ハドラーちゃんの強くてニューゲーム   作:モッチー7

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幕間

「アバンストラッシュ!」

「オオーーーーー!?」

アバンストラッシュによる袈裟斬りを受け、ハドラーは緑色の血を撒き散らしながら仰向けに斃れた。

ハドラーの地上界征服計画を阻む者達にとっては大義成就である。

が、その大義を成し遂げた勇者アバンに喜びは無かった。

寧ろ……焦っていた。

ロカにキギロを任せ、

レイラにグランナードを任せ、

マトリフにガンガディアを任せた故のハドラーとの一騎打ちだからだ。

故に、アバンは急ぎ来た道を引き返していた。

ま、例の3人にとっては地底魔城攻略作戦「全ての戦いを勇者の為にせよ」を実行しただけであって、寧ろアバンがハドラーを討伐する前に引き返した方が迷惑である。

 

それをハドラーちゃんが異元扉越しに観ていた。

「見事に綺麗に敗けてもうたなぁ」

「……そうだな」

異元扉は不思議に思った。

ハドラーちゃんが「改善するには欠点を知る必要が有る」と言って魔軍司令時代の恥部を観た……筈だったが、当のハドラーちゃんは思った程恥じていなかった。

「……意外と自分の敗北に対して淡白やなぁ」

「ん?お前、俺がアバンに敗けた事が俺の恥部とだと思ったか?」

「違うんでっか?」

「違う!この俺が恥ずかしがるのは……これからだ!」

そうこう言っている内に、断末魔の叫びをあげながら斃れた筈のハドラーが起き上がった……

 

バルトスは不思議に思った。

慌てて地獄門から出てきたアバンの姿を見て。

「何!?生きて再びアバンを見ただと!?では、さっきの叫びは!?」

そこへ、今度は満身創痍のハドラーが地獄門から出てきた。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「ハドラー様!?生きておられたのですか!?」

だが、ハドラーの安否を心配するバルトスに向けられた視線は殺気に満ちていた。

「死の瞬間、俺は魔界の神バーン様の大魔力によって救われた」

「魔界の神バーン?」

「俺はこれから13年間の眠りにつき、魔力を蓄え、新たな魔王軍を再建する。今の魔王軍など比べ物にならぬ、最強の軍団をだ!」

 

その途端、異元扉越しにこの場面を観ていたハドラーちゃんが、あからさまに赤面しながら滝の様な冷や汗を掻いていた。

「ハドラーちゃん、顔が真っ赤でっせ!?どないしはった?」

「ここから先が……この俺の恥部なのだ」

それを聴いた異元扉は、バルトスの末路に一物の不安を感じた。

 

ハドラーは、バルトスに吐きかける言葉に怒りと殺気を込めていた。

「だがその前に、お前を処刑しておかねばと思ってな!」

ハドラーのその言葉に焦るバルトス。

「わ……わしを!?」

「お前はとんでもない失敗作だ!下らん正義感や騎士道精神を持ち合わせ、人間の様な情愛に現を抜かす!挙句に、アバンにこの地獄門をまんまと通らせてしまう大失態!」

バルトスは返す言葉が無かった。故に、この後のハドラーの攻撃を躱す事が出来なかった。

「新たな魔王軍では、お前の様な不良品―――」

 

その途端、異元扉は自分を閉めた。

「……まさかと思うが、この俺が過去の俺に飛び掛かるとでも思ったか?」

「そなん言われても、その体の震えと歯軋りはなんです?」

ハドラーちゃんは白状するかの様に語り始める。

「あの頃の俺は、確かにバルトスが地獄門を護りきれなかった事を過剰に咎めた。だがな、その程度の失態は、俺がアバンを殺せば済む事だったのだ」

「でも、バルトスの職務怠慢は疑い様がない事実でっせ」

でも、ハドラーちゃんは首を横に振った。

「それは責任転換だ。自分の敗北を棚に上げた」

だが、当時のハドラーはそこまで考えてはいなかった。

それどころか、当時のハドラーは凍れる時間(とき)の秘法の副作用によって性格が劣化し、最早忌まわしい黒歴史に過ぎない魔軍司令時代に片足を突っ込んでいる状態だった。

つまり、サババの再戦に喜び勇んで挑んでいた頃のハドラーは、既に当時の地底魔城の中にはいなかったのだ……

 

