ミストバーンが地底魔城の玉座の間にやって来た。
この部屋は本来ならバルトスが護る地獄門を開けないと入れない筈だが、地底魔城の本来の主であるハドラーちゃんが居ぬ間に地獄門は破壊され、今はユニコーンの様な角を生やした白髪の幼女が地底魔城の玉座に座っていた。
その幼女がミストバーンのやつれ具合を感じて質問した。
「今日も鈍感なあの2人の口喧嘩を聞かされた様だな」
ミストバーンは答えないが、幼女はそれも想定済みだったのか勝手に喋り始める。
「哀れだな。自分達が大魔王バーンの手の平で踊らされているのも知らずに」
幼女の言う『あの2人』とは、大魔王バーンを後ろ盾にしている心算で地上界を勝手に奪い合っている豪魔軍師ガルヴァスと天空神ゼウスの事の様で、大魔王バーンの本心も知らずに自分こそ地上界の支配者だと言い張っている2人が、幼女には愚かで阿呆で鈍感に視えたのだ。
そこへ、キルバーンとピロロがやって来た。
「そう言う君はどうなんだい?」
それに対して、幼女は平然と答える。
「アレさえ全滅してくれればそれで良い。それが叶うのであれば、大魔王バーンが何をしようと大魔王バーンの勝手だ。好きにしてくれ」
だが、キルバーンはしつこく質問する。
「もしバーン様の思惑通りに話が進んでもアレがこの世に残っていたら?」
幼女はその質問をはぐらかす。
「大魔王バーンがそこまで不徹底とは思えんな。大魔王バーンの目論みが本当に私の予言通りなら」
そう、幼女は優れた洞察力と推理力で大魔王バーンの本当の目的が地上界消滅だと見抜き、その上でハドラーちゃんを急かす事を目的とした地底魔城強奪に加担したのだ。
で、幼女が憎むアレの正体については、まだ語る時ではない。
ホルキア大陸の偵察を終えたオマンとガッルールは、一路偵察旅のメインであるギルドメイン大陸に向かうが、ガッルールがアルキード王国に入国しようとした途端にオマンが引き留めた。
「この国は辞めておけ」
「ん?何で?」
「何かね……嫌な臭いがするのよ」
「臭い?」
ガッルールが訳も解らず臭いを嗅ぐが、別段変な臭いをまったく感じない。
「匂いは普通だよ」
だが、オマンの言い分は違う。
「私の言ってる臭いはそう言う物じゃない。例えるなら、心理面や精神論の様なモノだな」
ガッルールはますます首を傾げる。
「言ってる意味が解らんぞ」
オマンは呆れながら笑った。
「まだまだ人生経験が足りないね。その点、私は行商として色々な人を見て来たから、こういう心の匂いが解るのよ」
ガッルールは呆れながらオマンに訊ねる。
「じゃあさ、そのアルキード王国からどんな臭いがするって言うのさ?」
その途端、オマンは真顔で答えた。
「猜疑心」
それを聞いたガッルールが大笑いする。
「なーんだ。つまり、魔族化した元魔物が入国したら兵士達がすっ飛んで来るって事でしょ?ま、8ヶ月ぐらい前までハドラー様が地上界の支配者だって言いながら大暴れしたから」
だが、オマンは残念そうに首を横に振った。
「いや……そんな良心的で生易しい猜疑心じゃない。もっとどす黒くて邪な猜疑心よ」
オマンの残念そうな真顔を視て、ガッルールは困惑する。
「それって……」
「つまり、あの国は過剰で余分な人種差別が出来る国。そして、保身と出世欲に溺れた奸言が平然と言える国」
ガッルールは困惑し過ぎて無言になった。
「恐らく……あんたらや大魔王バーンが直接手を煩わせんでも、自ら墓穴を掘って勝手に滅びる。あの国はそんな国だ。ま、全ては私の勝手な推測だけどね」
だが、そんなオマンの歴戦の行商としての勘は当たっていた。
事実、
そして、アルキード王国完全消滅を契機に、バランは人類を見捨てて大魔王バーンに頭を下げたのだ。
確かに、ガッルールの言う通り魔王ハドラーの猛威が記憶に新しく、人々が疑心暗鬼になっていたのが不幸だったのかもしれない。だが、アルキード王国が権力や格式に囚われ、差別を行う人間の醜さを
と言う訳で、アルキード王国偵察はアルキード王国に入国する前に終了してしまったのだった。
