やはり大魔王バーンに呪文攻撃は通用しないと判断したハドラーちゃんは、接近戦に持ち込もうと右手から覇者の剣を生やす。
が、バーンにとっては想定内の事だった。
「ふふふっ、よいよい……余はかねてよりおまえのそういう所を気に入っておったのだ。その尽きる事を知らぬ覇気と強さのみを信じる心をだ」
それに、
「褒美を取らせよう……と思ってな。余、自らがお前の奇蹟的な健闘を称えて……そこで余は考えた。お前のが一番欲するもの……それはおそらく……余の……命であろうな?」
1本の杖がバーンの前に姿を現す。
「……これが余の武器……その名も『光魔の杖』だ!」
光魔の杖。
理力の杖と同様の魔力を杖に込める事で打撃力に変換する武器……だと予想されるが、バーンがこのタイミングで光魔の杖を頼った理由を予想すると、光魔の杖が只の理力の杖のお仲間……とは考え難い……
本来の理力の杖と戦う感覚で戦えば、間違い無くハドラーちゃんは負ける……
ならば、ハドラーちゃんも全力全開で対応せねばならない!
「むん!」
己の生命力を覇者の剣に流し刃とする『生命の剣』で渾身の一戦を挑むハドラーちゃん。
「やはり……既にバレていたか?この光魔の杖が只の理力の杖ではないと言う事を」
バーンはこの状況を鼻で笑うと、
「見るがよい……ロン・ベルクの最高傑作を!吸え!我が魔法力を!」
先端の飾り部分が翼状に開いて左右に割れ、鎖が伸びてバーンの腕に絡みつく。
「そして自らの血肉とするのだ!」
この鎖がバーンの魔力を吸収し、その魔力を光の刃に変えて先端より噴出させ敵を切り裂く。
だが、今のハドラーちゃんに後退の2文字は無い!
この後、勇者アバンが勝とうがハドラーちゃんが勝とうが、大魔王バーンを野放しにすれば地上界は完全消滅してしまう。
(ならば!)
「ぬおぉーーーーー!」
「さあ!試してみよ!」
ハドラーちゃんの覇者の剣&生命の剣とバーンの光魔の杖の鍔迫り合いが始まったが、それだけでまるで暴風の様な衝撃波が発生し周りの柱や天井を残らず薙ぎ倒す。
が、バーンはこの時点で既に想定外だった。
ハドラーちゃんの生命力でコーティングされた覇者の剣が想像を絶する耐久力を誇っていたからだ!
「なっ……!?」
(バッ……バカなっ!この余の攻撃をはじき返したっ……!?まっ……まさか!?いまや余に匹敵する程の強さを身に手に入れつつあるのでは……!?)
「おっ……おのれハドラー!少々力が増した程度でこの大魔王に勝てるとでも思うのか!?」
「こっちは色々な物を背負っているのでね……命くらいは……賭けさせてもらう!」
ハドラーちゃんは文字通り『命を賭けた』。
バーンは己の魔力でコーティングした光魔の杖でハドラーちゃんの生命力でコーティングされた覇者の剣を何度も叩くが、ハドラーちゃんの生命力が膨大だったのか覇者の剣は折れない。
それに……
「この空気の流れは……まさか!?」
バーンは、まるで竜巻の様な闘気の流れを観た事が1度だけあった。
「『真竜の戦い』」
「真竜の戦い?」
「今から数百年前……魔界の竜族の中でも最強の力を持っていた両巨頭が遂にその雌雄を決した。冥竜ヴェルザーと雷竜ボリクス。ほぼ互角の実力を持った両者の激突は壮絶なものだった……」
ハドラーちゃんは、この竜巻の様な闘気の流れを前の時間軸で1度だけ経験した事があるが、それが『真竜の戦い』と名付けられた事も、これを冥竜王ヴェルザーも経験した事も知らなかった。
だから聴き入れてしまった……バーンの解説を。
「互いの闘気と炎のブレス、魔法力がぶつかりあって、闘いのフィールドは 超高熱の地獄と化した。立っているだけで生命力を奪われる戦闘空間……そこへ近づく者は全て燃え尽きたと言う。力のみが勝負を決めるこの究極の決闘を制したのはヴェルザーの方だった。そして、奴は冥竜王の名を手にしたのだ」
そう言いながら、今までとは違う構え方をするバーン。
「何を焦るバーン?」
その理由も前の時間軸で既に経験済みだが、ハドラーちゃんはあえてすっとぼけた。
「以来、魔界ではこの闘いは『真竜の闘い』と呼ばれ、史上最も激しく過酷な決闘として讃えられ続けている……だが!」
「問題はこの後……とでも?」
「あの激闘空間のエネルギーは勝者に味方する。あやつらの周囲を包んだ超高熱空間は放出されたエネルギーが両者の実力が互角であるが故に、相手に届かず周囲に蓄積していったもの……したがって、両者の均衡が崩れた時、あの場の全てのエネルギーが弱い方へと流れていく! 弱い方……すなわち敗れた方だ!」
バーンのあの構えは、間違い無くカラミティウォール!
