シャーレの活動記録集   作:目多須でぃてくた

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 時系列はメインストーリーVol.3 第三章3話後。
 トリニティでの騒動の後始末が済んだ先生はシャーレの活動再開の告知を出す。
 ユウカはセミナーの指示で真っ先にオフィスへ駆けつけるが、そこでは先生が過労で倒れており……

 今回は前話「ハッピーエンドの裏側で」のサブエピソードとなっておりますので、そちらを先にお読みください。


#6 先生が初めて倒れた日

 

 

 トリニティ総合学園で起きた一連の『事件』から数日後……。

 

 「先生! 一か月もトリニティにかかりきりとか何があったんですか!?」

 

 ミレニアムサイエンススクールの生徒会会計、早瀬ユウカは朝早くからシャーレのオフィスへと足を運んだ。

 シャーレが『トリニティ総合学園での依頼処理のため、当面の間依頼に対応できません』という告知を取り下げたため、依頼完遂か依頼者によるキャンセルがあったと判断し、セミナーは連邦捜査部の部員でもある彼女を確認のため送り出したのだ。

 

 「あれ、先生……?」

 ところが執務室に先生の姿はなく、しばらく使っていなかったため備品などに薄く埃が積もっていた。

 先生用のデスクトップPCを立ち上げ来館履歴を確認すると、先生がオフィスへ入った履歴は二一日前――ホームページに告知が掲示された日――以来残されていなかった。

 「まだ居住区にいるのかしら……?」

 

 シャーレオフィスビルの一角は居住区になっており、先生はそこの一室に住んでいる。

 赴任当初の先生はどこかにアパートを借りようとも考えてはいたが、セキュリティの問題と通勤中の安全が確保できないとユウカに止められ、そのままオフィス内の居住区に住んでいるのだ。

 

 扉の前で呼び鈴を鳴らすが反応がない。何度か繰り返したが同じだった。

 「先生? フェイス先生? いらっしゃいますか?」

 扉を叩くも結果は同じ。

 入口付近に出店しているコンビニ(エンジェル24)がちょうどシフト交代のタイミングだったため夜勤の店員に話を聞いたが、夜遅くに帰ってきたきり居住区からは出ていないらしい。

 「(まだ始業時間でないとはいえ、普通なら起きてオフィスにいる時間だわ)」

 ドアノブを握りゆっくり回すと、鍵のかかっていない扉はあっさりと開いた。

 「(……まさか!?)」

 

 弾き飛ぶように部屋の中へ駆けこむと、リビングの床に何か大きなものが転がっているのが見えた。

 「先生!」

 ユウカはうつ伏せに倒れていた先生に駆け寄り、抱き起こして額に触れた。

 「すごい熱……それになんでこんなに傷あとが」

 先生は前線で指揮を取る立場ゆえに生傷は絶えないが、治りきっていない傷が顔だけでもあちこちに確認できた。

 帰ってきてすぐに倒れたのか、床には買い物袋からこぼれたレトルト食品やパンの袋が転がっている。

 「とにかくすぐに手当てを……」

 ユウカはしばらく救急箱を探して部屋を漁るも、それがない事に気づいて先生を肩に担ぎながらオフィスにある救護室へと急いだ。

 

 

……

 

 

 「……あれ? なんで私救護室にいるの?」

 時計の針が数週した頃、先生は意識を取り戻した。

 「先生! よかった……」

 「ユウカ?」

 隣で椅子に座っていたユウカに顔を向ける先生。額と倒れた時にぶつけた左頬には冷却ジェルシートが貼られている。

 「ねえユウカ、一体どうなってるの?」

 「それはこっちの台詞よ! トリニティの生徒会に何かがあったとまでは掴んでるけど、先生がこんなになってるなんて……!」

 先生は今の自分の格好が部員生徒にも貸し出しているスウェットを着て、身体のあちこちに絆創膏や湿布が貼られている事に気づいた。

 気を失っている間にユウカに傷だらけの体を見られたらしい。

 「(アズサの事を考えると、近いうちに説明する必要があるか)」

 先生は体を起こしてユウカに目線の高さを合わせた。

 「先生?」

 「トリニティの公式発表があるまで誰にも言わないって約束できる?」

 「……はい」

 ユウカの承諾を得ると、先生はここ一か月の話を最初から話し始めた。

 

 

 トリニティ生徒会(ティーパーティー)の内紛と疑心暗鬼の果てに生まれた補習授業部のこと。

 シャーレの権限を悪用したナギサの暴走の数々、訳ありの『裏切者』ミカと背後にいたアリウス分校の襲撃。

 そしてアズサとハナコ、ヒフミとコハル、シスターフッドやたまたま騒動に関わったヒナや美食研究会とフウカ。

 

