原作を知らないただのチート転生者が仲間を死なせないために頑張る話 作:蘭 ノイ
(ノア視点)
調査兵団はベルトルトとの長期戦を制して、ウォール・マリア奪還に成功した。
しかし、ベルトルトが巨人化を解除して、立体機動装置を使って壁に登ろうとした時。調査兵団全ての団員の注目がそこに注がれた時、二ファが脱走した。
いや、脱走という言い方は軽いかもしれない。
彼女はようやく身柄を捕らえたライナーを喰い、そしてジークを連れ去ったのだった。
全てが成功したかのように思えたウォール・マリア奪還作戦は、二ファのせいで、敵勢力巨人二体の取り逃し、そして1名の能力を持つ巨人継承者の指名手配という結果になった。
二ファは逃亡罪と国家反逆罪の名目で、パラディ島中に指名手配されたのだった。
俺はループの記憶を取り戻して彼女のことが分かったかのように思っていたが、やはり何も分かっていなかったのだと考え直した。
今回の彼女の行動については、何故そんなことをしたのか、俺には何も分からない。
ライナーを喰って、ジークを連れ去ったからといって誰かが助かるとか、そういうことは無いだろうということは分かるのだが、それなら何故、『皆を救う』ことが目的の二ファがそんなことをしたのか?
最後の二ファの裏切りによって兵団は微妙な雰囲気にはなっていたものの、念願のウォール・マリア奪還が叶ったということでお祭り騒ぎなのには変わりはなかった。
ベルトルトを討ったのは夜頃だったため、その日はシガンシナ区の壁上で一日を過ごし、トロスト区に帰還するために、翌日の夜にシガンシナ区を出発した。
俺や他の調査兵たちが壁上で一日を過ごしている間に、エレン、アルミン、ミカサや兵長たちはエレンの家の地下室に行って真実を確認しに行ったようだった。
俺と二ファは団長から何故か見ないようにと言われていたため、行くことは叶わなかった。二ファはもう既にその場を去った後だったが。
彼女の自由気ままさには苦労させられてきたが、今回に限っては自由気ままなどというお気楽な言葉で言ってはいけない。彼女は立派な犯罪者である。
逃げた際には壁内に向かっていたのが見えたと言われているが、壁内に隠れる場所も何もありゃしないだろう。すぐに見つかって、捕まるとは思うが、彼女相手にそう上手くいくか?と疑ってしまう自分もいる。
何時だって彼女相手に何かするときは、一筋縄ではいかないのだから。
地下室の真実は、俺と二ファが見た『記憶』と同じで、俺と二ファの信頼度は上がった訳だが、二ファはもう信頼が地の底に落ちているので、それが上がることはないだろう。
本当に彼女は何が目的であんなことをしたんだか。
…
夜のうちにシガンシナ区を出発した俺たちは、とりあえずはまずトロスト区に帰還することを第一目標に、道中の巨人を無視して進んでいった。
ウォール・マリア奪還を果たしたからと言って、すぐさまウォール・マリア地域に住むことが出来る訳では無い。
そこにいる巨人を駆逐して、安全宣言がなされてからということになるため、道中の巨人はなるべく倒していった方が良いのだが、シガンシナ区での戦いに加え、連日の壁上の寝泊まり、ずっと近くに超大型巨人がいるストレスから疲れ切っている調査兵団達に今巨人を倒せというのは酷だろうと、ハンジさんが決めたことだった。
帰路で人員を失うなんてことがあってはいけないから。
しかし、行きと同じように、真夜中であることが幸いして、巨人が動いてる姿はほとんど見ないし、昼間に行っていたらかち合っていたであろう巨人との戦闘も避けることが出来た。
…
そうして、トロスト区に戻ってきた。
トロスト区は俺たちの初陣になった場所で、エレンが大岩で外門を塞いだ場所だ。そのため、外門は通れなくなっていて、リフトで上へ上がるしか無かった。
一番最初に壁の上に登ったハンジさんが、ウォール・マリア奪還に成功した旨を集まっていた民衆に伝えたようで、まだ壁の外側にいる俺たちにもその歓声が聞こえてきた。
『記憶』では生存者9人、死亡者199人だったはずで、この壁上に登るためにはリフトが1往復すれば済むほどの人数しかこの場所に帰ってこれなかった。
しかし、今回は、リフトが何十往復しても足りないくらいの人数がこの場所に帰ってくることが出来た。
生憎死亡者0人とは行かなかったが、その数は本来よりも劇的に少ない数に留まったはずだ。
何分もリフト待ちをした後、俺の番が来たため、馬を乗せて壁の上へと登った。
