シャーレの活動記録集   作:目多須でぃてくた

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 メインストーリーVol.4終了後。
 ホシノはかつて勝負を仕掛けてきた元スケバンから挑戦状を叩きつけられる。
 相手が罠を仕掛けている事が明白な中、先生はホシノを万全な状態で送り込むべく奇抜な作戦を実行に移す。


その1.5 エピソード初稿
#2 ホシノ対元スケバンの決斗


 

 エデン条約を巡る波乱の夏、連邦生徒会・SRT特殊学園とヴァルキューレ警察学校が関わる陰謀の秋が過ぎ、季節は冬に移り変わろうとしていた。

 

 「くしゅん!」

 「大丈夫?」

 「うへー。すっかり寒くなっちゃったな〜」

 かわいいくしゃみを放ったホシノは先生の心配にそう返す。

 シャーレへの雑多な依頼はいつでも存在する。

 今日の当番であるホシノは先生と二人でそんな仕事を終わらせ、オフィスへの帰路についていた。

 すっかり日が沈み、灯りの少ない路地を歩く。

 

 なんてことのない、いつまでも続いてほしい日常。

 一人の人間が背負うには重すぎるものを背負ってきたホシノ。そんな少女に手を差し伸べ、幸せを願うことの何が悪いというのか。

 先生はそう心の中で思っていると、第六感(なにか)がビリっと警告を発したように感じた。

 「先生」

 あくびをしていたはずのホシノはわずかな隙もなく愛用の散弾銃(Eye of Horus)を構え、安全装置を外しながら先生に声をかけた。

 「私の後ろに下がって」

 ホシノと先生の身長差は二〇センチあり体格にもだいぶ差があるが、彼女には常に持ち歩いている折畳み式防弾盾(バリスティックシールド)がある。

 周りに隠れる場所はないが、いざ戦闘となったら先生を庇う事は造作もない。

 先生はキヴォトスの住人とは違い一発の被弾が死に直結する。身を持ってそれを知っている先生は彼女の言う事に素直に従った。

 銃口をビルとビルの間の狭い隙間を向ける。

 「出てきなよ」

 

 

 「ククク……随分と腑抜けたようだな小鳥遊ホシノ!」

 

 漆黒の路地裏から姿を現したのは、筋骨隆々の女性。

 一九〇を超える体躯に身に着けた筋肉はボディビルダーのような美しさはなく、無駄が多く威圧感を与えるためだけのように思える。

 角材を切り出したたのようないかつく角張った顔に黒のサングラスは、顔面偏差値が高い傾向のあるキヴォトスにおいて明らかに悪目立ちする。

 右手には才羽姉妹と同じ自動小銃(G3ライフル)の銃身を極端に切り詰めドラムマガジンを取り付けた銃、腰にはシスターフッドの拳銃(デザートイーグル)と同型の大型拳銃が二挺提げられている。

 「(漫画に出てくる悪役みたいだな)」

 先生は心の中で感想を述べた。

 

 「わぁ、懐かしい顔だね〜。元気だった?」

 「うるせえ! こっちゃそこの先生(もやし)がそこらじゅうの生徒を連れ回すせいで商売あがったりなんだよ!」

 「なら強盗とかあくどい事でお金稼ぐのやめなよ。マッチョちゃんぐらいの腕なら引く手数多じゃん」

 「ハッ! てめえこそカイザーPMCとやらの誘いを反故にしたじゃねえか。アビドスなんか捨ててしゅ「そこまで」……なんだよもやし」

 筋肉女の言葉を先生が遮った。

 「君は表の情勢に疎いようだね。情報はまんべんなく集めないと、後で後悔するよ?」

 先生は無意識にホシノの肩に手を置いていた。安い挑発に乗るなとばかりに。

 ホシノは「大丈夫だよ」といつもの調子でつぶやいた。

 「ふん、面白くねえ」

 筋肉女はそう吐き捨てると

 「明後日の午後三時、あの時の場所だ」

 とだけ言い残して歩き去っていった。

 

 どういう事かわからない先生を背に、ホシノは銃を下げ安全装置をかけた。

 「ホシノ、あの女の人とはどういう関係なの?」

 先生の質問にホシノはいつも通りうへーと笑いながら

 「昔絡んできたスケバンだよ。詳しくはシャーレに戻ってからね〜」

 と告げた。

 

 「くしゅん!」

 「そろそろホシノもコートの入り用かな?」

 

 


 

 

