魔界側の勝手な都合を大義名分にして地上界を消滅させようとした大魔王バーンは滅びた。
だが、人類側の戦いが終わった訳ではない。
何故なら、まだ地上界征服を目論むハドラーちゃんがいるからだ。
本来ならこの世界線とは無関係なクレオ達ならいざ知らず、正真正銘の住人であるアバン達にとっては死活問題であった。
両者、それを察してかアバン達とガンガディア達が緊張感満載な睨み合いが続いていた。
しかも、両者共下手に動けば
が、そんな緊張感満載の睨み合いは、1人の少女の降臨によって(一応)穏やかに終わった。
大魔王バーンを斃したハドラーちゃんが両者の間に割って入ったのだ。
「まて、ガンガディア。今は戦うな。と言うか、これだけの傷だ。戦う力など残ってない筈だ」
「ハドラー様!?」
ハドラーちゃんは手の平を突き出す事でガンガディア達を制止した。
「待て。こいつらとはこの俺が話を着ける」
ガンガディア達の静止を確認すると、ハドラーちゃんはアバン達の方を向いた。
「お前達人間共にとっては……このままアバンが俺を斃してハッピーエンドが理想であろうな」
ハドラーちゃんの言い分に対し、アバンは首を傾げかけた。
アバンの目から見て、今のハドラーちゃんは―――
そんなアバンの独白を食い気味にハドラーちゃんがとんでもない提案をする。
「虫の良い事を言う様で悪いが、15年ほど猶予をくれないか?」
一同全員がいっせーのーでズッコケた。
そして、バランが反論する。
「本当に虫の良い事を言いおって……通ると思うか?」
が、当のハドラーちゃんは真面目な顔でその理由を語り始めた。
「確かに虫の良い話だが、こっちも切実な理由が2つも有ってな……人間共にとって都合が良いと、都合が悪いがな」
問答無用とばかりに飛び掛かろうとするバランを制止し、アバンが理由を尋ねる。
「先ずは、私達にとって都合の悪い方からお聞きしましょう」
「感謝する」
アバンに事情説明を促されたハドラーちゃんの口から、とんでもない事実が告げられた。
「実はな、この俺からこの地上を横取りしようとしている者が、大魔王バーン以外にもいるのだ」
それを聴いて驚いたのは、バランの方だった。
「バーン以外だと!?……まさか……」
その時、不気味な声がこの場に響き渡る。
「ハドラー!?まさか貴様、バーンだけでは飽き足らず、この私の命も狙っているのか!?」
何も知らない人間達は驚きを隠せない。
「なんだ?誰が喋った!?」
「この喋り方は、智慧ある竜か?」
前の時間軸において、バランがハドラーと戦わなかった理由が、遂にアバン達の前に曝される。
「こっちに来るな。俺達が今からそっちに向かう。それまで待て……冥竜王、ヴェルザー」
「冥竜王!?」
「ヴェルザー?」
その途端、バランが驚き声を上げる。
「正気かハドラー!?貴様は奴の恐ろしさを―――」
「大魔王バーンと肩を並べる魔界の2大巨頭。並みの魔物では、触れる事さえ叶わぬ。そして……」
ハドラーちゃんがバランを睨んだ。
「
ハドラーちゃんの指摘に、マトリフは呆れ、ガンガディアは怒り、フレイザード2号は冷静に頷いた。
「では何か?ハドラー様の討伐は、そのヴェルザーを斃してからでも遅くはないと判断したと?」
「その間、俺達がどれだけ苦労したか、ちゃんと理解した上での判断だと思いたいね」
「ガンガディアの気持ちは解るけど、相手は魔族並みの知能を持つドラゴンだ。事を慎重に図りたいと言う気持ちは、解らなくもないけどね」
そんな三者三様な意見に対してハドラーちゃんは反論出来なかった。
実際、前の時間軸ではバランがヴェルザーと戦っている間に、アバンがハドラーに勝利しているからだ。
が、そんな前の時間軸の都合などどこ吹く風なヴェルザーは、ハドラーちゃんの傲慢で無礼な態度への怒りでいっぱいだった。
「黙れ貴様ら!大魔王バーン亡き今、この私こそが地上の支配者に相応しい!」
「ヴェルザー、貴様―――」
ヴェルザーがバランの逆鱗に触れたが、ハドラーちゃんがバランに冷静かつ狡賢い判断を促した。
「待てバラン」
「止めるな!この者は―――」
「今からこの俺と冥竜王ヴェルザーが魔界の覇権を奪い合うのだ。お前は、チャンピオン気取りでしばし待て」
そんなハドラーちゃんの覚悟に対してアバンが声を掛けた。
「そのヴェルザーが、お前達が15年の猶予を欲する理由か?」
「半分はな」
「なら……水臭いとは思いませんか?」
アバンの指摘に驚いたのは、ヴェルザーの方だった。
「人間風情が!貴様もこの私に逆らうか!?」
が、ハドラーちゃんが勿体ぶる。
「まあ待て。この俺が人間共に15年の猶予を要求するもう1つの理由をまだ語ってない」
