原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
(ノア視点)
俺たち、アルミン班は超大型巨人の説得が叶わず失敗に終わったためハンジさんの所まで撤退している
そして、ハンジ班に合流する頃にはその討伐数は2ケタを超えていた。
「ハンジさん!
作戦は次の段階に移ることになりました。現状の状況を確認したくて、撤退してきました。」
アルミンを先頭に、ハンジさんのいる場所へ近づく。アルミンはハンジさんに報告するが、どこか申し訳なさげだった。
「アルミン、104期の皆、お疲れ様。まさか敵が上から降ってくるとは思わなかったよ。
それに、無垢の巨人の正体は人間だってことも、ほとんどのものは知らなかっただろうし。
まずはあの大量の巨人達をどうするか、だよね。」
ハンジさんは悩ましげにそう言って、こちらを向く。
「実は、鎧の巨人の討伐もまだなんだ。
1度は雷槍で仕留めたと思ったんだけど、仕留め損ねてしまったみたいでね。」
「そうですか…。
プランCで長期戦に持ち込むためにも、周りの巨人達や鎧の巨人は今日のうちに仕留めなきゃいけないですよね。」
超大型巨人は今のところ長期戦に持ち込むしか方法が無い…と思われている。
『記憶』ではアルミンの決死の作戦でベルトルトを討ち果たしたが、あれは本当の本当に最終手段だ。
超大型巨人を基準に作戦を立てるなら、他の巨人は全て倒してから長期戦に持ち込まなければいけない。
「そうだね。
鎧の巨人は1度取り逃したものの、それからずっと攻略法を探っていてね。でもやはり、隙のない相手に雷槍を撃つのは至難の業だった。
エレン、君の力が必要なんだ。
アルミン、エレンを鎧の巨人の討伐班に加えても良いかな?」
「はい。
…ということは、エレン以外は無垢の巨人の討伐班になるということですか?」
「ああ。そういうことになるね。
鎧の巨人を討つためにも、鎧の近くにいる巨人たちは遠ざけるか、討伐しなきゃならない。
だから、鎧の巨人討伐班と、鎧の巨人周辺の無垢の巨人を討伐する班の
とにかく分かりやすく編成するとしたら、今分かれている班ごとに編成して行った方がいいだろう。
私の班は雷槍の扱いに慣れているものが多いから、鎧の巨人討伐班は私の班含め、壁から敵兵士が出現した際に鎧の巨人と戦った班と、エレン。そして、無垢の巨人討伐班はそれ以外のものとしよう。
更に、無垢の巨人討伐に向かうものには、もし超大型巨人が動き出す、または煙を出すのを止めるような素振りを見せたら、そちらの気を引いて、煙を出すように誘導すること。これは大変な事だと思うけど、1番大切な事だ。超大型を注視するように。
アルミン班の者たちは他の班にもこのことを伝えてくれ。」
「「「「はい!」」」」
ハンジさんの指示を受けて、俺たちは先程聞いた班分けを他の班にも伝達した。
…
その後俺たちは無垢の巨人の討伐にあたった。
俺は毎度の如くアルミンから、『1人の方が良いだろうから、ノアは1人班としてより多くの巨人を討伐して、皆を助けてくれ』と言われ、1人で戦っているところだった。
1人班とは言っても、鎧の巨人周辺の巨人討伐をするための班なので、図らずも人はそこに集まってしまうわけで、俺も他の班と協力して討伐したりすることもあった。
やがて鎧周辺もだいたい片付いて、時間が経つにつれて無垢の巨人討伐班の守備範囲は広くなっていった。
熟練の先輩兵士を含めるこの班は、巨人討伐としてはエキスパート。人が巨人に変わる姿を直接見て衝撃を受けているとはいえ、巨人の殲滅スピードは相当なものだった。
俺は鎧周辺は彼らが厳重に守っているのを見て、そこは任せてしまっていいだろうと思った。
超大型巨人の討伐を目的とする、長期戦にするためにも、周囲の巨人はできるだけ減らしていった方が良いので、俺はアルミンに一言入れてから、より前線であり、まだ手付かずの状態だった、シガンシナ区の南部分へ向かうことにした。
先輩兵士やアルミン達の班は鎧との決戦場である、北側に十分な兵力を割いた上で、更に2班に分かれて東と西を攻めているようだったから、俺が南から攻めた方が効率がいいと考えてのことだ。
