【完結】ハルウララ ~有馬突破のキセキ~   作:そとみち

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第二話 開幕

『さあ間もなく始まります有マ記念!注目のウマ娘たちはどのようなレースを見せるのか!』

 

 

 ……もはや聞き慣れたアナウンスが場内に流れる。

 何度目だろう?数えることすら忘れてしまっていた。

 長距離を得意とするスーパースターのウマ娘たちが並び立ちパドックを歩く。

 

 その中に、自分の愛バがいる。

 実力は疑問視されていようとも、圧倒的なファン人気を誇り、ファン投票でその席を獲得したウマ娘。

 本日4番人気。

 

 ハルウララだ。

 

 

「すぅー………ふぅー………よーっし!がんばるぞー!!おー!!!」

 

 

 緊張を隠せない中で、それでも努めて落ち着いて、ゲートに入るウララ。

 

 

 やれることはすべてやった。

 今回が。

 今回の世界線が、ウララにしてやれる、すべてだと思った。

 

 

 何度もトライアンドエラーを繰り返した。

 そのたびに、ウララの涙を見てきた。

 そのたびに、次こそは必ずと。

 

 

 思いが褪せることはなかった。

 願いが届いたこともなかった。

 

 思いだけでは勝つことはできない。

 願いだけでは勝つことはできない。

 だから積み上げた。勝つための全て。

 

 ……だから、もう自分ができることは何もない。

 ただ、この中山レース場の短い直線の先で。

 ウララが、一番にゴールするのを、待つのみだ。

 

 もう自分にできることは終わっている。

 彼女がどのようなレースを見せてくれるか、それだけを。

 俺が、ウララが、この日のために……積み上げたすべてを、見守るだけだ。

 

 

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「うーん、気合入ってるねぇ~、ウララ」

 

 セイウンスカイは、自分より先にゲートに入るハルウララの背中を眺めて、そう呟いた。

 

 ハルウララとは学友だ。

 スペちゃんやグラスちゃん、エルちゃんと一緒に、よく話したり遊んだりする仲だ。

 仲が良いと言っていいだろう。

 

 ただ、そんなセイウンスカイでも、今この有マのレース場に、ハルウララが立っていることに違和感を隠し切れなかった。

 

「ファン投票ねぇ……」

 

 本人に聞こえぬように、皮肉を零す。

 酷なファンもいたものだ。

 セイウンスカイは、レース場の一角、スタンドで『ハルウララがんばれ!!』と横断幕を張っているほうに目を向けて、小さくため息をついた。

 

 勘違いしないでほしいが、ハルウララが弱いとは欠片も思っていない。

 彼女がこの3年間、いくつもの重賞レースで好成績を収め、時にはぶっちぎりでの1位を取っていることも知っている。

 そう、彼女は決して人気と明るさだけが取り柄のウマ娘ではないのだ。

 速く走れる脚を持っている。

 なんなら、自分だって勝てないと思うことだってあるさ。

 

 ―――それが、ダートのレース場で、マイル以下の距離なら、だけど。

 

 

「……厳しいよねぇ」

 

 

 中山レース場、芝の長距離2,500m。

 中距離レースをさらに100mだけ長くしたこのレース場が、どれだけウマ娘にとってハードルが上がるか。

 多少レースを齧ったファンならわかることだろう。しかも芝のコースだ。

 ハルウララが好走を見せるには、あまりにも厳しい条件がそろっている。

 

 友達として応援したい気持ちもあるが、厳しいだろう。

 記念出走。

 であれば、せめて一緒に走る相手として。

 僅かたりとも気を抜かずに、そして一着を取るのが友情ってものだ。

 

「ま、レースに絶対は無いって言うけどね───」

 

 自分もゲートに入場し、息を整え、よいスタートを切れるように集中する。

 長距離で逃げで走るためには、スタートが重要だ。

 今回は他に逃げウマ娘もいないし、一人旅でレースの流れを作れれば……勝機は、ある。

 

「……勝つぞぉ…!」

 

 セイウンスカイは改めて、勝利に向けて引き搾られる己が心の弓に、矢をつがえた。

 

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「ふむ…」

 