 翌朝、先生はアビドス高等学校を訪れた。

 昨夜の筋肉女のことは当事者であるホシノだけでなく、対策委員会の全員が共有すべき事柄だと判断したからだ。

 「先生、皆揃いました」

 アヤネは全員が着席したのを確認して告げた。

 「朝早くにごめんね。アルバイトを邪魔しちゃマズイし、急なことだったから」

 「大丈夫ですよ。ホシノ先輩ともアビドスとも縁深い話と言われたら見過ごせません」

 いつも通りの笑みを浮かべながらノノミは言うが、一方のセリカは少し不機嫌な様子。

 夜遅くまで警備のバイトをしていたため寝不足気味のようだ。

 「それで? そのゴリラみたいな女ってのは何者なのよ?」

 「うん。実のところ、連邦矯正局にもデータがあまり残ってなかったんだよね。……ホシノ、頼める?」

「ほいほい。んーと、私がアビドス(ここ)に入って間もない頃なんだけどね〜」

 

 

 二年前、永い歴史を持つキヴォトスの中でも有数の戦闘力を持つ高校生徒が何人も現れた年となった。

 トリニティ総合学園の剣先ツルギ、ゲヘナ学園の空崎ヒナ、ミレニアムサイエンススクールの美甘ネル、ヴァルキューレ警察学校の尾刃カンナ。

 そして学校そのものが半ば忘れ去られていたため他校の生徒に隠れてしまった、アビドス高等学校の小鳥遊ホシノ。

 その年度のキヴォトスは不良学生がかなり増加傾向にあり、各地で不良生徒や退学となり根無し草となった者が暴れまわっていた。

 そういった者たちは急激に頭角を表した彼女らを倒して名を上げようとし、そして敗れていった。

 

 その中で姿を見せた不良生徒が、万千代(ばんちよ)大学付属高校の岩尾 マサコという女だ。

 「あの子は百人切りなんて馬鹿げたことしてあっちこっちで暴れた挙げ句、百人目でなーぜかおじさんを狙ってきたんだよねぇ」

 「勝負を受けたの?」

 「その時のおじさん若かったからねえ〜。いつまでも付きまとってきそうだったから相手しちゃった」

 シロコの質問に答えつつ、ホシノは遠い記憶の中からその日のことを思い出した。

 

 

 『覚えてろ!』

 『二度とアビドスに来るな!』

 逃げる背中に追い打ちをかけるかのように威嚇射撃を続けるホシノを、慌てて駆けつけたユメが止めた。

 『ホシノちゃん! 追い払うだけでいいのにあそこまでやったらダメだよ!』

 『ユメ先輩、ああいう手合いは徹底的に痛めつけておかないと懲りずにやってきますよ』

 銃に手を添え首を横に振るユメを見て、ホシノは相手を見逃すことしかできなかった。

 

 

 「その時の先輩の気持ちも今なら分かるけどね〜。あのマサコって人は本当に懲りずにやってきちゃったのさ」

 

 

 後日、わざわざ使者が学校へ挑戦状を届けに来る事態となり、ユメや当時の在学生もホシノを止めることはできなかった。

 完全武装で指定された場所へと向かったホシノだったが、"その時に限って"次から次へとスケバン集団が襲いかかった。

 第三波の中に件の使者が混じっていた事から、これがマサコの仕掛けた罠だと気づくことになった。

 

 『その見た目で随分と小物めいた真似をするじゃないか……!』

 『ハハッ! 物量作戦で相手を消耗させるのも常道の戦術よ!』

 

 

 「弾も武器も途中でほとんど使っちゃってて、あと一歩のとこでEye of Horus(この子)が音を上げちゃってさ」

 「それで逃げられたんですか?」

 「逃げ足だけは早いんだよね〜。でも逃げた先で捕まったよ」

 愛銃を撫でながら笑うホシノ。先生が話を継いだ。

 「捕まった岩尾マサコは停学中だったから連邦矯正局に入れられたんだけど、すぐに解放された」

 「先生、どうして?」

 「暴れすぎたせいで色んな学校から圧力が掛けられたらしくてね、退学処分になったんだよ」

 連邦矯正局は『停学になった生徒を収監する』施設であり、退学となり一切の学籍を失った生徒はただの犯罪者として扱われるため、管轄が地元警察へと変わるのが理由である。

 「元母校自地区の留置場に護送される途中で脱走して、後は裏社会で後ろめたい仕事専門でやってきたらしい」

 

 皮肉なことに学生という身分・市民権を失って初めて、岩尾マサコという人間の真価が発揮された。

 退学後に犯した罪は百犯、どれも強盗や悪人にとって邪魔な者の排除などの非合法な仕事である。

 外傷にめっぽう強いキヴォトスの住人でなければ殺人事件となった件数は半数に及ぶ。

 

