トレセンの食堂に就職した結果   作:アシスト

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VS 異次元の逃亡者

 

 結果を()くばかりに視野を狭め、一寸先の段差に気付かず躓き足を挫く愚か者。はい俺の事です。ただいま筋肉痛で死にかけています。

 

 御年23歳。この歳での筋肉痛は中々に治りが遅い。後先考えず身体へバ鹿みたいな負荷をかけた俺の100%自業自得だから何も文句言えないが 歩くたびに雷に打たれたような痛みが全身に走るため、このままでは仕事に支障をきたし兼ねない。

 

 俺から料理を抜いたら人体錬成に必要な素材しか残らねぇ。気は進まないが、あれを使わせてもらおう。

 

 先ほど通りすがりのウマ娘ちゃんに差し出されたこのドリンク。『ふぅん。筋肉痛で酷く辛いといった様子だねぇ。そんな君にこの試作品をあげよう。効果はモルモット君で実証済みさ。ああ、副作用は気にしないでくれたまえ。光るだけだから』彼女は俺にそう言うと見たことのない機材が立ち並ぶ研究室へと去っていった。

 

 生まれて初めてウマ娘ちゃんからもらったURランク級のプレゼント。自室の神棚にお供えし拝んだ後でありがたく頂戴するつもりだったが、背に腹は代えられぬ。あのウマ娘ちゃんに感謝を込めていただきます。

 

 

 

 ―――って言うのが3時間前の話。筋肉痛がなくなった今の俺は無敵。耳たぶが7色にピカピカと発光することなど些細な問題なのである。

 

 現在時刻は午前7時。朝食の時間では一番学生がたくさん来る時間帯。俺はいつも通りのフル装備で仕事をこなしていた。

 

「コックさーん! サンドイッチセットを十人前お願いしまー………ええっ!? お耳が綺麗なことになってますけど大丈夫ですか!?」

 

 うーん、当然の反応。俺を見た途端スペシャルウィークちゃんが心配そうな視線を向けてくるが、俺は『大丈夫』の意を込めてグッドサインを送る。

 そんなことよりサンドイッチセット10人前ね。20秒待ってくれ、すぐ作るから。

 

 BLTサンド、カツサンド、卵サンド、旬のフルーツサンド。この四種類で1セット。味は勿論、見栄えにもこだわった一品であり、その断面図はウマスタ映えもすると生徒からも評判である。

 

 手際よくそれぞれのサンドイッチを仕上げていく中、俺が7セット目を作り始めると同時に、2人の生徒が近づいてきた。

 

「ですので! 占いによると今日のスズカさんのラッキーパーソンはお耳がピカピカなお方! お昼までにそのお方を見つけることができれば、今日は一日ハッピーカムカムに過ごせるとシラオキ様が告げています!」

 

「お、お耳がピカピカなお方? ……大仏、とか?」

 

 トレセン食堂に勤めて一ヶ月半。いくら学園に2000人近くの生徒が在籍していると言っても、特に特徴的なウマ娘ちゃんの名前と顔は既に覚えた。

 

 今やってきた2人も知っている。サイレンススズカちゃんは俺が出勤するより早くグラウンドに来て走っているし、マチカネフクキタルちゃんはよくもう一人のマチカネちゃんと奇声を上げているからすぐに覚えられた。

 

 特にサイレンススズカちゃんはスペシャルウィークちゃんと一緒にいることが多いから、彼女を見ると『おかわり作らなくちゃ』と身構えてしまう。タマモクロスちゃんも似たような感じだ。

 

「あっ、おはようございますスズカさん! 朝練するなら私も起こしてほしかったです! フクキタルさんもおはようございます!」

 

「おはようスぺちゃん。だってあまりにも気持ちよさそうに寝ていたから……」

 

「おはようございますスぺちゃんさん! 朝からお元気なスぺちゃんさんにはこちらの開運アイテムを差し上げま………うおおおおッ!!!」

 

 何かに気が付いたようにこちらを向いたフクキタルちゃんと目が合ったのは一瞬だけ。彼女はすぐに俺の耳に釘付けとなった。

 

「い、いましたよスズカさん! お耳ピカピカのお方です! あの輝き、神々しさすら感じます!」

 

「何を言っているのフクキタル。耳が光る人なんているわけ……」

 

