夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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普通にしててもトラブルが増えてく件

あれから1週間程経った。慣れというもの早いもので、実家で暮らしていた時と同じくらいの雰囲気で過ごせるようにはなった。

 

あの一日が終わった次の日には、トレーナー室で今後の育成に関してのトレーニングメニューの話し合いなどをして、実際に3日ほど前から毎日一日ごとに別メニューに組みかえながらトレーニングをしている。

 

しかし、あの時約12年分のトレーニングノートを見せた時はトレーナーさん若干引いてたな。そこまで量多くなかったと思うんだけど…せいぜいダンボール一箱分だし。

 

中身もノート中にびっしり文字をつけ詰めた奴じゃなくて、色の着いたイラストとかグラフとか付けて読みやすくしたつもりなんだけどなぁ。次の日に目にくまを作ってきた時はちょっと驚いたよ。

 

(もしやトレーナーさんって、読みやすさよりも中身を気にする人だったりするのかな?)

 

悶々とした悩みを()2()0()0()0()m()を走りながら考える。周りから見れば完全に危険行為だが、今の私が行っているトレーニングはちょっと特殊で考える余裕があるのだ。

 

(まぁ、そんな冗談はさておき……タイムは良好、残り3ハロンは少し飛ばさないと)

 

グッと力を足に込めて踏み出す。ラストスパートをかけてスピード上げると、瞬く間にゴールとの差はぐんぐんと縮まり、6()()()の2000mを駆け抜けていた。

 

「よし、適正タイムクリア」

 

「お〜い!今日はここまでだ!あとはクールダウンしてあがれ!」

 

「はーい!」

 

個人的にはもうちょっと走れるけど、この後のこともあるし今は大人しくクールダウンするか。……別に休まなかったら怒られるのが嫌だからっていう訳じゃないよ?いや、ホントにホントに…。

 

___________________

 

「それじゃあエアグルーヴ、後はよろしく」

 

「はい!あのたわけが無理するようなら縛り付けてでも止めてやります」

 

「くれぐれも丁寧にな!俺の大事なウマ娘だし……って行っちゃったか」

 

沖野はターフに向かって走り去るエアグルーヴに伝えようとしたが、彼女はもう目では見えないほどの距離まで走りきっていた。

 

ちなみにあいつというのは、最近話題(リギル、スピカ内限定)の芦毛ウマ娘のことだ。3日前に沖野が指示を出して休ませたはずが、勝手にトレーニングを続ける問題児のことだ。

 

今の所リギルに所属しているエアグルーヴが監視をしているが、いつどこで無茶をしているか考えただけでも沖野の頭が痛くなる。

 

「それで?話って何?どうせあの子関連でしょうけど」

 

ウマ娘達にあまり聞かれないよう離れた場所でおハナさんが話を始めた。昨日の夜に話の場を設けるように頼んだ沖野は若干げんなりしながらも4冊のノートを差し出す。

 

「ああ、まずはこれを見てくれ」

 

「随分と練られたメニューが書いてあるノートだな。………待って、これってもしかして?」

 

「ご想像の通りだよ、おハナさん。あのノルンが考えたノートさ」

 

ここ数日、沖野が()()()()()()()()()()()()()()()()()()に必ずと言っていいほど登場するノートだ。しかも、毎回内容が違う。

 

「こっちは適正距離に合わせたメニュー、これは脚質を伸ばすメニュー、さらに芝とダート用まで!?」

 

「ちなみに、これ以外にも8冊ほどまだ残ってる。しかもメニューに関しての内容しか書かれてない」

 

ページをめくりながらノートに書かれた内容を読み続けるおハナさん。その顔には驚きの表情が浮かんでいた。

 

沖野もそのノートの中身を初めて見た瞬間軽く絶句した。書かれてる内容のレベルはトレセンのトレーナーとほぼ同等…もしくはそれを超えていた。

 

「この内容を見るに、元としてるのは整体関連の分野か?それもかなり深いところまで手が届いてる」

 

「……あの子にトレーナーって必要なのか?飾りだけであればそれで……」

 

