シャーレの活動記録集   作:目多須でぃてくた

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 色々あって脳が破壊されてました

■あらすじ
 ユウカの絆ストーリー直後。
 寝坊したユウカを休ませた先生だが、アロナに呼び出されてシッテムの箱の中へと意識を飛ばした。
 アロナはユウカについて前から気になっていた事を聞くことにした。


#17 早瀬ユウカという生徒さん

 

 

 ある日、規則に厳しいユウカが遅刻するという事件が起きた。

 しかもミレニアム生徒会(セミナー)代表としてシャーレと会議を行うという、『政治』に関わる案件でだ。

 原因は彼女の会計としての仕事が多すぎるがための過剰労働で、夜中に力尽きて寝落ちし、起きた時には既に十一時を回っていた。

 

 「お、遅くなりました!」

 「おはよう、ユウカ」

 慌てた様子でシャーレの執務室へ駆け込んだユウカ。一方の先生はいつも通り執務机に向かって連邦生徒会へ提出する報告書を書いていた。

 「す、すみません。昨日遅くまで仕事をしてて、そのまま寝てしまって……」

 会議で扱う書類が入った封筒を置くと、何か思い立ったように先生へ顔を向けた。

 「……えっと、先生。今日は遅刻しませんでしたか?」

 「うん。昨日絶対に遅刻しないでって言われたから」

 今日『は』と言うが、そんな何回も始業時間までにオフィスに上がれなかった記憶は先生にはなかった。

 

 相手の落ち度を探して自己正当化を図ろうなどとは、たとえ無意識でもユウカらしくない。

 不安になった先生は席から立ち、彼女へ近づく。

 「……ごめんなさい!」

 その動きを見てか、己の失言に気づいてか、ユウカは顔を真っ青にして頭を下げた。

 「先生にあれだけ言っておきながら、自分が遅刻するなんて……弁解の余地もありません」

 ガバっと顔を上げるユウカ。その肩は震えていた。

 「こうなった以上、罰は甘んじて受けます。

 さあ、何でも構いません。私に命令してください!」

 「別にいいのに……」

 「いいえ、罰則も規則です! 自分で言っておきながら自分だけは例外なんて、セミナーの会計として面子が立ちません!」

 ユウカは鬼気迫る剣幕で先生に詰め寄った。あまりの迫力に先生は一歩後ずさる。

 「ですので、どうぞ!」

 「じゃあ、居住区で昼寝してきてくれる?」

 「……え? それは、罰ではないのでは……?

 きちんとしたものでないと、罰になりません」

 呆気にとられるユウカだが、先生は飄々とした態度を崩さない。

 「いつも頑張り屋さんのユウカに必要な罰はこれだよ」

 「でも……」

 「どんな命令でもいいんでしょ?」

 自分の言った言葉を返されてしまい、しばらく黙りこむと観念したようにため息をついた。

 「……本当に、先生らしいと言いますか……」

 「ほめ言葉として受け取っとくよ」

 「分かりました。ではご命令通り、少し休んでくることにします。

 真面目な表情になったかと思うと、今度は顔を真っ赤にして大声を上げた。

 「……ですが、「遅刻をしても大丈夫」とは思ってませんから! 今後も先生の遅刻については、私が厳しく見張ります!

 もちろん、私も遅刻しないようにしますから!」

 そう言い切ってユウカは執務室を後にした。

 

 

 「……さて」

 先生はユウカが持ってきた封筒を開くと、中の書類に目を通して机に向かおうとした。

 『先生、ちょっと『来て』いただけませんか?』

 その背中に卓上のタブレット(シッテムの箱)から声がかけられた。

 「え? わかった」

 『ああ、その書類も持ってきてくださいね?』

 「? ……うん」

 

 


 

 

 

 壊れた教室の壁の向こうに、どこまでも続く青空と海。

 アロナ(わたし)はそれを窓から眺めながら『あの人』を待った。

 

 やがて、シッテムの箱(この場所)に人が来たことに気づくと、ガラスの向こうに浮かぶ人影が扉を開くのを待ちました。

 

 「やあ、アロナ」

 「お待ちしてました! 先生!」

 フェイス先生。シッテムの箱を扱えるただ一人の人間で、連邦捜査部『シャーレ』の顧問をしています。

 中性的な見た目なのでときどき性別を間違われてますが、フェイス先生はフェイス先生なのでお兄さんでもお姉さんでも私は構いません。

 

 いまの先生は意識だけをシッテムの箱の中へと飛ばしてる状態です。

 ……体が無防備じゃないかって?

