ハドラーちゃんの強くてニューゲーム   作:モッチー7

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第21話

ハドラーちゃんが大魔王バーン討伐を目的とした異世界修行を開始してから8ヶ月余りが過ぎた南海の孤島デルムリン島に、突然異元扉が姿を現した。

「な!?これは……」

異元扉の事は、バルトスから軽くは聞いていたので、異元扉がデルムリン島に出現した事の意味を察して驚くブラス。

「まさか!?ハドラー様がこの島に!?」

だが、異元扉から出て来たのは、ブラスにとっては見慣れぬ2人の少女だけだった。

「……誰?」

 

実際に異元扉から出て来たのは、クレオの戦友である女商人のオマン・コォイックと、フレイザード2号の手によって進化の実の毒味をさせられて200万年分の進化をさせられたアニマルゾンビであった。

予想外の展開に引き気味な上に驚くブラス。

「……驚く事が多過ぎて、先ずは何から驚いて良いのかが解りません」

図らずもブラスを驚かせてしまったオマンも困り果てた。

「ま……取り敢えずはこっちの自己紹介から始めようか?」

「……よろしく頼む」

「では」

オマンはわざとらしく咳き込む。

「私の名は、オマン・コォイック―――」

その途端、ブラスが驚く。

「!?……お嬢さん!アンタ、卑猥な事を言わされる呪いに罹っておりますぞ!」

ブラスの勘違いに怒るオマン。

「ちょっと待て!誰が卑猥な事を言った!?」

「そなたです!」

「違ぁーう!私は単に私のフルネームを言っただけよ!」

そうは言われても、やはり驚くブラス。

「オマン・コォイックが……貴女、名付け親を恨んだ事は?」

が、そんなブラスの質問に怒るオマン。

「何でだよ!?私の名前に何の恨みが有るんだよ!?」

「有るのはそなたの方でしょうが!あんな卑猥な名前を付けられて、何故怒らん!?」

「クレオの奴といい、アンタといい……何でそこまで私のフルネームを口にする事を嫌う?」

「……お嬢さん!アンタ、卑猥な事を言わされる呪いに罹っておりますぞ!」

「違う!」

オマンとブラスのくだらない口喧嘩に飽き飽きした元アニマルゾンビが欠伸をかました。

 

オマンと散々くだらない口論をして肩で息をしているブラスを尻目に、今度は元アニマルゾンビが自己紹介を始めた。

「僕は『ガッルール』。フレイザード2号に進化の実の毒味をさせられたアニマルゾンビだよ」

やはり驚くブラス。

「アニマルゾンビ!?アニマルゾンビといえば、犬型の動物がゾンビ化したモンスターで―――」

「よく言われるの。進化の実の毒味をさせられたって言ったよね?」

ブラスは信じられないと言った感じだが、ガッルールが嘘を言っている様にも視えなかった。

「……話は軽く聴いておりましたが……アニマルゾンビって、200万年分進化すると魔族になるものなのですか?」

「そうみたい」

あっけらかんと答えるガッルールに呆れるブラス。

「そうみたいって」

因みに、デルムリン島に居るブラスが異世界にいるハドラーちゃんの様子をある程度聞けるのは、異元扉が悪魔の目玉同士が飛ばす電波を中継しているからである。

更に言えば、進化の実による200万年分の進化・進歩によって魔族に進化したアニマルゾンビを雑兵扱いできないと言う事で、新たに『ガッルール』と言う名前を与えたのである。

が、今のブラスには「そんな事よりも」なのである。

「それは良いのですが……あの娘さん、どの様な名で呼べばよろしいか?」

ブラスの質問に怒るオマン。

「だーかーら!私の名前はオマン・コォイック!素直にそう言えば良いだけでしょうか!」

「軽々しく言える訳が無いでしょうが!その様な淫猥な台詞!特に大勢の前では絶対に無理!」

また始まったオマンとブラスの口喧嘩に呆れつつ、ガッルールは答える。

「クレオが言うにはね、大衆の前ではオマンの事を『アフロ』と呼びなさいって」

その途端、ブラスはこの2人と直接出会って初めて合点がいった。

「なるほど……アフロですか。それならば大丈夫そうですな」

でも、オマンは納得しない。

「クレオの奴、余計なマネを……いい!取り敢えず、私をアフロと呼ぶのはやめろ。ちゃんとオマン・コォイックと―――」

「出来るかぁー!と言うか、今直ぐアフロに改名せんかぁー!」

ガッルールは、ハドラーちゃんの人選ミスを呪った……

 

