銀砂使いのフレイムヘイズ   作:飯者

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2話

契約によって俺自身の存在が失われたために、俺という存在はこの世から抹消されたらしく、家族にすら忘れ去られていた。

結構心にくるものがあったが似たようなことを既に転生によって体験していたためかなり早い段階で立ち直れた。

立ち直ってすぐに俺は家を出て物陰に隠れる。

紀元前数十年頃の時代に、夜遅く一人の若い女性が街を出歩くなど襲ってくださいと札を付けて歩くようなものだ。

大通りならまだ危険は少ないが生憎と俺の生家は大通り沿いではない。

仕方なく布をフードのように被りなるべく目立たないように家を出た。

 

 

 

 

 

直接話をして誰かに気づかれるとかなり厄介なことになるので契約時のように頭の中で会話を行う「念話」というものを使ってノーシーと会話を行うことにした。

 

『それで、これからどうするんですか?私としては早くこの世界を見たいな〜なんて』

『その前にカムシンという少年と話をつける』

『その人もフレイムヘイズなのですか?』

『そう。明日の夕方頃になったら一度会って、その晩にこの街を出る』

 

本当は夜が明ける前にこの街を出たかったが約束の方を優先しなければならない。

調律の方は断るとしてもトンズラするというのは後々の事に響くだろうし相手も無用な警戒を抱かせるだろう。

その後俺は夜が明けるまで物陰に身を潜めていた。

 

 

 

 

夜が明け、人の往来が増え始めたので大通りに移動するとカムシンと出くわした。

 

「ああ、やはり昨夜感知した力の元は貴女のものでしたか」

 

どうやら彼は俺が、というよりノーシーが発した存在の力を感じ取り、その発生源を探していたら俺だったということらしい。昨日の事の顛末を話すとカムシンの手首から老人の声が聞こえる。どうやらカムシンの契約相手なのだろう。

 

「ふむ、かなりの適性があるとは思っていたがまさか紅世への好奇心のみをもって契約に至るとはの」

 

どうやら俺のような経緯で契約することはかなり稀有らしい。

 

「まあそれに呼応したのが《局外の調》というのは納得がいくがの」

「そ、それほどでも〜」

「別に褒めているわけではない」

 

なんとなくノーシーがシュンとしたのが感じ取れた。

ここで長々と漫談じみたことをされても困るので早々と話を切り出す。

 

「実は、調律なのだけど断わらせてほしい」

「…貴女のように理解の早い者を探し直すのはとても大変なことですが、フレイムヘイズとなってしまっては仕方ありません」

「すまない」

「いえ、それにしてもはじめ貴女を見た時は此方側に関わった者かと思ったのですが、本当に意外です」

 

…そのことについては恐らくこの世界に転生を成したことが関係していると思われるが説明したところで理解はされないだろう。

このことは恐らく墓の中まで持って行くことになりそうだ。

 

「それで、貴女達はこれからどうするんです?」

「今日中にはこの街を出る」

「ふむ、大分早急じゃな」

「この世界を一刻も早く見て周りたいんです!」

「そういうこと」

 

本当なら夜に出る予定だったがこの様子なら昼前に出発することができるだろう。

 

「本当なら、フレイムヘイズの心構えなどを教授したかったのですが…」

「心構え?」

 

簡単にいうとフレイムヘイズはこの世に顕現した紅世の徒を討滅することを最上の使命としているらしいが…

 

「面倒」

 

この一言に限る。

 

「《局外の調》の契約者じゃ。そう答えるだろうと思ってたわい」

 

意外にもベヘモットに即答された。

一方カムシンの方は驚いた様子で少しだけ目を見開いていたがすぐに表情を戻した。

 

「まあ可能なら、というだけでいいです。」

 

半分諦めているようだが俺も奴等に対して復讐心など皆無だ。

そもそもやる気が出ないのだししょうがないとしかいいようがない。

 

 

 

 

 

 

あの後フレイムヘイズというか紅世に関わる者としての最低限のルールみたいなものを教えて貰った後に2人と別れた。

挨拶は素っ気ないものだったが会って1日と経たない付き合いだしこれから永い時間生きていれば会う機会などいくらでもあるだろう。

 

『一ついいですか?』

『何?』

『契約の時は言葉使いが違いましたよね。何故なんでしょうか?』

 

あの時は完全に幻聴と会話するつもりで話していただけである。

実は、生まれた時は言葉使いが前世のものだったが成長するに伴って言葉使いを矯正された結果考え事をする時は前世のまま、会話する時は矯正後の言葉使いと言う風に使い分けるようになったのである。

しかしそのことを話しても恐らくわからないだろうが…いや待て、彼女とはこれから長い付き合いになるだろうし話しておいた方がいいのかもしれない。

俺は少し考えてから彼女に前世のことを話すことにした。

 

 

 

 

 

 

『………』

『………』

『…え、ええっと、つまり、ハルさんは前世の記憶があって、そしてその記憶は未来の出来事で、さらにナノマテリアルという力が使えるということですか?』

『簡潔にまとめるとそれで合っている』

『………』

 