 「ホシノ先輩、こんな奴と本当に戦うの?」

 「そこまでおじさんにしつこいかは分からないけどさ~、無視したら絶対『出てこざるを得なくさせる』と思うんだ。

 学校を直接狙うならまだいいけど……普段無防備な先生を人質に取るとかさ」

 「!」

 先生はそもそも非戦闘員であるが、その非常に狙われやすい立場に対して護身用の拳銃すら持たない。

 これまでの活動の中で数えきれないほど命を狙われているが、五体満足でいられるのは周囲の生徒の活躍や本人の幸運によって事態を潜り抜けているからだ。

 あんなゴリラの体格にチンパンジーの脳を持つマサコに狙われてはひとたまりもないだろう。

 対策委員会の面々が複雑な顔をする中、先生が手を挙げた。

 「それに関してはひとつ。申し訳ないけど昨日のうちにホシノと二人でまとめちゃった事がある」

 「なんですか? 先生」

 全員の視線が自分に向いた事を確認すると、鞄から取り出した書類を配った。

 「岩尾マサコは百犯目の仕事として、ミレニアムにある警備会社へ納めるはずだった銃器一五〇挺と弾薬を奪った。

 あの後ミレニアム生徒会(ユウカ)から連絡が来て、マサコの逮捕とミレニアムへの引き渡しをシャーレに依頼してきたんだ」

 「だから私がマッチョちゃんに勝って捕まえて、後は先生がミレニアムに引き渡すって訳さ~」

 書類には岩尾マサコに対してミレニアム自地区内で有効な逮捕状が出たこと、身柄拘束の手段に関してはシャーレに一任する旨の通知がセミナー会長の署名付きで記されていた。

 「相手はプライド抜きだろうから、前みたいに軍団をけしかけて、戦う前にホシノを消耗させる可能性は高い。

 そういう状況になった時、シャーレはホシノが万全な状態で戦えるように露払いをする」

 セリカは書類をノノミに回すとホシノ当人に問いかけた。

 「それでホシノ先輩、相手は一対一で戦って勝てる相手なの?」

 「向こうは何でもありでおじさんは歳だからね~。まあ、五分ってところかな。負ける気はないけどさ」

 一瞬ホシノの雰囲気が鋭く尖ったように感じて、セリカはえも言われぬ感情から鳥肌が立った。

 「あら、セリカちゃん。耳の毛がすごく逆立ってますよ?」

 「なんでもないわ!」

 書類を最後に読んだシロコから受け取ると、先生は話をまとめた。

 「対策はこっちで考えとく。この学校が抱える問題でもあるし皆にも動いてもらうから、できる限り明日のスケジュールは開けといてくれるかな?」

 「ん、わかった」

 「面倒だろうけどよろしくね、皆~」

 いつも通りのだらけた笑い顔でホシノが場を締めた。

 

 

……

 

 

 先生はシャーレのオフィスに戻ると、連邦生徒会へ提出すべき別件の報告書を作りつつ、岩尾マサコに関連した情報をかき集めた。

 最も新しく有力な情報はヒナからもたらされた。

 『不良生徒の間で使われてるSNSで岩尾マサコが傭兵の募集をしていたわ。人数は百名、報酬は十万円とミレニアム製の最新銃器の先渡し。

 この間ミレニアムで起こした事件で奪われたものと見て間違いないわ』

 テレビ電話の画面の向こうで、ヒナはアコから渡された資料に目を通しながら告げた。

 「逆恨みで一人襲うのに一千万円も……。ちょっと私には理解できないかな」

 『それだけ岩尾マサコが小鳥遊ホシノを憎んでいるってことね。

 募集に応じた者の中にゲヘナ学園の生徒も何割かいるわ。他所の学校の生徒を襲撃する生徒を野放しにしたという前例を作ったら、今後同じような事が起きた時に歯止めがかからないでしょうね』

 「風紀委員会も参加する?」

 『ええ。面倒で厄介な案件だけど、半年前みたいに万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)につけこまれる隙は作りたくないの』

 

 先生がシャーレに赴任して間もなく、アコが便利屋68の討伐を建前に風紀委員をアビドス高等学校自地区へと独断で侵攻させ失敗し、その件をゲヘナ生徒会議長である羽沼マコトになじられ続けた事がある。

 最終的に調子に乗りすぎたマコトをヒナが万魔殿本部ごとぶちのめして終わったが、何か失点があれば目ざとく見つけてくるマコトへの対策は万全を期すべきだというのが風紀委員幹部の一致した意見だった。

 

 なお、当のマコトは幹部の棗イロハがシャーレに赴く頻度が高すぎて気が気でないらしい。

 

 「それじゃ詳しい作戦プランが決まったらすぐ伝えるよ」

 『お願いね』

 通話が終わり、デスクトップPCの画面に映ったウインドウが暗転した。

 

