こんなの書いてたらウマ娘警察(過激派)に怒られるだろうな
先頭のもっと先…
誰も見たことがない景色へ!
[サイレントイノセンス]サイレンススズカ
「走ってきて良いですか?」
■
昼。
あいも変わらずトレセン学園の敷地内にも関わらず、一番端っこに立て付けられているせいでウマ娘の一人もやってこない閑散とした場所にある緑の倉庫。
そこから水が撒かれる音とブラシで擦り上げる音が響き渡る。
いつもは人一人が通れる程度に開けられている大扉も今は解放され、そこから虹色に変色した水が流れ出し、直ぐ目の前の金網で塞がれた排水路に流れていく。
今現在、倉庫内は相変わらず全員緑色の作業着の木郎、陸人、兎人の三人で、前回そのまま放置されていた大量のペンキの掃除を行っていた。
しかし擦っても擦っても中々落ちないペンキ汚れに嫌気がさした兎人が、口を開いた。
「俺もうこんな仕事ヤダ!」
「は?」
思わず素の返しをしてしまう陸人。木郎はブラシの手を止めることなく「またか」と相変わらず無表情でつぶやいた。
まぁ良い気分転換になるだろうと未だにブラシを振り回しながら駄々をこねる兎人に尋ねる陸人。
「逆に聞くけどお前はどんな仕事したいんだよ」
その言葉を待ってましたと言わんばかりにブラシを投げ捨てて、どこから取り出したのかサングラスをかけると。
「よくぞ聞いてくれた!!」
「ブラシ拾ってこい」
するといきなりスイッチが切り替わったかのようにトボトボ歩き出し、ブラシを拾って元の位置に戻る兎人。
そして何事も無かったの如く。
「よくぞ聞いてくれた!!」
「…おう」
もうこの際些細なことは無視しようと心に決めた陸人。
対して兎人はデッキブラシをまるでスタンドマイクを扱うの如く振り回し。
「俺はこう!…クリエイティブで人の役に立つような仕事がしたい!」
「ここの掃除終わったら仕事紹介してやるから続けろ」
その陸人の言葉に顔を満面の笑みにして。
「分かった!」
と掃除を再開する兎人。
その光景に一度手を止めて陸人に近づく木郎。
「陸人ってそんなに顔広かったんだね。どこ紹介するの?」
「ここ」
クリエイティブ→撮影編集、設備維持、何よりこの世で注目を集めるウマ娘関連の仕事
人の役に立つ→結果として役に立たない仕事はない
「嘘は言ってないね」
「嘘は言ってないだろ?」
「どうしたの?」
「良いから続けろ」
「分かった」
約一名が詐欺に近い被害に遭っている中、三人向かって外から忍が顔を出しながら声をかけた。
「ヤァヤァ皆の衆頑張っておるかね?」
その手にはいくつかの茶封筒が握られており、恐らくつぎの撮影の資料などが入ってるのであろう。
「おかえり忍。理事長はなんて言ってた?」
「この間のスペちゃんの撮影費の領収書見せたら『高額っ!』って言いながら扇子に驚愕って出てた」
エアグルーブのやる気が下がった。
「んでつき返されと」
「つき返されたけど、『新品で買った耕運機でテンション上がってエンジンぶっ壊したのを直したの誰でしたっけ?』って言ったら快く清算してくれた」
「泣いてなかった?」
「海外行った時も泣いてたからいつも通りだろ」
「忍!俺この仕事やめる!」
「おう、元気でやれよ」
この男、血も涙もない。
意気揚々と掃除を続ける兎人を放置して、忍がそういえば…と茶封筒から何枚かの紙を取り出した。
「さぁ皆さん、新しいお仕事ですよ」
■
「サイレンススズカです。よろしくお願いします、草の皆さん」
「よろしくねスズカちゃん、その呼び方誰から教わった?」
草の倉庫の編集室で椅子に腰掛けながら五人は話を開始した。
どこか掴み所のないテンション…というよりかなりおっとりとした口調で話すサイレンススズカに対して、いきなり未だみえない第三者を聞き出そうとする忍を宥めながら木郎が続ける。
「スズカちゃんは今回PV撮影ということでここに来たわけだけど、自分でこう言ったモノにしたいとかのイメージは出来ているかな?」
