口が寂しい。
僕はよく口が寂しくなる。何かやっていると、飴とかそういうのが食べたくなる。
飴を食べていると、なぜかは知らないがしあわせになれるのだ。
あと、飴を食べながら作業していると、なんだか作業が捗るような気がするのだ。
そんなわけで、時々飴が食べたくなるのだ。
しかし、昨日飴を全て食べてしまったせいで、飴を切らしていた。買いに行かなければ。
白い無地のTシャツに、黒いワイシャツを羽織り、紺のジーンズという僕にとっていつもの格好に着替え、髪を整えた。
買い物だけとはいえ、身だしなみだけはしっかりしておかないとダメだ。
外に出ると、空には雲が少しだけ点在していた。
みんな各々の性格を持っているようだった。実際にはそうではないのだが、
僕にはそう見えるのだ。
さて、外に出たはいいのだが、どの店に行こうか。
お金は…飴のアソートぐらいなら余裕で買える金額だ。
いつも行くスーパーマーケットとかでもいいのだが…たまにはほかのところも行ってみるか。
というわけで、商店街に来たのだが…ここの商店街はなんか人気がない。
ここから見える範囲でも、店はほぼほぼ閉まっており、半ば廃墟なのではないかとも感じた。
このまま通り過ぎようかと思ったが、僕の好奇心がそれを退けた。
誰か…いるのだ。人気のない商店街に、あまり店のない商店街に。
一体あそこで何をしているのかは知らないが、少なくとも何か売っているように見える。
僕は好奇心に引き寄せられるように、そこに行くことにした。
商店街の通りは少し薄暗く、入ってはいけない領域に入っているようだった。
あたりを見渡しても、どこもかしこもシャッターが閉まっていた。
そのシャッターには、なぜか落書きがされており、本当に廃墟みたいだった。
「どうも、一つどうですか、少年」
不意に声をかけられた。振り返ると、シャッターの閉まった店の前に、一人の男性がいた。
その男性は白いシャツと黒いズボンだけ、あまり整っていない頭髪という姿で、結構若い男性だった。
最初に見たときは、何か怪しそうなのも相まって、中年か年寄りの女性がいるのかと思ったため、想像とは違う人物がいることに、少なからず驚いていた。
そしてやはり、その男性は何か売っていた。
「あ、はあ…」
と言いながら売っている商品を見てみた。
『透明になれる飴 一玉五十円』
と書かれている。
…はっ?
いったい何を言っているのかわからず、混乱してきた。
こいつは頭がおかしいのだろうか?いい年して、そんな子供みたいなことを考えているのか?
様々な思考が頭を駆け巡っていた。頭がパンクしそうだ。
「ああ、これですね。見てわかるとおり、透明になれる飴でございます」
「いや…え?一体あなたは何をおっしゃっているのですか?」
「だから…透明になれる飴でございます」
もう言ってることの訳が分からない。僕は言った。
「んー、こんなこと言うのはちょっと失礼なのわかってますが、ちょっと頭が…おかしいのでしょうか…?」
こんなこと言って逆上したら、何をされるかわからないので、ひとまず警戒しながら、恐る恐る言った。
「ハハハ、まあ、そう思われても仕方ありませんね」
しかし、彼はさっきの発言に対して、さほど気にも留めなかったようだった。むしろ笑って返してくれた。
「というと?」
「これ、なめている間は本当に透明になれるんです。一つ、やってみせましょうか」
「え?ああ…はい」
彼の言っていることは本当なのだろうか?少しの疑念と少しの好奇心が僕の体内でせめぎあう中、適当にそう答えた。
すると、彼は商品であろうはずの飴を一玉取り出し、それを口に含んだ。
彼の体はみるみるうちに消えていき、最終的には本当に透明になってしまった。
どこから見ても、どのアングルから見ても、男がいた場所には何も見えない。
とすると、これは子供みたいな馬鹿馬鹿しいものとかではなく、本当に透明になれる飴だったのか。
「どうです?本当でしょう?」
「確かに…でも透明状態から戻れるのですか」
「もちろん。なめている間なので、かみ砕いて喉元を過ぎるか吐き出すかすると戻ります」
彼はティッシュを取り出し、飴をペッと吐いてそれをティッシュでくるんだ。もちろん彼は透明状態であるため、傍から見たらティッシュが勝手に動いているようにしか見えない。ポルターガイスト現象みたいに。
徐々に姿が見えるようになっていき、彼の姿が戻ってきた。
「なるほど…面白そうですね」
「いやー…今考えたらそこまでなーって思って。でも作った以上は誰かに売りたいもんだし。だからこういったところでひっそりと売ってるんです。この飴のルーツは、僕が小学校二年生の時に…」
という具合に彼はしゃべり続けた。彼の喋りはどこかへたくそで、退屈さを感じざるを得なかった。
