ヲタクの愛は難しい   作:紅乃 晴@小説アカ

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廃人格ゲーマーとの出会い

 

 

二藤宏嵩は俗に言うゲーム特化型オタクである。

 

ゲームというジャンルは大抵上手く、特にソロプレイや対人ゲームについては無類の強さと技量を持つオタクであり、好きなゲームの新作が出れば次の日が仕事であろうが夜通しゲームをプレイし、連休になればご飯を食べることすらやめて、文字通り倒れるまでゲームに没頭する猛者だ。

 

そんな廃人ゲーマーである宏嵩には彼女がいる。桃瀬成海。彼女もまたオタクであり、漫画の同人活動、ゲーム、コスプレ、アイドルとオールラウンドに楽しめる立派な腐女子であった。

 

紆余曲折あって、二人はオタクカップルとして付き合っており、本日は成海の希望で大型ショッピングモールに入るアミューズメントパーク……またの名をゲーセンへデートに来ていた。二人は仲良くプリクラやらアイスホッケーなどを楽しむ……という訳でもなく、発案者の成海には明確な目的があった。

 

「宏嵩!見て見て!新しいやつ!」

 

クレーンゲームエリアで、キャッキャッと特用菓子やぬいぐるみなどが景品にある台には目もくれず、一直線に成海が向かい見つけたのはフィギュア景品のクレーンゲームである。ケース内に飾られているフィギュアを左右上下、斜め上や下から観察する成海に、相変わらずの無表情顔の宏嵩が問いかけた。

 

「成海、造形はどう?」

 

「良き出来ですなぁ……うむむ、ここは資料用に一つ」

 

「御意」

 

そう言って宏嵩に台を譲る成海。そのフィギュアのキャラは今期大注目のアニメの主要キャラであり、成海は夏のイベントにそのジャンルの本を描く予定だ。まだ資料なども世に出回ってないので、造形が細かなフィギュアを狙ってここにやってきたのだ。そこに一般的な恋愛価値観など通用しない。すべては自らの趣味への作画と自己満足を満たすためのツールなのである。

 

メガネをクイっと上げた宏嵩は台に500円を投下。ワンプレイ200円だが、500円を入れれば三回プレイできる。だが侮ることなかれ。フィギュアの箱は重い上にクレーンのアーム強度は貧弱。一度で取るなど至難の業で何度かアームによって箱を押すことで落とすというのは定石となっているのだ。

 

「成海、予算は?」

 

「3千円以内でオナシャス!」

 

「りょ。じゃあ千円で目指すか」

 

そこからの宏嵩の指さばきは神掛かっていた、と後ろから見ていた成海は語る。瞬く間のうちにフィギュアの箱を移動させ、ジャスト千円。6プレイで目的のものをゲットすることに成功したのだった。

 

「さっすが宏嵩〜!ゲームをやらせたら右に出る者はいな〜い!」

 

景品を取り出しながら成海がそういうと、まんざらでもない様子で宏嵩もメガネをクイっと上げていた。他のゲームだと手加減だとか接待プレイという言葉を知らぬ宏嵩相手に成海がついていけるわけもなく、宏嵩自身もゲーセン筐体をやり込む派でもないので、あとは適当にクレーンゲームエリアを周ってから帰宅し、お家デートに移行する予定だった。

 

二人がゲーセンから出ようとしたあたりで事態は変化する。気がつけば宏嵩が足を止めて一方向をじっと見つめている。成海も彼の視線の先を追うと、ゲーセンの一角であるイベントが催されていた。

 

「格ゲー大会?へぇーストブレじゃーん!宏嵩やってたよね?」

 

ストブレ、別名ストリーム・ブレイクという長年続く格闘ゲームだ。

 

初代は宏嵩たちが生まれる前のレトロゲームまで遡り、幾つものバージョンアップと仕様を変化させることで、今の時代でも色褪せない格ゲーとして人気を博していた。

 

成海が言う通り、宏嵩もストブレは履修済み。一時は「ヒロP」というユーザーネームで、ゲーセンに通うほどやりこんでおり近場のゲーセンで月間王者にランクインするほどの実力を持っている。いまは最近販売された家庭版で宏嵩は楽しんでいる。彼曰くそこそこのプレイスキルというが、成海から見れば、そのコマンド入力な手感は異次元レベルであった。