 先生がここにいる間は時間の流れが早くなってて、ここでの一分は現実世界の一秒なので大丈夫です!

 一時間ここにいても外じゃ一分しか経ってませんから、他の人から見たらちょっと寝落ちした感じですね。

 

 「今回はシフォンケーキを持ってきたんだけど、すぐ食べるかい?」

 「食べます!」

 先生はとても不思議な人で、どこからともなく色々なものを取り出します。

 ここにいるのは意識だけなので、現実で作ったものを持ちこめるのはさすがにフェイス先生だけかもしれません。

 思えばシャーレ最初の仕事だったアビドスへの物資提供も、その身ひとつで自治区に向かいましたもんね。

 

 ホイップクリームをたっぷり載せたチョコ生地のシフォンケーキを、いい茶葉で淹れた紅茶(魔法瓶で持ちこんでました)で優雅にいただく……。

 まるでトリニティの生徒さんになったみたいな気分です!

 

 

……

 

 

 切り分けたケーキを二人で食べてるうちに、本題の前にだいぶ前から気になってたことを先生に聞きたくなってきました。

 「先生」

 「なんだい?」

 「ユウカさんってどうして先生にあれこれ口を出ししたがるのでしょうか?」

 「ふむ……あ、ほっぺにクリームついてるよ」

 「あっ」

 これは恥ずかしいです。……話が逸れましたね。

 

 ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカさんは、先生がおもちゃを買うのを事あるごとに『ムダ遣い』だと咎めます。

 確かに先生はお財布の紐がゆるい……だけでなく、生徒さんにいい様に使われて散財することが多いです。

 でもそっちをあまり咎めずに、先生が趣味で買ったものや買い食いとかの出費の話ばかりします。

 たぶんユウカさん自身、先生にちゃっかり強請る事があるので強くは言えないのでしょうけど。

 

 それに、もはや『管理』と言っていいほど普段の生活態度にも口を出してきます。

 先生はいつも身を粉にして、死にそうになりながら働き続けてるのに、プライベートにまでダメ出しされたらたまったものじゃないですよ。

 

 

 先生は空のお皿にフォークを置いて腕を組んだあと、少し考えるそぶりを見せてから答えました。

 「そうだね……私の主観になるけどいいかい?」

 「はい」

 「まずユウカの心境を無視した客観的な見方だと、同属嫌悪と嫉妬かな」

 同属嫌悪と嫉妬?

 私が頭の上に疑問符を浮かべていると、先生は前にミレニアムで見たユウカさんのことを語り始めました。

 

 

……

 

 

 ある日、先生はマキと共にグラフティー用の道具を買いにショッピングモールに来ていた。

 会計に向かったマキを通路で待っていると、斜め向かいのテナントにユウカの姿を見かけた。

 なにかの商品をジッと見つめながら悩んでいる。 

 「もしこれを購入したら私は13日間、学食の基本メニューだけを食べるしかない……。

 それは辛いけど、買わなきゃ」

 そう呟きながら商品を手に取り、レジへと向かっていった。

 

 「……ねえマキ、ミレニアム学食の基本メニューってどんなの?」

 丸く膨らんだレジ袋を手に戻ってきたマキに、『基本メニュー』なるものがどんな献立なのかを聞く。

 「基本メニュー? ご飯と漬物とおみそ汁だけだよ?

