暗く木が繁る森、鳥のさえずりが響きわたる中。ぽっかりと空いた空間に亀裂が入る。
「どわぁぁぁ!!??」
亀裂の中から転げ落ちるように一人の人間が落ちてきた。その姿は艶やかな着物姿、しなやかな細身の女体、しかし何よりも目につくのは、腰に備えている二振りの刀であった。
「ふぇぇ、また神隠し~?せっかく亜米利加でうどんにありつけると思ったのに~……。」
彼女は突然別の場所に来たにも関わらず落ち着いていた。まるで何度も経験しているかのように。
「む……この風の感じ、この風景、もしかしてここって……」
彼女がもの思いにふけるなか、近くの茂みが揺れる。それを境に、気配が一気に大きくなる。それに気付いたか、もの思いにふけるのを止め、揺れへと意識を向ける。
「お、おい姉ちゃん、こんなところで何してやがるんだ?いい身なりしてんじゃねえか。顔も体もべっぴんときた。こんなところ一人じゃ危ないぜ?俺たちみたいなのがいるんだからな!!」
山賊だろうか。数は10を越えている。山では滅多に見ない身なりのいい女に興奮しているのか、鼻息が荒いものが多い。そんな山賊を前に彼女は、
「日本語!言葉が通じる!!やっぱりここ日本だ!!やったー!!うどんが食べれる~!!!」
検討違いのことで喜んでいた。いや、本人からすれば大変なことではあるのだが、山賊から見たら頭がおかしいやつであった。
「な、何言ってんだあの女?」
「お頭!いいからはやく捕まえましょうぜ!!女なんて久しぶりだ……」
男達の頭の中では既に彼女を捕まえることは決定事項なのか、とらぬ狸の皮算用とはまさにこのこと。彼女を相手に無理やり捕まえられるものはそうはいないだろう。
「えー、では山賊の皆さん?」
彼女が完全に山賊へと意識を向ける。山賊を見る目は久しぶりに会えた同郷の人間への郷愁ではなく、小銭を落とす獲物を見る目だった。彼女はゆっくりと二刀を抜き歩きながら近づいていく。
「お、お頭?なんかおかしくないですか?」
「な、な、なわけあるか!女一人だ、とっつかまえろ!!」
刀を持っても女は女。今まで捕まえたみたいに男の力で捕まえれば簡単に捕まると思った。それにこちらは10人以上いる。少なくとも俺は大丈夫だろう。お頭と呼ばれた男は自分は楽しめるとたかをくくっていた。その後の光景を見るまでは。
女を襲った。刀を振るった。首が跳ねた。
お頭がそれを理解したのは見える光景が横になった後だった。
「ふんふんふーん♪あ、あったあった。やっぱり身銭稼ぎは山賊盗賊からにかぎるわね!」
その女は別れた体から財布を抜きとり、懐へとしまっていった。他の山賊も既に頭と体が別れていた。何が起こったのか分からないまま、山賊のお頭は死んだ。不幸にも異世界からの漂流者。剣豪、新免武蔵守藤原玄信。俗称、宮本武蔵に出会ったために。
「はー!お団子、美味しいー!」
道中茶屋を見つけ、先程の山賊から巻き上げたお金で糖分補給。
「「ごちそうさま!(でした!)」」
「「ん?」」
どうやら奥の人と同時に完食したようだ。声がした方へ顔を向けてみると、
「!」ブルリ
鳥肌がたった。
刀が、最高の名匠が生涯をかけて作ったような名刀がそこにはいた。
チャキ
知らぬ間に私は鯉口を鳴らしていた。その意味が相手に通じているかは分からない。だが剣気は十分に伝わったか、相手の表情は呆けたものから刀のごとく鋭い剣気を放っていた。
私はお店を後にし、道を行く。男も勘定をし、私の後をついてくる。私と男は空いた土地に付き、互いを見合った。
「俺を誰か知っての誘いか?今まで色んなやつと戦ってきたが、お前みたいなあからさまなのは初めてだぜ。」
「そりゃお兄さんみたいないい男に出会ったんだもん。誘わなきゃ人生の損でしょ?」
男の体は無手。だがしかし、刀を持っていないにも関わらずこの剣気。もはや刀の有無は問題にあらず。一触即発の空気、二人は互いに名乗りを上げ、いざ、いざ、尋常に!
