トレセンの食堂に就職した結果   作:アシスト

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VS 日本総大将 with 98世代

 

 

 トントントン、ツーツーツー、トントントン。

 

 言葉を発せられない俺にとってモールス信号は貴重な情報伝達手段だ。今のSOSは包丁で玉ねぎを切りながら鳴らしてみたが『遊んでないでさっさと作りな。ターフの肥やしにすんよ』と主任に怒られた。そりゃそうだ。助けを求めたいほど忙しすぎて死にそうなのは俺だけではない。厨房にいるみんながそうなのだ。

 

 トレセン学園の夕食時間。

 

 それは学生たちにとって練習で疲れ切った身体を癒すため、そして使い果たしたカロリーを再補充するための至福のひととき。

 おいしいご飯は心も体も満たすもの。彼女たちの笑顔を見るために俺たちは死に物狂いで料理を作っていると言っても過言ではない。

 

『ウマ娘ちゃんたちの笑顔は万能薬なのです。風邪にも癌にも効きますよ!』そう言い残して失神し保健室に連れていかれたウマ娘がいるとかいないとか風の噂で聞いたことがあるが、あながち間違いではないと思う。彼女たちの笑顔を見ていると、不思議と力が湧いてくる。

 

 じゃあ何でSOSってるかと言うと、湧いてくる力より消費するエネルギーの方が多いってことでして。

 

「ごめんください。にんじんハンバーグのおかわりを1つ貰えますか?」

「エルも1つおかわりデース!」

「シェフ! 私に一流のハンバーグを1つ作る権利を貴方にあげるわ!」

「私も1皿だけおねがいしまーす」

 

 にんじんハンバーグ。

 大きめのハンバーグににんじんが丸々一本刺さった全ウマ娘の大好物。週に一度献立に並ぶ料理であり、数ある料理の中でも不動の一番人気料理だ。

 

 今日に限って俺は中華料理ではなくハンバーグを作る係。玉ねぎを刻み炒め、お肉をこねて、焼く係。これを一人で回せって言うんだから食堂主任は鬼だ、鬼ババだ。

 

 ぞろぞろとおかわりをしにやってきた()()のウマ娘たち。その内4人の注文を聞き終えると同時に、俺はハンバーグをお皿に置いてにんじんを突き刺す。付け合わせのポテト、ボイルブロッコリー、ナポリタンを丁寧且つ迅速に盛り付けて4人分のにんじんハンバーグを仕上げる。

 

 ここまではいい。トレセン食堂に勤めて早1ヶ月、ずっとオグリキャップ(葦毛のウマ娘)相手に巨大中華鍋を振るってきた俺の腕はムキムキだ。この程度でへばる肉体ではない。

 

 問題は、最後の1人だ。

 言うなよ。すぐ言うなよ。絶対言うなよ。ほら言うなよ。

 

「おかわりです!! 10段のにんじんハンバーグを11皿お願いします!!」

 

『ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!!!!』と苦痛と悲痛に満ち満ちた叫びを心にこだまさせ、俺はてきぱきにんじんハンバーグを盛り付ける。

 

 オグリキャップ(葦毛のウマ娘)が遠征中だと聞いて油断していた。健啖家ウマ娘は彼女だけじゃない。ニコニコ笑顔でとんでもない注文をしてきた目前のウマ娘、スペシャルウィークもそうなのだ。

 

 いくら食べ盛りの中等部とは言え、その華奢な身体のどこににんじんハンバーグの群れを収納できるスペースがあると言うのか。ウマ娘の身体は神秘に包まれているなぁ。

 

 何とかスペシャルウィークのオーダーした11皿を作り終えて一安心……ではない。この11皿を食べ終わった後、再び彼女がおかわりする可能性は十二分にある。と言うか、今のオーダーで他の娘たちのおかわり分も無くなってしまったから、また一から作らなければならない。死ねる。

 

 しかし『えっ……? おかわり、ないんですか……?』としょんぼりするウマ娘たちの顔を見るのは死ぬより辛い。俺はカップケーキをロイヤルビタージュースで胃に流し込み、息つく暇なくハンバーグ作りに励むのだった。

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

 待ちに待った夕食の時間。エルちゃん、グラスちゃん、キングちゃん、セイちゃん。そして私ことスペシャルウィーク。いつも通りのメンバーでいつも通りの定位置に座りテーブルを囲う私たちだけど、今日は少しだけ違うところがあった。

 

「す、スペシャルウィークさん? 本当にそんなに食べられるの?」

「スぺちゃんまた太り気味でトレーナーさんに怒られるデース……」

 

 テーブルに隙間なく並べられた大量のにんじんハンバーグ。みんながおかわりした分で1割、私がおかわりした分で9割方埋まってしまっている。ここだけでバイキングができそうなほどの量だ。

 

 キングちゃんからは疑心の目、エルちゃんからは哀れみの目を向けられる私。2人の視線は私の心をチクチクと刺してくるけど、私だって考えなしにこんなに食べてる訳じゃないよ! これにはちゃんとした理由があるんだもん!