 ふと壁掛け時計に目を移すと、時刻は正午を回った直後だった。

 「お昼にするかな。……この辺出前やってる店ないんだよなー」

 時間に余裕はあるが自炊するには材料がない、エンジェル24(コンビニ)の弁当はいい加減食べ飽きた。

 ソラには悪いが外へ食べに行こうと先生が考えた時、セキュリティゲートを誰かが通ったという通知がサブモニターに表示された。

 「ん? モモイとミドリか」

 さては近くを通りかかったから昼飯をたかりに来たな~? と冗談半分で思いながら、先生は二人が執務室まで上がってくるのを待つことにした。

 

 

……

 

 

 「先生こんにちわ」

 「お昼ご飯おごってー!」

 ドアを勢いよく開けて入ってきた才羽姉妹。

 「(……なるほど)」

 いつも通りの二人の姿に違和感を覚え、先生はすぐに結論を導き出した。

 「二人ともよくできてるね」

 「え? 何が?」

 モモイの口角がわずかに引きつった。

 「服と銃を換えるだけじゃなくてカラコンまで使ってさ」

 「ええーっ!? バレるの早くない!?」

 ミドリ……もといミドリに変装したモモイが素で叫んだ。

 即座に馬脚を現した姉に頭を抱えつつ、モモイに扮したミドリはため息をついた。

 「先生ごめんなさい。最初は反対したんですけど、先生が私達を見分けられるか気になって……」

 「二人との付き合いも長いからね。一見完璧に見えて細かい仕草が……待てよ?」

 言いかけて先生が突然悩み始めた。姉妹は首をかしげ先生に近づいた。

 

 「どうしたの先生?」

 「モモイ、誰かにその人が見たことがない人を教える時、どういう風に伝える?」

 「えっ? うーん……服とか髪型とか、一目見てわかるところとか?」

 「ミドリ、ドットが荒いゲームでキャラの個性を出す時、どういう風に描く?」

 「低解像度でですか? 最初の頃のスーパーマリンシスターズがそうなんですけど、キャラの外見的な特徴や色を工夫します。

 一作目の操作キャラはグラフィックが同じでしたから、色を変えることで姉と妹を表現してました」

 「ある意味二人と同じだね」

 これまでに得た情報と二人から貰ったヒントを基に頭の中で作戦を組み上げてゆく。

 リーダー(マサコ)の目的、標的であるホシノの外見、組織的な集団ではなく傭兵としてバラバラにかき集められた敵、指定地点への順路――。

 

 「よし、いけそうだ」

 一人何かに納得した様子の先生を見上げて、二人は頭に疑問符を浮かべる。

 「先生、どうかしましたか?」

 「明日の作戦、二人にも参加してもらうよ」

 「作戦ってなに?」

 「とりあえずご飯食べに行こうか」

 

 


 

 

 当日の午後二時、アビドス高等学校正門前。

 

 「ええ。今小鳥遊ホシノは学校を出ました。付き添いの生徒を連れています」

 岩尾マサコとは唯一在学時代からの付き合いである女は、斥候として物陰に身を潜めて対策委員会側の様子をうかがっていた。

 『人数は?』

 「一人です。奴ら学校を空けたらこっちが襲撃してくる事を警戒してるのでしょうよ」

 『へっ、まあ仕方ねえわな。小鳥遊にはせいぜいきりきり舞いしてもらおうか!』

 「それじゃ逃走経路の準備に向かうんで」

 『ああ、後でな』

 トランシーバーの通話が切れた。

 

 「……なあ、これでいいだろ? うちだけでも逃がしてくれないか?」

 通信機を地面に落として両手を上げる斥候。

 「ダメですよ。ボスへ連絡しないという保証はごさいませんし、何より貴女は武器輸送車襲撃事件の共犯者ですから」

 「……!!」

 押し付けられた銃口がぼすんと鈍い音を立てると、斥候は意識を失い崩れ落ちた。

 「ご主人様、仕込みは完了しました」

 

 

 同刻、アビドス高等学校・会議室。

 

 「お疲れ様アカネ、その人も縛って……体育用具庫にでも閉じ込めとこうか」

 『承知しました』

 いまこの部屋には雑多な学校の生徒が詰めかけ、即席のシャーレ指令室と化していた。

 対策委員会が使っている部室では機材も人も収まりきらないという事情もあるが、あの部屋は今は学校の中枢たる生徒会の本拠地でもあるため、先生が配慮した形だった。

 「無線周波数割り出し完了。先生、目標が使っている全てのチャンネルを傍受できました」

 コタマが相手の通信を丸裸にする傍で、アヤネとハレが持ちこまれたPCに向かい合っていた。

 「偵察ドローン配置完了。流石ミレニアムの誇るエンジニア部、一度にこれだけの数を操作できるなんて……」

 「あらかじめ指定した目標を追跡できるように簡単なAIを組んだからね。既存の機材とプログラムを流用して短時間で仕上げたから、今はこのぐらいが限界」

 