先程から止まない人々の歓声に、結構な人数がいるのだろうなと覚悟はしていたが、俺が思っている人数の、倍以上の人々が、それぞれ調査兵団の旗を振ったり、大声で叫んで俺たちのいる壁の上を見ていた。
これこそが、『英雄の凱旋』なんだな。
昔エレンの言っていたことを思い出す。エレンは調査兵団が帰ってくることを英雄の凱旋と言ってはばからなかったけれど、あの時の調査兵団の被害は大変なものだった。
トロスト区の住民の心を掴んだのは、俺が寝ている間にクーデターを成功させた、先輩や同期たちだけれど、彼らの目一杯の祝福が貰えたのは、俺と二ファの、長い長いループから生み出された結果でもあるんだと、誇りに思った。
もちろんそれだけではなく、色々な人の思いが形になった結果ではあるのだが、あのループに意味を持たせるとしたら、この歓声が最高の報酬だろう。
横に幼馴染のエレン、ミカサ、アルミン、
同期のジャン、コニー、サシャ、
奥には元祖リヴァイ班の先輩である、エルドさん、グンタさん、オルオさん、ペトラさん、
更にその横にはナナバさん、ゲルガーさん、リーネさん、ヘリングさん、
少し遠くにはミーナがいて、
トロスト区内には、車椅子に乗っているトーマスとミケ分隊長、その近くにいるマルコ。
そして出迎えているエルヴィン団長が見えた。
俺が今見ていた人達はほとんど、俺と二ファの力で助けた人達だ。彼らの元気そうな顔が見れただけでも、何度もループしてきた甲斐があったと、そう思った。
彼らだけではない。本来は最終決戦のこの場所まで生き残ることが出来なかったはずの、9人以外の兵士達は、俺たちが直接的に、または間接的に救ってきた人達だ。
…どうして二ファが今この場所に居ないんだ、とどうしても思ってしまう。
俺よりもずっと彼らが救われることを願ってきて、今それが叶って。
誰よりも頑張ってきた二ファが、この景色を見るべきであるはずなのに、彼女は今やここでは犯罪者で、凶悪な指名手配犯だ。
俺は後々会うことになるであろう二ファに、この時のことを話すことができるよう、目に焼き付けておくことにした。
「俺たち、やっと歓声を受けられるようになったんだな。」
「まだまだ実感が湧かないけど、僕たち、故郷を取り戻したんだ…!」
エレンとアルミンは興奮しているようにそう言ったが、ミカサはいつも通り冷静な表情だった。
「ミカサは、嬉しくないの?」
俺が思わず聞くと、彼女ははにかんで、
「エレンが嬉しいなら、私も嬉しい。」
「……そっか。」
可愛いことを言い出した。
いつも通りだけど、これでもエレンはスルーを決め込んでるのか、気づいていないのか…。
俺はチラッとエレンの方を見るが、何やら悩み顔のようだった。
こんなに歓迎されているのに、何を悩んでいるのだろう?と不思議に思ったが、また後で聞けばいいか、と思った。
…
それからエルヴィン団長に報告しに行って労われたり、調査兵団に対して前夜祭とは比べ物にならないほど豪華な祝杯のパーティが行われたりと、それから何日間かは街も調査兵団もお祭りムードだったが、それも日が経つ毎に薄れていった。
調査兵団も通常業務に戻るところだったが、まずはウォール・マリアの安全を確保するのが先だとして、十分な休暇を取った後、再びトロスト区からの遠征を開始。
今回は巨人を避ける長距離索敵陣形ではなく、積極的に巨人を倒しに行く陣形を取ることになった。
今回もエルヴィン団長はトロスト区に待機している。エルヴィン団長がこれから前線に出ることは不可能だと考えられているため、そろそろ団長の代替わりの時期になるそうだ。
恐らく、次の団長はほぼほぼハンジさんで決まりだろう。
皆からの評判や噂を聞く限り、そんな気がした。
俺も調査兵団所属のためもちろん遠征にはついて行ったが、シガンシナ区、そしてウォール・マリアを奪還してからは、新たな『記憶』を思い出すことは無くなった。
そもそも、俺にはウォール・ローゼ内の戦いからのループの経験は無いはずだから、『記憶』なんて無いはずだ。悪夢を見なくなったことにも頷けると最初は思ったが、今までの悪夢の内容は二ファの1回目のループのものを見ていたはずだったと思い出し、悪夢が止まったことはおかしいと不思議に思っている。彼女の1回目のループは、この後まで続いていたはずだった。
それに加えて、奇妙なことに、最近は何度も同じ悪夢を見ている。それも、その内容は覚えていなかった。
これは、エレンが悩んでいることと何か関係があるのだろうか?
