シャーレの活動記録集   作:目多須でぃてくた

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 本エピソード中に登場する銃器関係の名称については、便宜的に『我々の世界(現実)』での製品名を使用しております。

■あらすじ
 これまで丸腰で悪人に襲われ続けた先生は遂に連邦生徒会から「銃を携帯しろ」と命令された。
 生徒達におすすめを聞いていくがどうもいいものが見つからず……


#14 銃を持ってください先生

 

 

 

 SRT特殊学園生徒による連邦生徒会襲撃事件を発端とした一連の陰謀劇が終わりを告げ、キヴォトスの混乱が落ち着いた頃……。

 

 ある日、先生はリンに呼ばれて彼女のオフィス(統括室)へと足を運び、そこで一枚の命令書を渡された。

 「ねぇリン、これはどういうことだい?」

 「どういう事も何も、書いてある通りのことですよ」

 素で首をかしげる先生を見て、リンは不機嫌そうに目を細めた。

 

 文章を要約すると『護身用に常に銃器を持ち歩け』である。単純明快極まりない内容だ。

 「『生徒と対等の力関係で接したい』という先生の理念は理解できますが、その結果として一般の犯罪者から身を守るための術も放棄しているのは、我々連邦生徒会としても看過できる時期を過ぎています」

 「……」

 思い当たる節が山ほどあるのか、先生はぐうの音も出ない様子で口をつぐんだ。

 リンはそんな先生の様子を見てため息をつき、一枚の用紙を手に取った。

 「先生がキヴォトスへ赴任してから今に至るまでの半年間、特筆性のある事例をいくつか挙げましょうか」

 

 

 

■事例一 ■月■日

 百鬼夜行連合学院・お祭り運営委員会の依頼で、百夜ノ春ノ桜花祭に対する妨害行為の調査を行っている途中、妨害の首謀者一味により誘拐され殺害されかける。

 一味に騙されて協力していた生徒が寝返ったこと、先生が誘拐を見越して連絡していたお祭り運営委員会、および修行部が到着した事で形勢が逆転。騒動の鎮圧に成功する。

 

■事例二 ■月■日

 ロスト・パラダイス・リゾートの所有権を巡る大規模詐欺事件に対処中、戦闘の混乱に乗じて首謀者に人質として誘拐される。

 しかし先生が事前に応援要請をしていた狐坂ワカモが到着し、首謀者が撃退された事で難を逃れる。

 

■事例三 ■月■日

 D.U.第■地区を巡回中、非合法の武装勢力により麻酔ガスを浴びせられ昏倒、そのまま誘拐される。

 武装勢力の目的が『RABBIT小隊へ引き渡していたコンビニの廃棄弁当』だったため、幸いなことにそれ以上の危害は加えられず、武装勢力も先生の機転で駆けつけたRABBIT小隊によって撃退される。

 

 

 「……先生。特筆すべきこの三例だけでも相当ですが、似たような事例は両手の指だけでは数え切れないほど存在します」

 「……ごめん」

 リンの威圧に身を縮こませた先生はすっかり気落ちしていた。もし獣耳と尻尾があったらダランと垂れているだろう。

 「先生、厄介事を一通りシャーレへ押し付けている私が言う資格があるかは分かりませんが……。

 あなたはご自分の身をもう少し顧みてください。先生はもうキヴォトスに無くてはならない存在なのですよ」

 この間の事件を経てリンも思うところはあったらしく、これまでと比べれば私見を挟んだ会話を交わすようにはなった。

 彼女は彼女なりに心配をしてくれている。が、それゆえに却って重圧として先生にのしかかってきた。

 

 リンはホルスターへ入れて腰に下げている大型拳銃(デザートイーグル)を軽く叩いて注目を促した。

 「何も生徒()たちのようにむき出しのまま持ち歩けとは言っていません。

 銃を持っている事を知られたくないのであれば、服の下に隠し持つなり、一見して銃が入ってるようには見えない入れ物を使えばいいんです」

 「まあ理屈はそうだね」

 「とにかく、これは連邦生徒会からの正式な命令です。

 部員と相談するなどしてご自身に合った銃を選んでください」

 気乗りしない様子の先生にリンはまくし立てるようにそう告げ、その場は解散となった。

 