オマンとブラスの口喧嘩に呆れながら上を見上げるガッルールであったが、何かが降って来るのを発見したので、口喧嘩中の2人を自分の後ろへと押し退けた。

「アフロ!ブラス!危ない!」

が、オマンはガッルールに突き飛ばされた事より、ガッルールがオマンをアフロと呼んだ事に怒った。

「ガッルール!アンタ今、私の事を何と呼んだ!?」

でも、今はオマンの文句にいちいち付き合ってる場合じゃない。

「……なんだよ……これ?」

降って来たモノの正体は……二足歩行するマッチョなワニであった。

「本当に……誰だ?」

だが、謎の訪問者は自己紹介を促す問いには答えなかった。

「フッ、オレの名などどうでもよかろう」

でも、デルムリン島を訓練場として利用しているハドラー軍にとっては納得出来る回答ではないし、ある意味死活問題だ。

故に、ガッルールは臨戦態勢をとる。

「なら……意地でも吐かせる!」

一方、謎の訪問者はガッルールの動きを見て感心する。

「その構え……一見すると前ががら空きに見えるが、下手に飛び込めば、その黒い爪で一突きか」

そして、謎の訪問者は困り果てながら座り込んだ。

「だがな、こっちは武者修行の最中故、本当に名乗る程名声が高まっておらんのだ。勘弁してくれ」

このやり取りだけで訪問者が敵ではないと判断したガッルールも警戒を解いた。

「解った。名乗りたくないならそれで良いよ。でも、此処に来た理由は話して貰うよ」

訪問者は早々と目的を話した。

「情報提供だ」

それを聞いて、今度はオマンが訪問者を怪しむ。

「情報提供ぅ?」

「そうだ」

「で、私達に何を教えてくれるって言うの?」

「先ずは、アバンの事だ」

いきなり核心をついてきたので困惑するオマンとガッルール。

「とは言っても、四六時中アバンを見張っていた何者かに頼まれてきただけだ。そいつに報告を頼まれ、報酬も既に貰っている」

(見張っている!?アバンを!?)

(そいつ……どっちの敵だ?)

とは言え、オマンとガッルールがデルムリン島に来た理由は、アバン達がちゃんと地底魔城決戦に備えて鍛錬しているか確認する事である。

「……解った。聴こう」

 

その訪問者が言うには、凍れる時間(とき)の秘法を使ってまでハドラーちゃんを封印しようとしたが失敗した事を恥じ、故郷カール王国にある「破邪の洞窟」に挑戦し、3か月かけて地下150階くらいまで到達した。

「150階かぁ……ハドラー様は200階まで行ったから―――」

「話はそれだけじゃない」

「……と言うと?」

その後、幽霊騎士団(ゴーストナイツ)がアバンとマトリフの抹殺に赴いたが、幽霊騎士団(ゴーストナイツ)はマトリフの極大消滅呪文(メドローア)によって半壊。

団長のドルディウスも空裂斬の完成によって遂に完成したアバンストラッシュによって重傷を負わされ、僅かに生き残った団員を吸収して再度アバンに挑んだが、アバンが放った謎の技(後のグランドクルス)によって完全消滅したと言うのだ。

幽霊騎士団(ゴーストナイツ)の末路を聴いたガッルールは驚きを隠せない。

「戦死者より“負”を継いだ悪逆の軍と称された幽霊騎士団(ゴーストナイツ)が、アバンに敗けた……しかも、ガンガディアの予想通り、マトリフはフレイザードちゃんが言っていた『炎と氷の真の黄金比』に到達した」

ブラスもまた、最終決戦が本当に近い事を察して不安になる。

「やはり……アバン達勇者一行とは戦う事になるのでしょうか?」

だが、客将故かオマンだけは冷静だった。

「でも、ハドラーちゃんはそう言う事を見越した上での1年後の再戦って言う約束でしょ?」

「寧ろ、ハドラーが望んだ事だと?」

訪問者の質問に笑顔で答えるオマン。

「そう言う事だと思うよ。私、こう見えて行商だからね」

が、訪問者は不吉な事を言い始めた。

「だが、アバンやハドラーは兎も角、他が待ってくれるかどうかだ」

それを聞いて少し不安になるガッルール。

「ちょっと……それってどう言う意味?」

 

訪問者の「他は待ってはくれない」発言に、ガッルールとオマンは大魔王バーンの重い腰が遂に上がってしまったと焦ったが、

「本当にそんな大物が存在し本気を出したと言うのであれば、あいつらの様な鬼の居ぬ間などせんだろ?」

「あいつら?」

「魔王の不在を知って世界中の魔物が虎視眈々と覇権を狙っておる」

それを聞いたオマンが呆れる。

「ハドラーちゃんの約束は1年後……つまり、あと2ヶ月でハドラーちゃんはこの世界に帰って来ちゃうって事だよ?」

ガッルールもそれに続く。

「そうだよ。ハドラー様の許可無く勝手に地上界を支配したら、ハドラー様が怒るよ」

が、訪問者は改めて現実を伝える。

「だが、幽霊騎士団(ゴーストナイツ)が勇者に挑んで返り討ちに遭った事は事実。それに、最近の猛禽人連盟軍(ダークエンジェルギルド)や豪魔軍師ガルヴァスの動きがどうも可笑しい」