俺はエレンが悩んでいることに対して何か力になれたらと思う気持ちはあったけれど、最近は忙しくて彼と会ってゆっくり話す時間もないほどだった。
冬がすぎて、雪の積もる頃、調査兵団はウォール・マリア内のほとんどの巨人を駆逐し、そして雪解けの時期に、ウォール・マリアの安全宣言がなされた。
今後のことは俺にも分からないからどうにもならないが、何か胸騒ぎがするのだった。
…
ウォール・マリアの一件も落とし所が見えてきた頃、生き残った調査兵団の主要人物に勲章の授与が行われる式典が開催された。
実際に勲章を受け取るのは、功績がハッキリしているもののみだ。具体的に名前を挙げるとすれば、調査兵団の代表として、エルヴィン団長に代わり新たに調査兵団団長となったハンジさんが、獣の巨人討伐の功績を称えられリヴァイ兵長が、鎧の巨人討伐の援護をした功績を称えられ、エレンが、超大型巨人討伐の功績を称えられ、アルミンがそれぞれ貰うことになった。
そういえば前見た『記憶』では、生き残った9人全員に勲章が授けられていたはずだが、今回は4人だ。
前回では生き残った者が9人と少なかったため全員に勲章を授けられたが、今回はそもそも生存者が多い。恐らく、勲章を授ける者と授けられない者の違いを区別する境目を作るのが難しいため、よりハッキリとした功績を得たものにしか与えられないのだろうが、それでも俺は貰っても良かったんじゃないかと少しガッカリしているのは内緒だ。
今日は実際にその式典の日で、勲章の実物は貰えないにしても、生き残った調査兵達の
お城のエントランスホールは生き残った調査兵達でぎゅうぎゅうになっていたが、謁見の間はここよりも広いとのことで、少し安心した。
「ノア!」
俺を呼ぶ声が聞こえた気がするが、この人口密度だとその声も人の服に吸われて微かにしか聞こえなかったため、どっちの方向から聞こえた声なのか、俺には見当もつかなかった。
肩を叩かれて、後ろを見ると、ジャンとサシャ、コニー、ミカサの4人。勲章を貰えない同期達が立っていた。
いや、貰えるのはエレンとアルミンの2人だけだけど。
「なんだ、お前らか。」
「何だってなんだよ。
俺はお前も勲章貰える組だと思ってたけど、お前も勲章あぶれ組かー。」
ジャンがそうからかってくる。
「俺も貰えると思ってたんだがな。」
「ノアはこういうの、貰えるはずがないですよ。」
サシャの言葉に少しイラッときたがそれも一瞬だった。
「だって毎回1人班じゃないですかー」
「ああー、1人班だから、功績も何も、見てる奴がいないよな。」
サシャとコニーが口々に言う。
昔誰かにもそんなことを言われたような気がするが、思い出せなかった。
「仕方が無い。ノアは勲章を貰えるぐらい活躍してた。今までの功績も含めて、評価されるべき。」
ミカサはそうフォローをしてくれた。
ああ、思い出した。トロスト区奪還作戦の班分けの時に、ミカサが珍しく敬語を使って先輩に、『功績から考えてノアがエレン護衛班になるのが妥当なはずです!』とか何とか言ってたけど、俺が一人班なせいで功績が無くて、結局却下されたんだっけ。
まだ1年くらいしか経っていないはずなのに、やっぱりどこか懐かしく思うのは、この1年が濃いものだったということに間違いない。
「ありがとう、ミカサ、サシャ、コニー、ジャン。」
ジャンはうげっという顔をしていたが、それ以外の皆は俺の言いたいことが分かるというような顔をして頷いていた。
「間もなく式典が始まります!