アルキード王国に入国する前にアルキード王国の偵察をサッサと終わらしてしまったオマンは、ガッルールの提案でロン・ベルクの武器工房を調査する事にした。
「まるで『敵に塩を送る』みたいだな?」
「敵に塩を送る?そんな事をしてどうなるの?」
「私はそう言う意味で……あ」
この時、オマンは失念していた。クレオとガッルールは生まれも育ちも別世界だった事を。
「その『敵に塩を送る』って言うのはな、クレオの世界の諺で困ってる敵に助け舟を出す事をそう言うらしいんだと」
「で、その敵が塩が無くて困っていたから塩をプレゼントしたと」
「……物分かりが良くて助かるわ」
と、オマンはふと思った。
「でも、その塩が敵の役に立たんと美談にはならんとクレオが言ってたわ。で、その覇者の剣は誰もが欲しがる程の優秀な剣なんでしょうね?」
「それは大丈夫。ハドラー様がオリハルコンで出来た剣て言ってたし」
ガッルールの言葉にオマンが驚き感心する。
「オリハルコンで出来た剣を敵に渡すか?それはまた奮発したな」
因みに、ガッルールは知らない事だがハドラーちゃんがロン・ベルクに渡した覇者の剣は、強くてニューゲーム効果によって2本に増えた覇者の剣の内の1本である。
「しかし、そのハドラーはどうしてアバンに御執心……」
2人はロン・ベルクの武器工房に近付くにつれて強まる忌まわしい気配を感じて嫌な予感がした。
「……なんか……物凄い怒気を感じないか?」
「……まさか」
まさか、ロン・ベルクが何らかの敵に襲われているのか?
2人は慌ててロン・ベルクの武器工房へと急ぐが、皮肉な事に近付けば近付くほど謎の敵意もどんどん強くなっていく。
そして……
「アレは!
「どうやら……奴らの目的もロン・ベルクの様だな?」
オマンとガッルールが不満そうにその様子を観ている中、当のロン・ベルクは
「その辺に転がっている剣、飲み代稼ぎに作った物だが並みよりはマシだ。くれてやるから持って帰れ」
無論、天空神ゼウスの名を掲げてやって来た
「貴様、地上界の住人に過ぎない身でありながら、天空神たるゼウス様にお仕えする
「随分ご立派な名前をぶら下げて来た様だが、どんな強力な武器も持ち主がバカじゃ飾りみたいなもんよ」
あの
一方、オマンは一見するとぐーたらに視えるロン・ベルクの拒否の言葉に製作者の意地と誇りを感じて冷や汗を掻いた。
(なんたる豪気!アレは自分の作品に相当の自信が無いと出来ない拒絶だそ……ハドラーがあの男を選んだのはそこを見込んでの事か?)
にも拘らず、
「とにかく、地上界の掟や理を厳守する意味でも、天空神たるゼウス様とゼウス様にお仕えする我々
「なんだ、与えられた地位や立場に甘えているだけのボンクラか?なら、なおの事今直ぐ帰れ」
「貴様ぁ……
「プッ!」
ガッルールはとうとう我慢出来ずに吹いてしまった。
「おいそこ!?今笑ったろ?」
ロン・ベルクと
「あ……やっちゃったぁー。ロン・ベルクの
「なんだとぉー……」
ガッルールはわざとらしく恥ずかしがるが、オマンはロン・ベルクの製作者としての矜持を見抜いている故に緊張気味であった。
で、
「あー!こいつ、ゼウス様から完全消滅させるよう厳命されていた極悪死刑囚」
それを聞いたガッルールは、さっきまでの大笑いから一転して不機嫌になった。
「死刑囚は余計だ!それじゃあまるで、僕がお前達に敗けたみたいじゃんか!」
だが、
「駄目だ。偉大なる天空神たるゼウス様に死刑を言い渡された時点で、貴様は既に死刑囚なのだ。そして、死亡以外の行動を禁じられた存在なのだ」
今度はロン・ベルクが笑った。
「今度は神様を気取った死刑執行人ときたか……フッ、地位だけは立派な鈍ららしい言い分だな」
笑われた
「貴様もいい加減にしろよ!そんな不要な反論している暇が有ったら、さっさと無知な反逆者ハドラーから預かった覇者の剣をゼウス様に献上しろ!」
この時のガッルールの顔は、さっきまで笑いをこらえるのに必死だったとは思えぬ程怒りに満ちていた。
「……なんだとおぉー……」