その問いかけに、当の本人は少し困り顔で答えた。
「イメージ…ですか、そうですね…」
少し間を置きながら視線を落とし、テーブルに置かれているボールペンを見つけると片手で取り上げる。
「PVっていうのは、皆さんに私自身を紹介するためのものだと思うんですけど、私は皆さんに自分の何を紹介したら良いのか分からなくて」
そう言いながら片手に持ったペンをゆっくり…けど少しづつ早く回転させていく。
基本左回りで回転していくペンは、段々と回転数が上がっていき、おおよそ人間の目では追いきれなくなっていく。
「そこまで得意な事もないですし…」
「って言っておきながら超高速でペン回ししてるんだけど揶揄ってる?」
一旦ペンを置かせて話を続行する。
「そうさなぁ…例えば私はこれが好きとか」
「好物、だと大福でしょうか」
「ソレは一旦置いとこう」
「それ以外だと月並みですがニンジンとか…」
「食い物から離れろ」
意外にも今までの撮影したウマ娘達にこういったケースの子達は少なかったため、今回に関しては四人も少し手間取っている。
というよりもここまで来ると自己顕示欲の欠如といった別の心配事が増えてきそうな為、なんとか話をレールに載せたい。
「それじゃあ一発芸とかないかな?」
兎人のその一言に、三人は一斉にサイレンススズカに目を向ける。
一発芸の趣味趣向によっては、その傾向でパターンを組めるため各々が期待する中、いきなりの無茶振りにより目が点になるサイレンススズカ。
「一発…えっと、えー」
その振りになんとかして答えなければと、基本真面目気質な彼女の脳は何かないかと部屋中に視線を配り。
そういえばさっき好物の話したなと一瞬で過去の話に頭が持っていかれる。
結果。
腕を頭の上に持っていき丸を作り。
「い、いちご大福!」
瞬間、その場が凍りついた。
少しの沈黙の後、サイレンススズカは立ち上がり扉のドアノブに手をかけ。
「少し走ってきます」
『待て待て待て待て!!』
−数分後−
なんとかサイレンススズカを落ち着かせて席に戻ってもらい、突拍子もない提案をした兎人を半殺しにして話は再開した。
「それじゃぁスズカちゃんはさっきの言動からして走るのが好きなんだね」
「好きというよりは気づいたら走っていると言いますか」
「どこの戦闘民族だよ」
「先頭民族」
「誰うま」
すると忍が少し考えた素振りを見せてサイレンススズカに向き直る。
「それならスズカちゃんのPVは走っている姿を全面に押し出した感じにするのはどうかな?」
その提案に少し考える素振りを見せる。
「そんな感じの映像でも良いんでしょうか?」
「まぁそこは俺たちの腕の見せ所ってことで」
その返答に少し顔が綻んで頷いて見せるサイレンススズカ。
やはり本人もこの話のゴールが見えてきて安心しているのだろうか。
「んじゃ問題はどこを走るかだな」
「普通にターフでいいんじゃないか?」
「自然の土埃の方が疾走感が出ていいんじゃね?」
「公道を全力疾走する訳にはいかないしな」
その意見の飛び合いに背筋を伸ばして手を上げるサイレンススズカ。
「はいどうぞスズカちゃん」
「わ、私…その、できればすごい長い直線を走ってみたいです」
「直線かぁ」
忍がそのお願いにつぶやいた。
ダートで直線が長く、オマケに全力疾走しても法的にも近所にも迷惑にならない場所。
■
次の日
日の入り直前
「いやー理事長ありがとうね」
「愚問!ウマ娘のためなら現在使用していない畑を貸し出すことなど問題にはならない!」
トレセン学園の…と言うよりも、理事長の秋川やよい個人の畑を前日に借りれないかと交渉したところ、二つ返事で許可してくれたのだ。
実際にやよいは、言葉通りにウマ娘のためなら労を一切惜しまないタイプだ。
だからこそ、そこに付け込んで…というと聞こえは悪いが、それも見越した上での交渉だったが大成功。
