白毛のミークと俺   作:BT

7 / 15
第一章 幕開けのジュニア
第7話 育成は数だよ兄貴


 

 ハッピーミークとの担当契約を申請して一週間。

 ようやく学園側の許可がおり、同時に様々な書類を渡された。

 

 その中に現在使用できるトレーニング施設の一覧表があったので、ざっと目を通してみたが、はっきり言ってショボい。

 

 ただ、これは嫌がらせの類などではなく、実績に応じたごく普通の対応である。

 上位のトレーニング施設を使うには、一にも二にも実績が必要だ。

 

 一般論として実績が無いということは、能力が無いことと同義である。

 

 高負荷をかける上位のトレーニング設備は、同時に危険もはらんでいる。

 能力の無いトレーナーが、担当するウマ娘のレベルに合わない設備を使用させて、怪我をさせる可能性だってあるのだ。

 

 そもそも私はペーペーどころか、評価がマイナスであるトレーナーだ。

 施設の使用許可が出ただけでも、感謝してしかるべきだろう。

 

 それに、今現在使用できる施設でも、自前で用意するならとてつもない予算がかかる。

 実際地方の上位トレーニング施設が、中央の一番グレードの低いトレーニング施設と同じものだと言えば、その違いがわかるだろう。

 

 恐ろしきかな中央、舐めてはいけない。

 

「……ここ、どこ?」

 

「私が個人的に所有するトレーニング施設だね」

 

 もっとも、だからといってその状況に甘んじるつもりはないわけだが。

 

 目の前に広がるのは、ちょっとした体育館程度の大きさの建物がいくつか。

 そしてその向こうには、一周800mほどの芝・ダート、そしてウッドチップのトラック。

 

 実績が無いと学園の最上位設備が使えないのなら、同じものを自前で用意して使えばいい。

 

 なんならついでに、それら設備を設置する施設ごと作ってしまえばいい。

 そのほうが、学校に設置することによって起こるトラブルも防げる。

 

 いつか持つチームのため、そして担当するウマ娘たちには不便をかけないようにしたい。

 そう思って三年前からコツコツと、学園からそう遠くない場所に作ったのがここだ。

 

 さすがに土地の関係で、2000mクラスのコースを作る事は難しかったが、それ以外の部分ではほぼ学園の最上位設備と同等である。

 

 本来なら使う予定もない無用の長物になるところだったので、どこかに売却することも視野に入れていたのだが。

 幸か不幸か、ミークと契約できたおかげで日の目を見ることになった。

 

「……使い放題?」

 

「今のところミーク専用だから、実際その通りだよ。それと一週間近く待たせてしまって申し訳なかった、色々と準備することがあってね。だが今日からはここで本格的なトレーニングを始められる」

 

 ミークの尻尾が先ほどよりこころなしか、ぱたぱたと左右に揺れている。

 喜んでくれたのなら嬉しいし、今後はこの施設を使ってミークにはどんどん強くなってもらおう。

 

「ああ、それと紹介したい人たちがいるんだ」

 

「……?」

 

 施設の中に入り、ミーティングルームのプレートがつけられた扉を開ける。

 簡単な講義くらいはできそうな室内。

 

 そこには既に、十人以上のウマ娘たちが待機していた。

 

「ミーク、こちらサポーターの皆さんだ。他にも施設の維持管理や法務に事務、あと警備や資材の運搬調達なんかに関わってくれてる人たちといるんだけどね。ここにいるのはその中でもトレーニング補助や戦略立案……まあチームメンバーだと思ってくれていい」

 

「……???」

 

 口を半開きにして、ポカンとした様子のミーク。

 しまった、もしかして必要以上に驚かせてしまっただろうか?

 

 ミークはしばらくして正気に戻ったが、今度は十人以上のウマ娘の視線を受け、ピンと尻尾を立てて私の後ろに隠れてしまった。

 

「えーっと、水野トレーナーさん? その子がハッピーミークちゃんみたいだけど。その……もしかして私たちのことを、きちんと説明してなかった感じかしら?」

 

「……なにも、聞いてなかった」

 

 サポートメンバーの一人が、まさかまさかといった様子で聞いてくると、私より先にミークが答えを返す。

 

 初対面のはずだが、なんという連携。

 早くも友情トレーニング発動だろうか?