 ゲートの中、隣に並ぶハルウララに、ちらりと目を向けるシンボリルドルフ。

 彼女もまた、この有マ記念に出走する一人。

 一位を狙う、一番人気のウマ娘だ。

 

(ハルウララ…ダートと短距離に適性のある彼女と、戦うことになろうとはな…)

 

 レースのファン投票枠がある以上、こういったことも起きるだろう。

 それだけハルウララが世間的に人気を集めているということの裏返しでもある。

 トレセン学園の会長としては、喜ばしい話ではある。

 

 確かに彼女が懸命に走る姿は、人の心をつかんで離さない。

 ダートレースでの彼女の差しきる最後の伸びは、私でも心震わせるものがある。

 

 同じレースで自分が走っていれば、結果はどうだっただろうか?

 …いや、ダートなど練習でしか走ったことがない。短距離も得意ではない。

 恐らくは後方にポツンと一人シンボリルドルフ、などという不名誉な実況を得られることだろう。

 得難い経験になるかもしれない。

 

(だが、まぁ………)

 

 だが。

 ここは、有マだ。

 

(レースに絶対はない…が、より気を付けるべき相手が別にいるのは確か、だな)

 

 逃げの新星、セイウンスカイ。

 差しの鋭い切れ味、グラスワンダー。

 そして、

 

(ブライアン……君にだけは、負けたくないな)

 

 逆隣、黒い長髪をゲートに巻き込まぬように気をつけながら、スタートの時を今か今かと待つナリタブライアン。

 恐らくは、この辺りの有力バと、最後の直線で勝負になるだろう。

 

(………皇帝の神威を見せてやろう)

 

 勝利を見据えて、前だけを見つめるシンボリルドルフ。

 その視界には、勝利を初めて求めて輝く桜色の煌きは、入っていなかった。

 

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 ―――なんだかとっても、しずかだな。

 そんな気持ちになった。

 

 レースのまえって、ふだんならもっとドキドキーってして、ワクワクーってして。

 そして、めのまえに茶色い土の道がみえるんだけど。

 

 きょうは、みどり色の芝が、どこまでもひろがって。

 それで、ウララの心臓は、とっても静か。

 

 

 なんでだろうな、っておもったけれど。

 すこしかんがえたらわかったんだ。

 

 ウララはきょう、これがはじめて。

 はじめて、勝つために、レースにでてるからなんだって。

 

 そのために、トレーナーと、みんなと、できるかぎりのことをしてきたからだって。

 だから、走るまえに、なにかしわすれたことなんてないし。

 走るときも、ウララのできること、ぜんぶぶつけるだけだから。

 

 楽しく走るだけじゃない。

 笑って走るだけじゃない。

 勝つために走る。

 

 それってとっても、しずかで、おちついて、そして。

 勝ちたいって気持ちが、いっぱい、いっぱいあふれるんだって。

 

 わかったんだ。

 

 

 

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(メイクデビュー終了後)

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「はぁ?このゴルシ様に長距離を走るコツを教えてくれだってぇ?」

「うん!!あのねあのね、ゴールドシップってすっごーく長い距離をはやく走れるでしょ!教えてほしいの!」

 

 ぽかんとした様子で、ゴールドシップがハルウララの顔を見て。

 そして、その傍に立つトレーナーに顔を向けた。

 

「…なぁそこのトレーナーさんよ。正気かぁ?」

 

 常識にとらわれないウマ娘であるゴールドシップですらも、正気を疑うほどのこと。

 彼女ですら分かっているのだ。

 ハルウララは、ダートで、短距離に適性のあるウマ娘だ。

 長距離など、走る機会は無いというのに。

 

 …メイクデビューのレースを終えた直後に、こんなことを聞きに来たのだから。

 

『正気だよ。至って本気だ』

 

 だが、返ってきたトレーナーの答えは、とても真剣な表情だった。

 ………ワケわかんねぇ。

 このゴルシ様がワケわからんほど、ハルウララのトレーナーってのはおかしな奴だったのか?