 

 


 

 

 

 『あはは……。先生も年貢の納め時ですね』

 「そんな大げさな言い方しないでよ」

 シャーレに戻った先生はひとまずアロナへと事の経緯を話した。

 相棒であるアロナからしても、いつも丸腰で自分の身を危険に曝している先生には不安しかなく、今回の生徒会からの命令には肯定的だった。

 『それで先生、制式拳銃(ベレッタ92)は使いにくいんでしたっけ?』

 「デカいし重いしグリップが太くて握りが甘くなるんだよね。最悪撃った途端に手からすっぽ抜けちゃうよ」

 

 多くの場合、弾を撃った際の反動を使って動作する自動式(オートマチック)拳銃は握りが甘ければ作動不良を起こす可能性がある。

 なので安全のためにも、使用者の手の大きさに合ったグリップを持つ銃を選ばなければならない。

 なお、小柄なサヤも同型の拳銃を使っているが、注射器として使えるほど徹底的に改造しているため問題化していない。

 制式拳銃はシャーレの備品であるため、銃そのものに手を加えるような改造は禁じられている。

 

 

 アロナとああでもないこうでもないとわちゃわちゃ話していると、先生のスマートフォンが着信のベル音を鳴り響かせた。

 発信者は──

 「ユウカ、ミレニアムはいま一限目じゃないのかい?」

 『それはそうなんですけど、セミナーから早急に先生に連絡を取れと言われまして……』

 相変わらずの貧乏くじを引かされたユウカだった。

 『先生、お昼にちょっとお時間いただけますか?』

 「今日の依頼は放課後からのだし、それで構わないよ」

 『ありがとうございます。では後ほど』

 

 通話が切れてから、先生は背筋が寒くなる感覚を覚えた。

 「(まさかセミナーが盗聴器を仕掛けてる?)」

 『(あり得ますね……シャーレは色んな情報が集まる場所ですから)』

 RABBIT小隊にシャーレ住み込みを拒否された理由である『盗聴器が大量に仕掛けられている』という噂の発端は、先生のストーカーであるコタマが原因なのは間違いない。

 しかし今回の風変わりな命令が外部に知られるのは時間の問題だったとはいえ、いくらなんでも知られるのが早すぎる。

 「ハァ……。チヒロに頼んでチェックしてもらおう」

 

 

 

……

 

 

 

 数時間後、ミレニアムサイエンススクール。

 先生は待ち構えていたユウカに、どんな銃が欲しいのかの意見を洗いざらい話すようにねだられた。

 意見を羅列したメモ帳にペン先をトンと置き、ユウカは口を開いた。

 「先生のご要望と身体能力を考慮した結果、今回の拳銃に求められる性能は以下の通りですね」

 

 

 ●威力と反動の兼ね合いから口径は9mm程度

 ●隠匿性を重視し銃のサイズは小さい方が良い

 ●重量削減のため、ポリマーフレームが好ましい

 ●使用者の手が少し小さいため、できる限りグリップは細身のものかストラップ交換式であること

 ●できるならマニュアルセーフティ装備など、安全性は高い方が良い

 

 

 「参考程度に聞きますけど、強装弾やマグナム弾が使える銃はお望みですか?」

 「使えない訳じゃないけどそこまでは要らないかな。私が銃を抜く時点で状況は最悪だろうし、それだったら軽くするか弾を増やしたほうがいいよ」

 「わかりました」

 サラサラとメモに一言記述を増やすと、ユウカはふと思い立ったように先生の顔を見た。

 「……それにしては意外ですね。銃を持ちたがらない先生の事だから、適当に見繕ってくれとか言うかと思ってました」

 「さすがに命を預けるっていう道具に妥協はしないよ。代わりに趣味性は求めるけどさ」

 肘をテーブルに載せ両手に顎を置いていた先生は、少し不機嫌そうな声で答えた。

 いつも笑ってるか慌ててる様子しか見てないユウカにとって、先生のそんな姿は新鮮に思えた。

 

