「どうやら……いよいよ
しかし、ハドラーちゃんだけは違った。
「いや……退くのは貴様の方だ」
「何!?」
と言いたいところだが、ハドラーちゃんが手にしている瞳や床に転がっているビー玉から、ハドラーちゃんの心情をある程度は察した。
「……感情的になってるだけだろ?」
バランの言い方が癪に障るのか、ハドラーちゃんは眉を顰めた。
「感情的?」
「そうだ。せっかく手塩にかけて結成した地上侵略部隊を、あそこにいる破壊神気取りの大魔王に台無しにされたのだからな」
ロカは確かになと思ったが、アバンだけはバランの言い分を全否定したくなる何かを感じていた。
(本当にそうか?では、ハドラーのあの自信に満ちた顔は何だ?)
それを裏付けるかの様に、ハドラーちゃんは反論する。
「台無し?バーンの天地魔闘の構えと戦った俺の部下共の敗北が、全くの無意味だと言うのか?」
「現に、あ奴らは全員―――」
「それを言うのはまだ早い。あいつらを馬鹿にするのは、この俺がバーンの天地魔闘の構えに敗けてからにして貰おうか?」
自信満々に宣言するハドラーちゃんに呆れて軽く引くバラン。
(はっ!?私は今、何をした!?この私が後ろに下がっただと!?)
それだけではない。
ハドラーちゃんはバランを押し退けて大魔王バーンの眼前に立ち塞がった。
ハドラーちゃんとバランのやりとりを聞いていたバーンは、やや自虐的でやや侮蔑的な笑みを浮かべた。
「ハドラーよ……せっかくの
対するハドラーちゃんは自信満々な笑みを崩さない。
「俺が、他の連中に馬鹿にされるのは、バーンの天地魔闘の構えがこの俺を叩きのめすまで待って貰おう」
「……何?」
「この俺が、天地魔闘の構えを観たのは何度目だバーン?それで天地魔闘の構えに敗けたとあっては、先に戦ってくれた敗者達に申し訳がたたん」
(!?)
バーンは一瞬警戒した。
スピードに任せて天地魔闘の構えの背後を攻撃しようとしたガッルールと言う前例があるだけに、ハドラーちゃんの自身馬鹿宣言をハッタリと断言しきれなかったのだ。
(何を掴んだ?ハドラー!?)
ハドラーちゃんは早速右腕から覇者の剣を生やし、背中にヘルコンドルの翼2枚とキメラの翼4枚を生やす。
その姿は、まるで漆黒の堕天使の様でどこか神々しかった。
「いくぜえぇーーーーー!」
ハドラーちゃんは自らの叫びと共にバーンに向かって直進する。
一方、さっきまでハドラーちゃんの謎の自信を警戒していたバーンは、実際にする事が只の突進だと判った途端に安堵の笑みを浮かべた。
「愚か!それは最初のホーモンが犯した失態と、同じ!」
そんな侮辱など聞く耳持たず、ハドラーちゃんは左腕から
「それも、異世界から来た神気取りの似非勇者が犯したミスだ!」
それでも、ハドラーちゃんの突進は止まらない。
「超魔爆炎……」
超魔爆炎覇もまた、フェニックスウイングに弾き飛ばされた。
「終わりだな?」
バーンがこの隙を逃す筈も無く、カイザーフェニックスがハドラーちゃんを容赦なく焼く。
それでも、ハドラーちゃんの自信満々な笑みは崩れない。
「お前もな」
「何?」
「右手に
それだけでもバーンが警戒するに足る危機であったが、バーンは何故が一瞬だけガクンとした。
「何!?」
バーンはそのガクンの理由が解らず困惑しているその隙が、ハドラーちゃんの最大のチャンスとなった。
「
ビーム状の極超高熱エネルギーがバーンの腹部に直撃し、バーンを派手に吹き飛ばし、バーンの背中が押し付けられた壁には大きなヒビが入っていた。
「ぐおおぉーーーーー!?」
それを観ていたマトリフが思わず叫んだ。
「やったか!?」
ハドラーちゃんの
「何故?……どうなってる?」
「我慢比べしようかバーン様♪200万年分進化した超魔生物の再生力が勝つか?バーン様の極超回復力が勝つか?」
天地魔闘の構えに耐え抜いて優雅に浮遊しているハドラーちゃんだけでもバーンにとっては信じ難い事であったが、
「まだ解ってない様だな?俺の
「……何?」
確かにバーンは疑問に思っていた。
「その通りだバーン。天地魔闘の構えに勝てるのは、あの一瞬しかなかったのだ」
バーンはハドラーちゃんの言ってる台詞の意味が解らなかった。
「……何の事だ?」
だが、アバンはハドラーちゃんの台詞の意味を正しく理解していた。
「良いのですか?せっかく天地魔闘の構えを破る方法が見つかったのに、それを捨てるなんて」
「な!何いぃーーーーー!?」
バーンは目玉が零れ落ちる程瞼を全開にしながら驚いた。
当然である。バーンは天地魔闘の構えで相手を仕留め損なった事が無いからである。
対するハドラーちゃんはアバンの皮肉に対して冷静に答えた。