そもそも東と西から一機ずつ飛行艇がやってきて巨人を降らしたのだから、東と西に巨人は多いはず。
巨人の数自体が少ない南側なら俺の力で対抗出来るだろうと踏んでいる。
…
そうして南について、無垢の巨人を駆逐し始めた時、俺は何者かに呼び止められた。
「ノア!そこで止まれ!」
俺はそいつの言う通り止まって屋根上に立ったが、その声は聞き覚えのない、いや、最近は聞いていなかった、どこか懐かしい声だった。
声の主の方に身体を向ける。
遠くで良く見えないが、人影であることは確かだろう。
「誰なんだ!?」
俺は敵なのか味方なのか、確認するために叫んだ。
「ノア!お前が覚えているかは分からないがな、俺はリヒトだ!お前の、昔の相棒だよ!」
昔の相棒…か。
リヒト。俺はこの名前に聞き覚えがあった。
彼は屋根を飛び移りながらこちらに歩いてくる。
だんだん顔もはっきりしてきて、正真正銘、俺が知っているリヒトだということが確認できた。
俺は今こそパラディ島で兵士になる訓練をしていたが、彼を相棒と呼んでいたのは、すぐ一つ前の人生。マーレ戦士候補生時代の頃だった。
戦士候補生時代。それは、俺の中では『前世』ではない。複雑なものだが、俺が『前世』と呼んでいるのは俺が元々いた平和な、俺が病気でずっと病院にいなけりゃいけなかった人生のことで、俺はそこで死んでからループを始めるようになった。
1回のループの流れとしては、必ずマーレに生まれて死んでからパラディ島に来るので、今目の前にいる、俺の相棒だという男は、俺のすぐ一つ前の人生の、マーレにいた時に知り合った男だということだ。
リヒト…彼のことは鮮明に覚えている。
彼の言う通り、俺は彼のことを相棒だと思っていたし、彼も俺のことを相棒だと思っていたのだと思う。
彼と出会ったのは戦士候補生の同期としてだった。
彼を見ると、相棒だった時代からもう何年も立っているからか、彼の顔はあの頃より幾許か老けていて、もう少年と呼べるような年齢でないことは明らかだった。それに対して俺は1度生まれ変わっているから、15歳。ギリギリ少年とも呼べる年齢だ。
「ノア、お前はあの頃と何も変わっちゃいないな。さっき見てたけど、巨人を殺すときの殺気も、隙があるように見えて、そんなものは全く無いところも、そして、その顔も。なんならあの頃より若返ったんじゃないのか?」
「お前は老けたな。
あの頃はもっと、キラキラしてた。」
「なんだ、悪口か?
これでも結構モテる方なんだよ。」
「信じられないな。」
彼の顔は確かに整っているようには見えるが、なんだか認めたくはなかった。
「なあノア、戦士候補生時代は楽しかったよな。お前と色んな訓練で組んだり、巨人を継承したら、どんな風に戦うか考えたり…
けどさ、俺はお前が敵側になるとは思ってもみなかったよ。
ノア…どうしてそっち側になっちまったんだ!」
どうやら敵は俺に投降を促したいようだった。そうでも無ければ、エルディア人をただ1人だけ巨人にせずに落とすなんてことはマーレはしない。
「お前がいなくなってから、どれだけ心配したか!」
俺は1つ前の人生では、エレンの父であるグリシャさんの楽園送りを阻止するため、その執行現場を追った後、グリシャさんを無垢の巨人から守るために食われて死んだ。
そのため、恐らく俺の死因はマーレ側には分かっておらず、行方不明扱いになっているのだろう。
そしてジークの報告で俺のことが明らかになり、行方不明になっていたノアが見つかったということでこいつもついてきたと推測できる。
しかし、俺はもう、マーレの戦士ではない。俺は、
リヒトは貧しい自分の家族のために名誉マーレ人になろうとしたやつだった。
俺は昔の相棒であるこいつの、そういう優しいところが気に入っていたし、尊敬もしていた。
だからこそ相棒なんて呼んだし、戦士候補生時代も彼と協力し合って乗り越えてきた。
けれど…
「今は、俺がいなくなって良かったと思ってたんじゃないのか?」
「はあ?そんなこと…」
「思ってるだろ。お前は俺の成功を妬んでた。
