シャーレの活動記録集   作:目多須でぃてくた

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■あらすじ
 #3『銃を持つ先生、持たない先生』の、銃を持つ先生のお話。
 キリノはモテモテすぎる先生との関係を進めるために決意を固め、当番の仕事に赴く……。


#7 名前で呼ばせてください!

 

 

 中務キリノという生徒がいる。

 行政区(D.U.)など各学園の自治区外の治安維持を担当するヴァルキューレ警察学校に在籍する、いわゆる警察官だ。

 犯罪対応部署である警備局に憧れて入学したのに、人質に百発百中の致命的な射撃の腕が原因で『能無し』『非戦闘員』呼ばわりの生活安全局に回された、少し残念な子である。

 そんな事はどうでもいい、彼女は生活安全局での日頃の勤務と連邦捜査部『シャーレ』で確かな実績を残しているからだ。

 

 さて、彼女はある名言(迷言?)を持っている。

 

 「先生と生徒が恋愛をするというのは、キヴォトスでは犯罪じゃありません」

 

 部署が違うとはいえ司法捜査官が、しかも彼女は暴走しがちだが誠実な人物で、嘘をつくような子ではない。

 つまり法律上は高校に在学中の一八歳未満の学生が、大人であり多くの世界線では男性である『シャーレの先生』と結婚を前提に交際してもいいという事である。

 

 これは由々しき事態といえる。

 先生はどんなに後ろめたい経歴を持っていようと性格に難があろうと、生徒達に真摯に向き合って交流しその心をつかむ教師の鑑である。変態だけど。

 そんな彼にLikeではなくLoveな感情を抱くシャーレ部員生徒は意外と多いのだ。

 もちろん初恋を諦めたりそもそもその想いを自覚できない子もいる。

 だが恋愛感情を自覚した多くの生徒は『先生とゴールインするのは私だ!』と、ライバルの邪魔はせずに各々の方法で先生にアプローチをかけている。チナツはやりすぎなので自重してほしい。

 

 キリノ当人はというと例の言葉と共に『言いたいことはそれだけです』とヘタれて、そこからアプローチが止まってしまっている。

 それでいいのか中務キリノ!

 今回はそんな彼女のお話しである。

 

 

 


 

 

 

 「キリノってさ? 本当に先生と結婚したいの?」

 「ブッ!」

 キリノは学生寮の食堂で夕食を取っていると、相棒の合歓垣フブキからとんでもない事を聞かれてみそ汁を噴き出した。

 この食堂では生徒を税金で食わせてるので、どうしても質より量を取り味は中の下に振れることもある。

 美味しいもの食いたきゃ自腹を切れ、ということである。グルメなキリノがパトロールにかこつけて食道楽する一因かもしれない。

 「ゲホッいきなりゲホっ何聞いてるんですか!?」

 「汚いなぁ……。

 だってさ、キリノはあんな爆弾投げて先生争奪戦起こしておきながら、自分はなんにもアピールしてないじゃん?」

 もう一度言うが、キリノは『言いたいことはそれだけ』と言っただけである。つまり察してくれと逃げ腰になっているのだ。

 「あの人なら恋人の生徒とイチャイチャしながら他の子のケアもしっかりやれると思うよ?

 でもさ、だからと言って『先生が生徒に手を出す』のはダメって『外』の大人の感覚があるじゃん」

 

 キヴォトスでは合法でも先生がやってきた世界では違法、犯罪者となるのは年齢で避けれても社会的に死ぬ。

 そんなところで生まれ育ってきた先生にはそれがガッチリ頭に叩き込まれてるし、もしなんの躊躇もなく生徒に手を出す下半身直結脳だったらキヴォトスへ来る前に堀の中行きである。

 さいわい彼はキヴォトスに永住するつもりなのでこの辺はクリアできそうだった。

 

 「だから『私の気持ちを察してください』なんてずっと受け身だったら、あっという間に他の子が先生とくっついちゃうよ?

 ほら、チナツが先生と混浴したって話でみんな荒れまくったじゃん」

 フブキはハッキリと言わないと決心がつかないであろう相棒を心配し、事実をビシバシ突きつけた。

 彼女自身はLike勢で、彼の事は強く信頼しているがあの熾烈な争奪戦に加わる気はないそうな。

 「うう~……」

 歯を食いしばってぷるぷる震えるキリノ。ヘタレな自分が悔しいのかチナツに限らず積極的に詰めてくるライバルが強すぎて怖気づいてるのか。

 フブキは冷めた目でたくあん漬けをポリポリ食べながらも、そんな同期に助け舟を出すことを決めた。

 「……実はさ、先生を名前で呼んでる子っていないんだよね」

 「え?」

 「ほら、ご主人様とか(あるじ)殿とかカムラッドとか違う呼び方の子はいるけど、基本的にみんな単に『先生』って呼んでるじゃん?