中へお入りください!」
担当者か何かの人がそう叫んで、俺たちは謁見の間と呼ばれるだだっ広い場所になだれ込んだ。
それから式典はつつがなく行われた。勲章をヒストリアから直接渡され、その手にキスをする時にエレンが深刻そうにヒストリアの手を見つめて離さなかったこと以外は。
…
「エレン、どうしちゃったんですかね?」
式典から帰る道中、サシャがその話を切り出した。
もちろん、エレンがヒストリアの手を予定より長い間ずっと握っていた件についてだ。
「やっぱり…」
「これは…」
「「恋の病」かな?」ですかね?」
コニーとサシャは示し合わせたようにハモるが、
俺は怖くて横を向けない。
横から絶対零度の視線と空気がダダ漏れになっているのを感じる。
「だれが…だれに?」
デリカシーのない発言をした2人もようやく
「触れないでおこう。」
俺は出来るだけ気配を消してその場をやり過ごした。
ここにアルミンがいたら、俺の言葉に同調してくれたことだろう。
幼馴染は知っている。彼女の地雷は、エレンと他の女の子の話である、と。
これ以上踏み込んではいけない…。
…
式典も終わって、少しの間平和な時間が流れている頃、俺の部屋に訪問者が来た。
ずっと待っていた人物だった。
このために俺は一人部屋にしておいたし、夜は窓の鍵を開けていた。
そうして窓から現れたのは、やっぱり二ファだった。
「久しぶり。」
そう言って現れた彼女は何故か葉っぱ塗れだったが、俺は何も言わずに部屋に入れ、窓を閉めた。そして彼女をソファーに座らせる。自分はベットに座って話を聞く体制を取った。
シガンシナ区でのこと。聞きたいことはあるが、彼女なりに何か理由があっての事だということは分かっている。
「久しぶり、二ファ、君の話を聞こう。」
「そう。今回は、開幕早々質問攻めにせずに私の話を聞いてくれるのね。」
「ああ。」
俺は二ファの目を見て探るが、まだ嘘をついているかどうかは何も分からない。
「それじゃあ、単刀直入に話させてもらうわ。
まず、ノアがこれからの未来が見えているかは分からないけれど、私がしたことは、それを避けるためのことなの。
ライナーを食べたのは、巨人の継承者となる人物の人数をできるだけ減らすため。
ジークを連れ去ったのはこの国が他国に対抗出来るようにするためだわ。
そして、1番の目的は、エレンを説得すること。」
「エレンを、説得すること?」
「これからの展開で、1番厄介なのは、エレンだわ。
彼は爆弾を常に持っていて、爆発させようとすればできるような、危ない人物よ。」
「ちょっと分からないんだけど。
もう少し具体的に…」
「いいや、あなたも見ようと思えば見れるはずなのよ。
何故か見ようとしていないだけで。
そもそもあなたの前世である、病気にかかっていた頃を思い出せないのは何故かしら?
何か、あなたにとって都合の悪いこととか、見たくないものがあったからじゃない?」
病気にかかって一生を暮らした前世。俺にとって辛いことであったのは確かだが、それはループよりも辛かったかと言えば、そうでもないような気がする。
二ファの言葉が引っかかる。
俺にとって都合の悪いこと?何かが繋がるようで、モヤモヤしていて繋がらない。
「明日、それとも明後日になれば分かるかしら?
それは、私が言っても彼には響かないことだわ。
あなたが、エレンを説得するのよ。
……いや、これは命令じゃない。
あなたに、エレンを説得して欲しいの。お願いよ。」
「おい、ちょっとまっ……」
俺の引き止める言葉にも聞く耳を持たず、二ファはそれだけ言って、そこを去っていった。
彼女が来ればわかると思っていた。ところがジークを連れていった理由は結局分からずじまいだったし、彼女が来たことで更に分からないことが増えたように感じた。
エレンを、説得する?