 別の長机ではヒナとチナツが連れてきた一般風紀委員部隊に指示を飛ばしていた。

 『第一小隊長から司令部(HQ)! 第一から第五分隊、配置完了』

 『第二小隊、分隊の配置完了!』

 「司令部了解、以後司令部の指示もしくは付近のシャーレ部員の要請があるまで待機」

 チナツが待機命令を出すと、ヒナがマイクを手に取り現場へ檄を飛ばす。

 「こちら委員長。今回はエデン条約事件(あのとき)同様、シャーレ指揮のもとゲヘナ学園自治区外での活動になる。くれぐれも風紀委員会の名に恥じぬ行動を心掛けること。以上」

 『了解!』

 

 「先生。全要員、配置につきました」

 作戦の要である『露払い』要員の準備完了をユウカが告げる。

 「いやーごめんね皆。おじさんのワガママに付き合ってもらっちゃって」

 本日の主役であるホシノは普段とあまり変わらず、弾薬ポーチとサイドアームの拳銃を提げただけの身軽な恰好をしていた。

 今回はかつてのように防弾盾は持っていない。

 先生はそんなホシノを笑いながら見つめた。

 「今回はあちこちの利害が一致したからね。

 それにさ、いつももどかしい結果で終わってるんだから、たまにはキッチリ決着をつけれた方がいい」

 「……それもそうだね」

 ホシノは口元に自然な笑みを浮かべた。

 

 「それじゃ、いってきます」

 

 

……

 

 

 砂で埋もれた棄てられた住宅街の一画、その廃屋の一つに岩尾マサコが雇った傭兵の一グループが潜んでいた。

 双眼鏡で広い通りを監視していると、やがて近づいてくる二つの人影を発見した。

 「こちらブラボー隊、目標を発見」

 『間違いないな?』

 「あの特徴は見間違えようがない、アビドスの小鳥遊ホシノとかいう奴に違いねえ」

 『了解した。もし倒せたならグループ単位で報酬を倍額上乗せするぞ、丸裸にするつもりで徹底的にやれ!』

 「その言葉、忘れるなよ!?」

 

 傭兵集団は報酬の一部である最新の銃器をガチャガチャ言わせながら、大通りへと飛び出た。

 「おい! 小鳥遊ホシノとやら!」

 十名程度の武装集団に進路を塞がれ、シロコら二人は足を止めた。

 「何か用かよ?」

 ホシノ(?)は乱暴な言葉遣いで不良生徒をにらみつけた。その気迫に一瞬たじろぐも欲が勝り気を持ち直した。

 「おめえに恨みはねえが仕事なんでな。ここでぶちのめしてやる!」

 一斉に突撃銃(MCX)対物ライフル(M107A1)の銃口を向けた。

 

 「だってさ、先輩?」

 「ハッ! 面白れぇじゃねえか。ちったぁ歯ごたえ見せろよォ!」

 そう叫び、ホシノ(?)は背後から二挺の短機関銃(ツイン・ドラゴン)を取り出した。

 

 

……

 

 

 「連中の練度からすると、持って二分ってところか」

 元は商店街だったらしいが、砂に潰されて今は見る影もない廃墟地帯。そこに岩尾マサコは居た。

 マサコは傭兵達がホシノに勝てるとは最初から思っておらず、エサをぶら下げて限界まで戦わせるつもりでいた。

 だが金に目がくらんだ不良生徒達は誰一人としてそれに気づく様子はなかった。

 アイリッシュコーヒーを口に運び、部隊の配置転換の指示を飛ばそうとする。

 「進路はAルートか。ゴルフ、ホテルへ――」

 『こちらデルタ隊! 目標発見!』

 「なんだと?」

 紙の地図を確認すると、先ほど戦闘が始まったAルートと今報告が挙がったBルートは約五百メートル離れている。

 「クソッ陽動か! そいつが本物だ!すぐに戦闘――」

 『ホテル隊目標を……うわぁ!!』

 今度は遊撃隊最後尾にいた集団がホシノの出現を告げ、そして音信が途絶えた。

 これを皮切りに次々と『ホシノ出現』の報告が飛び込んだ。

 

 「ありえねえ……アビドスには今奴を含めて五人しかいないはずだぞ。ロクなコネも金もねえ奴らが人海戦術など」

 「それができちゃうんだよねぇ」

 「!!」

 