それを聞いたガッルールがムッとする。

「それって、その3組がハドラー様の許可無くって事?」

が、訪問者は首を横に振る。

「いや……4組だ」

「……誰だ?」

「名前までは知らん。だが、ヴィオホルン山の火口に1匹の白いスカイドラゴンが落ちたそうだ」

ガッルールとオマンは別々の意味で驚いた。

「ちょっと待って!ヴィオホルン山の中にハドラー様のお城である地底魔城が―――」

「そんな事より!白いスカイドラゴンだって!?」

「……そんな事って……」

ガッルールの不満を無視して訪問者に詰め寄るオマン。

「その白いスカイドラゴンの角はどうなっとった!?」

訪問者は面食らいながらもどうにか口を開く。

「角!?どう言う事だ?」

「アルミラージやユニコーンの様な感じじゃなかったと訊いている!?」

「……とは言われてもなぁ、そこまでは確認していないそうだ」

オマンの焦りからある推測に辿り着いた。

「オマン、クレオってその白いスカイドラゴンと戦った事があるの?」

オマンが黙り込む中、訪問者が豪胆な笑い方をした。

「とにかくだ、主の帰還を急ぐのだな。さもないと……この俺までは覇権を狙い始めるか知れんぞ!グハハハハッ!」

訪問者はそう言うと、近くにいたガルーダに乗って足早にデルムリン島から去った。

そんな訪問者の後ろ姿を見ていたブラスは、訪問者の正体について推測を述べた。

「まさか……あれが獣王クロコダインか?」

「クロコダイン?剛力無双の荒武者って呼ばれてるアレの事?」

その点だけは会話に入れないオマンであった。

 

クロコダインが去った後のガッルールの行動を見てブラスは驚いた。

「ハドラー様を呼び戻すのではなかったのか!?」

「いや、約束までまだ2か月あるし、それに……」

ガッルールは一旦溜息を吐いてから自分の考えをまとめた。

「クロコダインの事を疑う訳じゃないけど、クロコダインに先程の情報を教えた奴に何かの違和感を感じたんだ」

それを聞いてブラスはハッとする。

「まさか!?」

「恐らく、裏に大魔王バーンがいるね」

が、この推測には疑問が残る。

「しかし、それほどの実力者が何故その様な回りくどい?」

ガッルールは悩んだ。

ハドラーちゃんから「慢心は敵」と教えられているので、こういう予測は立てたくなかったが、考えれば考える程そう言う気がしてしまう。

「……もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「大魔王バーンはアバンが持つ何かを恐れているのでは?」

ブラスは首を傾げる。

「何なんです?それは?」

ガッルールは明るく答える。

「それを実際に視に行くのさ。それにクロコダインが言っていた……いや……言わされた情報が本当に事実なのかの確認を兼ねてね」

ガッルールはふとオマンの方を見る。

「地底魔城に落下した謎のスカイドラゴンの正体を知りたがってる奴もいるしね」

それを聞いて考え込むブラス。

「で、ハドラー様が出発した際、地底魔城にはどれ程の戦力が残っていたのでしょうか?」

ガッルールもまた考え込んだ。

「……一応りゅうおうもどきを地底魔城に残しておいたけど……あそこのアフロちゃんの予想が正しければ……」

「そのりゅうろうもどきは、最早生きてはいないと?」

が、オマンが怒って話を折ってしまった。

「だから!私の名前はオマン―――」

「だからそう言う淫猥な事を言うなと―――」

このままではオマンとブラスがまた長々と口喧嘩をすると感じたガッルールが無理矢理話題を変えた。

「それに、猛禽人連盟軍(ダークエンジェルギルド)の動きも気になる。もしかしたら、ハドラー様がお戻りになる前に大規模なお掃除が必要になるかもよ?ハドラー様は自らの手でアバンとの決着をつけたいみたいだし」

こうして、オマンとガッルールの偵察旅が始まったのであった……




今回からは、本作オリジナルキャラである『オマン・コォイック』と『ガッルール』による偵察旅編であり、ハドラーちゃんが異世界修行している間に本編世界がどう変わったかを説明する回でもあります。
そして……アバンとハドラーちゃんにとって新たな敵である『猛禽人連盟軍(ダークエンジェルギルド)』や『謎の白いスカイドラゴン』が果たして何者なのか……も偵察旅編で徐々に説明する予定です。

後、ガッルールは進化の実の毒味をさせられて魔族少女に変異した元アニマルゾンビ……と言う設定についてですが……
ガッルールは【回復術士のやり直し】の『セツナ』をモデルにする予定でしたが、狼系モンスターがスッと思い浮かばす、苦渋の策として『アニマルゾンビ』を選んだ次第であります。
……トラやライオンを含めた猫系モンスターは結構思い浮かぶのに……

キギロ
「予習不足だなぁ空っぽ。恥を知れ」
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