朝陽射し込む旧砂漠の乾いた台地を駆けるハンターたちの姿があった。
踏みしめた砂を蹴り上げて、ハンターはモンスターに追いすがる。
「悪いコハク!マーク外した!」
「マジか!」
素早い動きに翻弄されて、1人のハンターがその場に釘付けにして押さえていたドスゲネポスの自由を許してしまった。
ドスゲネポスの体躯を捉えきれず、振り下ろした大剣は空を切って大地に叩き付けられる。
その重量から再度担ぎ上げるには大きな隙が生まれる大剣使いは、一目散に離脱していくドスゲネポスに悔しげな視線を向けた。
「……、ッく、……」
「ジオ!左!!」
そこへすかさず、コハクから警告が飛ぶ。
姿勢の崩れた大剣使いの左手側からもう一頭、ドスゲネポスが飛び掛かる。
大剣の広い面を盾としてドスゲネポスからの飛び掛かりを受けようとしたそこへ、ガシャリと構えた槍の穂先から白い火柱のチャージが炸裂した。
──轟音。
さしものドスの名を冠するモンスターとは言え、滞空の瞬間を狙われてはひとたまりも無く悲鳴を上げて地面に落ちる。
起き上がろうと藻掻いたそこへ、断頭台の如く大剣の刃が無慈悲に振り降ろされた。
喉元を凄まじい力で潰されたような短い断末魔を上げて、竜撃砲で焼け焦げた四肢で空を掻きドスゲネポスは地に沈んだ。
「サンキュー!メタ!」
「帰ったら奢れよ。」
ドスゲネポスを仕留めた大剣使いは的確なタイミングで竜撃砲を放ったガンランス使いに賛辞を送ると、マークを外してしまった最初のドスゲネポスに振り返った。
「コハク!あと1頭!」
「おっしゃ!!任せとけ!ティオ!!」
ハンター達が相手にしていたのは旧砂漠に出現したドスゲネポスの群れだ。
ドスゲネポスとゲネポスたちが作った正しい群れではなく、群れを作れなかった【はぐれ】のドスゲネポス達が集まった珍しい群れだった。
はぐれのドスゲネポスが集まった群れは狡猾で、強かで、冷酷で、残忍だ。
コハクを筆頭とした巡視隊のハンターチームは依頼を受けて、このクエストに挑んでいる。
「はいはーい。準備いいよ、コハク。」
ティオと呼ばれた弓使いは麻痺毒をたっぷりと塗布した矢を番えると離脱していくドスゲネポスに向かって放つ。
ドスゲネポスに麻痺毒は効果が低いが、一瞬だけ足を止められればそれで良かった。
ティオの麻痺矢で四肢に痺れが回り、動きを止めたドスゲネポスに一息で追い付いたコハクが抜刀と同時に刃を叩き付けて、ドスゲネポスの命を獲った。
「……1、2、3、………、よし、全部あるな。回収完了だ。」
旧砂漠のベースキャンプに広げられていたのは、ドスゲネポスたちに屠られ、無惨に散ったハンターたちの遺品だった。
普通のゲネポスの群れだと思ってクエストを受注した駆け出しハンター達の武器が全部で四振り。駆け出しハンターたちは若くして全滅をした。
駆け出しハンターたちの全滅の知らせを受け取って、ギルドはこのクエストの危険度を上げて再度ハンターを募った。
報酬金の旨味につられた中堅のハンターたちの武器が全部で三振り。普通のドスゲネポスの群れだと思って油断をしたハンターたちは1人を遺して砂に散った。
コハクを筆頭とした巡視隊のハンターたちは、そうした狩りから戻らなかった狩人の遺品回収も仕事としている。
「全部綺麗に回収出来て良かったねー。」とティオ。
狩りに出て命を散らしたハンター達の武器が、こうしてそっくり綺麗に回収出来ることは稀ではないが多くもない。
大抵が巣穴持ちのモンスターに持っていかれたり、死力を尽くしたハンターと共に最期を迎えて壊れたりする。特に多いのは、その猟場に寄生する密猟者たちに回収されてしまうことだった。
ハンターと密猟者の武器は素材からの生産は同じでも厳密には違うものだ。
ハンターが使用する武器はハンターズギルドに認められた職人たちの手によって丁寧に加工されており、モンスターを狩るための物。
唯一の掟として【絶対に人に向けてはならない。】
それは人を守るための道具として生まれた武器自体の尊厳を貶しめる行為だった。