俺は顎の巨人を手に入れたけど、お前は九つの巨人のいずれも継承することが叶わなかった。そして、お前は今はマーレ兵になるしかなくて、しょうがなくその立場に留まっている。ノアがあの時いなけりゃ、俺が継承できてたのに…って思いながらな。」
「そんなわけない!俺はお前のことを心配して…」
リヒトはセンスは良かったけど努力が苦手な奴だった。最初の頃はリヒトが何でも1番だったが、俺がその記録をどんどん塗り替えていくうちにあいつは…。
「俺、知ってたんだよ。お前が裏で俺のことを下げるようなことを言っていたって。だけど、昔の相棒だから、変わると思ってた。いつか、俺の事を祝福してくれる時が来るって。
あの時は頭の中お花畑だったからさ。いつか、全員が仲良くなって、俺のことも認めてくれるって思ってたんだ。
だけど、もう仲間なんかじゃない。
正真正銘の敵同士だ。
今思えばお前は他のみんなと同じ、自分のことしか考えてない、他の奴が上に上がった瞬間に蹴散らそうとするクソ野郎だったよ!」
そう言って俺は相手に切りかかる。
相手は懐に挿している拳銃を持って、こちらに向け、その弾を撃った。
俺はマーレ戦士時代も銃の弾丸を避けるのは得意だったし、ループのおかげでマーレ戦士時代に戦争に行った経験もあった。
戦争はもちろん巨人で行ったが、実践で更に、弾丸の回避能力を身につけたのだった。
しかし、戦闘を続けていくうちに、リヒトとの思い出が蘇る。
こいつの苦悩もよく分かる。貧しい家族のために名誉マーレ人になろうと思って戦士候補生に立候補した。最初の頃はどんな訓練でも1番を取っていて、九つの巨人を継承するのも時間の問題だと噂されていた。
そして自分より劣っている同じ戦士候補生がいて、そいつが執拗く色々と聞いてくるから、優しさで教えてやったというのに、だんだんそいつは自分の記録を塗り替えて、最終的には自分の目標であった名誉マーレ人になってしまった。
最初の頃はあいつも俺と本物の相棒のように接してくれたんだ。
一緒に昼食を取ったり、厳しい教官の愚痴を言ったり、訓練の分からないところを教えあったりした。
それに最初の頃は体格に恵まれずに落ちこぼれコース一択だった俺と仲良くなってくれたのはあいつだけだった。
そういうことを思い出すと、途端に目の前にいる男に刃を向けられなくなる。
俺は先程までの気迫を忘れて、相手の攻撃を避けるだけの戦いをしていた。
「なんでお前は手を抜くんだよ!
俺は、クソ野郎なんだろ?
なんで…クソ野郎を勝たせようとするんだよ!」
彼がこの隙に漬け込んで、これ幸いにと叩いてくる奴だったら俺も嫌いになれたのに、こいつは俺の変わりぶりに動揺して、正々堂々やろうよと言ってくるような奴だった。
「俺の頭はやっぱり今もお花畑みたいだ。
お前が仲間になる未来を願ってる。
無理だってことはわかってるんだ。だけど、もしかしたら…って思うと…。
お前も俺が巨人を継承しなかったらあのまま良い仲間で、相棒だったんだろ?」
「……。」
リヒトは気まずそうに、しかし目を逸らさずにこちらを見ている。
…
戦いの最中だったが、ふと、エレンとの思い出を思い出す。
あれは俺がいきなりぶっ倒れて、兵団のクーデターが成功した後。目覚めた俺に皆が見舞いに来てくれていた時期のことだった。
エレンが1人で俺の病室を尋ねてきたのだ。
「最近お前、何か悩んでるよな。あの長い眠りの間に、やっぱり何かあったんじゃないのか?」
エレンはそう言って病室に入ってきた。
「そう…見えるか?」
「ああ。同期はみんな心配してるよ。もし言えることだったら俺に相談してみないか?」
俺が悩んでいるのは、ループの事だった。
あの記憶はどれも残酷で、悪夢のようで、俺の中にしこりのように残っているのは事実だ。
しかし、ループのことは、兵長と団長と二ファにしか言っていない。
けれど、エレンになら。今の人生で相棒だと呼べるエレンになら、言ってもいいんじゃないかと思った。
「……俺は…ループしてるんだ。」
そう切り出した俺のことをバカにするでもなく、ループなんて非現実的なものをエレンは信じてくれた。
エレンは、自分の話を聞いてくれた。ループの辛さを愚痴らせてくれた。
相棒とはそういうものじゃないのか?