あらゆる物を破壊する黒い壁が、もう直ぐハドラーちゃんの方へと突き進むのだ。
「で、その1発でそれを霧散させる御心算か?」
(前門のカラミティウォールに後門のあの時の闘気の塊……
意を決したハドラーちゃんは、覇者の剣を床に突き刺しながら右膝を床につけた。
「来い!大魔王バーン!」
「諦めたか!?ハドラー!カラミティウォール!」
……大魔王バーンは信じられない光景を目の当たりにする……
(す……すり抜けおった……!カラミティウォールの衝撃波をっ……!たとえ魔炎気で耐えたとしても噴き上がる衝撃波の威力に 大きなダメージを受ける筈!……だが!余の光壁と全く同質の魔炎気を垂直に噴出させ、身にまとう事によって衝撃波の影響を受ける事なく背後にやりすごしたっ……!)
ハドラーちゃんはゆっくり立ち上がると、
「それだけではない様ですな?」
「ん?」
「貴方が先程言った『真竜の戦い』とやらも……」
そう……
先程のカラミティウォールと魔炎気の激突が、真竜の戦いと呼ばれる闘気の流れを更に強大にしてしまったのだ!
「さて……盛り上がってる所悪いが……そろそろ……終わりにしようか!?」
ハドラーちゃんは魔炎気と生命力を覇者の剣にたっぷりと注ぎ込む。
「最期だ。バーン!」
そして、全力全開で床を蹴るハドラーちゃん!
「超魔……爆炎覇ぁーーーーー!」
それを光魔の杖を盾にして防ごうとするが……
「!!?」
(そっ……そうか!ハドラーとの戦いで光魔の杖を使った為、余の魔法力全体がかなり減少してしまっているのかッ!?)
そう……
光魔の杖の最大の弱点は長期戦に不向き過ぎる事であった。
握っているだけでも無限に魔力を吸い込むため、装備していれば時間と共に莫大な魔力が消費され、杖の攻撃力と使用者の魔力が低下していくという重大な欠点もある。
だが、大抵は光魔の杖の弱点がバーンに知られる前にバーンの勝利で終わってしまう為、今まではたいして問題視されていなかった。故に、製作者であるロン・ベルクですら、光魔の杖を持ったバーンを『完全無欠』『使われる前に勝負を決めないとまず全滅』と評している一方で、『何とか魔力切れまで粘れば勝機はある』とは言っていない。
正に、ハドラーちゃんの粘り勝ちであった。
しかも、
「……ウオオオオッ!」
只の超魔爆炎覇ではなく真竜の戦いのおまけ付き。蓄積していた全エネルギーが一気にバーンに注がれる!
「おおおぉおーーーーーっ!」
と、ここでハドラーちゃんは覇者の剣に自分の生命力を注ぐのを中断した。
(フレイザード2号の話だと……俺の仕事はここで中断……だったな?)
だが、ハドラーちゃんはその言葉の意味を正しく理解しているとは言えなかった。
ダイの双竜紋を利用した