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

 

 ウソでしょ……本当にいる……。

 

 最近人気の静かなコックさん。私もよくスぺちゃんにつられてこの人の料理を食べることが多い。物静か故に自己主張の少ない男の人ってイメージが強いけれど、今日は一段と存在感を解き放っている。主にお耳から。

 

 どこかのトレーナーさんは危険なお薬を過剰摂取したあまり、自分の意思で発光できるようになったと聞いたことがあるけれど、あんなピンポイントに耳だけを光らせる人は初めて見た。とってもきれいに輝いているわ。

 

「これは間違いなくご利益がありますよ! コックさん! そのピカピカお耳、是非とも私たちに触らせていただけないでしょうか!」

 

「フクキタル、それは流石に迷惑じゃ」

 

「ありがとうございます! おおっ、ぷにぷにですね!」

 

「うそでしょ……」

 

 フクキタルのお願いに間髪入れずに答えるコックさん。厨房から少しだけ身を乗り出し、目に優しい光を放つ耳を私たちが触れるところまで近づけてくれた。今ちらっと見えたんだけど、どうしてこのコックさん腕にアンクル付けているのかしら……?

 

「ありがたや~、ありがたや~」とコックさんのお耳をわさわさ触るフクキタル。「すごいですよスズカさん! 人の耳ってとってもぷにぷになんですね!」とスぺちゃんまで触る始末。

 

 仕方なく私も少しだけぷにぷにさせてもらう。

 ……食堂で何をしているのかしら私。

 

 その後はコックさんにお礼を言い、スぺちゃんとフクキタルと一緒に朝食を取る。今日もスぺちゃんはいっぱい食べるのね、またトレーナーさんに怒られないか心配だわ。

 

「そういえばスぺちゃんさん。一つお聞きしたいことが」

 

「はんへふは、ふふひはるはん?」

 

 4セット目のサンドイッチを頬張るスぺちゃんにフクキタルが尋ねる。

 

「先ほどのお耳ぴかぴかコックさん。もしかして、あのお方がスぺちゃんの好きな人ですか?」

 

「ぶふぅーーッ!?」

 

 綺麗な虹が食堂にかかる。

 

 むせるスぺちゃんの背中を優しく撫で、悲惨になっている口元をおしぼりで拭いてあげる私。でもこの反応だと、噂は本当なのかしら。

 

 私とスぺちゃんは相部屋。恋愛ってデリケートな問題だから今まで敢えて聞かずにいたけれど、私も噂の真相は気になっていた。

 

「おやおやおやっ! わかりやすい反応ですね! そんな恋に悩むスぺちゃんさんにおすすめの占いがありますよ! フォーチューンクッキーって言うんですけど」

 

「げほごほっ、待って、待ってくださいフクキタルさん! 違います! その噂は違うんです!」

 

 顔を真っ赤にしてフクキタルを制止させるスぺちゃん。

 その反応は思春期の女の子のそれ。

 

「えーっとですね、私が好きなのはあのコックさんじゃなくて、あの人の作る料理でして。でもあの人が好きじゃないかって言うとそれもまた違ってて……うぅ、うまく言えない……何て言えばいいんだろう……あっ、そう、そうです!」

 

 頭を悩ませること数秒、ようやく自分の気持ちが言葉に出来たのか、スぺちゃんは大胆に私たちへ告白する。

 

「私のあの人への想いは『毎日あの人のお味噌汁が飲みたい』って感じです!!」

 

「スぺちゃん……」

 

 それはもうプロポーズの言葉よ……。

 

 

 

 

 

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ーーーー

 

 

 

 

 

「なぁスズカ。もしかして、何かやらかした?」

 

「えっ? いきなりどうしたんですかトレーナーさん?」

 

「さっきエアグルーヴがスズカを探しに来てさ。"早朝時間外のグラウンドの使用、および練習をしていたとの目撃情報あり"みたいなこと言ってたんだけど」

 

 

「………だって走りたかったんです」

 

「………一緒にごめんなさいしに行こう?」

 

 

 フクキタルの占いが当たる確率は半々。

 そのことをすっかり忘れていたスズカなのであった。

 

 

 

 

 




的ないろんなウマ娘に耳をぷにぷにされる系コメディ小説が読みたいです。
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