 

ふと成海がストブレのイベント主催のポップアップを見て、顔色が変わった。優勝商品は今いるショッピングモール限定で使えるお食事券、しかも3万円相当だ。

 

「飛び入り参戦もできるって!やろうよやろうよ!」

 

目の色を変えた成海の提案に、宏嵩も指をコキコキ鳴らして頷いた。

 

「まぁ、彼女に良いとこを見せるのも彼氏の役目だし」

 

「よっしゃあ!行ったれ宏嵩ぁ!目指せ!お食事券、3万円!!」

 

「……たとえそれが現金な彼女でも」

 

成海のハイテンションぶりに後押しされるまま大会に申し込んだ宏嵩。十分後に大会開始のアナウンスが響き、総勢15名の猛者たちによる勝ち抜き戦が始まる。そんな激闘の中、宏嵩は迫り来る敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。目にも止まらぬ速さのコマンドを叩き込み、相手に1ラウンドも譲らずに勝ち駒を進めていく。

 

それは死闘と呼ぶにはあまりにも一方的であり、まさに残虐ファイトであった。

 

「煽てはしたけど……よもや決勝まで上がるとは……恐るべし廃人ゲーマー」

 

参加を進めた成海すらドン引きする圧倒的強さを持って宏嵩はついに決勝戦に駒を進めた。2ラウンド58秒という瞬殺ゲームを展開した宏嵩は、成海に持ってきてもらったコーヒーを片手にイベント会場に設置された大型モニターを見つめていた。

 

「どしたの?対戦相手の試合?うへぇ、すごい操作……宏嵩?」

 

凄まじいコマンド入力で対戦相手を文字通りハメ殺しにした相手が、宏嵩の決勝戦の相手だった。

 

その手感に彼は見覚えがあった。

 

足技を得意とする女性キャラ、そのキャラが有する最高難易度のコンボ技を息を吐くように繰り出す相手の動き。それは、宏嵩がストブレを嗜むようになった頃に現れた人物のものとそっくりであった。

 

「あらあらあらあら、これはこれは〝万年2位〟のヒロPじゃありませんか」

 

ふと、二人の元へ筐体から立ち上がった一人の女性が声をかけてきた。巻かれたロングの髪の毛を後ろにポニーテールで束ねた女性。ニヤリと勝者の笑みを浮かべる女性に、宏嵩は真っ向から向き合った。

 

「まさか貴女がここにいるとは思いませんでしたよ、アブラマシマシウーマン」

 

ネーミングセンス悪ッ!と成海は思った。だが、二人の合間にはそんなツッコミを入れれるような隙はない。バチバチと目に見えるような火花を散らしているのだ。

 

自分の知らない宏嵩の知り合い。しかも相手は女性。髪の毛を上に上げてニヤニヤと好戦的な笑みを浮かべている彼女を見るが、さっと視線を逸らした。明らかにやばい感じ。格ゲーでアドレナリンが出まくってるせいか、その目は完全にマジだった。

 

「またワタクシの腕にボコられにきたのかしら?ヒロPさぁん?」

 

「喧嘩なら買いますよ。……舐めてもらっちゃあ困ります」

 

全くついていけない。しかし、凄まじい闘志の応酬が繰り広げられてるのは分かる。その言葉だけを交わしてお互いに踵を返す。向かう先は決勝の舞台となる筐体だ。成海が小声で「頑張れ〜…」と言うが、その声は完全集中モードになった宏嵩に届くことはなかっただろう。

 

「おいおい、ヒロPとアブマシウーマンの戦いじゃんか」

 

「まじかぁ、そりゃあ勝てんはぁ」

 

ふと、成海の後ろにいたギャラリーの男二人の会話が耳に入った。聞き耳を立てると、なんでもヒロPとアブラマシマシウーマンはストブレの因縁があるようで、アブラマシマシウーマンが勝ち越したままゲーセンを引退したらしく、宏嵩は勝ち逃げを許してしまっていたらしい。

 

つまり、偶然にもこの場で因縁だった二人のリベンジマッチが実現したというわけだ。

 

《さぁ!今回の大会も大詰め!決勝戦は、かつて伝説の死闘を繰り広げたゲーマーが再び雌雄を決する!!アブラマシマシウーマンvsヒロP!!》

 