自分が辛い時は頼って、相手が辛いときは自分が力になる。
でもリヒトは…自分が辛い時は頼ってくるくせに、俺が辛い時、巨人を継承してからは何も助けてくれなかった。ただ、話を聞いてくれるだけでも良かったのに。
最初の頃はそうじゃなかった。けれど、もう今は敵同士だ。
こいつはもう、相棒じゃない。
分かり合えることは、また仲間になれることは、もう無い。
…
「リヒト、俺は昔はお前のこと、相棒だと思ってた。けど、今はもう、そう思えない。
そもそも俺は、この街で生まれて、マーレ勢力にこの街を、故郷を奪われたんだ。もうそっち側に戻ることは絶対にないよ。
お前らの狙いは俺の説得だろうが、俺がマーレ勢力になることは、有り得ない!」
そう言いながら、再び俺は自分の意志を確認してリヒトに斬りかかった。
彼のことは極悪人のようには思えないけど、もうかつての相棒は敵勢力の1人だ。
俺には守らなければいけない仲間がいるし、相手にも守りたい人達がいるだろう。
「これは俺のお花畑な頭が考えてしまう、最終手段だ。
ここで投降すれば、命は助けてやる。こちらの捕虜として連行することになるが、どうする?」
先程の壁からでてきたマーレ兵のように、捕虜として連れて行くならば、死ぬことは無いだろう。少なくとも、ここで死ぬことは、無い。
そう思って提案した案だったが……
「いいや、そんなつもりはさらさらない。
お前の言う通り、俺はクソ野郎なんでね。
ここでお前に勝てたら、九つの巨人の継承をお前にするのは間違っていた。俺の方が優秀だったって証明出来るだろ?
俺は正々堂々お前と戦って、勝つ!」
そう言って、相手から攻撃を始めた。
どうやら先程見えた迷いのようなものは相手には無く、あちらも覚悟を決めたようだった。
俺たちは長らく銃とブレードを交えて戦っていた。
相手が『正々堂々』と啖呵を切ったのは彼にそれだけの実力があったからこそ言えたことだった。
俺はこの人生の何年かで巨人を殺す訓練を受けて、実践も繰り返していて、壁内では実力が上のものはほぼいないと言っても過言ではないほど自分は強くなったと思っていたが、彼は俺よりもっと努力したようだった。
戦士候補生時代に努力が嫌いだったあの彼が。
けれど、ループ時の経験を含めて努力が積み重なっている俺の力には及ばず、とうとう俺は彼の上に跨って首にブレードを突きつけることに成功した。
「こんな状態になっても、命乞いはしないんだな?」
「失うものは何もねえよ。
それに、ここに来るってことは、もう戻ることが出来ない片道切符ってことだ。
お前がいなくても、周りの巨人に喰われてたか、そっちのパラディ島勢力に殺されてたか。」
片道切符?
ってことは…自殺しに来ているようなもんじゃないか!
「お前、家族は?」
こいつは家族を養うために頑張っていた奴だったはずだ。
「全員、死んだよ。
事故でってことになってるけど、マーレが殺したんだろうな。
どうせエルディア人の扱いはこんなもんだ。
何が起きたかは分からないが、俺の家族が何やらマーレ当局の者の機嫌に触ったみたいでな。
俺がマーレ兵として戦争に行ってる間に殺されてた。
それから俺は、パラディ島侵攻が上手くいってないって情報を掴んでな。戦士候補生を抜けてから連絡を取っていなかったマガト隊長に言って、ノアの説得に回してもらった。」
マーレがそんなことをするのはあの国では当たり前の事だったけど、まさか昔の相棒の家族にそんなことがあったなんて…。
やはりあの国は異常だ。
「それでどうしてお前はこんなところに来たんだよ。」
「もう、何もかもどうでも良くなってな。
1度は死のうとも思った。けどさ、俺が唯一心残りがあるとすれば、ノア、お前なんだよ。
何も言わずにどっか行っちまってさ。俺が九つの巨人を継承できずに泣きわめいてた時にお前は、行方不明になったって聞いた。
そんなお前がパラディ島にいるって聞いて、死ぬ前に1回会っとこうと思っただけだよ。」
リヒトの壮絶な人生に、俺は何も言えなかった。
相棒か相棒じゃないかなんて些細なことだ。彼の報われない思いに、敵同士だと覚悟も決めたはずだったのに、やるせない怒りのような感情が浮かんできていた。
「でもお前、行方不明になる前…俺といた頃より全然幸せそうだしさ。仲間もいるみたいだし、俺の心配は杞憂だったらしいな。
俺、あの頃はお前のこと祝福できなかったけど、今はお前が幸せそうで良かったって思ってるんだ。
なんか悔しいような、妬ましいような感情も少しはあるけど、お前が俺の代わりに幸せになってくれるって思うと、なんだかここで死んでもいいって思ってる。」
彼はやっぱり優しい奴だった。
リヒトは、俺の、昔の相棒、親友であることは確かだ。
俺の幸福を祝ってくれるということに、そして、彼がこれから報われることは無いということに、複雑な思いが込み上げてきた。
「……もう1回聞く。
お前に、捕虜になる気持ちはないのか?