 ユウカはタブレット端末の画面に指を走らせ、銃器カタログを開いた。

 「先ほどの条件をすべて満たした上で、ミレニアムからのオススメはこちらになります」

 先生へ示した画面には、無骨な形の自動拳銃が映し出されていた。

 引き金周りの部品を中枢としたモジュール構造であるのを示す分解図も併せてある。

 「SIGサワーのP365ってのと同じやつだね」

 「外のメーカーは分かりませんが、小さい・薄い・サムセイフティ搭載可能で弾数は9mmパラベラム弾が一〇発以上。

 モジュール構造なのでパーツを替えたければ自由なカスタマイズも可能です」

 見た目は実用本位で味気ないかもしれないが、発展性という点では何よりも優れている。

 

 「どうされます先生? 他にも選択肢はありますが、ミレニアムでご購入されますか?」

 「ふーむ……」

 セミナーの動きが異様に早かったのは、おそらく先生にミレニアム製の銃器を買わせる事で箔をつけるためであろう。

 今のシャーレの知名度を考えれば、中立的観点から学校政治への興味を持たないようにしている先生でもそのぐらいは答えに行き着く。

 「すごく急いでる訳じゃないし、そろそろシャーレにかかわってる他の学校にも情報が入ってると思うんだよね。

 機械に関してはミレニアムが強いのは分かってるけど、もう少し見て回るよ」

 選択肢としては安牌であるがゆえに、先生はじっくりと選ぶことにした。

 

 

 

……

 

 

 

 ■補習授業部の場合

 

 先生は補習授業部の部活動のあと、戦闘のプロであるアズサに話を聞いてみた。

 しかし話の主題は銃の種類ではなく『どう持ち歩くのか』へと移った。

 

 「隠す事に特化するならショルダーホルスター一択だ。先生は体の線が細いから、上着を着てしまえば銃が浮き出しにくい」

 先生は季節に関係なくジャケットを着ている事が多いため、私服警官のように上着に銃を隠す事は難しくない。

 「でもアズサちゃん、先生は部屋の中だと上着を脱ぎますから銃が丸見えになっちゃいますよ?」

 「丸見え!? ……いやいや落ち着いて私」

 コハルが例によって『丸見え』という単語に卑猥さを感じてしまうが、今回は寸前で思い直した。

 そんな姿を見てハナコには子の成長を見守る親のような感情が芽生えた。

 

 「そうだったな。……ならミサキを思い出して欲しい。ミサキは左足の内側に自衛用の拳銃を付けているだろう?

 あれを先生がやるならズボンの裾で銃を隠せる」

 アズサのアリウスでの仲間であるミサキは大柄なロケットランチャー(セイントプレデター)を武器にしており、その補助として小型リボルバー(ルガーLCR)を身に付けている。

 「塵芥のことを考慮すると銃は必然的にリボルバーになるし、いざという時は取り出しにくくはなるけど、『隠す』という点ではショルダーホルスターに負けていない」

 アズサは他にも腰に下げる形式でも隠しやすいやり方がある事を説明していった。

 

 「それと先生、これは女子(私たち)にしか使えないものですが……」

 ハナコはそう言うと豊満な胸を覆っているセーラー服を捲くりあげた。

 「ちょっと! なにやってんのよハナコ!」

 「落ち着いてくださいコハルちゃん! ハナコちゃんの胸のところよく見てください」

 コハルは顔を真っ赤にしながらハナコに視線を合わせた。

 ハナコの下着か水着かわからないブラの中央に、銃を収めたホルスターがぶら下がっていた。

 「ブラホルスターというものです。お胸の大きさは必要ですし、暴発させた時のリスクはありますが、こういう隠し方もあるというのは覚えておいてください」

 解説に関心するアズサの横で、コハルは自分の胸に手を当てた。

 「銃を抜く時もこのように引っ張るだけで──」

 ハナコはホルスターに収めた小型自動拳銃(グロック26)のグリップを握り、勢いよく引き抜こうとした。

 