主催者の実況も、二人の伝説的な戦いを記憶していたらしく、実現されることはないと諦めていた二人の戦いの火蓋が、今切って落とされようとしていた。

 

「ストレートでカタをつけてやるわ」

 

「……二分だ」

 

殺気をみなぎらす二人がコントロールスティックに手をかけたと同時。レディイイイ・ゴオーー!!と、ストブレのプレイモニターが開始の合図を放った。

 

同時に動く二人のキャラは、目にも止まらぬ速さで撃ち合いに出た。いったいどんなコマンドを打てばあんな攻撃ができるのか。成海にはさっぱりだったが、ガードと攻撃による撃ち合いは素人から見ても迫力は満点だった。

 

お互いにダメージはあるが、それは捨てHPによって生じたカスダメ。体力ゲージが三分の一消えたあたりで、アブラマシマシウーマンがヒロPから距離を取った。

 

「むぅ、その反応速度……腕が衰えるどこから上がったかしら、ヒロP!」

 

「伊達に家庭版で武者修行してないからな」

 

そしてアンタにも負けるつもりはない。そう目を鋭くさせた宏嵩は、ダッシュキャンセル(ダッシュ後の硬直をキャンセルして再びダッシュするテクニック)を繰り出し、一瞬でアブラマシマシウーマンの懐へと飛び込んだ。

 

そこから放たれるアッパー、そして地面に叩き落とす蹴り技のコンボは、相手キャラをバスケットボールのようにドリブルさせてハメ殺す凶悪なコンボ技だった。タイミングが決まれば脱出することなど不可能。

 

家庭版のゲームで、オンラインにて鍛え上げた宏嵩の勝負感が遺憾無く発揮された瞬間。アブラマシマシウーマンはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「それはもう数ヶ月前に攻略済みよ」

 

ヒロPが気づいた時には全てが手遅れであった。アブラマシマシウーマンはアッパー技を同じく、ダッシュキャンセルで躱し、流れるように繰り出される蹴り技にカウンター技を合わせたのだ。

 

攻撃が入ればもはや逃げられない。今度は宏嵩のキャラがバスケットボールの餌食となった。その後、第二ラウンドもヒロPの戦略を上回る技術で返り討ちにしたアブラマシマシウーマンは、試合後、悔しさに拳を震えさせるヒロPへ、こう言葉をかけた。

 

私に勝てなかった理由はたったひとつ。非常にシンプルなもの。貴方は戦場を知らなかった。家庭版は練習場所でしかない。本物の戦場は、このゲーセンにあるのだから。

 

「ひ、宏嵩ぁあああーー!!」

 

決定的な敗北に崩れ落ちた宏嵩を抱きながら、成海の悲痛な叫びがゲーセンに響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?言い分はありますか?」

 

「何卒、夫には内密でお願い致します」

 

場所は変わってショッピングモールの中にあるレストランである。成海と宏嵩の向かい側に座る女性は、呆れ返った宏嵩にただただ平伏してそう言葉を吐いた。

 

一件、修羅場じみた場面であるが成海が美味しそうに食べているパフェの絵面のせいでシリアス感など皆無である。

 

ちなみにここの食事代はアブラマシマシウーマンこと、平塚 沙由里(ひらづか さゆり)の得た食事券で賄われている。

 

「宏嵩と……平塚さんはどう言った御関係で?」

 

ことの発端はストブレの大会後。

 

ゲーセンを後にしようとした宏嵩と成海の前に、髪を下ろした彼女が平伏して待っていたことから始まる。顔を上げた彼女はさっきまで上げていたポニーテールを解いてきて、ロングの髪の毛を下ろしていた。

 

その髪型と、落ち着いた顔を見て成海は気がついた。この人、うちの会社の同僚であると。

 

平塚 沙由里。技術部の事務員をする彼女は、成海たち営業部でも有名だ。理由は彼女が会社の役員である、平塚専務の娘なのだ。

 

一部では、コネ入社と揶揄する噂好きな人物もいるのだが、成海たちから見れば仕事熱心でよく気が回るお嬢様と言った存在である。

 

そんな彼女がまさか格ゲーで、ゲーム廃人の宏嵩を上回る実力を持っている人物だと、誰が予想できようものか。

 