 アウトドア用品をひっくり返して立ち上がりながら振り向くと、そこには無傷のホシノがたたずんでいた。

 「小鳥遊、貴様!」

 「先生から言われたでしょ? 表の情報に疎いってさ」

 

 マサコに欠けていた情報、それは

 『シャーレ部員の繋がりは権力による強制ではなく、学校の垣根を超えた生徒間の繋がりでもある』

 ということ。

 学校単位で動く時は損得勘定がある程度絡むが、部員の間には壁というものは存在しない。

 シャーレという枠組みの中では表での対立は脇に置いた交友関係が築かれ、あるいは先生が間を取り持てば生徒達は納得して動いてくれる。

 今回はどちらかと言えば後者だが、皆が『ホシノに手を貸す』という認識を持っていた。

 彼女は『たかがアビドスでの決闘騒ぎにシャーレや他校が手を貸すはずがない』と思いこんでいたのだ。

 

 「あんのもやしぃぃぃぃっ!」

 「さあマッチョちゃん、始めようか?」

 安全装置を外し、銃口をマサコへと向ける。

 「ハハッ! 誰が一対一で戦うと言った!?」

 苦し紛れに叫んで足元の機械をいじると、砂を掻き分けて飛行ドローンや武装オートマタが次々と姿を現した。

 その数、五〇。

 「せいぜい楽しめ! ハハハハハハ!!」

 マサコは脱兎のごとく逃げ出した。

 

 数十の銃口を向けられてもなお、ホシノは落ち着き払っていた。

 「ホント、ずるがしこく見えて実は単純なとこ、変わってないなぁ……」

 呆れ気味につぶやくと、攻撃態勢に入った飛行ドローンが射程外から次々と撃ち落とされていくのを眺めた。

 飛行ドローンが全滅すると、カモフラージュシートを取り払い後方からミヤコとサキが姿を現した。

 「ここは引き受けます。ホシノさんは目標を追ってください!」

 「世話をかけるねぇ」

 そう、マサコが現れる一時間は前からRABBIT小隊とカリンで編成される伏兵が待ち構えていたのだ。

 過去の犯罪記録を洗い出したところ、時おり報酬として奪った戦闘機械を受け取っていたのが確認されており、彼女の異様な執着心からしてホシノを消耗させるために投入するだろうとは予測されていた。

 ゆえに『決闘の邪魔をしない』という条件付きで先生が彼女達を待機させていたのだ。

 

 ホシノは進路上にいるオートマタを手早く排除し、マサコの後を追った。

 

 


 

 

 『ねぇねぇ先生ー? 連中が落とした武器はどうするのー?』

 「後で回収するから適当なところに集めといて」

 先生は替え玉組のムツキの質問に答えつつ、プロジェクターで映し出した広範囲地図を見た。

 確認された敵集団は八、十数人程度の集団で統率も取れてるとは言い難いが強力な武器を持っている。

 一騎当千の戦力が揃っているとはいえ油断は禁物、先生はドローンから送られた映像を見ながら器用に全員への戦闘指揮を行っていた。

 『敵集団全滅! こいつら弱すぎるぞ!』

 「ネル、シロコ組は北西へ移動。ミドリとセリカの援護へ。モモイ、そっちは?」

 『三人逃げたよ! 今追いかけてる!』

 「チナツ!」

 「第七分隊、南東へ前進。シャーレ部員と共同で残党の掃討に当たってください」

 『了解!』

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばす先生を眺めながら、手持ち無沙汰のヒナとユウカは今回の作戦の感想を述べた。

 「面白い発想ね」

 「はい。相手が素人集団だというのを前提として替え玉を何人も用意、一斉投入して各個撃破。その間に本物のホシノさんは廃棄された地下道路を通って最短コースを通過……」

 

 ホシノの外見的特徴は多い。

 『アビドス高等学校の制服をブレザーなし、上半身にホルスター固定用のバンド着用』

 『ピンクのロングヘアに飛び出たアホ毛』

 『橙と青のオッドアイ』

 『身長一五〇センチ未満の小柄な体格』

 短期間で集めた即席の部隊にホシノの正確な人相を覚えさせるのは難しいため、これらの特徴で判別するように教えるだろうと先生は考えた。

 なのでホシノに近い背丈の生徒をアカネによるメイクやカラーコンタクト、アビドスで使われないまま保管されている制服を駆使して替え玉へと仕立て上げたのだ。

 なお、背丈が近いものの角や羽を持つため変装できず、不参加となった生徒が何人かいる。

 