 

「ウララもね、長い距離走ってみたいなーって!でもでも、いっつもすぐに疲れちゃうの!どーやってるのー?おしえておしえてー!!」

「だー!!尻尾を引っ張るな尻尾をー!ゴルシちゃんファイトクラブが勃発すっぞ!?」

 

 きゃーきゃー、と笑顔で怖がるハルウララに、フシャー!と威嚇するゴールドシップ。

 

 …別に、ハルウララの事が嫌いなわけではない。

 むしろ、『全国ウマ娘誰が一番大穴ぶち壊せるか選手権』で強力なライバルになるだろうと勝手に考えている相手だ。

 まぁそんな選手権はないのだが。

 

 

 そう、教えること自体はやぶさかではないが…理由がなさすぎる。

 無駄なことは嫌いなゴルシちゃんなのだ。

 

「んー……面倒でゴルシ。そんなことに時間割くなら裂きイカ細かく裂いてその長さでギネス目指すほうが重要っつーかー」

「えー!?ずるーい!ウララもやりたーい!」

「お?やるか??いいぜ???この町の裂きイカ全部集めちまおうぜぇー!!」

 

 普段の彼女らしい、恐ろしい話題のコーナリングに難なくついていくウララ。

 このままでは長距離を走るコツを教える流れはなくなってしまいそうだ。

 

 だが。

 

 

『……エデンを目指してるんだろ?』

 

 続くトレーナーの言葉に、ゴルシの動きがぴた、と止まった。

 

「……アンタ、なんでそれを……」

「えー?えでん、ってなにー?ウララしらなーい!おでんのともだち?」

 

 エデンを目指していることは、この学園の誰にも教えていない。

 いつか、自分が見初めた…才能あるトレーナーを見つけたら、語ろうと思っていたものだ。

 その夢が、担当なんてされたこともないトレーナーの口から零れている。

 ゴールドシップの興味は、トレーナーに向いた。

 

『エデンに至るには、ウララが長距離を走れるようになる必要がある。…ここまで言えば、わかるだろ?』

 

「なっ…!?…………そうか、そういうことかよ!」

「えー!? なになにー!? ウララも話にまぜてよー!!」

 

 続くトレーナーの言葉に、ゴールドシップは我が意を得たり! としたり顔でガッツポーズする。

 話題に置いてけぼりのハルウララがぷくー、とほっぺを膨らませて桜まんじゅうになり始めた。

 

「へっ……そこまで言われちゃ受けてやらねぇとゴルシが廃るってもんだな!よし!ウララ!いっちょやってみっか!!」

「へー?わかんないけど、わかったー!いっぱい走れるようになるんだよね!」

「あぁ、もちろんさ…俺が教えれば、ウララもいつか理解る時がくるぜ…宇宙の真理を…ゲ○ター線を…!!」

「えー!?すごーい!!ウララがんばるね!!」

 

 

 よっしゃついてこーい!と元気よく部屋を飛び出すゴールドシップに笑顔でついていくウララ。

 それを、トレーナーが苦笑で見送り、ゆっくりと歩いて後を追う。

 もちろん、エデンに至る方法なんて、トレーナーは知る由もないのだが。

 

 

 

【長距離 ☆☆☆】

『不沈艦、抜錨ォッ!のコツ レベル3』

 

 

 

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(2年目 6月前半)

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「ねぇねぇスペちゃん!スペちゃんってすごいよねー!なんでそんなに芝を走るのがはやいのー?ウララにもコツを教えてー!」

「え、私っ!?わ、私なんてそんな、他のみんなのほうが速いよ!そんなそんな、へへぇ…♪」

 

 芝コースの練習場で、ハルウララがスペシャルウィークに芝を走るコツを聞いていた。

 褒められ慣れていないスペシャルウィークは、へへぇ…と頬を掻きながら、嬉しそうにはにかむ。

 

「うーん……でも、そうだなぁ。はっきりと言葉にするのって、難しいかも」

「むずかしいのー?むずかしいとウララがわからなくなっちゃうから、かんたんに言ってー!」

「そう簡単に言われても……むむ、むむむぅ…!!」

 

 ぐぬぬぅー、と唸りだすスペシャルウィークに、つられるようにしてハルウララもうんうん呻りだす。

 そんな二人の様子を、トレーナーがため息をつきながら見守る。

 