 

「その……はい。少しサプライズをしてあげたくて、ははは」

 

 ミークを含め、室内のウマ娘たちから一斉に非難が混じった視線を向けられた。

 人間相手なら百人同時に殺意を向けられても受け流せるのだが、ウマ娘からだと思った以上にこたえる。

 

「……すまない、ミーク。トレーニングがようやく始められそうで嬉しかったからか、少し急ぎすぎてしまったようだ」

 

 ので、大人しく謝罪する。

 

「……なら、いいよ」

 

 お許しをいただけたので、一安心。

 先ほど話しかけてきたサポートスタッフに、目配せする。

 

 彼女は私の視線を受け止め、やれやれと言ったようにため息を吐くと、ミークに向かって右手を差し出した。

 

「はじめましてハッピーミークさん、チーフサポーターのウラカワよ。そしてこの場所にいるのはみんな、あなたのトレーニングをサポートするために、そちらの水野トレーナーさん直々にスカウトされたメンバーたち。自己紹介は追々させてもらうけど、ひとまずは代表して挨拶させてもらうわ。よろしくね~」

 

 ミークは差し出された手と、ウラカワさんの顔の間で視線を行き来させ、やがてゆっくりと手を差し出して握手をする。

 ミークの手をやさしく両手で握り、ニコニコと愛想のいい表情を浮かべるウラカワさん。

 

 その様子に、ミークの緊張も和らぐ。

 想定通り相性は悪くないようだ。

 

「今後何かあれば、基本私かウラカワさんに相談するといい」

 

「……わかった」

 

 場合によってはサポートメンバーの総入れ替えも想定していたが、おそらくこのメンバーで問題ないだろう。

 様子を見るに、メンバー間で何かあっても、ウラカワさんなら対処できる能力はあるはずだ。

 

 真っ先にスカウトしただけあって、やはり優秀なウマ娘だ。

 そしてまた、その様子をほほえましく見ているほかのスタッフも、問題なさそうである。

 

 当然、伊達や酔狂で彼女たちをスカウトしたわけではない。

 

 ゲームでもそうだが、ウマ娘はチームメンバーなどと一緒に練習することで、よりトレーニング効果を高めることができる。

 

 だがゲームでは、いてほしい場所(各五項目のトレーニング)にいてくれないことが多い。

 これはゲーム的にはランダム要素が関係するからだが、現実的に考えても、相手に都合がある以上当然のことでもある。

 

 こちらがトレーニングしたい時に、相手が毎回同じトレーニングをするとは限らないのだ。

 

 しかし、もしその配置場所をこちらの自由に設定できるとしたら?

 答えは簡単で、練習毎に友情トレーニングに近い効果を発揮する、だ。

 

 たとえ絆と呼ばれる、ウマ娘間の親密度が高まっていなくても、いてくれるだけで効果は少なからずある。

 無論、十人がかりでミークの筋トレを見守るみたいな暑苦しい構図は避けたいので、どういう形でどの程度関わるかなどは随時考える必要があるのだが。

 

 まあ言い方は悪いが、これこそ数の力で他のライバルを圧倒する有力な育成法だ。

 

 ならこの方法を、多少無理をしてでも、学園のウマ娘たちだって試せばいいのではと思うわけだが。

 その日に最適なトレーニングはウマ娘によって違うし、毎回それにほかのチームメンバーを付き合わせることは、やはり非常に難しい。

 

 また、たとえ名家や資本がバックについているウマ娘でも、この方法で訓練を行うのは、そのウマ娘の資質を早い時期に見抜くことが難しいのもあり。

 おまけにウマ娘同士の相性もあってか、必ずしも効果を見込めるとは限らないことから、非常にコストパフォーマンスが悪い。

 

 ただ、東条トレーナークラスになると、そのあたりも踏まえて各ウマ娘のトレーニングを決めているはずだ。

 それこそが、優秀なトレーナーと強いチームメンバーがそろっているチームが強くなる理由でもある。

 

 ただ理論的に体系化されてるわけではないので、実践する場合はセンスや素質に経験が必要になるのだが。

 推測だが、トレーナーとしての凡と非凡の差は、この部分がかかわってくる可能性が高いとにらんでいる。

 

 もっとも私の場合は、授かった能力もあって、ある程度可視化できるわけだが。

 

 なのでこの一週間、事前に調査していたデータをもとに、ミークと相性がよさそうなトレーニング設備の専門家だったり、引退した重賞ウマ娘。

 もしくはトゥインクルシリーズを走り切り、あとは卒業を待つだけとなったウマ娘のスカウトに奔走していた。

 

 もともとウマ娘たちのセカンドキャリアもかねた雇用を作りたいと思っていたので、ある意味一石二鳥。

 

 まあ、ついこの前まで絶望してこの世からおさらばしようと思っていた男がなにを言っているんだという話だが。 

 それでも、去る前にせめて何かウマ娘のためにできることはないかと、考えて計画していたことの一つをうまく利用した訳である。

 

 え、ところで施設含め、いったいどれだけの資産を使ったのかって?

