異元扉を使って大魔王バーンの最大の秘密に触れたフレイザード2号への怒りから、バーンの許可無く闇の衣を脱いだミストバーン。
「……フレイザードよ……この姿を見た事が何を意味するのか、判っているな?」
対して、フレイザード2号はおどけて魅せる。
「おいおい。私の推理を最後まで聴き給え」
その瞬間、ミストバーンの肘がフレイザード2号の腹に深々とめり込んだ。
「速い!」
ミストバーンの攻撃を見落としてしまったハドラーちゃんは驚きを隠せない。
「あのフードを脱ぐだけで、こんなにも変わるのか?」
一方、誰にも見せてはいけない姿を見せると言う大失態を犯してしまったミストバーンは、怒りで打ち震えていた。
「この姿を見てしまったのだ……お前達は是が非でも死ななければならぬと心得よ」
が、フレイザード2号は痛みに耐えながら飄々とした態度を魅せつける。
「ダメダメ。名探偵の推理を最後までちゃんと聞くは、誰も逆らって―――」
「黙れ!」
今度はミストバーンの右拳がフレイザード2号の顔面に深々とめり込んだ。
(速い!速過ぎる。と言うか、俺はフレイザード2号を全然援護出来てない!)
「どうせ死ぬのだ。最期くらい、黙って口を閉じたらどうだフレイザード」
だが、
「おーい。フレイザードぉー」
「誰だ!?」
ガッルールが呑気に手を振りながらフレイザード2号に質問する。
「さっきの説明、全く理解出来なかったから、もう1度言ってぇー」
その質問はミストバーンの正体に触れる危険な質問。故に、
「よせ!このタイミングでその台詞を言うな!ガッルール!」
ハドラーちゃんの叫びが功を奏したのか、ガッルールは間一髪でミストバーンの拳を避けたが、ガッルールの回避行動があと0.01秒遅かったら大惨事であった。
「何すんのコイツ!?私の耳を捥ぎ取ろうとしなかった!?」
「耳どころか命すら要らぬ。私のこの姿を見てしまったのだからな」
「うおぉー!」
我慢できなくなったハドラーちゃんが慌ててミストバーンに斬りかかった。
「お前の今の慌てぶりから察するに、そう言う事なのだろ?なら、貴様がこの俺に斬られても文句は言えまい」
「どの道貴様も死ぬのだハドラー。その死が早まるか遅くなるのかが変わるだけだ」
「……どうかな?」
バックステップで一旦ミストバーンから離れると、渾身の呪文を放つ。
「右手に
「フェニックスウイング」
摩擦で炎が上がる程の極超高速掌撃がハドラーちゃんの
「……おいおい。バーンの幽体ですらそれなりに打撃を与えた呪文なのに……凹むなぁー」
「今の一撃をバーン様にだと……万死に値する!」
その後もハドラーちゃんとミストバーンが激突する中、ミストバーンに叩きのめされたフレイザード2号が漸く起きた。
「おー、痛かった。って、何でハドラーちゃんが戦ってるの!?」
「貴様のせいだろ!貴様が闇の衣の中に何が入っているのかを明かそうとしたしたからこうなったのだ!死をもって償えぇー!」
「させぬ!」
フレイザード2号に飛び掛かろうとするミストバーンの前に立ち塞がるハドラーちゃん。
「そろそろ言ってしまえフレイザード2号。ミストバーンとはつまり、そう言う事なんだろ?」
「やめろぉー!」
「……確か……幽体離脱したバーンが自分の身体を凍れる
「勿体ぶるな!早くしろ!」
「やめろ!どけ!ハドラー!」
「バーンの肉体は
「良いから早く言え!」
「やめろぉー!言うなぁー!」
「その肝心の凍れる
そう言いながらミストバーンを睨みつけるフレイザード2号。
「ミスト……憑依能力に長けたお前が凍れる
それを聴いたミストバーンが怒り狂う。
「おのれぇー!知ったなぁー!許さんぞ!フレイザード!」
まあ、これだけお膳立てされれば、流石のハドラーちゃんだって言われなくてもこの設定は気付く。
が、1つだけ疑問が残る。
「つまり、目の前にいるミストバーンこそが、凍れる
事実、前の時間軸ではアバンの罠に嵌って凍れる
「その点はまあ……ミストの憑依能力が優秀過ぎたとしか、言えないですね。例え宿主の身体がどんな状態になっていようと、宿主の肉体に秘められた身体能力を最大限に発揮出来る。だから、バーンはミストを凍れる
ミストバーンの堪忍袋の緒が切れる。
「おーのーれぇー」
ミストバーンは誰にも知られてはいけない大魔王バーン最大の秘密がバレてしまった事を恥じた。
そして、その暴露の立役者であるフレイザード2号を心底憎んだ。
「フレイザードよ……ただで済むと思うな。私のこの姿を見てしまった事は、死刑宣告と同意なのだ」
「つまり、私達全員を殺すって事か?」
「そうだ。この秘密は誰も知ってはいけないのだ。例え何が起ころうとな」
フレイザード2号は鼻で笑った。
「だとしたら……大変な大仕事になるよ」
「まさか、貴様がこの私に勝てるとでも?」
「……違う」
「え?」
ハドラーちゃんはフレイザード2号の返答に困惑した。
「私が大仕事だと言った理由……それは私達の実力だけの話じゃない……私達の……数の問題だ!」
「数?たった3人―――」
「私はちゃんと役目を果たしたぁー!次はお前の番だぁー!異元扉ぁー!」
ここにきて異元扉の登場に驚きを隠せないミストバーン。
「何!?異元扉だと!?フレイザード!貴様まさか!?」