だが、一方の
「遂にはものの頼み方を知らぬ礼儀知らずときたか?そんな贋作に成り損ねた擬き未満の鈍らに名品をくれてやる暇は無い。その辺に転がっている剣、飲み代稼ぎに作った物だが並みよりはマシだ。くれてやるから持って帰れ」
無論、天空神ゼウスの手下と言う大看板を掲げてやって来た
「貴様ぁーーーーー!それでも地上界の住民か!天空神ゼウス様の御命令には、何があろうと必ず絶対服従!これこそが地上界の住人の―――」
「そこまで言うのであれば、そのゼウス様とやらが直接俺の所へ来い。話はそれからだ」
とことん
「あははははは!そりゃいいや!懇願なり命令なりちゃんと相手の顔を視ながらじゃないとね!あははははは!あー、お腹痛い!」
「いい加減にしろよおぉーーーーー!俺達は
もう
「雑魚を寄越すな。そのゼウス様の頼みと言うのであれば、そのゼウス様が直接俺の許に来い」
「貴様あぁーーーーー!ゼウス様が直接来いだとおぉーーーーー!地上界の住人でしかない貴様如きが、天空神たるゼウス様の御顔を直接御拝見するとは……なんたる無礼の極み!今直ぐ訂正し謝罪せい!」
その時、ロン・ベルクの武器工房を家宅捜索していた
「ありました!」
「今度は何だ!?」
ドミニオンの説教を中断させてしまった
そんなガッルールの姿に驚くロン・ベルク。
(速い!?)
そして、何度も殴り飛ばした
「お前らの様な臆病な引き籠りの奴隷風情が、ハドラー様の許可無くその剣に触れるんじゃねぇよ……聞いてるんだろゼウス?だから今直ぐこいつらの供養の準備をしろ。そして、ハドラー様に弓射るその薄汚いその首、何時僕に殺されても良い様に常に洗浄して綺麗にしておけ!」
おまけ
超魔生物ハドラー
「あーーーーー!恥ずかしいーーーーー!」
ヒュンケル
「ハドラー、お前―――」
超魔生物ハドラー
「みなまで言うな!言いたい事は解っている。勇者アバンと獄炎の魔王第38話の事だろ?アレは我ながら非常に恥ずかしい!あの時のアバンとのやり取りにガンガディア達への労いの言葉が一切無い!あの時の俺は、アバンの言う通りの救い様が無いブラック上司だった!過去に戻って言い直したいくらいだ!」
ヒュンケル
「いや……俺が言いたいのはそう言う事じゃなくて」
超魔生物ハドラー
「え?違うの?」
ヒュンケル
「ハドラー、お前の口からビームが出てたぞ」
超魔生物ハドラー
「え!?出てたの!?」
ヒュンケル
「増田こうすけ先生のギャグマンガ日和に匹敵す程だったぞ」
超魔生物ハドラー
「そんなに出てたのか!?」
ヒュンケル
「それに、勇者アバンと獄炎の魔王第38話には俺も思う所が有るしな」
超魔生物ハドラー
「思う所?」
ヒュンケル
「バルトスとアバンの間にあんなやり取りがあった事をもっと早く気付いていたら、俺の人生はどう変わっていただろうかと」
超魔生物ハドラー
「あー、なるほどなー……って、『アバンとバルトス』じゃないんだな其処」
オマンとガッルールの偵察旅第2弾……なのですが、アルキード王国編はアルキード王国に入国する前にあっさり終了。
ま、竜騎将バランにとっては黒歴史以外の何者でもない汚点の様な愚国でしかなく、原作でも「ダイがデルムリン島に流れ着く原因を作った諸悪の根源」として散々な扱いを受けている国なので……
で、結局ロン・ベルクがハドラーちゃんの依頼である「覇者の剣をアバンに渡す為に研ぎ直せ」を実行しているかどうかを確認しようとして
で、ラストの「おまけ」の副題は、ダイの大冒険終盤のハドラーとヒュンケルが『勇者アバンと獄炎の魔王第38話』を読んだらどうなるかを妄想した物ですが……既に黒歴史である魔軍司令時代に片足を突っ込んでいる状態のハドラーは、私の危惧通りにガンガディアの忠義やキギロの執念を無下にする発言をしてしまい、アバンがとっさにその2人をフォローする形になってしまいましたね(涙)。
ただ、ガンガディアどころかキギロまでフォローするアバンですら、「グランナード、お前は駄目だ」になっちゃいましたけどね。