「構わんよ。どうせいずれバレる」
その言葉がバーンを謀らずも貶めた。
天地魔闘の構えはバーンの技の筈なのに、バーン自身が弱点を知らないのだから。
「余が気付かぬ事をハドラーがだと?」
が、ハドラーちゃんのこの後の説明が、バーンの心の傷を謀らずも容赦無く抉り削る。
「使用後の硬直だ。バーンが天地魔闘の構えを繰り出した直後、ほんの刹那だけバーンが完全停止するんだよ。恐らく、膨大な魔力消費による休息タイムの様なモノだろうな?」
自分の技の筈なのに、他人に指摘されて初めて知った天地魔闘の構えの意外な弱点。そして盲点。
それは、バーンだけを辱めているのではなく、ハドラーちゃんにそんな意外な弱点に気付かせてくれたガンガディア達を除く、バーンに敗れた者全員を辱める台詞でもあった。
それが、バーンに手を上げさせた。
「ぐおぉー!」
ハドラーちゃんはバーンに殴られて吹き飛ばされた。
アバンはこれを『流れが変わった』と判断した。
全くもってその通りである。
ガンガディア達との戦いでは、バーンは殆ど天地魔闘の構えを含めたカウンターのみで対応して全勝した。
にも拘らず、バーンは遂にカウンターをやめて先に攻撃したのだ。
「……どうやら、ハドラーはバーンのプライドを傷付け過ぎた様だ」
アバンの推察にバランは困惑する。
「……何?」
そこに、マトリフの補足説明が入る。
「ま、少なくとも、バーンがハドラーの前で天地魔闘の構えを使う事は、もうないだろうよ?」
「……天地魔闘の構えに頼れぬ以上、それ以外の攻撃に活路を見出すしかないと言う訳か?」
バーンはハドラーちゃんを何度も殴り続けた。
対するハドラーちゃんも必死に覇者の剣を振り回した。
そんな2人の様子に、ロカはどうしてもこれが頂点同士の頂上決戦には見えなかった。
「……なんか……急に泥臭くなってないか」
そんなロカの頭をこつんと叩くマトリフ。
「馬鹿野郎。ハドラー達は、バーンをその泥臭い所まで頑張って堕としたんだよ。命賭けでな」
そんなロカとマトリフのやりとりを鼻で笑うバラン。
「だがそれも、ハドラーが立ってる間だけだ。今のところはな!」
そう言うと、バランは再び竜魔人へと姿を変える。
「おいおいおい!」
「天地魔闘の構えの弱点を知ってしまった以上、最早ハドラーと言う名の生贄は不要!後は
そんなバランの叫びにハドラーちゃんが少しだけ凹んだ。
「おいおい。
とは言え、冗談が言える余力を残すハドラーちゃんはまだまし。
バーンにとっては最悪のタイミングで竜魔人が投入されてしまったのでたまったものではない。
「カイザーフェニックス!」
「効くかあぁー!?」
バーンはバランに思いっきり殴られた。
それがかえってバーンを冷静にしてしまった。
「最早……この姿のままでは勝てぬと言う訳か……」
ハドラーちゃんは、バーンの突然の敗北宣言に面食らった。
「え?え!?大魔王バーンが、敗北を認めただと?」
しかし、アバンはそうは思わなかった。
「……はっ!?ダメだハドラー!停まるな!」
だが、バーンは既に額にある鬼眼を取り出そうとしていた。
「ならば、勝てる姿に成れば良いだけの事だ……」
そして、バーンは躊躇無く鬼眼を取り出した。
その直後、瞳に変えられていたガンガディア達が元の姿に戻った。
その時の衝撃に驚くハドラーちゃん。
「おわ!?」
対するフレイザード2号は、元に戻るなりハドラーちゃんに説教を垂れた。
「ハドラーちゃん!なんて危ない戦い方をするの!それじゃあハドラーちゃんの身体がもたないでしょ!」
が、誰もフレイザード2号の説教に耳を傾けず、ただただ斜め上を静かに見ていた。
「いや……ハドラーがバーンから大魔王の座を奪ったと主張するには……まだ早いらしいぜ……」
「え?……と言う事は、まさか……」
元の姿に戻ったばかりのガンガディア達も静かに斜め上を見る。
「……鬼岩城?」
ハドラーちゃんの言葉通り、鬼岩城を小型化したかの様な何かが、ハドラーちゃん達の前に立っていた……
結局……ポップが原作で行った『使用直後の硬直中に攻撃する』が天地魔闘の構えの正しい攻略法となりました。
とは言え、こう言うのは誰かがバーンに天地魔闘の構えを使わせないと成立しない攻略法であり、ホーモン、クレオ、ガンガディアの敗北は無駄ではなかったわけです。
そしてこれが、たった1人で戦い続けた真・大魔王バーンとちゃんと共闘した者達との差であり、孤独が持つ力の限界でもある訳です。
フレイザード2号がキルバーンとピロロを排除してくれた今、残る敵はバーンのあの姿だけ(?)。我ながら迷走し過ぎた本作も、いよいよクライマックスが近いです!