信じているかどうかは分からないが信じてもらえることを願うしかない。

 

『すっごいじゃないですか!!』

『……ああ、まあ』

『未来の知識なんてどんな強大な王でも知ることは出来ないですし、存在の力に頼らずに超常現象を起こせるなんてこの世界の誰にも出来ませんよ!』

『いや、それは分からない。他の霧の艦艇がまだ見つからないだけかもしれない』

『それでも現時点ではハルさんだけなんですよね?!』

『た、多分…』

 

予想外の食いつきに思わず苦笑いしてしまうが信じて貰えないよりは遥かにいい結果だろう。

 

『それにしてもナノマテリアルという物質は便利そうですね』

『今は様々な部分でロックが掛かっている所為で殆どの機能は使えないから今のところナノマテリアル自体を物質変化せずに操るくらいしかできない』

 

今できることといえばナノマテリアル本体である銀砂を念動力を使うように操作するくらいである。

練度に伴って最大保有量も少しづつだが増えている。

そういえば紅世の徒は個別の炎の色と力を持っているがノーシーはどのような力なのだろうか。

黄色ーー正確には蒲公英だと言われたーーの炎というのは奇しくも大戦艦ハルナの船体と同色である。

何かしらの意図を感じるが今は彼女のことだろう。

 

『紅世の徒はそれぞれの個体が個々に得意な自在法または宝具を持っていると聞いたけど、貴女は?』

『私はですね、物を浮かすことが得意ですね』

『……それだけ?』

『そうですよ、だから戦闘は苦手って言ったじゃないですか』

 

知識量は多いので自在法の扱いはうまいらしいが最も得意なのは『ラピュタ』という生物以外の物質を浮遊される自在法で、試しに使用してみると確かに直接生物を浮かすことは出来ないが浮かす物の上に生物を乗せて浮かすことは出来るらしい。

確かに便利ではあるが霧のメンタルモデルに準ずる肉体スペックを持つ俺としては余り役に立つとは思えない。

まあ戦闘するわけでも無いので使用する機会もそう多くはないだろう。

 

 

 

 

 

俺がフレイムヘイズとなって少しの年月が過ぎた。

この頃にはローマが旧エジプトを滅ぼしていたりローマ皇帝が誕生していたりとローマの転換期と言える時期だろう。

普通フレイムヘイズになると強靭な肉体と驚異的な回復力を得るらしいが元の肉体のスペックが高かったが為にその恩恵のありがたみを感じられない。

まあ街という楔が無くなったことでローマ中を渡り歩くことが可能になったことはありがたいことだ。

知見を広げながらヨーロッパを回っていると時々紅世の徒と出会ってしまうことがある。

「霧の艦艇」としての索敵経験値を得た結果、ようやくフレイムヘイズの気配察知よりも広範囲に索敵が可能になった。

とはいえ察知しきれずに漏れることがあり向こう側にこちらの存在がバレたりしてしまう。

無理矢理逃げ出すのもありだが、演算を索敵から肉体操作に回さなければならないので逃げた先に敵がいた場合敵が増える可能性のあるーーというか何度かあったーーので向こうから逃げない限り徒と相対するしかないのだった。

 

 

ーーーのだが。

 

 

『に、逃げましょう今すぐ逃げましょう今すぐに!』

『ここで逃げても他の徒を察知出来ずに敵を増やすだけ』

『彼から逃げられるなら問題ありませんというか彼の炎を感じられないんですか?!』

 

相対した徒を見るなり突然ノーシーが騒ぎ出した。

そういえば索敵能力が便利すぎて自在法の気配察知を全然使って居なかった。

索敵能力は紅世に関するものの存在の有無を知るのみで炎の強さまではわからないのだ。

そして俺は今まで気配察知を使わなかったことを深く後悔し、そして己の本能が強くここから逃走するよう呼びかけていることに気づいた。

 

「今更気づいても遅いぞ女」

 

今まで数度紅世の徒と出会ったことはある。

何れもある程度戦闘によって退けてきたがこれ程の炎は見たことが無い。

目の前の人物こそがこの世界に顕現する紅世の王という奴なのだろう。

 

「私はハル。貴方は?」

 

相手が強敵である以上戦闘は避けたい。

なので対話を試みるしかないだろう。

 

「貴様程度に名乗る名は無い」

 

随分と高圧的な奴である。

どうしようかと思案していると相手は剣を抜きはなった。

瞬間、剣から光線が放たれる。

 

 

 

 

「ほう、初見でこの『虹天剣』を避けるとはな」

 