大魔王バーンの配下となり、魔軍司令に任命されたハドラーは、パプニカ王国攻略中のフレイザードを誰が援護するかを鬼岩城に残っている6大軍団長と話し合った。

「なんですと!?ハドラー様、今なんと?」

「総攻撃をかける。やつらは次の攻撃で間違いなく、炎魔塔と氷魔塔の破壊を狙ってくる筈だ。その時やつらの戦力は分断される。そこへ残る全軍団を集中させ、一気にダイ達を始末するのだ」

「ほう」

「しかし、あの手柄にうるさいフレイザードが納得しますかな?」

「あいつは伝説の禁呪法により、この俺が生み出したモンスター。いわば我が子も同然だ。親には逆らうまい」

「おもしろい。ようやく我が超竜軍団にも出番が回ってきたと言う訳だ」

鬼岩城に残っている6大軍団長の内、バーンの最側近であるミストバーンと竜の騎士(ドラゴンのきし)である竜騎将バランは、本来なら魔軍司令ハドラーとは比べ物にならない程の大物なのだが、大魔王バーンに敬意を払ってハドラーを立て、6大軍団長の一員に収まっていた。

だが、既に保身に堕ちていたハドラーは、この2人に対して不潔で醜悪な嘘を吐いた。

「待てバラン。お前には別にやって貰いたい事がある」

「何だと?」

「お前には早急にカール王国を落として貰いたい」

たった今、魔影軍団と妖魔士団の全てとアークデーモンやガーゴイル等の魔物達、そしてハドラー自身まで投入すると言っておきながら、竜騎将バランが率いる超竜軍団だけは蚊帳の外とは、いくら考えても道理に反する。

無論、バランは納得しない。

「たった今、残る全軍団と言われた筈!それに各戦線の侵攻よりも、勇者打倒が優先なればこその6大軍団長集結ではなかったのか?」

そして、バランは胃袋に押し込める筈だった猜疑の台詞を、我慢しきれず口から出してしまう。

「それとも……そのダイとか言う小僧と私が出遭っては不味い理由でもあるのかね?」

「!?」

ハドラーのこの「ギクッ」には、保身に堕ちた愚者の醜さが滲み出ていた。

そう、この頃のハドラーは、ダイの正体が竜の騎士(ドラゴンのきし)である事を魔王軍全てに隠していたのだ。

だが、バランはそこで猜疑の台詞を再び胃袋に押し込んでしまった。

それは、バランが魔王軍に下った理由にあった。

アルキード王国の猜疑と不義によって妻のソアラと死別し、彼らの息子:ディーノ(ダイ)と離れ離れとなった事を契機に、バランは悪しき人間の絶滅と言う新たな宿願が芽生えた。

だからこそ、大魔王バーンに膝を屈し、魔王軍の一員にして貰ったのだ。

故に、今はまだ魔王軍の許を去る訳にはいかないのだ。

一方、カール王国攻略に向かうバランの背中を見ながら焦りの独白をするハドラー。

(いかなバランでも、カールだけはそうそう落とせんはず。その間になんとしてもダイを始末せねば!)

だが、肝心のフレイザードはダイ達に敗れてミストバーンの手で処刑され、竜騎将バラン率いる超竜軍団はカール王国をたったの5日で撃破した。

つまり、ハドラーの邪な懇願と思惑とは真逆の結果に終わったのだ。

 

それをハドラーちゃんが異元扉越しに観ていた。

「あんさん……これ……」

「こういう時は、我慢せずにハッキリ言ってくれた方が助かる」

遠慮するなと言われたので、異元扉は死を覚悟で言い放つ。

「あんさん、完全に保身に走ってるやろ?」

対するハドラーちゃんは、プルプル震えながら赤面していた。

「……そうだ。見ての通りのな」

「後、いくら何でも竜の騎士(ドラゴンのきし)であるバランにあんな嘘言って、後で怖ないの?」

ハドラーちゃんは、観念の溜息を吐いた。

「いや、あの時の俺は、バランが何時俺の権力の座を上回るのかを恐れ怯えていたよ。そして更に、ダイが竜の騎士(ドラゴンのきし)と知った時恐怖した。あの2人が力を合わせて俺を倒しに来る光景を思い浮かべてな」

だが、故に異元扉は不思議に思った。

「あんさん、それでよく地上界支配を企む魔王を名乗れましたなぁ?」

ハドラーちゃんは自虐的な笑い方をした。

「その点について、バラン本人に訊いたのだが、その頃は冥竜王ヴェルザーの地上界侵攻計画に睨みを効かせるのに忙しくて、この俺に構っている暇が無かったそうだ」

「……あんさん……命拾いしましたなぁ」

 