 ……ははは、なぁに、金ならありますよ。

 

 

「では気を取り直して。我々のチームはこれより、このハッピーミークのための育成プロジェクトを開始いたします。目標はいたってシンプル。三年でG1をとれるだけとる、以上です」

 

「いいわねぇ、わかりやすくて最高な目標」

 

 笑顔で楽しそうに、そう口にするウラカワさん。

 他のサポートメンバーも似たような表情を浮かべている。

 

 まあ本気でそれが出来ると思っているメンバーは、現状少ないだろう。

 

 だが、少なくともこちらが本気でやる覚悟だということは、支払っている報酬や設備を見れば伝わっているだろうし。

 なによりスカウトの際にも、こちらがどれだけ本気なのかは伝えてある。

 

 ここにいるのは報酬の高さを抜きにしても、私とミークの夢を笑わず、それでも付き合ってくれると言ってくれたウマ娘ばかりだ。

 

「どうも。トレーニング部分の詳細は後ほど改めて説明しますが、まず年内出走レースのスケジュールとしては、6月後半のメイクデビュー戦で勝利。そしてトレーニング期間を経た後、まずは最初のG1レース『朝日杯フューチュリティステークス』を取り、次に『ホープフルステークス』に挑む。これが年内の予定になります」

 

「G1とる前に、せめてG3やG2のレースで勝ち星拾っておいたほうがよくないかしら?」

 

「それも考えましたが、戦略や演出の関係もあってG1だけに狙いを絞ります。二つのG1レースの出走登録についても問題ありません。学園と運営には、メイクデビューさえ勝利出来たら、登録条件はクリアとする旨の確約を書面でとってありますので」

 

「ならそのレース前には……マイルと中距離を想定した実戦訓練を積んだほうがいいわね。わかった、その認識でサポートメンバーのスケジュールを組むわ」

 

「よろしくお願いします」

 

 その後、ほかのサポートメンバーからもいくつか質問が上がり、一つ一つ答えを返す。

 しばらくして、細かい質問が混ざってきたため、ウラカワさんに取りまとめをしてもらいながら、各自で小休止の時間をとることにした。

 

 すると、隣でじっと話を聞いていたミークが私の服をかるく引っ張る。

 見るとどこか不思議そうな表情を浮かべたミーク。

 

「どうしたミーク?」

 

「……みんな……私が絶対勝つ前提で……話してる」

 

「当然だよミーク、約束しただろう? 抱えきれないほど沢山の冠を手に入れようって」

 

「……うん」

 

「私はミークなら、それが出来ると信じてるし。サポートメンバーもそのつもりで関わって欲しいと伝えてある。だから……ミークも信じてくれると嬉しい」

 

「……ん、がんばる」

 

「ありがとう、ミーク」

 

 少しだけ不安そうな表情をしたミーク。

 だが私の言葉を聞くと、表情を引き締め両手を握り、ふんすと気合を入れるポーズをとる。

 

 突然見知らぬ施設に連れてこられ、見知らぬウマ娘たちに囲まれ、自分の育成について始まったミーティングを聞かされる。

 非常に反省すべきだが、冷静に考えれば異常な状況といえる。

 

 だがミークは、その異常な状況にすでに順応し始めている。

 素質の関係もあるのか、肉体だけでなく、精神的な適応力も非常に高い。

 

 そんな優秀なウマ娘であるミークを、わずかでも不安がらせてしまったことに、ひどい自己嫌悪が湧き吐きたくなった。

 

 まったく、ミークと違い私は精神的な部分がもろすぎる。

 いまさらだが私という人間はトレーナーに向いていないと、あらためて痛感させられるな。

 

 だが……信じてほしい、ハッピーミーク。

 

 伝説になりたい。

 そう言ってくれた君の夢は、何があろうと必ず叶えてみせる。

 

 その為に私は、持てる力の全てを君のために使う。

 結果、私の精神が壊れてしまうことになろうと、必ずやり遂げる。

 

 そう、()()()に私は決めたのだから。

 

「じゃあトレーニング施設を一通り見たあとに、着替えてサポートメンバーのみんなと、軽く走ってみようか」

 

「……わかった」

 

「いい返事だ。あとそんなに緊張しなくても大丈夫だよ。これから三年間一緒にやっていくわけだから、色々とお互いのことを知る意味も兼ねて走る感じだからね。まあレクリェーションと思ってくれたらいい。……そうだ、丁度いいから私も一緒に走ろう」

 

「……トレーナーさん……も???」

 

「ああ、私も一緒だよ、ミーク」

 

 担当のウマ娘と一緒に走る。

 トレーナーになったら、やってみたかったことのひとつだ。

 

 まさかこんな形で叶うとは、この前まで思ってもみなかったな。

 おまけに私の担当バは、あのハッピーミークだ。

 

 いまだ罪の意識は消えず、後悔は積み重なり、自己に対する嫌悪は増し続ける。

 だからといって楽しんではいけない、いや、楽しめないわけではない。

 

 それに嘘をつくことは息を吸うより自然にできるが。

 私がわずかでもそういった気配を出せば、ミークは気づくかもしれない。

 

 なら本音を本音で塗りつぶす。

 

 どうせやるならとことんだ。

 やりたかったことを全てやりつくそう。

 

 壊れたり絶望するなんて贅沢は、ミークが夢を叶えるまでお預けだ。

 




※タイトル全体で以下加筆修正を行いました。

・第1話冒頭に、未来のレースシーンを追加。
・第2話の二人の出走制限について、表向きの理由を加筆修正。
・新理事長を秋川やよいからその親族(父親?)に変更。
・学園理事会とトゥインクル・シリーズ運営の統合組織URAが形骸化していたため、前理事長がそれを立て直した旨の一文追加。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告