しかし何か思う所があるのか、少し顔を強ばらせながらやよいは続けた。
「だがしかし!!」
閉じた扇子を畑…もとい、現在綺麗に芝生とダートの一本道が敷かれた元畑に向けて。
「驚愕!一夜にして芝生とダート道の施工をするとは聞いていない!」
「言ってない」
「鬼畜か」
「明日には畑に戻すからさ」
「残業確定だな」
「にしても広かったよね、コレ大きさどんくらい?東京ドーム何個分?」
「マク●ス2機分」
「デッカ」
「この狭い日本の何処にそんな広大なスペースあるんじゃ」
「冗談だからな?一機分だからな?」
「どちらにしろデケェよ」
たった一夜にして土を休ませるために放置され雑草が目立っていた畑を、芝生を綺麗に敷きまるで昔からそうであったかのように踏み固められた土色剥き出しの獣道にした四人。
「疑問!第一あの重機はどこから持ってきた!」
視界の端には泥だらけのスコップやショベルカー、ホイールローダー。ダンプトラックやブルドーザーにモーターグレーダーなど、正直言って日常生活では絶対に見ないし覚えないし使わない特殊車両のオンパレードになっていた。
おそらくこの後に畑に戻すために使うであろうリテラなんかも端に置いてある。
本来ならこれらの重機を持ってくるだけでも1日かかる。
なんで施工も含めて全部1日で終わってるんだろうね。
サイレンススズカに至っては勝負服に着替え終わってそれらの重機を目を点にして眺めている始末だった。
それに対して忍はあっけらかんと答える。
「知り合いに壊れたから貰ったものを修理したりしてたらああなってた」
「譲渡!?それよりも、不明!あの重機は倉庫に入らないだろう!」
その問いに今度は木郎が驚いたように。
「倉庫の裏にいつも置いてあったよ?」
「学園の土地私物化してんじゃねぇよ」
木郎の言う通り、いつもは倉庫の裏手に鎮座しているのだが、当たり前のように倉庫がデカい上に裏手など回る用もないので本来は気づかないのも無理はない。
「本当に元に戻るんだろうな!!懇願!!懇願!!」
「大丈夫だって、土だって元に戻さないといけないんだから」
「懸念!第一あの土はどこから持ってきたのだ」
「トレセン学園って所々に芝が剥き出しやん?」
「…」
■
「会長!!」
生徒会室の扉を乱暴に開いて顔面蒼白で現れるエアグルーヴ。
中でコーヒーを啜っていた会長…シンボリルドルフは落ち着いた様子で顔を上げる。
「どうしたエアグルーヴ。鶏犬不寧とは君らしくない」
「お、落ち着いていられますか!会長もご覧になったでしょう!」
駆け足で生徒会室の窓に駆け寄り、締め切られたままのカーテンを徐に開くエアグルーヴ。
「見てください!学園のターフ以外の芝が全て…全て撤去されているんです!」
外を見れば本来であれば手入れされた芝が所々に散見されていたが、今は完全に土が剥き出しになっている状態。
しかも校舎裏や人目が付かない場所に至っては木も撤去され土が1メートルほど抉られている状況であった。
「これを見てなぜ会長は落ち着いていられるのですか!?」
と、もしくはこの惨状を見て、あの皇帝と名を知らしめたシンボリルドルフで持ってしても気が触れてしまったのかと…そう思ってしまう程に状況は深刻であり、双方の温度差に更にエアグルーヴは混乱する。
…が、ふと目をやると生徒会長の席。すぐ目の前の机に一枚の紙切れが。
【ごめんルドルフちゃん。1日芝と土を借りるね!】
【明日には元に戻すから(笑)笹原忍より】
「(笑)じゃなぁあああああああああああああああああい(怒)」
エアグルーヴはキレた。
女帝というよりも魔王と形容した方が無難な表情を浮かべる彼女に対して宥めるように声を掛けるシンボリルドルフ。
「落ち着けエアグルーヴ。彼らはそこまで放蕩三昧な者たちではない。第一去年の秋にアグネスタキオンの実験で半壊した寮(人的被害ゼロ)の復旧ですら彼らは1日で終わらせてしまったじゃないか」
「ソレとコレとは規模が違います!」