 ……二人とも、無意識でやっていることを言葉に表すのが苦手だし、言葉で貰ったものを実践するのが苦手だ。

 本能型の二人だからこそ通じる部分もあるが、通じなかった場合は芝を走るコツをウララが掴めないこともある。

 …少なくとも、これまでの世界線では、何度も芝のコツが掴めないこともあった。

 

 だが。

 何度も繰り返しているうちに、分かったこともある。

 

『スペ…シャルウィーク』

 

「っはい!?あ、ウララちゃんのトレーナーさん。なんでしょうか?」

 

 思わず零れそうになった彼女の愛称を誤魔化してから、呼びかける。

 思考の坩堝に陥りかけていたスペシャルウィークが顔を上げて、トレーナーの顔を見た。

 

『君が、芝が好きな理由を教えてあげるといい』

 

「私が、ですか?あれ、でも私が芝が好きだって、何で知って…」

「えー!?スペちゃん芝が好きなのー!?なんでなんでー!ウララしりたーい!!」

「わーわーわー!耳元で叫ばないでウララちゃーん!分かった、教えるから、教えるからー!」

 

 

 ひぃーん、と頭頂部の耳をぺたんと閉じて、耳元で怒鳴られたスペシャルウィークが涙目になる。

 ごめんなさい、と素直に謝るハルウララに、苦笑を零す。

 

 …彼女が芝を走ることが好きな理由。

 それを、トレーナーは知っている。

 彼女と共に、3年間を過ごしたことがあるのだから。

 

「こほん。…ええと、私が北海道育ちのウマ娘だ、って事はウララちゃんも知ってるよね?」

「うん!!はじめてきいた!!」

「ズコーー!!…うぅん、いやまぁ、言いふらしてはないですけどぉ…!」

 

 昭和時代のようなズッコケをかましながら、スペシャルウィークが言葉を続ける。

 

 

「…私が生まれ育った所って、どこまでも芝が広がってたの。まぁ、ド田舎と言えばそうだったんだけどね」

「ふーん、ふんふん」

「…そこで、日が暮れるまで走ってたなぁ。おかあちゃんが見守ってくれて、走るたびに前より速く走れるようになって」

「ほわぁー……」

 

 遠く、空を見上げるスペシャルウィークと、話に真剣に耳を傾けるハルウララ。

 練習後の空は夕方を過ぎ、もう間もなく夜の帳が降りる頃。

 

「…だからかな。私、走るのが好き。芝の上を、思いっっっきり走ると、私がウマ娘だって、おかあちゃんたちの子供なんだなって、思えるから」

「………っっ」

「……あれ、ウララちゃん?」

 

 急に押し黙ったハルウララに、心配そうにスペシャルウィークが耳をぴこん、と立てる。

 それがまずかった。

 

「………かんっどう、したぁーーーーーー!!!!」

「おぎゃー!!耳がぁーーーー!!!」

 

 急に叫ぶハルウララの声量がスペシャルウィークの耳朶を強打した。

 あんぎゃーーー!!と転がりまわるスペシャルウィークに目もくれず、夜空と芝に目を向けたハルウララ。

 

「わかる!!すっごいわかるよスペちゃん!!それって、芝で走るのが大好き、ってことだよね!!」

「ひんひん……そう、そういうことなのぉ……あっ声が遠いです…」

「ウララもね、生まれはほっかいどー?らしいけど、育ったのは高知、ってところなの!海がいっぱいでね!」

 

 

 耳をなでなでしながら涙目のスペシャルウィークに、ハルウララが今度は己のルーツを語り始める。

 

 

「それで、走るのはいつも砂浜だったんだー。ウララもね、砂浜を走るのが大好きで、それでダートが得意なんだよ!」

「へぇ…そうなんだ!なるほどー、やっぱり育ったところで走った地面が、一番走りやすいよねぇ」

「うん!!でもね、スペちゃんの話を聞いて、芝もなんだか好きになれそう!」

「ホント?よかった、うまく伝わって!私、説明するの下手だから…へへぇ…」

 

 うんうんうん!!と何度も首を縦に振るウララに、スペシャルウィークが安堵のため息をついた。

 芝の良さを、分かってもらえたらしい。

 ダートで走るのも練習にはいいけれど…やはり、早く、気持ちよく走るには、私は芝のほうが好きだ。

 そんな気持ちを分かってもらえて、スペシャルウィークの表情もふんわりとほころんだ。

 