「確かに単独でトレーニングを積んでもかなりの好成績を収めそうね。でも、あの子はトレーナーをそんな風に見るような娘じゃない」

 

おハナさんは手に持っていたノートを沖野に突き返す。一度面識があり、詳細情報を知りえているからこそ下せる決断だった。それに彼女の言葉は沖野に対して少し怒りも含めている。

 

「あの子はあなたを認めて契約を結んだ。それとも私があなたを推薦したのが間違っていたか?」

 

「そんなことは…」

 

「なら、あの子を最後まで導くのがあなたの責任。悔しいならそれを材料にして新たなトレーニングを提案すればいい。あなたもトレーナーならそのくらいの気合いは見せなさい」

 

「ッ……」

 

背中を向けて去っていく彼女に沖野は何も言えなかった。だって()()()()()()()()()()()からだ。

 

今までの数日のやり取りで、レイゴウノルンはいつだって相手の言葉に耳を傾け、なおかつ尊重するような娘だ。度々オーバーワーク気味になるが、沖野の意見を批判することはなかった。

 

(勝手に勘違いして、何やってんだ…)

 

夢を追いかけて必死に努力するのがウマ娘、それを支えるのがトレーナーの仕事だ。そうやって互いに信頼し合い、人馬一体を体現した者達こそが本当の栄冠を手にするのだ。

 

「最初っから足引っ張ってちゃトレーナー失格だな。俺ももっと強くならないと!」

 

両頬をバチン!と叩いて自分に喝を入れる沖野。ひとつのノートを手にして、迷いの無い瞳でトレーナー室へと走っていくのだった。

 

___________________

 

「んっ、しょっと…」

 

座りながら体を前に倒してゆっくりとトレーニング後の体を解していく。関節のやわらかさは怪我防止に繋がりやすいので、小さい頃からこれに関しては丁寧にしている。

 

一通り伸ばし終わって立ち上がると、目の前を通り過ぎるウマ娘達。うむ…実に素晴らしい。ひたむきに頑張るあの姿、そそられますな。

 

私も出来れば後ろの方について眺めたいのは山々だが、後方から近づいてくる気配があるから今日は無理だね。この感じだと…今日はエアグルーヴさんかな?

 

「クールダウンは済んだのか?レイゴウノルン」

 

「十分しましたよ。今ならもうちょっと…」

 

「『走れる』などと口にするなよ?もう一度怒られたいのなら別だが」

 

「いえ、結構です。そういえばこの後予定がありました」

 

怖い怖い……あんな2度も受けたくない説教を進んでするわけが無い。クルクルと手のひら返しするに決まってるだろ。

 

怒られた後のブライアンさんの『…今日はまだマシだったか』って小言で肝が冷えたのは、今まで1番インパクトが残ってるかもしれない。

 

「この後の予定?トレーナーとのミーティングなら済ませたと聞いていたが?」

 

「いえそっちじゃなくて、もうこのシューズが古くなってたので買い替えるんですよ」

 

「なるほど…確かにかなり使い込んでるな」

 

私の足元を見て納得したエアグルーヴさん。もう数年使ってるから、このシューズも目に見えるほど傷んでる。そろそろ買い替えの時期だとは思っていた。

 

「なら、早めに行くといい。ここからだと最寄りの店でも距離があるからな」

 

「そうなんですか!?それなら急がないと!」

 

「何もそんなに慌てなくても…」

 

「必需品とかも補充するつもりだったんです!もう少しのんびりできるかと思ってたんですけど、それなら早めに行かないと時間が足りない!」

 

「あ、あぁ…そういう事か。まぁ、門限に遅れないよう気をつけてな」

 

「はい!失礼します!」

 

私は爆速で寮に戻った。その走り去るスピードを見て、エアグルーヴは呆気に取られていたとターフを走っていたウマ娘達は口を揃えてそう答えた。

 

_________________

 

「これとこれと……うん、全部揃ってる」

 