「もう1つの理由?」
「まだ何かあるのか?」
ハドラーちゃんが15年の猶予を求めるもう1つの理由。
それはかなり自分勝手で非常に情けない理由だった。
「白状するとな、大魔王バーンとの戦いのせいで、こちらの兵力がほとんど空なのだ」
「……兵力?」
ハドラーちゃんは照れ臭そうに弁明を続けた。
「魔王とは本来、多くの魔を苦も無く従える者の事を言う。つまり、質だけでなく量も備えないと魔王とは呼べんのだ」
「ただ、それだと最初の理由と矛盾する。大魔王バーンの手によって減らされた兵力がヴェルザーの手によって更に減らされる危険性も有るのでは?」
アバンの指摘に文句を言ったのはヴェルザーだった。
「黙れ人間共!ハドラー、調子に乗るのもいい加減にしろ。さもなくば、失うのは兵力だけでは済まないぞ!」
それに対し、ハドラーちゃんは見下す様な言い方をする。
「どちらも違うぞ。アバンにヴェルザー。この俺が貴様を斃して貴様が持つ兵力をそっくりそのまま頂くと言っているのだ。冥竜王ヴェルザー」
売り言葉に買い言葉。
ハドラーちゃんの高圧的な態度に激怒するヴェルザー。
「誰が渡すか!ハドラー、貴様の様な無粋な輩に兵力と地上を、渡すものか!」
「それは、この俺に勝ってから言え。その方がクールに見えるぞ?」
そして、ハドラーちゃんは異元扉を呼んだ。
「ちょっとおま……今から往くのか?」
「そうだ。有言実行。文句はあるか」
どうやら、ガンガディア達は既に腹をくくった様である。
「……マジでっか?」
ただ、ハドラーちゃんにとって1つだけ心残りがあった。
「が、その前にバルトスを呼んでくれ。あいつに言わねばならん事が有る」
それを聴いたフレイザード2号と未来ヒュンケルが嫌な予感がした。
「ハドラーちゃん!?あんたまさか!?」
「本気か!?ハドラー!」
それに対し、ハドラーちゃんはしれっとこう答えた。
「そうだ。ヒュンケルをアバンに返す」
ハドラーちゃんの言い分に困惑するアバン。
「ヒュンケルを私に返す?どう言う事ですか?」
「元はと言えば、バルトスの酔狂から始まった事よ。偶然拾った人間の赤ん坊をあのまま野放しに出来なかったと言うのでな」
アバンは驚き過ぎてポカンとした。
未来ヒュンケルがハドラーちゃんに反論しようとしたが、ハドラーちゃんは半ば諦めの極致で言葉を紡ぐ。
「確かに俺も迷ったよ。でも、ヒュンケルは人間で我々は魔族。どんなに情が移ろうといずれ種族の差が立ち塞がる。理想と現実だよ」
未来ヒュンケルが少し考え、
「……ならば、この俺がバルトスの相棒になる。それ―――」
フレイザード2号が即座に反論する。
「ば、馬鹿!お前……重要な探し者があるだろ!」
「それはあいつらが必ず見つけ出す。それに、バルトスの相棒になる事は、俺の小さい頃からの夢だ」
フレイザード2号は未来ヒュンケルの意思の硬さに頭を抱えた。
「嘘おぉー!お前なあぁー!」
そして、ハドラーちゃん達は冥竜王ヴェルザーを斃しに異元扉をくぐった。
それは、ハドラーちゃんが放つ魔力が尽き、凶暴化していた魔物達が大人しく自然に帰った事を意味していた。
その後、アバンはハドラーちゃんとの約束通りに地底魔城からヒュンケルと言う少年を保護した。
最初の内はバルトスと離れ離れにされた事を怨んではいたが、ジニュアール家で暮らすうちにドリファンとの模擬戦を積極的に行う様になり、剣士としての才能が開花した。
(ヒュンケル……彼は今直ぐにでもバルトスの許に往き、共に冥竜王ヴェルザーと戦いたいのであろう)
そんなヒュンケルの焦りを感じつつ、アバンはバルトスにヒュンケルに関する御礼が言えなかった事を心残りにしていた。
「ハドラー……ヒュンケルはバルトスとまた逢えるよな。いつか生命が種族という垣根を越えた時に……」
そして、ヒュンケルがドリファンから一本を取れる様になったのを契機に、アバンは再び旅に出た。
ヴェルザーの実力がどの程度か解らない以上、ハドラーちゃんが言っていた15年後が本当に来るのか解らないが、それでも、その15年後に備えて次世代を育てる為の旅を行ったのだ。
一方その頃、冥竜王ヴェルザーはハドラーちゃんに向かって口から火の玉を吐いた―――
これまでアニメ版ハドラーの供養を念頭に置き、同人小説の執筆と掲載を続けてまいりました。しかしながら、私の力不足ゆえに邪念が入り、物語が迷走し、皆様を困惑させてしまいましたことを猛省しております。
紆余曲折を経た本作ではございますが、本日をもちまして最終回を掲載する運びとなりました。これまでの長きにわたる温かいご厚情とご陪伴に、深く御礼申し上げます。