 

「それじゃ、もう暗くなっちゃったけどもうちょっとだけ、芝のコースを走ってみない?ウララちゃん」

「うん!!トレーナー、きょうはついかトレーニング、いいよね!」

 

 ハルウララはトレーナーに振り返り、今日の自主練習の許可を取る。

 もちろん、トレーナーの答えは決まっていた。

 

『ああ。スペによく教えてもらうんだぞ』

 

「うんっ!!!」

 

 そうして、勢いよく走っていく二人。

 トレーナーは、そんな二人を、優しく、そして強い意思で、見守っていた。

 

「よーし!けっぱるべー!それじゃあウララちゃん、かるく1000mダッシュ5本から行きましょう!」

「おー!ウララがんばる!芝さん、これからもよろしくねっ!!」

 

 

 位置について、よーい、と二人の自主トレーニングが始まる。

 

 終わるまで付き合うつもりで、そばの土手にトレーナーが腰を下ろす。

 そうして、既にすっかり日の暮れた、星空を見上げると。

 

『………おっ』

 

 きらり、と。

 二筋の流星が、夜空に弧を描いた。

 

 

 

 

 

【芝 ☆☆☆】

『シューティングスターのコツ レベル3』

 

 

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(3年目 1月後半)

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「………このわたくしに、長距離のコツを教えてほしい、と。そうおっしゃったのですか?」

「うん!マックイーンちゃん、この間のてんのーしょー?すごかったもんねー!ウララも長距離、もっとうまくはしりたいの!!」

「……はぁ」

 

 テラスに座り、嗜んでいた紅茶のティーカップを置き、メジロマックイーンがため息をつく。

 その理由は、もちろん目の前に座るハルウララだ。

 もっと言えば、そのハルウララの後ろで、真剣なまなざしでこちらを見てくる、彼女の担当トレーナーだ。

 

「……トレーナーさん」

『何かな?』

「…貴方、ウララさんのトレーナーさんなのでしょう?彼女の脚質、理解していないのではなくて?」

 

 鋭い眼差しで、厳しい口調がトレーナーに向けられる。

 彼女のその芯の強さ。

 メジロ家の当主としての気高さを、トレーナーはよく知っていた。

 その言葉が、短距離とダートに適性のあるハルウララを想っての言葉であることも、重々承知していた。

 

 

『わかってるさ』

「なら…!貴方のするべきことは、わたくしに長距離のコツを教わることではないはずですわ!」

「えっえっ、どうしたのー!ケンカはだめだよー!ウララ、なにかわるいことしたー?」

 

 違いますわ、とハルウララに微笑みかけてから、再度、トレーナーを睨みつけるマックイーン。

 彼女の言葉は、正論であり、本音なのだろう。

 ハルウララのレースの勝利を望むものであれば、やるべきことはダートの練習と、短距離の練習だ。

 それは間違いなく正しい。

 

 ただし。

 それは、ハルウララの気持ちを考慮しない判断だ。

 

 

『ウララ』

「なにー?ケンカはだめだよー?」

『マックイーンに、ウララの今年の目標を教えてやってくれ』

「ウララの?わかった!」

 

 うんっ、と大きくハルウララがうなずく。

 それを怪訝な様子で見つめるマックイーン。

 

「一体何を…」

「ウララね!有マに出てみたいんだ!それでねそれでね、一着になりたいの!!」

 

 

「な…!貴方、本気で…!」

「もっちろん!ほんきだよー!ウララね、いちばんつよいウマ娘になりたいんだー!」

 

 マックイーンの目が大きく見開かれる。

 

 それはそうだろう。

 ダートの短距離で輝くウマ娘が。

 芝と、長距離を苦手とするウマ娘が。

 

 有マ記念で勝ちたい、というのだから。

 

 

 

「……ふぅ。…もう一度聞きますわ。本気ですの?」

 

 マックイーンが、一つ息を整えて、真剣なまなざしで、再度ハルウララに問いかける。

 