 「傭兵は小鳥遊ホシノだけを狙うように指示されてるから他の人は襲わない。こちらから襲撃すれば『アビドスが通り魔を始めた』という風評を流せる」

 「ですから『ホシノさん』を襲わせるようにすれば正当防衛が成立し、こちらは捕縛と銃器没収の大義名分を得られる」

 一石二鳥とはこのことである。

 

 『こちらRABBIT1、敵部隊を無力化! これよりホシノさんの後を追います』

 「RABBIT小隊、君達が目標を相手にする状況はホシノが万が一やられた時だからね。それを忘れないように」

 『RABBIT1了解!』

 

 

……

 

 

 平屋建ての住宅だった壁を無数の銃弾が穴を穿つ。

 ホシノは建物と建物の間を駆け抜けながら銃に装弾(シェル)を込めてゆく。

 「ねえマッチョちゃん! どうしてこんなにお金ばら撒いてまでおじさんなんかに拘るのさ!? 裏に生きてても普通にやってればシャーレ(うちら)が出る事もなかったのに!」

 撃ちすぎで故障した自動小銃(MC51)を投げ捨て、左腰の拳銃を抜いたマサコは叫ぶ。

 「知れたこと! 最初に敗れた時の貴様の姿が脳裏に焼き付いて離れねえ!」

 目暗滅法だった先程と打って変わり、正確にホシノを捉えた50口径の銃弾が弾薬ポーチに直撃し、中の散弾が何発か炸裂した。

 「……っ!!」

 咄嗟にポーチをバンドから引きちぎって捨てるも、いくつもの散弾が脇腹の皮膚を抉り血が滴り落ちる。

 外の世界の人間なら臓器がメチャクチャになっているであろうが、肌で銃弾を防ぐキヴォトスの住人だからこそ『これで済んだ』と言える。

 「いくら薬を使おうが鉄火場に出ればいつお前が現れるかとビビっちまう!」

 物陰に隠れ何発かお見舞いするが、12ゲージ6粒バックショットを食らってもマサコは一切痛がる様子を見せない。

 「だから! 貴様を徹底的にいたぶって! 貴様が死んだも同然になるまで! やらなきゃ俺は安心して眠れやしねえんだ!!」

 

 「……チッ」

 眠れないのはこっちも同じだと昔のように毒を吐きたくなるが、ホシノをぐっと我慢した。

 「(アルコールだけじゃない、違法薬物(ドラッグ)もキメてるのか)」

 退学時点で留年により十九、今は成人しているため酒は合法かもしれない。だが薬物乱用は完全に法を犯している。

 「(そもそもお酒は裏でしか手に入んないんだったね。……さて、胴体に撃ってもだめなら)」

 頭部への直撃(ヘッドショット)により、脳を直接揺さぶってやればいい。

 相手の隙を作る方法を考えると、愛銃にスラッグ弾を装填しホルスターから自動拳銃(P229)を抜いた。

 物陰から物陰に移りながら拳銃を撃つ。

 マサコは9mm弾を受けてようやく痛がるそぶりを見せたが、それまでだった。

 「ははははは! 貴様もガンが壊れたか!」

 「頭が壊れた人に言われたくないね!」

 ホシノは歩を進めるマサコの足元が先ほど捨てた弾薬ポーチの隣へと達したのを確認すると、さっきとは逆に自分でポーチを狙い撃った。

 「うわっ!?」

 残りの装弾が誘爆し、四方八方へと散弾をばら撒いた。

 足元の『花火』にひるみ、マサコの意識はホシノから逸れた。

 

 「あ、クソ。どこ行きやがった!?」

 視線を戻すと、ホシノの姿は消えていた。

 だんだんとホシノに対する恐怖心を打ち消すための薬の高揚感が抜け始め、マサコは露骨に焦り始めた。

 足を止め首を左右に振り必死に姿を探す。

 

 そんな背中を四メートルも離れていない瓦礫の上から眺めるホシノ。

 「……かわいそうに」

 破壊工作のプロ、凄腕の裏稼業人という評も見かけた女の実態が、心の弱さを隠すため薬に頼っていたと知られたら、もう裏社会での評判も地に堕ちるだろう。

 「(それの原因が私なら、幕引きも私にしかできない)」

 ゆっくり慎重に狙いを定め、愛銃の引き金を引いた。

 

 「ごあっ!?」

 後頭部に鋭い衝撃を受けてマサコは倒れ伏した。

 ホシノは素早く駆け寄り、銃口を再度頭に向けた。

 「たか、なしぃ!」

 「じゃあね。堀の中で頭冷やしなよ」

 二発、三発、四発。

 弾倉が空になるまでスラッグ弾を頭に撃ちこんだ。

 

 