 

 ブチッ

 

 

 「あら?」

 銃はホルスターから抜けないまま、肩紐がないブラジャーが丸ごと抜け落ちた。

 「アウトーーー!!!」

 「こ、コハルちゃん!? 今のは本当に不可抗力でして……!」

 「いつもわざとやってるって事じゃない! エッチなのはダメ! 死刑!」

 

 「……なるほど、こういう事故もあるのか」

 「あ、あはは……」

 結局、どんな銃を買うかの本題には触れる事はなかった。

 

 

 

 ■イロハの場合

 

 そのあと先生はゲヘナ学園へ赴き、風紀委員会による不良集団の大規模掃討作戦の指揮補佐を担当した。

 

 「先生、少しよろしいでしょうか?」

 依頼が完了しシャーレへ帰ろうとしたところ、風紀委員会本部を出てすぐにイロハに呼び止められた。

 「どうしたの?」

 「いえ。マコト先輩が『シャーレの先生が銃を探しているそうだな? ここで万魔殿が推薦する銃を買わせる事で風紀委員会に圧をかけてやるのだイロハ!』とか丸投げしてきましてね」

 「……ブレないなぁあの子は」

 全くもっていつものマコトである。

 

 あの場にいると風紀委員会幹部の誰かが飛んできそうだったため、二人は学生広場まで移動しベンチに腰掛けた。

 「そんな訳でマコト先輩の推薦はこれですね」

 イロハはそう言って肩に掛けていた鞄から大型拳銃(MARK 23)を取り出して見せてきた。

 「あの、イロハ?」

 「わかってますよ。マコト先輩が趣旨を理解していないだけです」

 銃を使わない立場の者が常に持ち歩く護身用を欲しているのに、特殊部隊用に作られた特殊すぎる銃を選ぶのはあまりにもナンセンスである。

 

 「私が真面目におすすめするのはこちらですね」

 上着のポケットに無造作に挿しこんであった拳銃を取り出す。

 「先生にはワルサーP99と言えば通じますかね? 万魔殿の制式拳銃(ワルサーP38K )と同じメーカーが出してる銃です」

 銃をひと目見た途端、先生の口角がわずかに上がった。

 「……そうだね」

 「先生が外から持ちこんだ映画の主人公(007)が一時期使ってましたね。

 パーツを替えればグリップの太さを調整できますし、もっと使いやすい後継モデルは出てますけど、選択肢としては悪くないと思いますよ?」

 

 ワルサーP99は趣味と実用性を兼ね備えた銃である事には間違いない。

 ところが先生は

 「ごめん、無理」

 と断った。

 

 「えっ? それはまたどうしてでしょうか?」

 まさかの返答を受け頭に疑問符を山ほど浮かべるイロハだったが、先生はさっきとは打って変わって苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 「私としてもP99は好きなんだけど、どうも個人的に苦手な人が使ってるのを見たせいで、ちょっと今受けつけないんだ」

 「……マジで意味がわかりませんね」

 「ほんとね……」

 先生は頭を抱えて項垂れた。

 

 イロハは先生をなだめた後、セナを呼び出して救急車でシャーレまで送らせた。

 

 「(ハスミさんがゲヘナ産の品物すら拒む程のゲヘナ嫌いなように、先生もその好きじゃない人を思い浮かべるように刷り込まれてしまったようですね。

 ……これは厄介な話ですね)」

 次に先生が学園に来たとき、または自分がシャーレに行った時は先生を思う存分サボらせようと心に決めたイロハだった。

 

 その後も色々な生徒に聞いてまわったが、先生はこれといった銃を見つけることができなかった。

 『隠して持ち歩きやすい』という条件で、心の琴線に触れるような銃がなかなか現れないのだ。

 

 

 

 ■シロコとサオリの場合

 