街中を走り回って必要なものを買い揃えた私の両腕には、荷物の入った袋がぶら下がっていた。シューズと蹄鉄に加えてケア商品1式+歯磨き粉、シャンプー等の日用品+USBメモリやバッテリーなどの趣味用もバッチリ買い揃えてきた。

 

「たっだいまで〜す」

 

「あら?おかえりなさい。これはまた随分と大荷物ですね?」

 

「シューズとか日用品をね。この際新しく買い揃えちゃおうと…」

 

「なるほど、そうだったのですね」

 

おっとりした、どこかお母さんと似たような雰囲気で語りかけてくるミルキークラウン。相部屋になってからというもの何かと彼女から話しかけてくる。

 

最近まであまり気にしてなかったが、思い出してみると前世の彼女はもっと大人しい雰囲気だったはずだ。今のような口数が多いタイプではなかったのは覚えてる。

 

でも、人は変わるものだってよく言われてるし、転生の影響で少し性格が変わったんだろう。うん、そうに違いない。

 

それはそうとお腹がすいた。夕飯にはまだ少し早いけどミルキーも誘ってみよう。

 

「今から夕飯に行くけど一緒にどう?」

 

「いい提案ですね!一緒に行きましょう!支度をするので少しお待ち頂けますか?」

 

「うん、ゆっくりでいいからね」

 

洗面所に入っていった彼女を横目に空いた時間をどう過ごそうか迷ってると、不意にミルキーの机の上にある本に目がいった。

 

「そういや時間があればいつも本読んでるよな。何見てんだろ…」

 

ほんのちょっとした好奇心だった。やっぱり同室なだけあって毎日熱心には読んでいれば多少なりとも気になる。ただ、それがパンドラの箱だとは思わなかった。

 

「ふぇ……?」

 

ピラッとカバーされた表紙をめくってみれば、そこにはかわいい女の子の絵があった。というかなんだろう……ちょっとあれっぽい感じの雰囲気出てる小説だね?

 

そこから数ページペラペラと巡ってみれば、大体の内容が入ってきて若干頭の中がショートする。えっと、これはあれですね……オタクならば一言は聞いたことがあろうあの白い花の名前の展開ですね。

 

でも、過激ではないかな。まだギリ健全……いやまぁそっち側の時点で健全も何も無いんだけどさ?このライトな内容ならまだ引き返せるレベルだ。

 

こういう秘密が一つや二つあってもおかしくはないけど、これは下手すれば私が巻き込まれるやつだ。余計なことはせんでおこう……私は何も見てない。同室の娘がそういう感情を私に持ってるわけないよね。うん、大丈夫大丈夫…一時期のブームみたいなもんさ。

 

ガシッ!

 

「ヒィッ!」

 

そっと本を元の場所に戻そうとしたら、背後にいつもと変わらない笑みを浮かべてるミルキーが立っていた。あまりの驚きにしっぽと耳がピンと立っちゃうのは仕方ないと思う。

 

「み、みみみミルキーさん!?これはその…ちょっとした出来心で!勝手に見てしまったのはごめんなさい!」

 

「あら?別にいいんですのよ?それは前の学校にいた子に教えてもらったものですから」

 

きょんとした様子で答えてくれるミルキー。な、なるほど…前の学校にいた友達に教えてもらったのか。……いや、小学生でこれを勧めるのはかなりの曲者だぞ。

 

まぁ、何はともあれミルキーはそっち側ではなかったな。いらない杞憂だったか。

 

「もしや、ノルンさんもご興味があるんですか?良ければお貸し致しますけど…」

 

「い、いや。ちょっとどんなの見てるのかなって思っただけだから、今回は遠慮させてもらうよ」

 

「そうですか…。まぁ気が向いたら私になんでも聞いてくださいね?」

 

「き、気が向いたらね」

 

個人的に同性愛系はちょっとまだ早いかなぁ。別に嫌いってわけじゃないけど、中身を読んでると気恥ずかしいと言うかなんと言うか……そういうものが湧き上がってくるからあんまり読まないようにしてるんだよねぇ。

 

ウマ娘は好きだけどもLoveじゃなくてLikeだから。そういう感情を持って見ようとするとどうもムズムズする。

 