あまりの惨状とシンボリルドルフの落ち着き具合。そして草の者達に対する蓄積された鬱憤が今爆発したかの様に間を置かずに口を開くエアグルーヴ。
「そもそも会長はあの人達に甘すぎるんです!何か袖の下でも渡されたんですか!?」
「おいおい、そう言ってくれるな、そんな事−−−」
エアグルーヴは知らない。
シンボリルドルフの机の中には、忍から渡された
【あの伝説の師匠も絶賛!今年の最も評価された駄洒落100選】
というタイトルの本があることを。
「−−−ない」
「今の間はなんですか」
■
「粛清!!」
「だから明日までに元に戻すからさぁ」
「ウチのリーダーは鬼畜」
■
いよいよ撮影が開始されるサイレンススズカのPV撮影。
セリフ等に関してはまだ考えていないが、それは後に別で収録するとの事だったので今は走りに集中することにした。
一度大きく深呼吸すると走るための自身のスイッチが入り、それまでどこか上の空だった表情も一気に引き締まる。
一歩。
地面を蹴り上げぐんぐんと加速していく自分の体。
日も少し顔を出し始め地平線と合わさり道の途切れが遥か彼方にある様に感じる。
足は持つか?息は続くか?
そんなことは構わない。
ただ誰も見た事がない、先頭のその先へ−−−−−
−−向かおうとするサイレンススズカに全力疾走でカメラ片手に並走する兎人。
「ヒィ!ヒィ!ヒィ!」
足はもう限界。息は途切れ途切れ。
お願いだから止まってください。
せめて一回休憩を挟んでみませんか?
そんな無駄口叩くんだったら走ることにエネルギーを使ったほうがまだ建設的だった。
ソレ以前にもう既に他のメンバーはゴール地点に向かってしまったため、どちらにしても辿り着かない事にはこの地獄は終わらない。
ヒト息子が人力でウマ娘の走力に追いつかないといけないとかどんな拷問なのだろうか。
むしろドローン使った方が良いんじゃないかと思うが、今現在で草の倉庫が所有しているドローンではサイレンススズカの足の前に敵わず千切られてしまうため意味がない。
じゃあ最新のドローン買ってくれよと言いたいが
「ここまで畑めちゃくちゃにしておいてドローン追加で買ってくださいって言えなくてさぁ」
絶対嘘だ。
面白くてやっている。俺には分かるんだ。
「クソッタレぇええええええええええええええ」
−約2分後−
日も完全に顔を出し、あたりがソレなりに明るくなってきた頃。
直線を完走し切ったサイレンススズカは何故か走り始める時よりも肌の艶が上がっている印象を受けるが、何よりも問題なのは残り100m地点で完全に力尽き倒れた兎人だった。
顔面から盛大にダイブしたため顔は埋まっており、なんなら某団長のポーズで俯せに力尽きていた。
が、そんな事はお構いなしに三人は兎人に近づき。
「おう、また団長のポーズで倒れてんのか」
「またってなんだ」
「てか凄いな、全力疾走のスズカちゃんにギリギリまで併走してたじゃん」
「この直線2キロあるんだけど」
「ちょっと高松宮記念走ってこいよ」
「1200だったら勝てんじゃね?」
「…コヒュー…コヒュー…と、止まるんじゃねぇぞ…」
「分かった、じゃあな」
「元気でな」
「お前は何方かと言えば嫌いだったよ」
「立ち止まって下さいお願いします」
■
翌日
前日にターフ以外の芝が消えて問題になったが翌日の朝には元に戻っており、学園内では三女神の悪戯…なんて噂も立ってはいたが、エアグルーヴの目の前に事実が文字通り立っていた。
【お返しします】
たったそれだけの文面だけなのにエアグルーヴは頭痛がした。
なんなら噴水周りに何処から仕入れたのか花が植えられており、制服姿のウマ娘がキャッキャしているのを見ながら、自分も水を撒くためのジョウロを持っていることにため息を吐く。
「一体なんだったんだ」
自分で書いてて
翌日登校したら校内の土消えてたらテロだな
って思った
いやまぁほぼテロみたいなもんなんだけど