 休日のシャーレ居住区。

 シロコは大量の雑誌を手に、先生が待つ休憩室へと姿を現した。

 「ん……おはよう先生、ユウカから話は聞いたよ」

 「うん、シロコなら話に乗ってくると思ってた」

 「いまのアビドスは銃の売り買いで便宜は図れないけど、選ぶのは任せて」

 「気をつかってくれるだけで私は嬉しいよ」

 複数の銃器からドローンまで使いこなすシロコなら多角的視点から意外と悪くないチョイスをしてくれるのではないか? 先生はそう思って期待に胸を膨らませた。

 

 

 

……

 

 

 

 「……なんだこれは?」

 「やあサオリ、奢るからお昼一緒にどうだい?」

 サオリは安全な場所での休息とスマートフォンの充電のためシャーレを訪れた。

 いざ休憩室へ来ると、そこには雑談用のテーブルに大量のガンカタログを広げた先生とシロコの姿があった。

 「ん。先生に合う銃を探してる」

 それを聞いてサオリは首をかしげた。

 「支給された銃では駄目なのか?」

 「うーん。あれは使いづらいし、プライベートでは持ち歩けないんだよ」

 「そうか」

 他愛もないが話であるが割りこまれたような感覚を覚えたシロコは、口をわずかにへの字にして先生にカタログを突きつけた。

 「これはどう? 弾数も威力もある」

 「シロコ、私の手じゃこれをちゃんと握れないよ?」

 「あ……そうか」

 シロコが見せたページには特殊弾を使う拳銃(ファイブセブン)の最新型が載っていた。

 弾が前後にかなり長いためグリップが握りにくく、先生の手には余るシロモノだった。

 どうもシロコの熱意が空回りするあまり、本来求めているものから外れたものを勧め続けているらしい。

 

 「……先生。前に先生へあんな事をした私が意見する資格があるかはわからないが、参考程度に聞いてほしい」

 「過ぎたことを気にしないで。言ってみて?」

 「先生を襲うような相手に対して自衛するなら、ギリギリまで威力を引き上げて.357マグナム弾クラスの弾を使うのも考えるべきだ」

 サオリはテーブルに散乱していたカタログの一つを拾い上げ、ペラペラと頁をめくって目的の記事を探す。

 「これだ」

 「ああ、.357SIG弾ね」

 誌面には薬莢が途中でくびれた形(ボトルネック)になっている弾の写真が載っていた。

 「全長は9mm弾と比べて誤差の範囲だから、グリップが前後に長くて握りにくくなるという事はないだろう。後は銃次第だ」

 「なるほど」

 「先生が銃を使いたがらないのは理解している。だがいざ使う時のためにも一定以上の威力を確保しておく事に越したことはない。

 無論、それを使いこなすための訓練も」

 「そうだね」

 

 

 休憩室奥の仮眠スペースからサオリの寝息が聞こえてきたのを確認したあと、シロコは再びカタログを開いた。

 「例え話になるけど、サオリが言った.357弾を使うとして、無難なとこだとグロック32か33あたりになるかな。

 でも私は別の銃をオススメする」

 先生に示したページには、アヤネの持つ『コモンセンス』に似た拳銃(P239)の写真が載っていた。

 「アヤネの銃の小型版。弾は少なくなるけどグリップは最初から細い。

 ただ、軽い銃だから強力な弾を使うと反動は強いかも」

 「選択肢としてはアリだね。……既製品でいいのが見つかんないのなら、いっそのこと君たちみたいにカスタムガンにするかな?」

 

 結局、公の場で堂々と銃を携帯するのであれば制式拳銃を持つことになるだろう。

 ならば大半の生徒同様、スマホ感覚で着飾り『自分だけの銃』にするのも悪くないと先生は考え始めた。

 「ん。ならユウカが挙げたやつの系列が一番安上がりに組めると思う。元々強装弾に対応してるし、サードパーティ製のパーツで見た目もだいぶ変えられる」

 シロコはモモトークから先生へウェブカタログのURLを送り、開くように促した。

 「……カヨコとかヒナタとかだいぶ見た目を替えてる子はいるなと思ってはいたけど、カスタムパーツってこんなにあるんだ」

 改めて超がつくほどの銃社会であるキヴォトスを思い知った先生だった。

 

 

 


 

 

 

