていて、それが援軍なんじゃないか、って思ったんだけど…」
「…その可能性は大いにある。むしろそれが1番高い。けれど、わざわざ飛行物体に乗せて、上から降りてくるかな?
そんなことをしたら、僕たち調査兵団の格好の的だ。降りてくる最中に銃なんか使えないからね。」
「確かに、向こうのメリットがあまり無いのか…」
俺はあまり役に立てなくて少ししょんぼりする。
「じゃあ、あの中に救援物資が入っているとか!」
俺に続いてコニーが元気にそう言うが…
「うーん、それは無いかな。救援物資だとして、誰に渡すのかってことになるよね。もう既に巨人化してる3体の能力のある巨人達は何も物資を必要としないし、ノアから聞いたけど、壁から出てきた敵兵士達ももう壊滅状態だ。」
「あ!アルミン、また人が落ちてきましたよ!」
サシャがそう叫ぶ。
彼女は森育ちだからか、視力が相当いいようだった。
さっき降りてきたベルトルトとは比じゃないくらい遠くにいるのに、飛行艇から落ちてきたものが人だと分かるみたいだ。
「あれは…本当に人なの?」
アルミンが少し怪訝そうに言う。
「絶対人ですって!一体どうして、あんなところに落とすのかは分かりませんけど。」
サシャの言う通り、飛行艇がいるのは、シガンシナ区の内側ではあるが、東の壁近く。
その人らしき陰は何人もいるように見え、それが人だとすれば、何人もの人間がパラシュートを開いていた。
「どういうことなんだ…?」
アルミンも、ジャンもよく分からないようだった。
俺も何が何だか分からない。
固まる俺たちは、奥の飛行艇とは別の、同じ音が聞こえた。
プロペラが回る音だ。それは確かに、飛行艇から鳴っている音と同じものだが、逆方向から聞こえているように思えた。
「この音…もう一機アレと同じものがいるのか?」
エレンが訝しんだようにそう言う。
「あそこ、もう一機来てる。」
ミカサは直ぐに気づいて、指を差した。
もう一機は、西の壁の上を通って、シガンシナ区内の西側で人間らしき影を落とし始めた。
「また、人か!?すぐ仕留めた方がいいんじゃ…」
俺はそう思ったが、アルミンは反対のようだった。
「敵が味方かも分からないのに!?
それに、何故か分からないけど、あれに近づいてはいけないような気がするんだ!」
「私もアルミンに同感です!」
勘の効くサシャもそう言うならそうなのかもしれない。そう思ったその瞬間。
「アアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
シガンシナ区の内門のさらに奥。兵長や二ファ、獣のいる方向から叫び声が聞こえた。
獣の巨人の叫び声か?
「何が…」
皆に問いかけようと思って、そちらを向くと、光が迫ってきた。
そして、何度も聞いたあの音が、何回も何回も、鳴り響いた。
ドーンドーンッドドドドッドーンドドン!!!
さっき降りてきていた敵だと思われる人達が全員、巨人になったのだった。
「さっきまでただの人だったのに…」
「巨人化…した、のか?」
「無垢の巨人の正体って…やっぱり、」
「俺たち…ずっと、人を殺してたんだな。」
俺は分かっていたけれど、同期達はこのことを初めて知ったし、今目の前で、無垢の巨人はこうやってできていた、ということを見てしまった。
彼らが混乱するのも無理ない。
「皆、動揺するのは分かる。けど、今はまず集中しよう!こいつらを倒さないとウォール・マリア奪還は有り得ないし、まず俺たちが生きて帰れるかも分からない!」
「そ、そうだね!ノア。
皆、まずは道中の巨人を倒しながら、ハンジさんの所まで撤退しよう!
くれぐれも、無理のない範囲で巨人は倒していこう!」
「おう!」「分かった!」「了解です!」
皆それぞれ返事をして、アルミンの指示通り撤退を続けた。