時代は小顔マッサージですよ。
どうも。最近通りすがりの学生たちに『今日はお耳が光らないんですか?』と聞かれる程度に有名人になってしまった某コックさんです。光りません。
筋肉痛が治る効能は素晴らしいの一言だったが、やはり薬品に頼り過ぎるのは良くない。あの一件以降、タキオンちゃんから『
本来、体力はちゃんと休むことで回復するべきだ。
マッサージ最高。薬漬けはよくない。青汁はセーフ。
そんなわけで、今日も今日とて顔をムニムニ揉みながらロイヤルでビターなジュースを啜る俺。近ごろは三銃士以外の生徒もおかわりに来ることが多いし、もっと体力を付けなければ。そう言えば、この前売店で買った"スタミナ秘伝書"なる巻物に効率的な体力の使い方が載っていたな。実践しながら仕事をしてみよう、今から物凄く忙しくなるだろうし。
トレセン学園の夕食時間。
それは学生たちにとって練習で疲れ切った身体を以下略。しかし今日の夕食時間はいつもと違う。月末である本日の夕食には"スペシャルメニュー"が登場する。
"激励ッ! 今月も皆よくがんばった! 来月からも精進するのだぞ!"と生徒とトレーナーたちを鼓舞するために、毎月最終日にはいつもより豪華な料理が提供される、それがスペシャルメニューだ。
今月のスペシャルメニューは"レジェンドにんじんハンバーグカレー"。美味しい料理と美味しい料理を組み合わせたらもっと美味しい料理になる理論の成功例とも言えるレジェンドな一品、間違いなく今日の一番人気になるだろう。
「おかわり」
「コックさんおかわりです!」
「お兄さま。ライス、おかわりしてもいい?」
おっと、さっそくおかわりにやってきたなはらぺこ三銃士め。
ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトッと目の前に積み上げられた無数の巨大皿に俺はご飯を盛り、ハンバーグを乗せ、カレーをかけ、とどめににんじんを突き刺す。福神漬けやチーズ等のトッピングは向こうにあるからご自由にね。
山のような料理を持ち、涎を垂らしながら席へと戻る三銃士の背中を見送りながら、俺はハンバーグ作りに戻る。
トレセン学園のウマ娘ちゃん、否。全てのウマ娘ちゃんはみんな、日本一美味しく料理を食べるウマ娘である。彼女たちの笑顔の為なら、たとえこの腕が粉微塵になろうとも玉ねぎの微塵切りを止めないし、怪我率が50%以上あろうともハンバーグをこねる手を止めない。大丈夫、おまもりが何とかしてくれる。
「
一秒に一つペースで玉ねぎを微塵切りにしていると、凛とした声が耳に届く。それが自分に向けられた言葉であるのに理解したのは、顔を上げた先に立っていた彼女と目が合った瞬間だった。
トレセン学園の生徒会長にして最強と名高い七冠ウマ娘、一体何年間生徒会長を勤めるんだ?と疑問に思う度に謎の頭痛が俺を襲うことで有名なお方、皇帝シンボリルドルフ殿。
流石の俺もビックリ。ルドルフ殿が食堂にご飯を食べに来ること自体珍しいことだし、何より声をかけられるのは初めてだったからだ。
「お忙しいところ恐縮ですが、貴方に折り入ってお願いがあります。……っと、その前に。レジェンドにんじんハンバーグカレーを三皿もらいたい」
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「無事了承を得ることができたよ。これで皆も意気軒昂になるだろう」
「それは何よりですが……今回の件、正直に申しますと異例だと私は思います」
「…………」モグモグ
レジェンドにんじんハンバーグカレーが置かれたテーブルを囲む三人のウマ娘たち。シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアンの三名である。
夜7時を過ぎても生徒会は活動中。夏合宿が目前まで迫っているこの時期、彼女たち生徒会は多忙を極めていた。
そんな彼女たちに目安箱経由で届いた一通の手紙が今回の議題。基本的に目安箱での依頼、要望は匿名であることが多いが、今回の手紙には匿名どころか何十人もの名前が連なって書かれていた。
「"合宿中でもあのコックさんの料理が食べたい"。読んだ時は私も驚いたよ。署名の人数には唖然失笑したぐらいだ」
「内容が内容ですからね、私も驚きました。何よりブライアン、貴様の名前まであるとは思わなかったぞ」
「……署名しろと
手紙の内容は依頼と呼ぶには我儘な内容だったが、それでも議題に上げたのは彼女たちも彼の料理については知っていたからである。
"休憩中でも生徒の相談窓口たる生徒会室を閉ざしたくない"という理由で、なるべく生徒会室で食事を食べるルドルフさえも彼の噂は知っていた。だからこそこの一件、自ら赴き頭を下げる形で彼に"お願い"をしに行ったのだ。
「二つ返事でグッドサインをしてくれた彼には感謝しなくてはな。後日、改めて時間を作り、説明の場を設けようと思う。エアグルーヴも同席してほしい」
「承知しました。……しかし、わざわざ会長自ら頭を下げずともよかったのでは?」
「そんなことはないよ。彼の料理の腕前は、生徒会長たる私が頭を下げる以上の価値がある。それは今まさに、ブライアンの食べっぷりが証明してくれている」
笑顔でブライアンの方を見るルドルフ。釣られるようにグルーヴもブライアンを見る。
ガツガツと、黙々と。レジェンドにんじんハンバーグカレーを喰らうブライアン。確かに良い食べっぷりだと思うグルーヴだが、会長が言うほどだろうか?とも同時に思った。
「実は彼にお願いして、ブライアンのカレーだけ野菜の具材を多めによそってもらったんだ。にも拘わらずブライアンのスプーンは止まらない。何よりの証拠だろう?」
グルーヴの耳元でこそっと、ブライアンに聞こえない声量で呟くルドルフ。グルーヴはようやく腑に落ちた。
「……ん、何か言ったかルドルフ」
「いや何も。さぁ、私たちも食べようエアグルーヴ。彼が華麗な調理で作ったこのハンバーグカレー、冷めては美味しさが半減してしまうからね」
「そうですね。……?」
ルドルフに言われるまま、グルーヴも料理に手を付け始める。
その料理は依頼が来るのも納得できるほど美味しく深みのある味であったが、ルドルフの最後の言い回しが妙に頭に残って悶々とした気分となったエアグルーヴであった。
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深夜2時。
「(……………ハッ! あの時のセリフは"
エアグルーヴのやる気が下がった
夜ふかし気味になってしまった
的な特に理由のない駄洒落でエアグルーヴのやる気が下がるコメディ小説が読みたいです。