「そうだ。これだけ聴ければ十分だ」
「あぁ……ああぁ……あああぁ……」
これだけ大勢の人達に大魔王バーンの最大の秘密が暴露され、よりによって
「大魔王バーンの肉体、こんな所に在ったとはな。魔界の神が聞いて呆れる」
「フレイザード……なんて事をしてくれたんだぁーーーーー!」
この舌戦はほぼフレイザード2号の圧勝だったが、フレイザード2号も1つだけ誤算が有った。
「さあぁーって、これだけの数を……何!?アバンがいない!何故この中にアバンがいないんだ!勇者と呼ばれてちやほやされている筈のあいつが、何故ここにいない!?」
「アバンがいないだと!?そんな馬鹿な!」
ハドラーちゃん的には絶対に有り得ない事であるが、でも、バランを含む異元扉からぞろぞろと出て来る人達の中にアバンの姿は無かった。
「……何で……何故だアバン……」
異元扉からぞろぞろと出て来る人達をよく視たミストバーンがその答えに辿り着いた。
「勇者アバンは……そこにいる!」
ミストバーンが再びガッルールを攻撃すると、中からアバンが出て来た。
「いやぁー、失敗失敗。と言うか、こんな芝居をする必要が無かったみたいですね?」
「え!?アバンがガッルールに変装してたの!?じゃあ、本物のガッルールは……」
「あはは……ここ」
「つまり、ガッルールがアバンに先を越された訳ね……ハドラーちゃんが『アバンは手強いぞ』と口癖の様に言ってたけど、確かに手強いわ」
「さて。貴様も終わりだな?ミストとやら。せっかく今日までバーンの肉体を護り抜いたと言うのに、その努力も、今日水の泡となる」
バランの死刑宣告に対し、ミストバーンもまた、譲れぬ思いを口にする。
「こっちも凍れる
だが、バランとミストバーンが激突する事は無かった。
「もう良い。素直に認めようではないか」
「!?……バーン様!?」
異元扉からバーンに声が聞こえた途端、フレイザード2号は呆れ果てた。
「お前……またか異元扉」
が、ミストバーンはそれどころではない。
「認めよ、とは?」
「こやつらの力が我々の予想以上だった事を。余もハドラーに殺されかけておる。フフッ。どうやら、お前に長年預けてきた物を返して貰う時が来た様だ」
「それってつまり、肉体と幽体が合体する?」
「余は……限り無く永遠に近い生命を得る為に自らの肉体を2つに分けた。叡智と魔力のみを残したこの肉体をベースに、若さと強さをもう1つの肉体に分離させた。そして、皆既日食が来る度に凍れる
「そしてその肉体を護って来たのがミストなのだろ?」
「今、それが1つに戻る!」
「お返しいたします。天地魔界に無敵と謳われた、この真の大魔王バーンの肉体を!」
その途端、ミストバーンが、もとい、ミストに取り憑かれていた肉体が異元扉に吸い盗られてしまった。
「待て!」
「ハドラー様!?」
「……バーン!」
「あ!?ダメ!ホーモン!」
それをハドラーちゃん、ガンガディア、ガッルール、クレオ、そしてホーモンが追う。
そんなハドラーちゃん達が異元扉を潜った先で見た者は、1人の青年魔族であった。
「……お前が……大魔王バーンの肉体か?」
「何千年ぶりだか……とうに忘れてしまったがな」
真・大魔王バーン……降臨!
一方、異元扉をくぐるのが少し遅れた者達は、別の問題にぶつかっていた。
「何の心算だ?フレイザード」
突然フレイザード2号に手首を握られたバランが不快感を露わにする。
「離せ。今は貴様に構っている場合ではない」
だが、フレイザード2号の様子がおかしい……
「……おかしい……」
「ん?何がだアバン?」
「同じハドラーの配下であるガンガディアが真っ先にハドラーの後を追ったのに、彼女はハドラーを追おうとはせず、ただバランの足止めをしているのみ……」
「あいつ……本当にハドラーの手下か?とでも?」
マトリフは、アバンが感じた違和感に対して嫌な予感がした。
「……そう言えば……あいつは大魔王バーンに肉体を返した……筈だよな?」
それを聴いたロカとレイラの背筋が凍る。
「……まさか……」
その途端、フレイザード2号が不吉で不気味な笑い方をした。
「フッフッフッフッ、なかなかやるなアバン。あのハドラーが一目置くだけの事は有ると、言う訳か?」
それだけで、アバンが感じた違和感が確信に変わる。
「気を付けろバラン!そいつはフレイザードではない!」
「……どう言う意味だ?」
「かつてのフレイザードは、ハドラーの事を『ちゃん』付けで呼んでいた。それが、今になってハドラーを呼び捨てにした!」
「そう言えば、ガンガディアの野郎も、ハドラーの事を『ハドラー様』と、呼んでたな?」
バランがゆっくりとフレイザード2号の方を視る。
「……では、こいつがフレイザードではないとすると、なんだと言うのだ?」
マトリフがアバンの代わりに答えた。
「このタイミングで、フレイザードに変装する必要性が有る奴は、1人しかいないだろ」
アバンとマトリフにそこまで言われたフレイザード2号は、観念したかの様に白状した。
「見事だな……そう……私はバーン様の真のお姿を覆いつくす黒い
最後の最後でとんでもない失態を犯したフレイザード2号に呆れるマトリフ。
「うわぁー。あいつおもいっきりミストの野郎に乗っ取られてるじゃねぇか」