 普通はそれとは別におかずを買うんだけど、一番安いからお金がない人はこれだけ食べてる感じ」

 「栄養バランス悪いし、食べ盛りの年ごろにはツラいだろうなぁ……」

 

 

 別の日、ミレニアム・スタディーエリア。

 先生はスミレのコーチングのあと、シャーレに戻ってからでは面倒なのでミレニアムの学生食堂で昼食を摂ることにした。

 久しぶりの休日ながら午前中からスミレ基準のハードなトレーニングに付き合い、疲れ果てて少々おぼつかない足取りで学食前に行く。

 「(あれ? ユウカだ)」

 券売機の前でうんうん唸っているユウカの姿を見た。

 何を悩んでるのかと見つからないように物陰から眺めていると

 「このままだと破産する……。出費を減らさないと……」

 電卓を握りしめながら肩を落とし、その場を離れようとするユウカ。

 

 「ユウカ」

 「!? せ、先生!?」

 先生はそんな彼女の背中に声をかけた。

 「ユウカもお昼かい?」

 「い、いえ! 今日はなんだか食欲がなくて……」

 しかし体は正直というべきか、腹の虫が大きな声を上げ、ユウカはお腹を押さえ顔を真っ赤にして俯いた。

 「あの、……これはその」

 「……そういえば一昨日の任務で不良グループから押収した兵器類とか、備品リストが今は使われてない単位で書かれてるから換算が面倒なんだよね。

 しかも手書き!」

 腹の音のことは表情には出さず、まくし立てるように言い切ると、先生は懐からリストの写しを取り出した。

 「ユウカ、ご飯奢るからやってもらえない?」

 「はぁ!? そういうことはご自分でしてくださいよ!」

 「デザートもつけるから、お願い!」

 手を合わせて頭を下げる先生の姿を見て、ユウカは少し悩んだのち口を開いた。

 「……今回だけですからね?」

 また腹の虫が鳴いた。

 

 

……

 

 

 「根拠が二言だけだから確証はないけど、ユウカはセミナーの仕事が忙しくてストレスも溜めやすいぶん、プライベートだとその反動で金遣いが荒いのかもしれない」

 なるほど……。ちょうど先生と似た感じなんですね。

 「ただ、資金力という点で私とユウカには大きな差がある。

 『私は色々ガマンしてるのに、先生はいつも好きなもの買ってるのが腹が立つ!』とか思ってるのかもしれない」

 先生はそう言って海に視線を向けました。

 「……シャーレの給料安いから、ああいうの買う時は貯金切り崩してるんだけどなぁ」

 シャーレはブラック企業かなんかですか。

 それはともかく。

 

 「では、ユウカさんご自身はどんな風に思ってるか、先生はどうお考えですか?」

 「ああ、たぶんアレだよ」

 ティーカップを手に取りひとこと言いました。

 「歳の離れた、憧れてるけど同時にだらしない兄か姉を怒る妹」

 ……え? 妹さん?

 先生は一口紅茶を飲むと、目を丸くしてる私を見て笑いました。

 

 「先生になるための学校の同期に、歳の離れた妹がいる人がいてね。

 その妹さんは同期……お兄さんを『目標』にするぐらい大好きだったんだけど、同時に生活態度がだらしないのをよく咎めてたんだよ」

 「先生はどうしてそんな話を知ってるんですか?」

 「彼とはプライベートでもよく話してたから顔を覚えられてて、妹さんから相談を受けたんだ。

 『普段はあんなにかっこいいのになんで家ではだらしないのか』ってね」

 年齢的にあまり昔の話という訳ではないはずですが、先生の態度は遠い昔を懐かしがるかのような雰囲気でした。

 

 「結局『ずっと気を張ってるのは心身に良くないし、そういう情けない姿を見せられるのは家族の前でだけ』と言って納得してもらったよ。

 事実、話を聞くまでその人が『実家ではラフすぎる服で食っちゃ寝してる』とまでは私も知らなかったし」

 ラフすぎるってどんな格好でしょうか? まさか下着姿とか言うんじゃないですよね?

 

 私はお話に夢中でずっと食べないでいた、ケーキの最後の一口を食べました。

 クリームのほどよい甘さと、ビター寄りのチョコ生地がうまく噛みあって、一回でホールひとつ食べてしまえそうなぐらい美味しいです。

 「ごちそうさまでした」

 私から食器を受け取ると、先生はやはりどこかへとお皿をしまいこんでしまいました。

 一体どこに行ったんでしょうね?

