そう言って彼女は戦地に立った。
彼女の遺体はどこにも見つからなかった。
遺品一つ無かった。
ここ一時間、ひたすら小さく飛んではブースト滑空して着地してはまた小さく飛んでを繰り返している。背中にはさっき拾ったP38と言う名前の少女、手にはエクスキューショナー……だっけ?に繋げたロープとスパークバイン。
「えーと……こっちに進んで……」
「次の角を左へ……」
「あのー、どこにもいかないから引きずるのだけは辞めてもらえm」
断ると口に出す代わりにスパークバインで軽くつつく。
「その……貴女の名前は?」
臨時のコールサインなら覚えているのだけれど……
「済まないが、覚えていない。」
「え?」
「ずっと一人で生きてきたから。」
「仲間とか、居なかったんです?」
「オペレーションオメガの発動前に最後に人とあったのは……2年前かな。」
「そんなに?オペレーションオメガってなんです?」
「ボスに対して一人立ち向かう英雄を、倒そうと集まってくる敵に対して人類を総動員して陽動作戦を行う……というもの。私は作戦中に敵兵士の注意を引き付けて死んだ。」
最期に見えたのは英雄が一人、
「へるぷみー」
「どうした?」
「ロープが首に……」
「しょうがないなぁ……」
スパークバインを向けたままロープを手繰り寄せる
「絞まる……!絞まる……!」
「我慢しろ。お前は強い、そうだろ?」
血の色を感じない真っ白な肌。それでいてアルビノなどではなく、人間離れした筋力……おそらくは地球環境に適応したプライマーの尖兵だろう。根拠はないが。
「一応聞くが、貴官の名前は?」
「俺は……鉄血のエクスキューショナーだ……!」
「P38、本当?」
「おそらく。」
「P38、私が来る前のことを教えてくれる?どうやら私は違う世界観に来た転生者みたいなものだから。鉄血って何?」
「情報統制レベルの関係であまり詳しくは話せないのですが……」
「なるほどね。核戦争で荒廃した地球……か。そして人類に反旗を翻した鉄血……P38、貴女はPMCであるグリフィンの兵士であり、製品でもある……と。」
「で、お前の素性は?」
「捕縛された状態で聞く?それ。」
とはいえP38には教えておいてもいいだろう。その途中でエクスキューショナーが聞き耳を立てたことにしてしまえば。
「えーと……何から話せばいいかな……」
空が嫌いなウイングダイバーの独白、はじまりはじまり〜だから、お前は誰なんだ……
宇宙からやってきた侵略者「プライマー」の進行を受けた地球は地球外侵略者に備えていた地球防衛軍を防衛のために駆り出した。
プライマーの侵略生物の波に大損害を受けながら反撃を続ける人類。軍曹と呼ばれる歴戦兵が率いる分隊が、とある基地にやってきていた民間警備会社からの警備員、つまり民間人を保護しながら作戦を行っていたことは聞いている。その民間人は今やレンジャー1として最終決戦の矢面に立っていたのだが。
私とは何者か。私とは単なる一人の研究者である。
「なあ、質問を一ついいか?」
「うん?どうしたの?」
「その首の傷、刃物で刺されたように見えるが……何があった?」
「研究者になる前、私は空軍に居たの。」
「空軍?」
「プライマーの侵攻前は空軍として戦闘機に乗っていたわ。」
「この傷は作戦中に負った傷。墜ちていく敵機を観察してたら脱出の猶予もあっただろうに、翼下のロケットに点火した勢いで一太刀浴びせられたの。キャノピーは砕けてヘルメットに被弾、機体外皮の破片が首に刺さって朦朧としながらなんとか帰れたのだけれど……」
「空軍を辞めた理由は?」
「相棒を喪った。戦う理由を見失って流れ着いたのが研究職だったというわけ。」
「お前も苦労してきたんだな……」
「君たちほどじゃないよ。」
とても遠くでマズルフラッシュが見えた。青い。
「逃げろ!」
拘束の解けていないエクスキューショナーをやや上気味に蹴り上げ、退避……
土煙が30cm左に沸き起こる。運が悪ければ即死だったかもしれないな。
「ストリンガー……いや、ファングか……?」
「取り敢えずP38!エクスキューショナーと建物に隠れろ!エクスキューショナー、P38に反抗したら……どこまでも追い掛けて殺す。」
あれ?エクスキューショナー、そんなに震えてどうし……見なかったことにしよう。うん。
「さて、次弾来るか……?」
特徴的なマズルフラッシュ。遅れてバキューンと聞こえる。
飛んでみる。上下左右不規則に加減速を組み合わせて飛ぶ……あれか?
背の丈くらいの大きな銃を構えた人影が見えた。
「私は敵じゃない!落ち着け!」
装填作業が終わったのかまた構えだしたのでボルトシューターを構える。
発砲はほぼ同じタイミングであった。微妙に早かったようだが。
身体が痺れた少女を取り押さえる。ボルトシューターの直撃で痺れる程度で済むのは戦術人形くらいだろうとは思っていたが……
「あはは……今回も駄目でした……隊長……」
「おい、しっかりしろ。名前は?」
「私は……ストリンガーです……隊長を見ていませんか……?」
「……ストリンガー?隊長の名前は?」
「ローズマリー・フランカー……本人は偽名だと笑っていましたが。コールサインは……エキドナ1。」
エキドナ1………………まさか。
「ストリンガー、二つ聞く。一つ、エキドナ1はウイングダイバーだったか?二つ、オペレーションオメガを知っているか?」
銀髪に赤い目をした肌の白い少女の両眼が開かれる。これまで以上に。
「もしかして……貴女が……?」
「違ってたらごめんよ。」
バイザーを外してみる。
「あ……あぁぁ……」
泣き出す少女。困惑する私。縄で繋がれ、散歩中の犬のように二足歩行ではあるが、歩かされているエクスキューショナー。おとなしい犬に毎回驚く飼い主のようなP38。不思議な構図が完成した。
「たいちょぉぉ……」
「悪かったから……悪かったから……」
「わたし……わたし……」
「……心配してた割にはしっかりと狙って撃っていたような……」
「……」(←あまりの疲労に口が聞けなくなったエクスキューショナー)
取り敢えず保護してもらえそうなところ、探そっか……
次回
元研究者、指揮官になる。
お楽しみに。