とりあえず、不安要素が一つ消えただけでも良かった。同室の子があっち側だったら毎晩恐怖に身を寄せながら眠ることになってたかもしれないからな。

 

「それじゃあ行こっか」

 

「えぇ、そうですね…ふふふっ」

 

「ッ…?」

 

一瞬背中がゾワッとしたけど……今のは?春になって暖かくなってきたとはいえ、まだ寒いのかな?っと、そんな事より夕食だな。今日は体を動かしたし多めに食べよう。

 

_____________________

 

「まさかこの時間にやるとは誰も思うまい!」

 

ジャージに着替えた私は意気揚々と夜のターフへと向かっていた。理由は簡単、今日買ったシューズと蹄鉄を試したかったに過ぎない。

 

この時間帯ならばトレーナーもあのエアグルーヴさんも気づくことは無い。門限までどれだけ走ろうが私の自由なのだ!

 

「さ〜て、早速試していこうかな………ん?」

 

電気の付いたターフにまで来ると誰かが走る音が耳に届く。この時間帯まで使用しているウマ娘はほぼいない。私もちょっと耳に挟む程度だったが、夜に走っている子の話など聞いた事が無い。

 

だからこそ気になった。こんな時間にまで残ってトレーニングをしているウマ娘が誰なのか……気になるのは当然だ。

 

オタク活動で培った隠密スキルを使って光が当たる場所を避けながら覗いてみると、意外なウマ娘が走っていた。

 

「あれは……ルドルフさん?」

 

見間違えるはずがない。あの整った綺麗なフォーム、ターフを走るスピードは完全に一致していた。

 

見入ってしまう。かの皇帝と称されたシンボリルドルフのトレーニング……これに興味を示さないのは1人のウマ娘としても、ウマ娘オタクとしても失格だ。

 

長居するとバレそうだけど、もうちょっと見ていこうかな……。こんな機会何度もある訳じゃ……「誰だ?」

 

キッとこっちに視線を向けるルドルフさん。これは完全にバレてますね…。長引いて余計な面倒事を生む前に出るのが最善だろう。

 

「君は…」

 

「えっと、こんばんは…ルドルフさん」

 

ぎこちない雰囲気が漂ってしまった。ルドルフさんも私を知ってるからこの反応なのだ。別の子なら優しく注意くらいはすると思う。それをすぐしないところを見るに、対応を考えているのだろう。

 

「はぁ…。ここ最近エアグルーヴから聞いていたが、君は随分とトレーニングに熱心なようだね。それで?ここに来たのはただトレーニングをするためだけかい?」

 

「えっと、新しいシューズにしたので試してみようと思って…」

 

「ふむ、なるほど」

 

考えるよう顎に手を当てるルドルフさん。何故か頭の上の耳がピコピコと動いている。あれ?確か耳って嬉しい時に動くもんだったよね?

 

「黙ってトレーニングしようとしていたことをエアグルーヴに報告しなくてはならないが……」

 

「ほんとにすみませんまじでそれだけはご勘弁を自分に出来ることなら何でもするんでそれだけはやめてくださいお願いします」

 

「……よくそこまでスラスラと喋れるな君は」

 

必死ですよそりゃ、だって怒られたくないもん。あの説教を受けるくらいなら相手のお願いを聞いた方がまだ何百倍もマシだ。

 

その様子を見て小さく笑うルドルフさんは、ピッと人差し指を立てる。

 

「私だって鬼じゃない。その代わりに一つだけわがままを聞いてくれるかい?」

 

「なんですか!?私に出来ることなら何でもやりますよ!」

 

「“何でも”か……では、遠慮する必要は無いな。レイゴウノルン、今から私と()()()()をしてくれ」

 

「へ?」

 

ルドルフさんのお願いに、私は正常な思考処理を行うのに数分を要するのだった。




読んでいただきありがとうございます!

今回短くまとめるはずがいつもより長くなっちゃいましたね…。次回は今回の続きでお届けいたしますので、お楽しみに

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