 

 その理由とは……ちょっと恥ずかしくて言えないから、けっぱってごまかすべ!

 

「大丈夫! 今日はいつも以上にたくさん練習したから、その分いっぱい食べるんだ!」

 

「スぺちゃん? 今朝『今日の午後練はお休みなんです! 久しぶりに商店街で食べ歩くぞー!』と言っていましたよね?」

 

「つまり嘘デース! スぺちゃんは私たちに隠し事をしてマース!」

 

「ギクぅッ!?」

 

 一瞬で見破られたー!?

 ううぅ……完璧な理由を考えたつもりなのに、なんで私の吐く嘘はすぐにばれちゃうんだろう……。

 

 私はがっくりと肩を落とし涙目になりながらもモグモグとハンバーグを頬張る。うぅ、おいしい。

 

 これはもう誤魔化せない。そう観念した私は本当の理由を伝える決意した。

 

「じ、実はね……そのー、これには本当にれっきとした理由がありましてー……」

 

 両人差し指をツンツンを合わせながら、私は意を決して本当のことを口にしようとする。

 そんな時だった。右肩をポンと優しくセイちゃんが叩いてきたのは。

 

「ふっふっふ、セイちゃんはわかっちゃいましたよー。スぺちゃんが最近いつになくご飯を食べてしまう理由を」

 

 セイちゃんは不敵に笑いながらピカーンと瞳を光らせる。

 い、嫌な予感しかしない!

  

「へぇ。では教えてくださらないスカイさん? その理由とやらを!」

 

「一流のキングなら言わなくてもわかってるでしょー?」

 

「ぅえっ!? ……も、もももちろんわかっているわ! ですが一応! 念の為! 教えてくださりませんことスカイさん!」

 

「にゃはは、しょうがないなぁ」

 

 絶対にわかってないキングちゃんに説明を促すことはせず、セイちゃんは推理を披露する。

 私はドキドキしながらセイちゃんの推理に耳を傾けた。

 

「チャーハン、ホイコーロー、ニンジンたっぷりチンジャオロース、そして今日のにんじんハンバーグ。ここ最近、スぺちゃんがおかわりする料理には一つだけ共通点があるんだよ」

 

「共通点、デスか?」

 

「ハンバーグ以外なら中華料理ですが……共通点とはいったい?」

 

「スぺちゃんが食べてる料理はね、作ってるコックさんが一緒なんだよ」

 

「ギクギクぅッ!?」

 

 私がマルゼン先輩みたいな大人なウマ娘なら反応を表に出さずポーカーフェイスを貫けたかもしれないけど、今の私にはまだ早いみたいで。図星のあまり耳と尻尾がピーンと伸びてしまった。

 

「コックさんと言うと、あの無口な殿方のことでしょうか?」

 

「今年度に入ってからよく見かける人デスね」

 

「そうそう。スぺちゃんはそのコックさんの料理ばかりおかわりしてる。それってつまりー…?」

 

 セイちゃんがニヤリと笑って私の方を向く。

 私はサッと目線を逸らす。

 

「スぺちゃんさぁ……あの人に恋してるでしょ!!」

 

「「「こ、恋ぃ!?」」」

 

「ち、違う違う違いますぅ!!! 」

 

 

 ああもう! こういう展開になるのがわかってたから言いたくなかったのにー!

 

 本当に、本当にそんなのじゃないんですよ! たまたま偶然なんです! 『この料理おいしいなぁ!おかわりしよう!』って思った料理を作ってるのがことごとくあの人だっただけなんです! 私が好きなのはあの人の料理であって、ついついおいしくて食べ過ぎちゃうだけなんです! 

 ねっ! ちゃんとした理由でしょ!

 

 そう必死に弁明するけど『またまた御冗談を』みたいな反応をするセイちゃん、『スぺちゃん好きな人ができたんデスねー!ビッグニュースデース!!』と周りに聞こえるぐらいの大声で話すエルちゃん、『き、キングは当然最初からわかっていたわ!』と今わかった様子のキングちゃん、『スぺちゃんに好きな人? あらまぁウフフ』と何処からともなく取り出した薙刀を片手に黒いオーラを纏うグラスちゃんと、三者三様ならぬ四者四様の素振りを見せるみんな。

 

 

 その後はぎゃあぎゃあワイワイどったんばったん大騒ぎしながらもハンバーグを完食し、『賑やかなのは良い事だけど、周りの迷惑も考えようねポニーちゃんたち?』とフジ先輩に説教された私たちなのでした。

 

 

 

 

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「ああーっ!?」

 

「ど、どうかしたのスぺちゃん? もう消灯時間よ?」

 

「スズカさん! 10段にんじんハンバーグ、1皿だけは保健室で休養中のツルちゃんに持っていく用だったのに、私ったらつい食べちゃいました!! どうしましょう!?」

 

「スぺちゃん……」

 

 

 

  コンディション獲得… 

     太り気味  

 

 

 





的な中学生みたいなノリのラブコメディ小説が読みたいです。
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