敗戦を重ね過ぎて、とうとう政敵バランまで失ったハドラーは、大魔王バーンに遂に最後通告を突きつけられてしまう。

そこでハドラーが選んだ作戦は……

「いて!?何すんだマァム!?」

「今日はもう1人仲間を連れて来たの。紹介するわ」

「げ!ハドラー!?じゃあテメェは……」

「妖魔司教ザボエラ。見張りがポップ(おまえ)だったのでちょいと変身呪文(モシャス)でマァムの姿を借りたんじゃよ」

つまり、ザボエラに変身呪文(モシャス)を使わせての騙し討ちであった。

「き、汚え真似を!ぐっ……」

「キヒヒ!このわしの体は数百種類に及ぶ毒素を持っとるんじゃ。その中でもとびっきりの神経毒を爪から注入してやったのよ」

 

その途端、異元扉越しにこの場面を観ていたハドラーちゃんが、あからさまに赤面しながら滝の様な冷や汗を掻いていた。

「限界なら限界と、正直に言ってええんやで!」

だが、ハドラーちゃんは自分の黒歴史から目を背けたい衝動と必死に戦っていた。

「いや、ダメだ!本格的な改善は、欠点を探す事から始まるのだ!」

「そうは言われましてもなぁ……」

 

ザボエラの変身呪文(モシャス)と眠りの魔香気によって孤立無援となり、猛毒まで盛られてしまったポップは、最後の力を振り絞って懸命に虚勢を張る。

「見損なったぜハドラー……テメエは残酷だけど卑怯じゃなかった。今までも何度か戦ったがそん時にはまだ魔王の威厳みたいなのがあったぜ。それが、こんな妖怪爺の汚い騙し討ちに頼るとはよ!とうとう堕ちるとこまで堕ちたな!」

その途端、ハドラーは激昂した。

「黙れぇーーーーー!最早俺には失敗は許されんのだ!手段を選んでいる余裕は無い!」

だが、その『後が無い宣言』に当時のハドラーの弱さが満載だった。

自分が望んだ戦い方が出来ない弱さ。

敵が言った悪口とまともに戦えない弱さ。

そして、自分の美学に反する行為を拒絶出来ない弱さ。

そんな当時のハドラーの弱さを見抜くかの様に、ポップは駄目押しの様な虚勢をぶちかました。

「クロコダインのおっさんも、以前は同じ事を言ってたぜ。だが、最後には解ってくれたさ。男の戦いには……勝ち負けより大切な物が有るって事をな!」

 

その途端、異元扉は自分を閉めた。

「ハドラー……もう十分自分の恥を観たやろ?」

異元扉の言い分に、ハドラーちゃんは静かに頷いた。

「……ああ」

確かにあの頃のハドラーは弱かった。今のハドラーちゃんが魔軍司令時代を黒歴史扱いするのも頷ける。

「あの後、俺はザボエラに俺を超魔生物に造り替えろと命じたのだが、今となっては、何であんなこっぱずかしい騙し討ちを観せられた後に言ったのかが、俺の事でありながら解らぬ」

そんなハドラーちゃんの主張に、異元扉はふと思った。

「あんさん、さっき言いたい事はハッキリ言えと言いましたな?」

「そうだ。その方が俺の欠点がハッキリする」

「それってつまり、ポップのあの言葉がめっちゃ効いてる証拠やで?」

そんな異元扉の言い分を、ハドラーちゃんは鼻で笑った。

「フッ、なら、ポップはある意味俺の恩人だな?」




急に思いついて書いた幕間です。
内容は、『超魔生物時代のハドラーが魔軍司令時代のハドラーを客観的に観たら』です。
この幕間は、本来本作に組み込む予定は無かった物で、異元扉入手後なら何時でも入れれる内容です。

で、
この幕間でハドラーちゃんが魔軍司令時代に掻いた恥として選んだのはこの3つ。

①自分の敗北を棚に上げ、自分以外に責任転換しながらバルトスを処刑する。

②保身に堕ち、バランに対してダイの正体に関する不潔で醜悪な嘘を吐いた。

③ザボエラの甘言に従い、漢気とは程遠い騙し討ちを行うも返り討ちに遭う。

……確かに客観的に観たら、『正論だけど物凄く恥ずかしい戦い方』ですね(笑)。
こりゃ確かに黒歴史だわ。
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