 マサコが動かなくなったのを見て、遠くから決闘を見守っていた一行が駆け寄った。

 「ホシノさん」

 「……うへー、終わった終わった」

 脱力しその場に座りこむホシノ。

 倒れているマサコの手足をミヤコとサキは手早く縛りあげる。どうせこの後ヘリで運ぶのだから歩けなくても問題ない。

 「ホシノ、お前そんな顔してえげつないな……」

 「サキちゃんも覚悟しといた方がいいよ? これから先、クスリやってる悪い人と戦うかもしれないしね」

 「あ、ああ」

 顔面をボコボコに腫らして白目を剥いたマサコの姿を見て、サキはホシノがただ者ではないと改めて感じるのだった。

 

 「先生、勝ったよ」

 

 


 

 

 数日後、シャーレオフィス。

 

 先生は山積みとなった書類の山と格闘していた。

 今回は作戦規模がかなり大きかったため、連邦生徒会や関係各所へ提出する報告書などを沢山書かなければならなかったのだ。

 特に連邦生徒会へ出す書類は全てアナログな紙媒体なので、このような有様となった。

 

 岩尾マサコとその側近はミレニアム自治区へ護送ののち地元警察により逮捕、現在は厳重な警備が敷かれた留置場で拘束中。

 これまでに犯した罪の数を考えると、十年単位の懲役刑か終身刑は確実。

 だが彼女は乱用し続けた違法薬物の依存症、そしてそれに紐づけられてしまったホシノの影に一生苦しむ事になるだろう。

 傭兵として雇われた不良生徒達はシャーレの権限で一度ゲヘナ風紀委員会が拘束、その後ゲヘナ学園生以外を在籍する各学校の警察組織へと引き渡した。

 回収された銃器は依頼主であるミレニアムで預かり、元の持ち主が分かり次第返却を行うようだ。

 

 「ユウカー、疲れたよぉ」

 「この位の量ならいつもこなしてるじゃないですか。泣き言を言わないでください」

 当番のユウカはユウカで、セミナー会計としての仕事と電子ファイルで済むシャーレの書類を並行して作っていた。

 二人して疲れが顔に色濃く出ていた。

 

 やがて扉が開き、ホシノが執務室へと入ってきた。

 「やっほーお二人さん」

 「あら。こんにちわ、ホシノさん」

 「おはようホシノ。どうかした?」

 「これから警備のバイトだけど通り道だったからね。ちょっと見に来たの」

 書類の山を見てうへぇとつぶやきながら、先生の元へ近寄る。

 「先生、この間はありがとね」

 「どういたしまして。少しは気が晴れたかい?」

 先生の質問を聞くと、ホシノはわざとらしく肩を落とした。

 「結局しこりが残った感じかなー。マッチョちゃんがヤク中になったの、考え方次第ではおじさんのせいだしね」

 目を細めて力なく笑うホシノ。

 「ホシノ……」

 

 

 今は亡きアビドス最後の生徒会長、ユメ。

 ホシノが先輩と呼ぶ彼女の制止を聞かなかった事が結果的に一人の人間の人生を狂わせた。

 もし彼女の言いつけを守っていればこうはならなかったのではないか?

 今のホシノの心の中には、そんな思いが渦巻いていた。

 

 

 先生はそんな彼女の内心を察してか、スッと両手を伸ばして頬を揉みしだいた。

 「うわわわわ先生!?」

 仰天するホシノだが、先生の表情はいたって真面目だった。

 「ホシノ、抱えこみすぎは良くないよ。

 あの人は本来アビドスとは全く無関係だったんだ。そんな人の生き方まで自分のせいだと思い続けたら、遠くない日にパンクしちゃう」

 伊達メガネを外した先生の青みがかった灰色の瞳に、びろんと頬を伸ばされたホシノの顔が映った。

 ホシノはそんな自分の滑稽な顔を見て、張り詰めていた糸がゆるむ感覚を得た。

 「誰だって人には言えない事がある。でも言える事だったら遠慮なく相談してほしいな?」

 「……うん」

 

 この人には勝てないな。そう心の中でつぶやいた。

 

 

 

 

 元気を取り戻したホシノが退室して数分後。

 二人のやり取りを黙って見ていたユウカが口を開いた。

 「先生、ところで私に言わなきゃいけない事がありますよね?」

 「え゛」

 青筋立てたユウカの手には、先生が不用意にもゴミ箱へと捨てていた領収書が握られていた。

 「先生、仕事はいったん休憩しましょう」

 「……普通に休むという選択肢は?」

 「ありません」

 

 

 先生の目には、ユウカの頭に魔王もかくやの立派な一対の角が生えているように見えた。

 「先生! いい歳した大人が何度言えばわかるんですか!?」

 「またこのオチかぁぁぁぁ!」

 

 

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