 つまりアピールはするけど『先生と生徒』の関係から進むのをちょっとためらってるんじゃないかな?」

 

 そうなのだ。初対面の人に『シャーレの○○先生』と紹介することはあっても、普段は『先生』なのだ。

 キヴォトスの学校はBDによる通信教育めいた方法で学習を行っているため、『教員』はいても『教師』という存在自体が非常に珍しくなっている。

 なので『先生』というと、遠いとこからやってきた先を生きる者(Sensei)である『シャーレの先生』を指しており、生徒達がわざわざ○○先生と名前をつけて呼ぶ事はないのである。

 

 「そんなとこへキリノが先生を親しそうに名前で呼べば、ライバル相手にすごい強烈な一撃になると思うね。

 まあ、そこから先はキリノ自身の努力次第だけど?」

 当然、そんな事態になればライバル達も名前を呼ぶようになるだろう。中には焦って関係を推し進めようとする生徒もいるだろう。

 だがジーッとしててもドーにもならないのが世の摂理、キリノはまず舞台へ上がるために第一歩を踏み出さねばならないのだ。

 「……わかりました。当たって砕けます!」

 「その意気~。んじゃ情報料はマスドの詰め合わせセットでよろしく」

 「見返り取るんですか!?」

 「真面目に私しか知らない情報だしぃ?」

 食事が終わったフブキはヘラヘラ笑いながら席を立ち、あとにはポカンとしたキリノだけが残された。

 「その意欲を仕事に使ってくださいよ……」

 

 

……

 

 

 キリノが勝負を挑む。その機会は数日後に巡ってきた。

 今日はシャーレの当番生徒としてオフィスへ行き、一日中先生の仕事をサポートするのがキリノの仕事である。

 「(先生の名前先生の名前……でもどんなタイミングで言えばいいんだろう?)」

 

 シャーレの先生、本名は公表されているが伏す。

 身長一八〇センチ以上の長身と、ガチムチボディを質素なビジネススーツとシャーレの制服でもある白いジャケットで包んだ着痩せするタイプの男である。

 メタな話になるが、本シリーズ本編のフェイス先生が一般的な先生像から外れた性別不詳の風貌なら、彼は典型的な先生像に近いといえるだろう。

 銃器の取り扱いに人一倍長けるが、たとえ銃を所持していても生徒はもとより人にも向けようとしない。

 実にシャーレの先生らしい平和主義精神の持ち主だ。変態だけど。

 

 この間ふとしたキッカケでサキ以外は知らなかった朝の射撃訓練が生徒達に知られたが、そもそも月曜日の朝早くにシャーレに来てたら学校に遅刻するので、当日の当番以外はRABBIT小隊しか来ないらしい。

 

 そんな月曜の朝早くにキリノは来てしまった。時間的に先生はシャワータイムだろう。

 実際、オフィスにあるシャワールームは使用中である。

 「先生のヌード……」

 

 そもそも先生の肉体美を見た人間はそうそういないだろう。

 ヒフアズツルギマシロとゲヘナ風紀委員会と美食研究会アビドス百鬼夜行……訂正、海水浴がらみで大勢いる。

 「ハッ!? 私はなんてこと考えてるんですか!」

 真面目な者ほどむっつりというのはよくある話だが、キリノも例にもれない様子。

 年ごろの子供が異性として恋愛対象として意識している相手のムフフな姿を妄想するなというのは、おそらくコハルでなくても酷だろう。

 

 扉の前で自己嫌悪感に苛まれていると、中から何かが倒れるような大きな音が聞こえてきた。

 「先生!?」

 キリノの警察官として訓練された体は異変にすばやく反応し、扉を開けて部屋の中へと突入した。

 

 「あ」

 

 更衣室で先生が尻もちをついていた。

 腰かけた椅子の脚が折れて倒れ、とっさに傍らにあったメタルラックに手をかけた事でひっくり返してしまい、あのような派手な音が響いたらしい。

 「……キリノ?」

 問題は先生の格好だ。

 腰に巻いていたタオルが尻もちをついてM字開脚した時に外れてしまっている。

 つまりフルチンである。

 

 「……ぶはっ」

 「キリノ!?」

 先生が股間の象撃ち銃を手で隠すより前に、キリノは鼻血を噴いて卒倒した。

 

 

 

……

 

 

 