彼は幼馴染で、親友で、戦友だ。
彼に何を説得するというのか。
その日はそのことをぐるぐると考えたせいであまり良く眠れず、また悪夢のようなものを見た気がするが、その内容は思い出せないままだった。
…
「ノア!遅刻するよ!」
そう言って俺を起こしに来たのは、アルミンだった。
俺は彼に似た誰かがアルミンと重なったが、それが誰だったかは思い出せなかった。
そういえばシガンシナ区にいた時も、たまーに彼がうちまで来て起こしてくれることもあったっけ、なんて寝ぼけた頭で考えていたが、段々と頭が冴えてきて、遅刻という言葉が頭に入ってきた。
「遅刻?」
「そうだよ!今日は大事な壁外調査の日だよ!」
アルミンが必死に俺の体を揺らす。
「ハッ!!!そうだ、そうだった!アルミン、起こしてくれてありがとう!」
昨日の夜のことで頭がいっぱいだったが、今日は島の南端まで行く壁外調査の出発日だった。
俺はすぐさま支度して、アルミンと共に集合場所に急ぐ。
アルミンのおかげで集合時間30秒前にギリギリ間に合ったが、兵長には睨みつけられた。
そして新たに団長になったハンジさんの掛け声によって、壁外調査が始まったのだった。
今回の調査の作戦としては、昨日まではできるだけ巨人を倒しながら進行するようにとのことだったが、今日になって(まだ団長とつけて呼ぶ癖が治らないのだが、)エルヴィン団長が作戦を変更して、巨人をできるだけ倒さないようにと言い渡したため、長距離索敵陣形が急遽組まれ、それに従って行動していた。
長距離索敵陣形に慣れていない新人などは固まって動いているが、それ以外の者はしっかり陣形通りそれぞれの役割を全うしていた。
こうしていると、1個前の壁外調査であった、女型の巨人と対峙したあの壁外調査のことを思い出すが、その時に比べて巨人の数が少なくなっているのは確かだった。
以前は敵が意図を持って攻めてきていたという原因もあったからなと、1人納得する。
俺は今回も比較的陣形の内側にいるため、余程のことがない限り、役割は少ない。
暇な時間が長いため、その間にも昨日の夜二ファが言っていたことを思い出して、うーん…と考えるが、何も思いつかないものは思いつかなかった。
明日か明後日には分かるって…本当にそうなのか?そうだとして、なんでそんなことが二ファに分かるんだよ。
俺は悩んでも全然分からないためこのことは一旦考えるのをやめて、今回の壁外調査で不思議に思ったことを考えていくことにした。
その疑問とは、団長の作戦についてだ。昨日までは巨人を倒しながら進行するようにという作戦だったが、今日になって、今までと真逆である、巨人を倒さずに進むように、と言い始めた。
何があったんだ?
そもそも、巨人を倒さないよりは倒した方がいいに決まっている。
何か巨人を倒さない方が良いメリットを見つけたのか?
団長が意見を変えたのは、昨日から今日の朝にかけて。
……昨日の、夜に何かあったのか?
と、すれば。
俺の部屋は調査兵専用棟だったし、となれば、団長の部屋もそう遠くない位置にあったはずだ。
二ファがあの後か、あの前、何か団長に言い寄越したのか?
だとしても、巨人を倒さないメリットはよく分からない。
いや待てよ?
パラディ島のこれからの敵は、巨人じゃなくて、マーレになる。
この前のシガンシナ区でマーレに大損害を負わせたため、それでマーレが諦めてくれればいいが…。
いや、マーレが諦めたとしても、他国がここに攻めてこない理由はない。
1つ前の人生の記憶からすると、マーレがパラディ島に攻め込んだのは、始祖奪還のこともあったが、その資源の多さというのも1つの要因であった。
だとすれば、尚更他国が攻め入ってくる可能性がある。
マーレや他国が来るとしたら、海から、陸に上がって壁まで辿り着くか、それとも空を使って入ってくるか。
そうなった時に海から陸に上がって侵入していく敵に1番有効なのは、無垢の巨人だ。
無垢の巨人をパラディ島の防衛に使う。二ファ、もしくは団長が考えたのはそういうことじゃないだろうか?
こちらは無垢の巨人の倒し方を知っているが、他国、それもマーレ以外の国だったらそうそう巨人の倒し方なんて知らない者が多いし、知っているとしても、立体機動装置が無かったら実践するのは至難の業だ。
と、すれば、下手に兵器を置いたりするよりも強い、防衛の要になる可能性がある。
そういうことだったのか、とスッキリしていると、辺り一面に砂漠のような、砂浜のようなものが広がっている場所まで着いた。
道中の巨人の陣形への侵入が少なかったため、ここまで一日で来ることが出来た。
巨大な砂浜にはしゃぐもの達がいる中、俺は、そろそろかなと思った。
前には、コンクリートで出来た防波壁のようなものが見え、1番前のハンジさんは、砂の丘を上った先で歓声をあげている。
あそこから、見えるのか。
みんなが立ち止まるせいで渋滞のようになっているその場所を見て、アルミンはワクワクする気持ちが止まらないらしく、馬をその場に繋いで、こちらに向かってきた。
「エレン、ミカサ、ノア、行こう!」
そう言ってアルミンは強引に俺たちを馬から降ろし、その馬を繋がせた後、俺たちの腕を引っ張った。
「アルミン、早く見たいのは分かるけど、ここまでしなくても…」
「だって、これは僕の1つの夢なんだ!早く見ないと、無くなっちゃうかも…!!」
「無くならないよ。」
ミカサが少し笑いながらついて行く。
俺も、アルミンに引っ張られるがまま、みんなが立ち止まっている場所まで走っていった。
ちょっとした砂の丘を超えた先は、一面の青。
海だ!