「虚刀流七代目当主、鑢七花。推して参る!!」
「二天一流、新免武蔵守藤原玄信。我が第五勢を以てその御身、二刀のもとに切り伏せる!!」
「いいぜ、やれるものならやってみろ。ただしその頃には、あんたは八裂きになってるだろうけどな!」
勝負!!!
連撃、連閃。互いにまだ様子見であるにも関わらず、その手数は常人に見えるほどではない。
「はっ!」
「甘い!!」
武蔵が刀を振り下ろす。無理やりにでも距離を取らせる気か、至近距離でそれをかわすのは至難の技だ。だが七花は対応する。一の構え『鈴蘭』から繰り出される足運びは極少の間を読み取りギリギリの安全圏へと移動する。振り下ろした刀は七花の肌にわずかに届かなかった。
「今度はこっちの番だ!」
反撃をするために踏み込む七花。一歩踏み出すところを、方向を急反転、体を仰け反り、バック転をしながら距離をとることになった。原因は武蔵のもう一振りの刀。振り下ろした刀の勢いを反動に文字通り返す刀で左手の刀を投げた。
「あれかわすのぉ!嘘でしょ!?」
「刀を投げるのか!?嘘だろ!?」
互いに驚きながら距離を取る。武蔵が投げた刀は遠くに落ち、取りに行くようならば必ず隙を晒す。
(やばいな~今の決め手だったんだけどな~そもそもこのお兄さん隙あらば刀を壊しに来るんですけど!怖!)
(この女、錆白兵くらい強いんじゃないか?これで変体刀を持っていたらと思うとぞっとするな。)
互いに決め手なし、とはなるわけがない。まだまだ本領を発揮しない二人だが、ここで武蔵が動く。
「一刀になったし、ちょうどいいわ。」
武蔵が刀を構え、集中を始める。瞬間、仁王が顕現する。
「な、何だ!?」
もちろん本当に仁王が現れた訳ではない。だが、武蔵の剣気が、その在りかたには七花に幻覚を見せるほどの圧があった。
「南無天満大自在天神。仁王倶利伽羅、小天象! 行くぞ、剣轟抜刀……伊舎那、大天象!」
斬られる。
瞬間的に理解した。このままでは斬られる。
迎撃、不可能。回避、不可能。
ならばそのまま斬られるのみか………………否!否!否!
(自分を守れって約束……また、破っちまうな。とがめ)
七花は突撃する。活路を見つけるために自ら死地へと飛び込む。狙うは死角。刀が振り下ろされる零地点。
「その気迫やよし!!我が奥義、受けてみよ!!」
「虚刀流最終奥義【七花八裂・改】!!!」
攻撃が重なるは、同時だった。
何度その技を放ったのか。何度構想を練ったのか。合理の極みと化したその技は一秒にも満たない時間に行われる鏖殺。刀は折られ体は八つ裂きとなるその技を、『七花八裂』といった。咲き誇るは七つの閃華。放たれた奥義は確かに武蔵の体を襲った。しかし、
「がはあっ……!!!」
倒れていたのは七花の方だった。
「かはっ……なんで、あの傷で、動けるのよ………」
奥義を食らいながらもふらふらとしながら立っている武蔵。倒れた七花の体には、斜めに大きく刀傷が出来ていた。
「お前の、方こそ、やるな………」
「それ以上喋ると死ぬわよ………」
「それは、まずいな………」
「……………ねえ、この勝負、痛み分けってことに……」
「違う。この勝負はお前の勝ちだ。俺が寝ていて、お前が立っている。それが全てだ。」
「……じゃあこの勝負、お姉さんが預かりました!!またやりましょう。虚刀流」
「次は勝つさ。えーと………なんだっけ?」
「え!?互いに名乗ったでしょ!?」
「名前長くて覚えてらんねぇよ………」
「そうね………じゃあ改めて、私は宮本武蔵!!その傷と一緒に覚えてなさいね!!」
「…………はーーーーーー!?!?!?!?」
その後武蔵ちゃんとは別れてまた別の世界いったし、七花の傷は後から来た否定姫に見てもらってどうにかなりました。うどんは食べていったようです。ちゃんちゃん。