 数十分後。

 「キリノ、大丈夫かい?」

 「……ごめんなさい、色々な意味で。すべて本官の過失なので訴えたりしましぇん……」

 一応、明確な意思を伝えておかなければややこしい事になるのは明白なので逆に謝るキリノ。

 もしかしたら気絶してる先生を看病したりしているセリナとチナツあたりはこっそり見ているかもしれないが。

 

 あの大きいのが私に入るのかとエ駄死な思考を脇に追いやり、本日のスケジュールをタブレットで確認する。

 「本日の予定は……あれ?」

 「どうしたの?」

 先生は朝食のチキンサンドをかじりながらキリノに話しかけた。

 「今日行く予定だった山海経高級中学校の依頼ですが……キャンセルになりました。昨日の夜に現場をゲヘナ学園の温泉開発部が爆破したせいで全部吹き飛んだって」

 「あー……カスミたち何してんの」

 サンドイッチをくわえたまま頭を抱える先生。まる一日使うため前々から細かく調整していた予定がパーである。

 「どうしましょう? 他の依頼にかかりますか?」

 「ちょっと待って……えーと」

 愛用のタブレット(シッテムの箱)の画面を叩いて情報を整理してゆく先生。中では先生の秘書(アロナ)がせわしなく働いているのだが、キリノからはアロナを認識できない。

 

 「……それじゃ、緊急の依頼があるまでは待機。

 パトロールがてら行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

 「パトロールは本官も望むところですが、どこへ行かれるのですか?」

 キリノの頭は完全に仕事モードに入っており、他の生徒を出し抜いて先生と親密になろうという考えを忘れ去っていた。真面目人間であるキリノらしいと言えばらしい。

 「夢のマイホーム……とまではいかなくとも、どこかにアパートを借りようと思ってね?」

 「(シャーレの居住区から出て自立した一人暮らし!?)」

 

 

 


 

 

 

 まず、シャーレの先生がどこに住んでいるのかと言われると、シャーレのどこかにある居住区である。

 とにかく部屋が余っているし光熱費も経費で落ちるのでここに住まない理由はないのだ。

 ならホームレスしてる部員生徒を住ませろよというのはありがちなツッコミだが、先生は極力生徒の意思を尊重するので首を横に振られればそれで終わりである。

 なのでRABBIT小隊は引き続き公園で野宿しているし、指名手配され色んなとこから命を狙われているアリウススクワッドは放浪生活を続けているのだ。

 

 オフィスがある行政区(D.U.)を離れて閑静な住宅街へと足を運ぶ先生とキリノ。

 トリニティ総合学園の自治区との境界線近くにあるため、先生が来た世界でいうヨーロッパ風の建物が多く異国感が強く感じられた。

 「それにしては、どうして急に家を借りようと考えたのですか?」

 「ほら、できる限りシャーレの仕事は続けるつもりだけどいつかは引退する日が来るだろう?

 だからその時慌てて探すよりは今から住んで慣れてかないと」

 

 話の発端は数か月前、ミレニアム生徒会(セミナー)が先生に恩を売りつつ関係を深めようと、C&Cのセーフハウスとして確保している一室を彼に提供したことだった。

 しかし入居一日目、アスナが遊びに来たタイミングでセーフハウスの存在を突き止めていたテログループの襲撃を受けてアパートは全焼してしまった。

 超ラッキーガールのアスナが一緒にいたので先生は無傷だったが、ミレニアムはアパートと先生を含めた住民の私財を弁償をする羽目になった。

 一説には、この提案をしたあるセミナーの幹部が『あちらにとっても悪い話ではないと思いますが?』とユウカに言ったのがフラグだったではないかと囁かれている。

 なおその某幹部はノアによってこわーい尋問を受けたとか。

 

 「(思えばあれでおもちゃやらコレクションが全部無くなったのが踏ん切りの付けどころだったな)」

 あの事件で先生が『外』から持ちこんだ私物は、大事な大事な大人のカード以外失ってしまった。

 対価はお金という形で戻ってきたが、物に対する思い入れと心に少しばかり残っていた望郷の念は返ってくることはなかった。

 これが趣味への浪費をやめ、キヴォトス永住のための準備を進めるきっかけとなったのだ。変態気味なのは治らないが。

 

 そんな回想を頭の中に流しつつ、先生はポツリとつぶやいた。

 「……私だって結婚願望はあるし自分の子供が欲しい」

 「(ファッ!?)」

 呟きを聞いてしまいオロオロしだすキリノ。先生はそれを見てあっと己のミスに気づいた。

 「ごめん聞こえてた? 今のは他の人にはあまり言わないでほしいな?」

 人差し指を立てて「言わないで」とジェスチャーをする先生。一方キリノは今日の自分の目標を嫌でも思い出す事となった。

 「(そうでした……今日は先生との関係を一歩進めるため覚悟を決めたんでしたね)」

 決意を新たに、まずは名前呼びから。

 

