白毛のミークと俺 作:BT
第1話 リターンしてリバース
その日、有マ記念に出走する“三強”以外の誰しもが、敗北の未来を前にしてなお、不思議な高揚を感じていた。
無論、負けるつもりで走る者など一人もいない。
だがそれとは別に、自分たちは恐らく勝てない、そう確信している部分もあった。
しかし、それでも今日この場に立てたこと。
そして最高の場所であの三人が戦うレースに参加出来たことが、既に誇らしかった。
きっと今日のレースのことは、このあとも続く自らの人生の中で、何度も何度も話をすることになるだろう。
私たちはあの年の有マで。
かのシンボリルドルフとマルゼンスキー。
そして、あの『ハッピーミーク』と戦ったのだと。
なら、たとえ勝利が不可能だったとしても。
せめて、胸を張って自慢出来る走りをしようと心に誓っていた。
絶対に目を離さない。
その覚悟と意志だけは、他の誰にも負けない自負があったのだ。
雨の中はじまったレースは、おおよそ予想通りの展開となった。
三強と後続のウマ娘たちとは、既に大きく差がひらいている。
だが後ろを走るウマ娘たちは、心折れるどころか、死力を尽くして猛追する。
そして最終コーナーを回ったところで、彼女たちは横に広がった。
不思議なことだが、自然とそのコース取りをしていた。
それはまるで、各々が一番前を見やすい位置に移動するかのようで。
そして、彼女たちは見た。
赤と、緑と、そして白のウマ娘が、光の帯を引いて走る姿を。
あまりにも美しい光景。
この先どんな理由どんな場所で走ろと、自分たちは必ずこの閃光のぶつかり合いを思い出す。
たとえ人生を終えて生まれ変わったとしても、きっとこの光を忘れないだろう。
そう確信できるほどに、眩い輝きを放つ戦いがそこで繰り広げられていた。
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人生を終えたと思ったら、ウマ娘の世界に転生してしまった。
より正確にいうと、してしまっていた。
その事に気がついたのは、中学校の入学式前夜。
黒い詰襟の学生服に袖を通した瞬間、享年30歳で幕を閉じた、どこに出しても恥ずかしい前世の記憶がフラッシュバック。
マジでろくでもない人生のお手本、ほんと、思い出すだけでまた死にたい。
などと諸々のショックで自分でも驚くようなカッコいいポーズでゲロを撒き散らしてしまったが、そんなのは些細なことだ。
なぜならウマ娘は前世で一番やり込んだゲーム。
当時実装されていた全育成キャラやサポカキャラ、スキルの効果やステータスの意味に、全てのレースの攻略方法などなど暗記し。
さらにそれだけにとどまらず、実験と考察をひたすらに繰り返し、データを弾き出して発表する、俗に言う検証勢と呼ばれるほどには愛していた。
そんな世界に転生したことに気がついてしまったのだから、超ろくでもない前世の人生とおさらばできた事と含め、嬉しさのあまりスタイリッシュに嘔吐するのは当然だろう。
そこでハッとなった私は、ゲロのついた制服もそのままに。
一階の居間に駆け下り、テレビをつけた。
震える手でリモコンのボタンを押し、チャンネルを変えると、人のものではない耳を持ち、人には無い尾を持つ少女たちの走る姿が映し出される。
ああ……やはりここは本当にウマ娘の世界なんだ。
そう実感するには、テレビの映像だけで十分すぎるほどであった。
自然と胸に湧き上がる熱い何かを感じる。
この感情は……歓喜だ。
自分でもテンションがおかしいと思うのだが、今世の自分が背中の泥がはがれたまっさらな状態なら、なんにだってなれてしまうんだと思うと、興奮が止まらない。
……であるなら、ならねばなるまい。
ウマ娘を見出し、育て、勝利に導き、敗北の悔しさと、勝利の喜びを分かち合う存在。
そう、トレーナーに!!
何度でも繰り返そう。
なぜなら、ここはウマ娘が存在する世界なのだから!!