 

 「あとは……ヒナと似た理由かな」

 「ヒナさん?」

 「あの子はゲヘナの中でも特に厳しい立場にいて、誰かに甘えたい、褒められたい『子供らしい』心をずっと隠していた。

 ……それこそ、私も本人の心が折れてしまうまで気づけなかったぐらいにね」

 そう言って目を伏せる先生は、その事に対する後悔の念を隠しきれていません。

 「ヒナにせよユウカにせよ任されてる事は『大人の仕事』。その色眼鏡がかかって周りからは同じ『子供』とは見られにくいんだ。

 ユウカがゲーム開発部によく出入りしてるのは、あの四人の前では普通の学生でいられるから。ってのもあると思う」

 

 ……『小言ばかり言ってくる嫌な大人』『自分を貶める嫌いな大人』『憧れ、目標とするべき大人』『自分が従うべき指導者の大人』。

 その役割を子供が背負ってるってことですか。

 

 

 何故かズキリと心が痛みました。

 

 

 「おまけにそういう仕事をしてる子に近づいてくる大人は、下心や悪い考えを持ってる悪い人ばかりで、ひと時も安心できないときた」

 先生と一緒に学園都市のあちこちを見て回ると、思ってた以上に『悪い大人』って多いんだなって感じました。

 アビドスにいる柴関ラーメンの店主さんみたいにいい人も大勢いますから、シャーレの仕事柄そういった悪い人を見やすいのでしょうけど。

 「そこに『信用できるいい大人』、つまり私が現れた。

 ……自分で言うの恥ずかしいね」

 「先生は先生ですよ」

 「うん」

 

 先生は……少しだらしないところもありますが、どんな相手でも真摯に向き合い、力で強引に解決するような真似はまずしません。

 それは生徒さんたちの悩みや問題も同じで、過程はともかく最後はみんなが笑って終われる結末を引っ張ってきてくれます。

 生徒さんたちの態度は千差万別ですけど、みんな先生に気軽に相談をしたり、何かしらの面倒ごとを抱えたときに頼っています。

 

 「ユウカの態度を見てると、似たような境遇にあって『責任ある大人』である私に対して、自覚があるかは別として少なからず敬愛の念を抱いている可能性はある。

 でもユウカは任務中以外の私を見る機会が多いから、必然的に私に抱いた『幻想』を打ち砕かれる」

 「……良く言えば『好きだからこそしっかりしてほしい』という心配、悪く言えば『自分の理想像を押しつけてる』と?」

 「そういうことだね」

 先生は大きなため息をつきました。

 「ユウカも我慢しないで、私に甘えてくれればいいのに。折れてからじゃ遅いんだから……」

 

 生徒さんの自主性を重んじるがために、何か不穏な状況にならない限り、生徒さん自身が助けを求めるまで先生は極力動こうとはしません。

 『他』の先生がもしいたとしたら、フェイス先生のやり方を甘いとか、先生失格だと罵るかもしれません。

 ですが『郷に入っては郷に従え』。

 フェイス先生は『外』の常識をキヴォトスの生徒さんたちに押し付けたりはしないで、自分で解決できることは生徒さん自身で済ませれるように手伝う方法で今までやってきました。

 

 

 私は、先生(あなた)のやり方を誇らしく思ってます。

 愛しい人の顔を見つめて、自然と口元がゆるみました。

 

 

 「そういえば先生、ユウカさんが持ってきた会議の書類は持ってきましたよね?」

 「うん」

 懐から封筒を取り出す先生。さすがにその大きさのものをコートの裏に持ってると言い張るのは無理があるのでは?

 「ここなら時間はたっぷりありますし、ユウカさんが起きる前に全部片付けちゃいましょう!」

 「そう言うとは思ってたよ。でも一応普通にやっておくつもりだったんだけど」

 「その時間でシャーレの仕事をしましょうよ。連邦生徒会への報告書、けっこう溜まってるんじゃないですか?」

 「……そう言われると弱いな」

 私は先生の秘書で相棒(パートナー)ですよ? お仕事のことならちゃんと把握してます。

 「私も手伝いますから! こういう時は先生も素直に甘えてください!」

 「……ありがとう」

 

 その後、ユウカさんが眠っている間に、先生と二人でセミナーの溜まっていた仕事を片付けておきました。

 

 

 

 

 シャーレ業務日報 ■月■日分より抜粋

 ミレニアムサイエンススクール生徒会との定例会議は時間通り開催。

 会議後、ミレニアム代表者の体調が優れないため、シャーレ居住区で休養を取らせた。

 

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