呆気に取られる成海の横で、宏嵩は呆れと負けた悔しさのこもった目で縮こまる平塚を見つめていた。

 

「……平塚さんは俺と同じくらいの廃人ゲーマーだよ。それも筐体特化型」

 

「え゛」

 

会社のお嬢様事務員=廃人ゲーマー(筐体特化型)とは、設定過多では?と成海は思った。

 

平塚談なのだが、彼女は小中高大のエスカレーター式のお嬢様学校を卒業後、父の伝で会社に入社したのだ。

 

だが、お嬢様学校での人間関係のストレス。仕事を始めれば専務の娘というだけで腫れ物のように扱われるストレス。仕事を教える先輩のいやらしい目に対するストレス。苦手な飲み会のストレス。

 

などなどが重なり続け、もともと好きだったゲームに傾倒。ゲームセンターでは、自分を特別扱いしない傾奇者たちばかりでその魅力にどんどんのめり込んでいったのだとか。そんな猛者たちに影響されたのか、ゲーム中の彼女は性格が裏返り、普段のおっとりしたものからヤケに好戦的なアグレッシブさを発揮するようになっていたのだ。

 

「なんで宏嵩が呆れてるの?」

 

彼氏の呆れ具合は彼女である成海から見てもあからさまであった。宏嵩は前で恐縮する平塚を見てこういった。

 

「この人、結婚を機にゲームから足を洗ったんだよ」

 

「え、平塚さん結婚してたの!?」

 

「え、知らなかったの?平塚さんが技術部の吉武さんの奥さんって」

 

「はぁあーー!?」

 

「し、仕事の都合もあるから職場では別姓でやってるの……」

 

樺倉さんたちと同じだったのか。成海は喧嘩の絶えない新婚夫婦の友人二人を思い出す。たしかに同じ職場で仕事をしていたら別姓の方が都合がいい場合もある。

 

「けど、なんで吉武さんには秘密なんですか?別に気にする人でも無いかと」

 

成海も技術部主任の吉武とは面識があった。というか、樺倉と吉武が出張に行った時に、樺倉の嫁である小柳 花子と共に、どっちが受けか攻めかで戦争が巻き起こっていたりする。つくづく二人の考えは逆方向となるもので、趣向をいったあと成海たちはその点に関しては分かり合えないと悟ったのだとか。

 

「よ、吉武さんはたぶん気にしないとは思うんですが……私が気にするんです」

 

「あー」

 

そこは成海も理解はできた。誰にでも知られたく無い一面はあるものだ。チラリと宏嵩を見るが、彼は小首を傾げるだけ。うん、それくらい鈍感がいいよっとサムズアップしたらこめかみを親指で押された。

 

「買い物途中でストブレの大会をやってるのを見て……思わず」

 

「という割には動きがかなり洗練されてましたね」

 

「嘘です!実は仕事帰りに一時間ゲーセンに通ってます!」

 

うわぁん!と机に突っ伏す平塚を、悶絶から復活した成海は優しく慰めた。一度好きになったものをすっぱり止めるとは、どんなことでも難しいのだ。

 

「じゃあ吉武さんも誘ってゲームとかやったらどうかな?」

 

「夫は協力する系のゲームが好きで……一度、ストブレを進めたんですがやっぱり対人戦は苦手らしく」

 

吉武の性格はほんわかとしていて、闘争本能と負けず嫌いが噛み合わないとやってられない格ゲーには向かない。そのぶん、建築ゲームやハンターゲームは好きらしく、誘えば一緒にプレイをしてくれるのだとか。

 

「あの人、人当たりいいですもんねぇ」

 

「ただ、技術職からか……人類には早すぎたコマンドを極めるまで練習したりして、たまに対戦すると凄まじいプレイをすることが」

 

「そのあたり詳しく」

 

「技術畑の人怖っ」

 

その話を食い気味に二人が聞いた後、とにかく吉武には今日の出来事は内緒でということで、成海と宏嵩は、平塚と別れることになった。

 

「いやぁ、まさか平塚さんがあんな一面を持ってるとは、世の中わからないもんだわぁ」

 

「やりこんでた時はもっとやばかったけどな」

 

「あれ以上に!?」

 

その過去の姿を知るのは、宏嵩のみである。後日、宏嵩と共に成海は吉武家にお邪魔することになるのだが、樺倉と花子に遭遇するのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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