12年にも永きに渡りプレイし続けたDMMO-ROG、ユグドラシルのサービスが本日を持って終了する。永田健介はそれを悲しんだ。
彼がユグドラシルを始めたのは15歳の時、ちょうど中学を卒業しエンジニアとして今の会社に就職し、初任給で買ったゲームがユグドラシルだった。それから12年、時々プチ引退みたいな状態にはなったものの、殆ど別のゲームには手を出さず、ユグドラシルばかりをプレイしてきた。そんなゲームのサービスが終了する。これが悲しまずにいられるだろうか。
ユグドラシルのサービス最終日、永田はどうせなら今まで出来なかったこと、いや、やらなかったことをやろうと考えた。それが違法改造だ。彼はユグドラシルを愛していたし、だからこそチート行為を嫌っていた。チーターを見つけたならば直ぐに運営に通報したし、当然自身がそんな行為を行う事も無かった。それは単にユグドラシルを愛していたからだ。だからこそ、長く遊びたかったし、その為には正常な運営が最も大事だと考えていたからだ。
だが、それでも終わりはやってきた。どうせ終わるのならば最後ぐらい好き勝手にやってやろうと、永田はパソコンを立ち上げた。それをユグドラシルをプレイする際に使うデバイスとを有線で繋ぎデータをコピーする。彼は事前に調べて置いた改造用のコードでユグドラシルのデータを書き換えて行った。
完成したのはレベル999の化け物だ。桁を四桁にしてしまうとバグって真面に機能しなかったため999にとどめたが、それでもレベル100が限界値のユグドラシルに置いてはレイドボスでさえ一人で簡単に倒せてしまう数値になった。それに加えて重要なアイテムも各999個ずつ複製し、それを
データ入力の手間が掛かった為、複製したアイテムは各種類の最強武具と、アクセサリー。そして消耗品の中でも特に貴重な物ばかりを選んだ。中でも課金アイテムまで複製出来た時は大いに喜んだ。
永田は早速ユグドラシルにログインしてチート能力を試すことにした。無事にログイン出来たが運営に発見されれば秒でBANされるかも知れない。永田は急いでとあるボスの場所に転移した。
彼のアバターは人種で、ヒューマンだ。あまり外見をいじるのが得意では無かった彼はランダムで生成したその顔に多少テコ入れするだけで済ませていた。もし職場にこんな顔の人間が居たらそれは騒がれるだろうイケメンだが、このユグドラシルの中では覚えるのも困難なほど良くある顔だった。
そんなヒューマンのアバターは今や最高の装備で身を固めたレベル999だ。向かう所敵なしのその姿で彼が向かった場所にいたボスは、彼が今まで一度も倒せたことのない相手だった。本来そのボスは大手ギルドが徒党を組んで戦うような相手だ。ソロプレイヤーである彼に勝ち目などもとより無かった。それでも彼はそのボスが実装されてからの5年間で100回以上は挑み、そして負け続けた。そんなボスが僅か10分程度の攻防で消滅し、データクリスタルになってしまった。
永田はひとしきり笑うと、息を吐いて肩を落とした。
「虚しい……チーター達は何が楽しくてこんな行為を続けるのか、理解に苦しむ。それとも世間で見かけるチーターは今の俺みたいに一回だけやってみただけの人達ばかりなんだろうか……そんな訳ないか」
永田はデータクリスタルとドロップアイテムを拾うと拠点に戻った。
彼の拠点は砂漠の真っただ中にポツンと立った一軒家だ。西洋ファンタジーな木造建築の2階建てで、地下には工房がある。脇にはオアシス然とした湖とヤシの木が数本生えている。この建物はデザインセンスに自身のない永田がネットの掲示板に投稿されていたものをそのまま再現しただけのものだが、永田は気に入っていた。デザインもそうだが、内部の施設やベッドやキッチンの配置などの使いやすさもそうだし、ソロプレイヤーにはちょうど良い広さの間取りなど、彼にとってはこの拠点のデザインこそ最適解だった。
永田は手に入れたドロップアイテムを適当なチェストの中に放り込むとベッドに身を投げた。肌触りも分からなければ匂いも無い、そんな布団が彼の身を包む。永田はぐるりと反転し仰向けになる。天井を眺めつつ視界の端に移るデジタル時計に目をやるとユグドラシルのサービスの終了が間近に迫っていることを知らされた。
23:41:12
永田はユグドラシルのサービスの終了が知らされた半年前から事前に準備して当日と翌日に有休をねじ込んでいた。当日は違法改造をする時間とユグドラシルをプレイする時間を確保するため、翌日はどうせ何も手に付かない気がしたからだ。二日連続で有休をとるのは至難の業だったが、半年間という準備期間がそれを可能にしてくれた。そこまでして確保した時間なのに、永田はこれ以上何かをする気にはなれず、コンソールを開くと外部のアプリを立ち上げて、お気に入りの動画を再生した。その動画のタイトルは『ナザリック大侵攻』。永田のお気に入りの動画だ。彼は数カ月に一回はこの動画を見ていた。僅か50人足らずのギルドに1500人ものプレイヤーが押し寄せた。圧倒的な数の暴力、誰の目にも結果は明らかだった。そして、全員の予想を裏切る結果が待っていた。
「あぁ……本当に格好いいな」
思えば永田が違法改造に手を出したのは、強さに憧れたのは、この動画がきっかけだったのかも知れない。コミュ障な上ソロプレイを好んでいたので彼らの様にギルドを立ち上げたりギルドに加入したりはしなかったが、彼らのギルド、アインズ・ウール・ゴウンは間違いなく永田の憧れだったのだ。
そんな動画を眺めていると、時間はあっと言う間に経過してしまった。永田が動画を閉じ再び時間を確認すると、いよいよその時が迫っていた。
23:58:02
永田はそっと目を閉じる。明日はどうするか。折角時間があるのだし、有名なDMMO-ROGにでも手を出してみるか?そんな事を考える。
23:59:55
「色々文句もあるけど、ありがとう運営。楽しかったよ」
23:59:59
00:00:00
00:00:01
こうして永田健介の物語が始まった。