 ……ここまでは、これまでの世界線で、何度も見てきた光景だ。

 マックイーンに長距離のコツを教わる。

 それ自体は、挑戦に値する事柄だと、早い段階でトレーナーは判断した。

 

 彼女の長距離適性は本物だ。

 そして、意志も強く、情に厚い。

 彼女から長距離のコツを聞きだせれば、ハルウララの強い武器になりえる。

 

 だが同時に、マックイーンは優しいウマ娘だ。

 

『えへへー、がんばってみたいんだ!だって、ウララが勝てばトレーナーも後援会のみんなもよろこぶでしょ?』

 

 …そんな返事をウララがしてしまえば。

 彼女は、ウララのためを思って、長距離を走れるようになるより、自分の得意なレースで勝ちを重ねなさい、とアドバイスするだろう。

 優しいのだ、相手を思いやり過ぎてしまうほど。

 人のために走ることが、ハルウララの本質的な幸せにはならないと、分かっているからこそ。

 

 そして、そのマックイーンの判断には、前のゴルシやスペのように、トレーナーの誘導は意味をなさない。

 だからこそ、ハルウララの想い一つで、潰えてしまう可能性もあった。

 

 

 けれど、今のハルウララは違う。

 

「うんっ!」

「………!」

 

 返事は、とても短い一言で。

 その桜が彩る瞳の奥に、強い意思を秘めて。

 マックイーンが、その瞳の深い色に吸い込まれそうになり、息をのむ。

 

「勝ちたい!ウララね、トレーナーさんや、他のみんなにも、いっぱいおしえてもらえて、しあわせなんだー!」

「でもね、そのしあわせの花って、きっと、ウララがほんとうに勝ちたい!って思って、勝って、はじめて咲くんだよ!!」

「…だからね、本気なの!ウララは今年、有マに出て、勝ちたい!勝つために、いっぱいがんばりたいの!」

 

「…ウララさん……」

 

 

 マックイーンが、ハルウララのその想いを受けて。

 真剣に、本気で、大真面目に。

 有マでの勝利のために、努力したいという想いを受け取った。

 

「…わかりましたわ。長距離で走るときのコツ、わたくしが教えられる範囲で、全力を尽くしましょう」

「いいの!?ありがとー!マックイーンちゃんだいすきー!!」

「ひゃわぁっ!?ウララさん、急に抱き着くものではありませんわ!紅茶が零れてしまいます!!」

 

 YESの返答に嬉しくなって思わず抱き着くハルウララに、マックイーンが慌てて紅茶のカップを退避させる。

 果たして白のテーブルクロスに赤い染みを作るような事態は避けられた。

 

 

『助かるよ、マックイーン』

 

 二人のそんな和気あいあいとした様子に、トレーナーが笑顔でつぶやいた。

 練習場に走っていくハルウララを追いかける前に、マックイーンがそんなトレーナーの顔を見る。

 その表情は、いかんともしがたいものだった。

 

「いえ、本物の想いに応えるのはメジロ家当主の務めですので。……それよりも貴方、わかっていますの?」

『……何のこと?』

「意地悪な方。…ウララさんは本気なのです。貴方は、ウララさんを有マで勝たせなければいけませんのよ?それがどれほどの道のりで、どれほどのことか……」

 

 言葉にかぶせるように、トレーナーが呟く。

 

『わかってるよ』

 

「…っ、分かっていませんわ!勿論わたくしも全力を尽くします、約束しますわ!それでも、脚質というのは──」

『わかってる』

「っ」

『……わかってるから、大丈夫。やってみせるよ』

 

 ……ふぅ、と小さい溜息が一つ、マックイーンの口から零れた。

 

「…貴方達、意外とお似合いのトレーナーとウマ娘なのかもしれませんわね。頑固者な所とか、特に」

『誉め言葉だね、ありがとう』

「…どこまでも意地悪な方」

 

 ひらひら、と手を振って、くすり、と微笑むマックイーン。

 そうして、話は終わったとばかりに、ハルウララの後を追うのであった。

 

「はぁ。彼女が羨ましいですわ、理解のあるトレーナーがいて。私もいつか、そんな一心同体のトレーナーに巡り合えるかしら…」

 