生活は保証されるし、こんな誰の記憶にも残らないところで死ぬことも無い。」
「……ないよ。
お前に会うためにここに来て、死ぬのは覚悟してた。
早く、家族に会いたいんだ。
どうか、殺してくれ。」
リヒトにここで会った時、俺は最終的にこうなるんじゃないかと頭では分かっていた。
彼は、既に生を諦めた目をしていた。
彼の願いは、殺されること。かつての相棒は、死にたいと願っている。
「それに、お前の記憶には残るだろ?
こんな卑怯なことをして、ごめん。
だけど、俺がこういう奴だったって、誰かに覚えていて欲しかったんだ。」
卑怯だとは、思わない。
彼がそれだけ追い詰められているのも分かるし、マーレ当局に目をつけられた者はエルディア人全員から遠目に見られる。
相談する相手もいなかっただろう。
俺は、彼の願いを叶えてあげることしか出来ない。
「最後に、言い残すことは何かあるか?」
「そうだな…、お前はもう十分幸せだろうけど…。
幸せになれよ。」
そう言ってかつての相棒は笑った。
そうして俺はリヒトの命を絶った。
…
…
(ハンジ視点)
鎧の巨人を相手していた私たちは、無垢の巨人の出現に動揺が走ったが、鎧の巨人討伐班と無垢の巨人討伐班の2班に分かれて敵を倒す作戦を立てた。
先程まで雷槍を打ち込むことに苦労していた私の班は、エレンが入ったことにより、敵に隙が出来たため、以前より圧倒的に戦いやすくなっていた。
そして今ちょうど、エレンが絞め技を決めて、ガラ空きになった鎧の巨人の項に雷槍を打ち込むところだった。
「皆!気を抜かずに、退路をしっかり取ってから、同時に雷槍を打ち込むよ!」
私の声に班員は頷く。
「行くよ!
せーのっ!!!」
私の合図に従って班員が同時にライナーのいる項辺りに雷槍を着弾させ、爆発させた。
「やったか!?」「誰か、確認を…」
「いいやもう1回だ!
さっきのことを思い出すんだ!彼は容易には動きを止めない!
隙のある今のうちにできるだけ攻撃を与えてから確認しに行こう。」
ライナーはしぶとい奴だった。死んだかと思った彼は生きていた。不死身なのかと疑ったほどだ。
班員は返事を返して、また私の合図に続く。
これらの事を何度も繰り返した後、班員の1人がその様子を見に行った。
「確実に…仮死状態です!もう動くことは無さそうです!」
彼女がそう叫んだ声に、全員が喜びの雄叫びをあげたが、それでも油断はならない。
「皆、気を抜くな!
先程も気絶していることを確認したのにも関わらず、彼は直ぐに動き出した!
まずは、彼を巨人の体から切り離すんだ!