それに人生の目標を定めるには凡人であれば早いが、天才ならば遅すぎるくらいだ。
自分がどちらに分類されるかは、追々判明するだろうが……それはどうあれ、この世界に生を受けたからには自身の素質はともかく、まずは目指すのが筋のだろう。
さらに私の気持ちはもとより、もし神というものが存在するのであれば、その存在がそう望んだが故に、私はこの世界に生まれ変わったのだろうから。
まったく、粋なことをしてくれる。
サンキュー神様、もしくは女神様。
あなたの想いに私は応えて見せましょう。
そうしてその日から、私の一切合切全ての行動は、トレーナーを目指す事のみに注がれた。
当初両親や友人は私の変わりように少し驚いてはいたが、中学生になって心機一転した程度にしか思わなかったのだろう。
中学生というものが、そういった年頃だからというのもあるが。
余談だが、今世も人息子だったことには感謝するべきか。
男性至上主義というわけではなく、慣れ親しんだ前世の性別である方が、余計な労力を割かずに済む。
時間は限られているのだ。
大真面目な話、トレーナーになるのが一年遅れれば、その分かつてゲームで育成したウマ娘を実際に育成できるチャンスを失ってしまう。
それだけは何としても避けなければ。
幸い、ゲームのウマ娘で登場したキャラがデビューした形跡は今のところないし、テレビに映っているウマ娘の名前を見るに、世代が古い。
計算上、最短でトレーナーになれれば、あの皇帝シンボリルドルフをスカウトすることだって可能なはずだ。
さらには私が介入すれば、彼女が手にする冠の数を増やすことだってできるかもしれない。
そんな未来を想像するだけで無限に湧いてくる熱いパッション。
最高のトレーナーに俺はなる!
自身から湧き出る熱い風を背に、私は夢に向かい走り出す。
その先にあるのはきっと、まだ見たことのない素晴しい景色だと信じて。
そして月日は流れ。
幸い、と言うべきか。
この身にはコネと才能と運+αがあったらしく。
計画通り最短でトレーナー資格を手に入れた私は、その日ついに、念願だった中央トレセン学園の門の前に立った。
ああ、この先にはあのウマ娘たちがいる。
さあ行こう、ここから先はリセマラ不可能な一期一会の連続。
だが私なら、どんなウマ娘を担当することになろうと問題ない。
なぜならこの身は女神に望まれた、完全無欠のトレーナー(予定)。
必ずや、担当する事になるウマ娘をあらゆるレースで勝利に導き。
育成するウマ娘が望むだけの冠を与えよう。
そうして、やがてはそんなウマ娘たちを束ね、最強のチームを率いる存在になることだろう。
実はチーム名は既に考えてある。
中央トレセン学園では、チームの名前に星の名前をつける。
一等星に二等星、そして三等星。
だがどんな星にもそれぞれの物語がある。
無論私が考えたのは、これから積み上げるであろう実績。
それに恥じない星の名前だ。
そんな、これから始まる伝説に胸を躍らせ。
私はその日、中央トレセン学園の門をくぐった。
とまあ、そんな初々しかった姿も今や過去のもの。
三年という月日は、私の燃えさかる情熱に身の程という消火剤をぶちまけ。
現実という重機で心をぐちゃぐちゃのバッキバキにへし折るには充分すぎる時間であった。
完全無欠のトレーナー?
とんでもない。
私以上に“不完全”なトレーナーなど、この世にいない。
記憶が戻った瞬間に戻れるなら、今すぐ戻りたい。
せめて伝えたい、やめろ、その夢を掴もうとするのはやめろと。
お前はトレーナーになってはいけない人間なんだと。
本作はゲームのサービス開始から一年目くらいの知識で書いています。
一部のG1レースがなかったり、ステータスのインフレやスキルが古かったりします。
また、書き手の力不足で、原作(ゲームやアニメ)と違う、もしくは間違っている設定や違和感のある内容の部分がありますが、ご了承いただけますと幸いです。