 最後のマックイーンのつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

【長距離 ☆☆☆】

『貴顕の使命を果たすべくのコツ レベル3』

 

 

 

 

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(3年目 11月後半)

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「おいっすー。ウララ、やってるねー」

「あ、ネイチャー!うん!!がんばってるよー!!」

 

 芝のコースで練習しているハルウララへ、同じく練習を始めるナイスネイチャが声を掛ける。

 有マ記念まであと2か月。

 勝利に向けて最後の調整をしている段階のウララは、一息つきながら笑顔でネイチャを迎えた。

 

 

「聞いてるよー、有マに出るんだって?」

「うん!わたし、がんばるよー!ぜーったいに一着、とってみせるから!」

 

 えいえいおー!と元気よく片腕を天に向け、更に気合を込めるハルウララ。

 しかし、そんなハルウララを見るネイチャの瞳は、猜疑心と憧憬が混ざったような、微妙な表情であった。

 

「……その、さ。別に、悪気があって聞くわけじゃないんだけど…」

「ん、なーに?」

「……本気で、目指してるんだよね、一着」

 

 ぼそりと、呟くようにネイチャの問いがウララにかけられる。

 それを聞いたウララはえー?なんでー?と首を傾げ………なかった。

 

 分かっているのだ。

 何故、彼女が、それを自分に聞くのかを。

 

「…ネイチャも、ウララが有マで勝てないだろう、っておもってる?」

「やっ、な…!ちが、そういう意味じゃなくて、その…!」

 

 図星。

 なのだろうか…いや、やはり図星なのだろう。

 言葉の裏に隠れた意図。

 痛い所を突かれて、慌てて取り繕うネイチャに、ウララがにこりと笑顔を作る。

 

 

「ううん、だいじょーぶ。みんないわないけど、わかってるんだー。ウララが有マで走るのは、にんきとーひょー、のおかげだって」

「違うの、ウララ、違くって…」

「じつりょくは、いっしょにはしるウマ娘のなかでも、ダントツのビリだって、ウララもわかってるもん」

 

 笑顔のままに、ウララが現実に向き合う言葉を紡ぐ。

 それに伴い、ネイチャの顔がみるみる曇る。

 

 そんなつもりではなかった。

 無かったのに、あたしの一言で、ウララに辛い想いをさせて……

 

「でもね、かんけーないんだ!」

 

 

「…え?」

「かんけーないの。だってね、ウララ、勝ちたいから!勝ちたいから、そのためにがんばるの!」

「…ウララ……」

「トレーナーも、こーえんかいのみんなも、応援してくれてうれしいよ。けどね、ウララはそれだけじゃない…」

 

 すぅ、と息を吸って、ウララが言葉を続ける。

 

「ウララが、いちばんだー!!って!!そう、みんなに感じてもらいたくて!!勝ちたくて!!!…だから走るの。負けたくないんだ」

「…………」

「だからね、そのためにがんばるんだよ。それがね、今のウララには、とっても楽しくて、うれしいことなんだよ!!」

 

うっららー!といつもの掛け声で、ハルウララのやる気はさらに急上昇を見せた。

 

 ……適性があっていなくても。

 例え、敗色濃厚のレースだとしても。

 それが、勝利を諦める理由にはならないから。

 

『よく言ったぞ、ウララ』

 

「あ……トレーナーさん……」

「あー!トレーナー!!ねぇねぇ、今日のウララの走り、どうだったー!?有マで勝てるかなー!?」

『ああ、勝てるさ。絶対に。勝たせてみせる』

 

 そうして話す二人の所にやってきたトレーナーが、ネイチャとウララを見て、笑顔で声を掛けた。

 強い信頼と…言葉では表せないような絆を、ネイチャはその二人の姿に感じた。

 

 

「えへへ、ありがとー!!でもでも、ウララもっとがんばるよー!みててねトレーナー!全力、だーっしゅ!!」

 

 言葉に気をよくしたのか、ウララはさらにもう一本、2500mダッシュに入る。

 走り去る背中を眺めて置いて行かれたのは、トレーナーとナイスネイチャだ。

 

「……あー、その。さっきの話、聞いてました?」

『ああ』

 