 それらの話しはよその学校から見れば複雑怪奇で、締結式の日まであまり時間が残っていないエデン条約が必ずしも安定をもたらすとは限らないと訴えるかのような、あまりにも混沌とした一か月の記憶だった。

 

 

 すべてを聞き終えたユウカは眉間を抑えて唸った。

 「……これはトリニティとゲヘナの問題なので、ミレニアムからは何も言えませんが……こんな調子で本当に大丈夫なのかしら?」

 「今は楽園を信じてとにかく前に進むしかない、そういう事だと思うよ」

 先生はそう言ってため息をついた。

 「楽園、ですか」

 「私個人としては、諦めないで夢を追いかけ続ければ時間がかかっても叶うと思ってる。

 アズサが何度も言った通り、どんなに虚しくても抵抗するのをやめたらそこまでなんだ」

 ベッドに背を預けてまたため息をひとつ。

 

 「(『彼女』にもそれを分かってもらいたいけど、あそこまで捻くれちゃってると時間がかかりそうだ)」

 先生の目はどこか遠い場所を見ていたが、ユウカはその先を伺い知ることができなかった。

 

 

……

 

 

 過労による熱が下がったから大丈夫だとユウカを説得した先生は、執務室の掃除と並行してシャーレの活動再開準備を始めた。

 「エデン条約締結式に出る、ですか?」

 「うん。あそこまで深いところまで関わっちゃった以上、シャーレとしても避けては通れないだろうし」

 先生は立ち上げたPCに情報を打ちこんでゆく。連邦生徒会への活動報告書ではなく、新入部員の登録報告書だった。

 「さっき言ってた補習授業部の子達ですか?」

 「うん。みんなの承諾は貰ってるし、特にアズサとハナコは色々な厄介ごとがあるからシャーレで抱えこんでおきたい」

 「……また変な人に利用されないでくださいよ?」

 

 ユウカの釘刺しに、先生は何も答えなかった。

 「(先生、嘘でもそこは否定してよ)」

 

 ユウカには、先生がこれまで彼女に見せてきた飄々さを失った、どこか神経が張り詰めてて余裕がない様子が感じ取れた。

 ホシノを救うためにカイザーPMCを敵に回した時も、ゲーム開発部の後ろ盾になった時も、C&Cやエンジニア部などに協力するようになった時も。

 先生はいつも掴みどころがなく、周りを適度にからかいユウカに怒られたりしつつ、まるで陽の光のように生徒達の心を温めてきた。

 しかし今の先生はどこか精彩さに欠けて、壁とまではいかなくともどこか周りとの隔たりを感じさせた。

 まるで何かに追われて疲れ果てているかのように。

 

 「(また卑屈になってるのかしら? ……少しは言ってくれてもいいじゃないの)」

 そんな様子にユウカは少しの寂しさを覚えた。

 

 

 そして時は流れてエデン条約の締結式翌日、彼女の懸念は知らないところで的中することになる。

 

 

 


 

 

 

 「ちょっとユウカ! 重いって! ホントに100キロあるんじゃないの!?」

 ユウカやヴェリタスのメンバーに押しつぶされたミドリが悲鳴を上げた。

 

 ミレニアム組は屋上からヘリで乗り付けたためいち早く救護室へと到着した。

 だがすぐに地上から走ってきた組が追い付き押し出され、将棋倒しの形になったのだ。

 「カムラッド!」「先生!」「あるじ殿ご無事ですか!?」

 部屋の中がわいわいと大騒ぎになる中、アビドス対策委員会や巻き添えを免れたC&Cが倒れた生徒を助け出してゆく。

 「先生……!」「早く降りて! ミドリとユズが死んじゃう!」

 自分の下にいるミドリと気絶したユズごと体を強引に引きずり抜け出させると、先生のベッドに駆け寄った。

 「大丈夫ユウカ?」

 「ご自分の体とユズ達の方を心配してください……!」

 寝たまま首だけを向けた先生の顔色はひどく青ざめていて、ユウカが今まで見てきた中で一番『死』を感じさせる状態だった。

 服の下にある傷は前に介抱した時とは比較にならない。なにしろ銃で撃たれたのだから。

 

 それでも、泣きはらした目には悩みを吹っ切れた事を示す強い意志が宿っていた。

 アリスを助け出すシロコのワイシャツに何かで濡れた跡を見つけ、その役割が自分でなかった事を少し残念に思いながらも、年の離れた姉妹のような人がようやく元気になった事を心から喜んだ。

 

 「(おかえりなさい、私の大好きな先生)」

 

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