彼がしゃべっていたことは、どうしてこの飴を作るのに至ったのかとか、そういうのだった。
その最中、彼は一枚の大きな画用紙を渡してきた。僕はそれを手に取って、読んでみた。
「ぼくがあったらいいなと思うのは、とうめいになれるキャンディです」
「おこられそうなときなどに、とうめい人間になれるどうぐです。これをたべると、とうめい人間になることができます。リンゴのあじがします。アメのところに何分でおわるのかがひょうじされてて、そのけっていじかんになるとふつうの人間にもどってしまいます」
「なぜそう思ったのかというと、ママやパパにおこられそうでにげたかったからです」
なんとも小学生らしい字で、可愛らしい文体でそう書かれていた。
どうやら小学生の時に、「あったらいいな」と思うものを作って、それを文章にするという活動のもと作り出されたものであった。
彼が子供のころから考えていたものが、長い時を経て実現したのだ。
これは、買うしかないじゃないか。
「気になってきました。アソート形式で売れないものですかね」
「アソートですか。それでしたら十五個入りで六百円ですが」
「わかりました。買います」
そんなこんなで購入した。帰りが楽しみだ。
家に帰ってきた。といっても一人暮らしなので、家の中には三毛猫の「ミケル」以外、誰もいない。
早速買ってきた飴を食べることにした。
飴は無色透明で、少し濁ったビー玉みたいな見た目をしていた。
僕はその飴を口の中に入れた。
…ほとんど味がしない。ほんのりリンゴの味がする程度だ。
そして、肝心の効果、すなわち透明効果なのだが…
…これは見事な効果だ。しっかり透明になっている。
透き通った透明ではなく、目に見えない透明。
鏡を通してみても、そこにいるはずの僕の姿は見えない。
すばらしい効果だ。
しかし、どうして透明になるのだろうか。僕はそこが気になった。
彼が話の途中でそういう物質を手に入れたか何だか言っていたが、話が下手すぎて退屈だったため、聞き流していた。
そういう時はスマホだ。今の世の中って便利だよなあ。指でササっとキーワードを入力すれば、知りたいことがすぐに手に入るんだもの。
『透明 変化 物質』
というキーワードを検索ボックスに入れ調べてみた。すると、こんな記事を見つけた。
「世界初、生物を透明にする物質を開発」
という記事だ。本文はこんな内容だった。
「とある大学が、トギンビ糖という物質を開発した。この物質は、舌に反応して体の全細胞に機能を保ったまま色素に影響を与え、透明に見えるようにする物質だ」
といったような内容の文章。どうやらこの飴はこの物質を加えて作った飴のようだ。
味が虚無に近いのは、その物質を含めるためにやむなく犠牲にしたのだろうと思った。
気になったのは、最後に書かれている、
「ただ、この物質が悪用されないかが、筆者は心配である」
という文。
確かに、透明人間というと、すぐそういうやましいことを考える輩がいるものだ。
しかし、飴を売っていたあの男は、そこまで悪意を持って扱うような人物ではないだろうと考えていた。
まだ一回しか会ったことがないし、確証も百パーセントというわけではないのだが、たぶん彼はそういう輩には絶対に売らないのではないか、と感じた。
透明状態とはいっても、暇なものは暇だ。テレビを見ることにした。
テレビの電源をつけて真っ先に目に入ったのは、こんなニュースだった。
「昨日から、何者かによる連続殺人事件が多発しています。警察は捜査を進めていますが、いまだ手掛かりになるような証拠はみつかっておりません」
というものだった。
「やはり家にいるのが一番だな。家に侵入されたりしない限り殺されることはまずないだろう」
と能天気なことを考えていた。
その時、突然家のインターホンが鳴った。
モニターを覗いてみたが、誰もいない。
ピンポンダッシュかと思って無視しようとしたが、あるもう一つの説を思い浮かべた。
あの飴を使ったのかはわからない。ただトギンビ糖を容易に摂取できるのは、距離的にもあの店から購入した飴を摂取するほかないと考えられるため、その人もまた飴を購入して、透明になっているのではないかと考えた。
幸い、自分も透明状態であるのだが、ドアを開けるなり、声を発するなりしたらバレるのではないか。
ただ、相手はしつこくインターホンを鳴らし続ける。ドアを開けたほうがいいのか。そのまま放っておいたほうがいいのか。
僕はドアの裏に隠れつつ開ける方法を思いついた。でも肝心の相手が見えないので、ドアを開けたところで何をされるかわからない。一気に余裕をかましていた自分がばかばかしくなった。今の自分には不安しかない。