 気まずそうに、隣に立つトレーナーに声を掛けるネイチャ。

 目を伏せながら、告解のように言葉を紡ぐ。

 

 

「なんつーか……その、アタシって、ここぞって時に、諦めるクセがあって……それで、あんなこと……」

「応援したい気持ちはいっぱいあるんだけど、こう、素直になれないって言うか…」

「……ウララが、アタシと同じ気持ち、少しでも持ってるのかなって、そんな、ね。そんなわけ、ないのに」

 

『…そうでもないぞ?一緒だよ、君と』

 

 不意にかけられる声に、うつむいていたネイチャの顔が上がる。

 

「…へっ?いやいやいや、ウララすっごい前向きで、心が強いじゃん!?アタシなんかとは全然…」

『君も強い』

「…………は、ぁ?」

『君も、同じくらい強いよ。強いってことを、俺は知ってる』

「……は、は。なんで、そんなこと……」

 

 

 先ほどの、言葉の外の図星を突かれたネイチャは。

 今また、トレーナーに己が心に秘めた図星を突かれた。

 

『表面上は斜に構えていても、負けて悔しいって、3着じゃなくて1着を取りたいって強く思ってる君を知ってる』

「…………」

『だから、一緒だよ。ウララと君は。似た者同士なのかもな』

 

「…………………っ、あ、あーーーーっ!!!なんか恥っずかし!!!」

 

 ぐわー!とツインテを両手でわしわしとかいて、大きな声を吐き出すネイチャ。

 まるで、胸のつかえを取るかのように。

 心のつかえが、取れたかのように。

 

 

「…ねぇトレーナーさん。もしかして、いっつもウララにそんな恥ずかしい台詞吐いてます?」

『自覚はあるよ』

「はっず!!やだもー奥さん、このトレーナー女ったらしですよ!もー…風紀の乱れじゃん…」

 

 照れ隠しに頬をかきながら、やれやれと首を振るネイチャ。

 そんな彼女の姿を、これまでも、これまでに、何度も、何度も見てきたから。

 だからこそ、知っている。彼女が、強い志を持つウマ娘だと。

 

「はーぁ。練習前だってのに気が抜けちゃったなー。ま、いい息抜きになりましたってか」

『そりゃよかったよ』

「はいはい。……ねぇ、本気で一着、目指してるんだよね。二人は、さ」

 

 言葉にするまでもない。

 強く、肯定の意を首肯で返すトレーナー。

 

 

「はー……うん。よし。アタシも見習うわ、その気持ち。まー有マに出るのは来年になりそうだけど…」

『頑張れよ。前年度チャンピオンのウララに負けないくらいにな』

「はいはいごちそうさまでしたーっと。……ねぇ、アタシにもさ。手伝えること、あるかな?」

 

 ネイチャは、もう間もなく一周を終えて戻ってくるハルウララに目を向けながら、そう呟く。

 ……応援したくなってしまった。

 少なくとも本気で、一着を狙うこの二人を。

 自分の、ともすれば諦め癖になりかねないこの皮肉癖を、否定してくれた二人を。

 出来ることなんて、大したことではないかもしれないけれど、それでも。

 

『……そうだな。ウララはまだ芝の走りが甘い。厳しく、見てやってくれるか。一緒に走りながら』

「……アイアイー。そだね、ちょっとまだダートっぽい走り方してるもんね……よーっし!それじゃ、いっちょやったりますか!」

 

 ネイチャが、一周を走り切り残り半分となったウララに併走して並んでいく

 その姿に笑顔を見せて、ウララもまた最終コーナーを回って最後の力を振り絞って。

 二人して、芝のコースを駆け抜けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

【芝 ☆☆☆】

『きっとその先へ…!のコツ レベル3』

 

 

 

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『各バ、ゲートインが完了しました』

 

『冬の有マ記念………』

 

 

 

『スタートです!!!』

 

 




突破時のサポートカード編成

SSR(スピード)ニシノフラワー(50)
SSR(スピード)ツインターボ(50)
SR(パワー)ミホノブルボン(45)
SSR(パワー)ウオッカ(35)
SR(スピード)エイシンフラッシュ(45)
SSR(スタミナ)スーパークリーク(50)
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