 数日後。

 先生は注文した銃を受け取るためにミレニアムを訪れていた。

 『結局ユウカさんが最初に選んだ銃にしたんですか?』

 「あの子は私がこういう選択をするのを見越してたんだろうね」

 『世話焼きな妹さん的な?』

 「さてね」

 シッテムの箱をケースにしまい、スタディーエリアから少し離れた場所にある射撃練習場へと足を踏み入れた。

 時間が早いのもあり、場内にはユウカが一人で待ち構えていた。

 

 

 「こちらが完成したものになります」

 ユウカは作業台に質素なガンケースを載せると、ロックを外して中身を先生へ向けて蓋を開いた。

 「ほほう」

 中にはオーダー通りに組み立てられた『ただ一つの銃』が収められている。

 

 黒い樹脂で作られたフレームに銀地に青いラインが入ったスライドが装着されており、銃のサイズに対してやや大きいアイアンサイトが取り付けられていた。

 パッと見では子供むけ作品に出てくる光線銃のオモチャのようにも見えるが、これは実弾を撃つれっきとした本物である。

 「P365XLを基にマニュアルセーフティを装備、弾は9mmパラベラム弾のFMJが一二発、スライドは蔵王社製のカスタム品。すべて注文通りです」

 「さすがユウカ。完璧な仕事だね」

 先生は銃を手に取りしばらく眺めたのち、装填済みの弾倉を挿しスライドを引いた。

 「グリップモジュールも強化モデルなので、銃身(バレル)とマガジンを交換すれば.357SIGや.40SW弾に対応できます」

 「でもそれなりに値が張ったね。……怒らないのかい?」

 「はぁ……。あらかじめ相談してますし、これはいちおう職務上必要な支出ですから」

 

 少し離れたところに人型の的が立ち上がった。ヴァルキューレ警察学校で使われている『人質に拳銃を向けている犯人』を象ったものだ。

 「ターゲットは一〇メートル先です。……先生が銃を撃つところ、初めて見ますね」

 「まあ、射撃訓練場は使ってるよ? キヴォトスに来るまで本物の銃は撃ったことなかったし」

 両手でしっかりと銃を保持し、安全装置を解除して引き金を引いた。

 

 パン、と軽い破裂音が練習場に響いた。

 犯人の右腕をかすめたのを見て、わずかに銃口をずらすと立て続けに残りの弾を撃ちこんでゆく。

 

 「……先生は昔特殊部隊にいたとかそんな経歴をお持ちですか?」

 「ユウカ。そんな大それた過去はないよ」

 回収された的に開いた弾痕はバラけているもののすべて犯人に命中しており、人質には掠りすらしていない。

 「君たちが見ていないところで練習してるだけで、私自身は別に特別な訳じゃない。それにいくら練習したところで『使わない』のなら意味はないよ。

 キリノと射撃の腕を交換したいぐらいだ」

 弾倉を換え安全装置をかけると、あらかじめ身に付けていたショルダーホルスターへと収めてストラップを留めた。

 

 

 「先生」

 「武器でも権力でも、子供でも大人でも、力づくで相手に言うことを聞かせるのならゲマトリアやこれまでの悪人連中と変わらないよ」

 先生は上着を着てホルスターを覆った。これで外見からでは銃を持っているとは判らなくなった。

 「だからね、『反則には反則』しなきゃならない時じゃないと私は銃を使う気はないよ。君たちを助ける時以外はこれからもね」

 

 その笑みはどこか寂しそうな印象がある。ユウカはそう感じた。

 「先生……お気持ちは分かりますが、その甘さが命取りになるかもしれませんよ?」

 「あはは……どっかで聞いたような台詞だね」

 「こっちは本気で心配してるんですよ?」

 「わかってるよユウカ。でも未来は計算できるものじゃない、結局なるようにしかならないのさ」

 そう笑って先生は外へ繋がる扉へ向かった。

 「もう……!」

 

 

 その後、また無駄遣いがバレた先生をユウカが追いかけ回しているという目撃情報が複数のミレニアム生徒の口から語られた。

 

 

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