そして、これが一番最善だという方法を思い浮かべた。
飴がなくなるまでお互い待つ。
僕は実行に移した。モニターの前に立って、相手が誰なのか確かめようとした。
しかし相手の飴はもう溶けきっていたようで、すぐに正体がバレた。僕の飴は少し溶けているが、溶けきるまでには十分時間がかかりそうではあった。
正体はどこにでもいそうな少年だった。僕より年下で、黒い服に黒いジーンズといった格好だった。
その少年を見て何を思ったのか、僕はドアを開けた。少年は、
「くそ、もう飴の効果が切れた」
と言いながらもう一つの飴を食べようとしていた。やはり飴で透明化していたのだ。
しかし少年は開いたドアを見て、
「ちっ!バレた…!?」
と言いながら逃げようとした。僕は誰もいないことをいいことに飴をペッと吐き捨て、その少年に聞いてみた。
「あのさあ、俺の家に何しに来たわけ?」
「けっ!お前に知ったこっちゃねえだろ、あっち行けや」
軽い口答えをされた。やはり何かいたらぬことを企んでいたのだろうか。僕は逃げようとする背中の襟をガっとつかんだ。
「おい!離せ!」
「話してほしいのはこっちなんだけどねえ。正直に話してごらんよ、何もしないからさ」
「だから!お前が知ったところで何もねえだろ!!」
「いやいや。何をしたかったのか聞きたいだけだよ。理由もなしに他人の家に来るわけないだろ?正直に話したら何もしない。さあ、何もかも話してごらん」
と、家の壁に押し付けながら威圧的に言った。その圧に震え上がったらしく、少年は観念したようだった。おそらくいきがっているだけで、中身は割と弱かった。
「あーもう!話せばいいんだろ話せば!ったよたく……俺は物を盗みたかったんだよ。そういうのにあこがれてたんだよ。だからぶっちゃけ盗めればなんだって、誰だってよかったんだよ。でもバレるの怖くてさ。そんな中見つけたのが、透明になれる飴ってわけなんだ。それを買って、試しにどういったものかってことで、お前の家に来たってわけ」
あまりにも幼稚すぎる理由に、僕は思わず笑ってしまった。
「なんだ、その理由…やるとしたらもうちょっとまともな理由でやれよな。だからといって盗みを働くのがいいことかって言ったら、それはまた違うけどさ」
「へっ。おかしいか。存分に笑えよ」
「それはそうとして、あんたは正直に話してくれた。もう何もしない。帰っていいぞ。もう盗みを働くなんてこと考えんなよ」
「あーはいはい。わーったよ。もう考えないから。うん、もう帰る。あばよ」
そういうと、少年は機嫌が悪そうに歩いて帰っていった。
今回はまだまだ中身が可愛い少年だったからよかったけど、もしこれが相当な悪人だとしたら、僕はもう死んでいたのかもしれない。
そんなことを考えて、僕は少し恐ろしいものを感じた。
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彼がそんなことをやっている間、飴売りの男のもとにある一人の男性がやってきた。
ガラの悪そうな男で、いかにも何か企んでそうな感じの男性だった。
どうやらその男は、飴売りの男の店の常連のようで、いつもここに行っているようだった。
「おい、いつものやつくれや」
男は少し強い口調で、飴売りに言った。
「はいはい、これでしょ。全く、君は飽きない人ですね。いったいこれで何をしてるんです?」
一方、飴売りのほうは少し呆れたような、だるそうな声で話した。
「けっ、変わんねえよ。この世のくだらねえ奴らを消したいだけさ。あんたのおかげで順調だよ」
「はあーあ、相変わらずですねえ。でも正直に言うと、私の良心がもう耐えられないんですよ。だからね、そろそろあなたのような人には、これ売るのやめようかなって」
それを聞くや否や、男は目を見開いて叫んだ。
「んだと?これがねえと俺は計画を遂行できねえってのに」
「計画?あれ以外にあるんですか?」
「この国の使えねえ政治家をやるんだよ」
「ふーん。まあ、そこに関しては私も同意見ですよ。この国の政治家はなんか使えない。国民の声にもあまり相手にしてくれませんしね」
「だろ?だからよお、俺がこの手でやる。透明だったらなおさらやりやすいのさ」
「…わかりましたよ。ただこれで最後ですよ。もうあなたには売りません。だからいくらでも持っていってください。あ、でも金はくださいよ」
「へへへ…そうかい。くだらねえこと考えるなあ、お前も…」
そういうと、彼はボストンバッグからナイフを取り出し…
ラストが微妙になっちまった。
これは筆者が小学生のころ、授業の活動で考え出したものです。
それを物語に発展できないものかと思って書きました。
これ文章大丈夫かな。
ではまた。