アルミンが見たいと言っていた景色。
俺が今世で1度も見たことのなかった景色がそこに広がっていた。
俺は、前世でもずっと病院にいた生活だったために海を自分の目で見たことは無かった。
マーレ戦士候補生時代は海なんて見慣れたものだったけれど、ここまで人を感動させられるものだったとは思いもしなかった。
周りを見ると、みんながみんな、口を開けて目を輝かせている。
俺たちは一瞬時が止まったかのように感じられたが、後ろから聞こえる不満の声に、現実に引き戻されたような感じがした。
「おーい、俺たちにも見せてくれよ!」「そこには何があるんだよ!」「早く見せてくれ!」
人が何十人ほどしか乗れないようなこの小さい場所で、ましてや馬に乗った人達が止まってしまっては、後ろも渋滞してしまうことは必然だった。
止まっていたハンジ団長がハッとしてから振り向いて、やっとみんなに指示を出し始めたことで渋滞はある程度緩和されたが、やはりその後の人たちもその丘を超えた後の初めて海が見える場所で立ち止まってはその人の時が止まるため、なかなか渋滞が解消されることはなかった。
それからハンジさんの指示で一旦休憩ということになり、俺たちは初めての海を堪能した。
ジャンやコニー、サシャたちは服が濡れるのも構わずに水を掛け合って遊んでいたし、先輩たちも童心に帰って遊んでいた。
兵長は何故か入ろうとしなかったけど、恐らく潔癖症によるものなんじゃないかと思う。
そして、アルミンとミカサ、エレン、俺も海の波を感じながら、あの日から追いかけていた、アルミンの夢。『海』を見れたことに対する感動を分かちあっていた。
エレンはさっきから何やら元気がないようで、何を話しても覇気がなかったが、これを見たら、元気が出るんじゃないのか?俺はそう思っていた。
前にいて、海の向こうを見ているエレンにアルミンは自慢げに話しかける。
「ほら、言っただろう?エレン。
商人が一生かけても取りつくせないほどの、巨大な塩の湖があるって。
僕が言ったこと、間違ってなかっただろう!?」
アルミンの夢が今、1つ叶ったんだ。彼がこれだけ嬉しそうにしているのも分かる。
アルミンの後ろにいるミカサの表情も、横から覗くととても嬉しそうだった。
「ああ、すっ…げえ広いな。」
しかし、エレンの返事は、海に感動しているようにも、さっきまでの元気のなさが続いているようにも、どちらとも取れるような返事だった。
「うん…!!
ねえ、エレンこれ見てよ!
壁の向こうにはっ」
アルミンの手の中には、貝殻がある。綺麗な巻貝だ。
それを見せようとアルミンが手を差し出した時、エレンはアルミンの言おうとしたことを遮った。
「海があって、
海の向こうには、自由がある。
…ずっとそう信じてた。
でも違った。
海の向こうにいるのは……敵だ。
何もかも、親父の記憶で見た物と、同じなんだ。」
エレンが泣きそうな顔でこちらを見て、海の向こうを指さす。
「なあ、向こうにいる敵…全部殺せば、
俺たち、自由になれるのか?」
エレンの自由に対する切実な思いに俺たちは何も言えなくなってしまった。
俺たち以外の、エレンの言葉が聞こえなかった兵士たちの楽しそうな声が響く度、虚しい気持ちになった。
アルミンの夢は1つ叶ったけど、エレンの、自由への夢は、遠ざかったのかもしれない。
そう、考えてしまわざるを得なかった。
更新中断してしまいすいませんでした!体調不良などリアルで色々ありまして…。
けれども、あとちょっとで完結ですのであと少しの間だけよろしくお願いします。
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