多少腕や脚がなくても構わない。
万が一のために、縄で縛って取り抑えよう!」
私の指示に従って班員は動き出す。
巨人の修復能力は恐ろしいもので、腕を切っても生える、足を切っても生えるといった化け物じみた性能をしている。
能力のある巨人に関しては、どれだけ警戒をしたって過剰という事はないだろう。
巨人から切り離したライナーは確かに仮死状態のように見えるが、念の為、動けない状態にしておく。
「ハンジさん!鎧の巨人は殺さないのですか?」
万が一死んだ者がいた時に、無垢の巨人に巨人化する薬を使って能力のある巨人に食べさせると生き返るということが分かっているために、鎧の巨人は殺さない方が良いのだが、そのことは機密事項だ。
この戦いで死ぬ者が出るのは仕方の無いことだが、死んだ兵士一人一人にその薬を使う訳には行かない。そもそも、薬は1つしかないし、能力のある巨人の数も限られている。
そのため、この薬の使用権はリヴァイに託されていて、それも使わないという選択肢もある。
今はまだ調べることが出来なかったが、これから先こちらの技術が向上した際、その薬を分解して成分を調べることが出来るようになるかもしれない。
そのために残しておくというのも1つの手だということだった。
「ライナーは、捕虜として残しておくよ。そういう作戦だからね。」
私の言葉に、モブリットは不思議に思いながらも、従った。
「ライナーは複数の兵士で監視して、腕や脚が修復しそうならば切断して巨人化を防ぐこと!この作戦に当たる班は……」
そうして鎧の巨人との戦いは幕を閉じた。
彼の処遇についてはどうなるか分からないが、とにかく、薬を使わない場合、可能であれば生かして連れて帰ってくるようにと言われている。
ベルトルト、ライナー、獣の巨人の3人の中では1番情報を吐いてくれそうな人物だとエルヴィンが言っていた。
私にはベルトルトが1番気が弱そうで情報を吐きそうだと思ったが、エルヴィンの考えは違うらしかった。
「ライナーを監視する班以外の者は、無垢の巨人討伐の援護に回るように!
超大型巨人が怪しい動きを始めたら、そちらに向かって気をひけ!」
「「「「了解っ!」」」」
彼らはそれぞれの持ち場を確認してその場から去っていった。
とにかく、与えられた役割、鎧の巨人の討伐という任務をほとんど完了して、私はどうやら安心していたようだった。
まだ戦いは終わっていないというのに、呑気な事だな。
気を引き締めるため、思い切り頬を叩いたら、モブリットに心配された。
…
…
(アルミン視点)
それから僕達はシガンシナ区内の無垢の巨人を全て討伐し、作戦通り超大型巨人との長期戦を始めた。
壁からのマーレ兵士の出現、上から降ってきた無垢の巨人などのイレギュラーはあれど、それからの作戦は好調に進んでいたと言えるだろう。
兵長と二ファも、獣の巨人との戦いを終え、彼の身柄を捕らえてシガンシナ区内の兵士達に引き渡した。
ライナーもハンジさん達の班とエレンが協力して、無力化したようだった。
我々は万が一超大型巨人との我慢対決になった時のために食料と水を大量に持ってきていたため、それからは作戦通り超大型巨人との長期戦が始まった。
壁の上、もしくはウォール・ローゼ内で交代で寝て、超大型巨人を一日中監視して、煙を出させる。それを繰り返していくのは精神的に辛いものがあったけれど、これが終われば巨人との戦いも終わったようなものだ。
途中ベルトルトの援軍に飛行艇が来たような様子があったが、どうやら壁やその近くにいる僕たちには何故か危害を加えることは出来ないようで、何分かそこに留まっていた。
そのため、マーレ軍の持っていた武器である拳銃のようなものをハンジさんが調べてその飛行艇に打ち込んでいた。大したダメージにはなっていないようだった。が、飛行しているものには攻撃できないと踏んでいた敵側は相当驚いたようで、その場を離れていった。
何日も流れていく日の中でベルトルトも焦ったところを見せ、壁の上にいる調査兵に危害を加えようと何度も迫っていたが、調査兵は4つの班に分かれてシガンシナ区中央にいる超大型巨人を包囲。超大型巨人が東西南北いずれかの方位に向かって進み出した瞬間、狙われている方向にいるものは退避をするというような原始的な方法で被害はほとんど出さずに済んだ。
万が一彼が超大型巨人の体から出て、立体機動で壁を登るということが合っても気づくように、毎日毎時間交代で彼を見張っていたが、やはり彼もその結論に至ったようで、ここ数日で1度だけ、人間に戻った瞬間があった。
しかし、監視役が音響弾を打ち、素早く知らせ、彼の位置を特定。いち早く気づいた兵長とそれに続いたノアがベルトルトの行く手を阻み、最終的には僕が彼の首を切り落とした。
彼が巨人化するのではないかという懸念もあったが、ハンジさんの話によると、あれだけの煙を出して何日も巨人化したまま耐えていたのだから、もう一度巨人化するような気力はベルトルトには無いだろうと言っており、実際そのハンジさんの言う通り、僕たちが近づいてもベルトルトが再び巨人化することは無かった。
そうして、調査兵たちは最後の力を振り絞って、遂に我慢対決を制したのだった。
イレギュラーや予想もしなかった敵の出現など、色々なことがあったけれど、遂に、調査兵団は念願のウォール・マリア奪還に成功したのだった。