 「あ……あの、先生!」

 「ん? どうしたの?」

 「えっと、もし宜しければ――」

 

 「強盗だー! そいつを捕まえてくれ!」

 近くで誰かの悲鳴が聞こえた。声のした方を向くとヘルメット団に似た格好の女生徒がショルダーバッグを背負って走ってくるのが見えた。

 「キリノ、足元へ投げて!」

 「わかりました!」

 迷うことなく腰に下げたスモークグレネードを『安全ピンを抜かずに』投げつけるキリノ。

 「うわっ!」

 足にグレネードがぶつかり転ぶスケバン。キリノはすぐさま駆け寄ると制式拳銃を抜いて銃口を向けた。

 「動かないでください! そのままおとなしくお縄につきなさい!」

 落とした機関拳銃(ベレッタ93R)を先生が蹴飛ばし遠ざけたのを見ると、スケバンは観念して両手を上げた。

 

 

 

……

 

 

 

 強盗犯を駆けつけたヴァルキューレ一般生徒に引き渡したあと、先生とキリノはそのまま不動産屋へ行きアパートを探して回った。

 しかし結局いいと思った物件は見つからなかった。

 「家賃が高いからといって良いお家って訳ではないんですね」

 「結構ピンキリだったね……土地代が高いんだろうな」

 先生は当面一人暮らしなので多くは望まず1LDKを探したが、そういった部屋は単身者の需要が高いので予算に見合ったものが見つからなかったのだ。

 「次は2LDKも探してみてはいかがでしょうか? 意外と掘り出し物があるかもしれませんよ?」

 「そうだね……次の不動産屋ではそっちも見てみるよ」

 時間はあり余ってるのでまだ探すつもりらしい。いつも仕事に追われてるとはいえ、先生は少し急ぎ過ぎである。

 「それでは早速次の不動産屋さんに行きましょう!」

 

 先生の手を引くキリノだったが、ここである事に気づいた。

 「(あれ? これって実質デートなのでは? しかも考え方によっては同棲先を探してる感じに?)」

 中務キリノ、今日は乙女回路全開である。 

 

 そんなこんなでパトロール兼家探しはその後も続き、シャーレへの緊急依頼もなく二人は困っている人に出くわしては手助けしていった。

 そしてついに物件を見つけた時には日が沈み、秋の夜空に星が瞬き始めていた。

 「いいところが見つかって良かったですね!」 

 「だね。……それにしては今日は平和な日だったね」

 強盗一件、銃を用いた喧嘩三件、ひったくり一件のどこが平和だというのか? 先生もすっかりキヴォトスに染まっているようだ。

 それはともかく、二人は人気のない路地をシャーレへ戻るため歩いていた。

 

 

 「そういえばキリノ、強盗を捕まえる直前になにか言いかけてたけど……?」

 「あっ」

 またしても本来の目的を忘れてしまっていたようだ。

 「(覚悟決めたんでしょ中務キリノ!)」

 心の中で自分を何度も鼓舞し、ついに行動に移す。

 先生に向き直り、視線を彼の顔に合わせる。

 

 深呼吸を二度。

 「ハッキリと言います。

 先生、私は……あなたと結婚したいぐらい好きです」

 「おや……!」

 まず名前で呼んでいいですかと聞くんじゃなかったのかキリノ?

 「もちろん先生が将来結婚する相手は私ではないかもしれません。でも私はこのまま先生に察してもらおうなんて甘い考えをやめる事にしました!」

 少し狼狽える先生の手を取り、強く握りしめた。

 

 

 「まず最初に……勤務時間外だけで構いませんから、あなたを名前で呼ばせてください!」

 

 

 


 

 

 

 「あらあら♡」

 本当にただの偶然、キリノの告白シーンを通りがかりのハナコが目撃していた。

 たまたま進行方向が一緒だったため、モモフレンズのコラボグッズを買いに来たヒフミとアズサについてきた結果、こんな間の悪い場面に遭遇したらしい。

 「ハナコちゃん、なにか面白いものでも見たんですか?」

 「そうですね。とってもやる気が出るものを♡」

 首をかしげるヒフミに対して、ハナコはいつも通りの態度ではぐらかして内容を教えはしなかった。

 

 「(ずっと後ろ向きだったキリノちゃんが勇気を出したんですもの。私も負けていられませんね……)」

 

 

 どうも、先生争奪戦はますます激しさを増す様子である。

 がんばれ中務キリノ。相手はメインヒロインのシロコをはじめとして強敵しかいない!

 

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