相手ーーノーシーが《虹の翼》メリヒムと言っていたーーは俺が光線を避けたのを見て感心したように言い放った。

気配察知と索敵能力を併用し、メリヒムの一足挙動を観測していたからこそ出来た判断で、2つの力を使って居なかったら今頃俺は真っ二つだろう。

とはいえ避けるための運動が必要なので演算のリソースを肉体操作に割くと多少避けるのも楽になってきた。

とはいえ回避のみではこの状況は打破できない。

現状でメリヒムを討伐する力は火力、技量の両方において遠く及ばないだろう。

話し合いは先程のやり取りで通じないと理解したし、やはりこの逃走しかないだろう。

俺はこの状況を打破するための一手を打つため保有していたナノマテリアルを展開する。

未だ物質変換などのほとんどの機能は使用できない。

しかしこちらのことを全く知らない相手からしてみれば突如現れた銀砂は無視できないだろう。

想定通りメリヒムは襲いかかるナノマテリアルーー実際は殺傷能力は皆無だがーーを迎撃せんと虹天剣を振りかざす。

目くらましとなったナノマテリアルの制御は保ったまま、俺は自分で開発した自在法を発動する。

途端に周囲が霧で包まれ、視界が悪くなる。

これは俺が「霧の艦隊」が纏っていた霧をイメージして編んだもので本来の使い方と違うものの視界が悪くできたので良しとする。

既に保有していたナノマテリアルは展開した大半が虹天剣の餌食となっている。

俺は残り殆どのナノマテリアルを展開、幾つかの塊にして存在の炎を纏わせ、散会と同時に俺自身もその場から離脱した。

 

 

 

 

「逃げたか」

 

メリヒムはここから離れつつある複数の存在の力を感じ取りながら呟いた。

近年、ヨーロッパ南部で話される噂を聞き、それに興味を持ったメリヒムは噂の相手を見つけるべく、この地にやってきていた。

その噂というのが「徒を討滅せずに適当に蹴散らしながらヨーロッパを周るフレイムヘイズがいる」というものだった。

さらにそのフレイムヘイズは自在法や炎を全く使わずに相手を一蹴するという。

その相手に一線交えたいと思っていたのだが、その相手と相対した途端その気は失せた。

ある程度の熟練者となると相手を見るだけでその実力を測れるといわれ、メリヒムもその類に入る。

そしてメリヒムから見るハルはどうみても戦闘に関してはズブの素人だった。

その身からは毛ほども闘気を感じられず、立ち振る舞いも

ただの素人に毛が生えた程度だ。

噂との余りの落差に対して八つ当たりにも等しい怒りを目の前のハルに向ける。

メリヒムはこのままハルを滅しようと虹天剣を使う。

不意打ちにも近く、さらに喰らえば致命傷はまぬがれない一撃である。

しかしハルはそれを無駄の少ない動作で回避した。

メリヒムはそのことに多少の驚きを覚え、ハルに対する評価を少し上げる。

その後も虹天剣による攻撃は続くが、まるで動きが読まれているかの如く回避され、時間が経つにつれ動作の無駄が目に見えて減ってくる。

メリヒムが真名の象徴でもある虹の翼を使おうかと考える矢先、ハルの周りから銀砂が出現し、メリヒムに向かう。

銀砂自体に存在の力は感じられないが自在法であることは間違いなく、メリヒムはそれを迎撃する。

あっという間に銀砂は虹天剣に消されて行くが、同時に濃い霧があたりを包み込む。

気づいた時には気配が四方八方に離れて行くのみであった。

こちらに攻撃を仕掛けては来なかったものの、逃走するに際しての戦術と攻撃の回避に関しては一流と言えずとも中々見事なものであり、見た感じに反した能力にメリヒムはほんの少しだが興味を持ったであった。

 

 

 

 

今回のことに反省し俺は霧の能力に依存していたことを痛感し、自在法の方も探求しようと決意した。

 

「いいですか、もう二度と強大な紅世の王に近づこうなんて真似はしないでくださいよ!」

 

ただ今回の戦闘の経験値は凄まじいものでナノマテリアルの最大保有量も大幅に増加していたのは良かった。

 

「聞いてるんですかハルさん!」

 

しかし俺は戦闘狂でもないし強くなることに最高の喜びを感じたりする脳筋でもないので生死を賭けた戦いなど正直御免被りたい。

 

「ねえ!」

「なに?」

「聞いてましたか?」

「聞いてなかった」

「二度と強大な紅世の王に近づかないでと言ったんです!」

「それは無理」

「死にたいんですか?」

「違う、貴女がこの世界を知りたい様に私も紅世について多くのことを知りたいだけ」

「その結果死ぬ、いえ消えることになってもですか?」

「そうならない様に努力はするけど、この好奇心に従わずに理性で覆う位なら死んだ方がマシ」

 

前世では好奇心に従い死んだのだが、転生してもその信条を帰るつもりはない。

 

「まさかそこまでとは思いませんでした…」

「まあ、死んだらおしまいだから自分から死にに行くようなことはしない」

「お願いしますよ?」

 

何はともあれ今は生き残ったことを喜ぼう。




ヨーロッパを回っている間に遭遇した紅世の徒は王に届かない弱い徒でしたがハルは存在の力自体はそこまで強くないのでたまに遭遇して一蹴される感じでした
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