武器としての尊厳を守るため、フィールドで命を落としたハンターの情報があれば、巡視隊のハンターたちが回収を急ぐこともままある。
「出来れば防具の方も回収してやりたかったんだけどな、」とジオ。
防具の回収は更に困難を極めている。
モンスターに踏み潰されていたり、斬り裂かれていたり、確実に壊れているのでこちらの回収は『見つけられたら』程度の優先度だ。
壊れている防具は流石の密猟者たちも必要が無いのか、見つかるときは丸ごと見つかるからだ。
「持ち帰れる重量的に今回は武器が精一杯だろ。密猟者が出てこなかっただけでも儲けもんだ。」とメタ──メタルタ。
こういった遺品回収をメインとしたクエストは特に密猟者からの横槍が多く、コハク達のような巡視隊のハンターたちにお鉢が回ってくる。
時折、普通のハンターも遺品回収を手伝ってくれたりはするが、単独のハンターにはそもそもクエストを出したりしない。
モンスターには慣れていても【人】には馴れていないハンターたちは、その優しさから密猟者の恰好の餌食になる割合が高いからだ。
かつて猟場を駆けたハンターの遺品とは、それだけで密猟者にとってはお宝なのだ。
回収した7振りの武器の砂埃を払って竜車に乗せる。一仕事終えて溜息を吐き出したコハクに帰り支度を整えた弓使いティオから声がかかった。
「そーいえばコハク。なんで今日、ヤチルちゃん連れてこなかったの?」
「ん、なんでって……。ヤチルに声をかける前に4人集まったからだけど?」
「……ドスゲネポスみたいなフットワークあるモンスター相手にマークし続けて縫い止めるなら、パワーがあるジオに声掛けるより身軽なヤチルちゃん向きだったじゃん?」
さり気なくドスゲネポスのマークを外してしまった大剣使いのジオへの皮肉を吐いて、ティオはコハクに詰め寄るとガンランス使いのメタルタが武器の手入れをしながら吐き捨てた。
「クラスナ女史にこのクエストやらせたくないんだろ。『巡視隊の一番槍』だもんな。」
「んん?あーー……このクエスト、たまに中身転がってる時あるもんね……。」
命を落としたハンターたちの武器を回収するクエストは、回収を急げば急ぐほど『新鮮な中身』が転がっている事もある。
回収出来そうな中身は回収するが、その殆どはモンスターの腹の中に収まっていることもある。
巡視隊の一番槍として密猟者たちを追うヤチルにはそういった経験をさせていなかった。
コハクは言葉を濁しながら、ありきたりな理由をティオに返す。
「……まぁ、…なんだ。……ヤチルにはおいおい慣らしていくよ。ハンターとしてはまだまだ未熟な方なんだ。」
コハクの選びに選び抜いた理由には大剣使いのジオが援護する。
「そうだな。ハンターも巡視隊もどちらも危険な仕事には変わりない。コハクの言うとおり、クラスナにはじっくりと経験を積ませてからでも遅くはない。惚れた女なら尚更だ。」
「ジオ。」
訂正、大剣使いのジオですらコハクの味方ではなかった。
ここに居るコハクを除いた3人は『巡視隊の一番槍』ヤチルの味方だった。
「コハク先輩に実力を認めさせてやるんです。って可愛いよねヤチルちゃん。」と頷くティオ。
「小さな仕事も怠らないし、勤勉だ。」と称賛するメタルタ。
「コハクが惚れるのも無理はないな。」と追い討ちをかけるジオ。
「惚れてねえよ。」とコハクが返して、話題に更に花が咲く。
「意地張らなくて良いのに。ヤチルちゃんちょー可愛いじゃん?」とティオ。
「クラスナ女史はライバル多いぞ、相棒の席に座れてるからって油断するなよ。」とメタルタ。
「『お兄ちゃんみたい』だからってフラれたら慰めてやるから任せておけ。」と親指を立てるジオはニカッと快活に笑った。
方々からの集中攻撃にコハクのクエストリーダーとしての威厳は無かった。
そそくさと会話を切り上げて竜車に乗り込み、未だわいわいと花を咲かせるクエストメンバーたちに声を掛ける。
「お前ら帰るぞ。帰らないなら置いていくからな!」
照れ隠しに似たそれはコハクの精一杯の抵抗だった。
第7話です。よろしくおねがいします。
誤字を修正しました。ありがとうございます。