夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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信用=安心とは限らない (後編)

土曜9時に府中駅前集合と言うことで遅れないように15分前に着いたのだが、私よりも先に松島さんの方が待ち合わせ場所に立っていた。

 

こういう集まる時はどう足掻いても松島さんの方が早いのが当たり前になりつつある。以前、1時間ほど前に行って待っていようと思ったら普通に松島さんが待ち合わせ場所にいたのを未だに覚えている。

 

「松島さ〜ん!お待たせしました!」

 

「おっ、やっと来ましたね!ノルンちゃ……って何その格好?」

 

松島さんが驚いたような表情を見せる。確かに私の格好はいつもと違うのだが、そこまで驚くことなのだろうか?

 

下はデニムのジーパン、上は白いTシャツの上に黒色のレディースジャケットの組み合わせ。靴は白のスニーカーで頭にキャップを被っている。まさにボーイッシュなコーデにしてみたのだけど、変だったかな?

 

「お出かけなんですよね?動きやすい格好にしたつもりなんですけど……どこか変でしたか?」

 

「いやいや、別に変って訳じゃないよ?むしろカッコイイけど、こういうオシャレしたノルンちゃんは珍しいなぁって思っただけですよ」

 

「カッコイイですか!今日はそれを意識してみたんですけど、変にならなくて良かったぁ…」

 

「声かければ逆に女の子落とせそうな格好しながらよく言いますね……まっ、それはともかく今日は時間が決まってるし急いで行きますよ」

 

「そういえば聞いてなかったんですけど、今日どこに行くんですか?」

 

「詳しい事は向こうで教えるけど、一言で言うなら『現場見学』かな?」

 

現場見学……?いつもならレース場やグッズ販売店巡りがメインだけど、確かにこんなスーツ着てる松島さんは久しぶりだ。前に見たのは仕事中の彼女を偶然見かけた時だったかな?

 

「Hey!タクシー!」

 

松島さんが手を上げてタクシーを捕まえる。えっ、ちょっと待って?移動するためにタクシー使うの?移動代すごいかかりそうなんだけど。

 

「あっちが負担してくれるから遠慮せず乗っていいよ?」

 

あっち負担って何!?もうホントに訳が分からなくなってきた!ええい!こうなったら全力でお言葉に余るしかないな!うん、そうしよう!

 

とりあえず私は考えることをやめた。どうせキテレツ松島のことだから悪い方には持ってかないだろうし、流れに身を任せとけばいいんさ。

 

________________

 

目的地に着いたはいいものの、ここで合ってるのだろうか?いや、そんなミスをこの人がするとは思えない。ということはマジなのだろう。

 

(なんで有名レディース雑誌の撮影スタジオなんかに来てるの…?)

 

目の前で着々とセットの準備をするスタッフを眺めながら、私はスタジオの端でお茶を飲んでいた。首からゲスト用の名札を吊り下げているので、この対応なのだが…。至れり尽くせりすぎやしませんかね?

 

とりあえず緊張してるのを隠すべく茶菓子をゆっくり頂いているが、松島さんも一生懸命スマホとにらめっこしてるし…居た堪れないなぁ。

 

気まずさを感じながら待っていると、1人の女性がこちらに近づいてきた。その姿を確認した松島さんもにこやかな笑顔を浮かべて手を振った。

 

「やぁ、まっちゃん!随分と早いお着きだね!」

 

「案外スムーズに行けたもので……やっぱり早かったらまずい?」

 

「いいよいいよ!モデルさんの準備も終わったし少し早めに始める予定だったの!タイミング的にはGoodって感じね!」

 

松島さんにサムズアップを返す随分と濃い人だが、非常に人当たりのいい人な雰囲気があるな。この人がここの監督をしてるのだろうか?

 

「で、そこのにいる子が件のレイゴウノルンちゃんか!」

 

「は、はいどうもレイゴウノルンです…。松島さんとは良くしてもらっています」

 

私の事しっかり紹介してるんだな。これだけ仲が良さそうなら連絡先くらい交換してて当然か。この人は松島さんの友達?それとも仕事関係で知り合ってる人なのかな?

 

「…ねぇ、まっちゃん。見た目的にはPERFECTな娘を連れてきてくれたみたいだけど、なんか固くない?」

 

「あ〜、ごめん。今日ここに来ること教えてなかった」

 

「それりゃ緊張もするでしょ。保護者としてちゃんと伝えておかなきゃ」

 

「ごめ…」

 

「謝る相手は私じゃないよね?」

 

「ごめんなさいね、ノルンちゃん。今度お詫びになにか奢るから」

 

「い、いえいえ!私としてはノープロブレムなんで大丈夫です!」

 

「なんか私の口調移ってない?」

 

大分この雰囲気に私が慣れてきたところで、松島さんは私を改めて紹介しつつ、目の前にいる女性のことも一緒に説明してくれた。

 

彼女の名前は寺井 春奈さん。松島さんとは同い年で中学高校を共に過ごしてきた友達らしい。大学からはお互いの道に進んだが、定期的に連絡は取っていたのでこうして今も関係が続いている。

 

ちなみに寺井さんが担当しているのは、国内で一二を争うレディース雑誌だ。人用、ウマ娘用の両方を取り扱っているため購入者はかなり多めだとか。私もお母さんの買ってきたのをちょくちょく見てるからこの雑誌についてはもちろん知っている。

 

「今回のテーマは『夏のカッコイイ』っていうのがテーマだよ!COOLかつSimpleなコーデがメインになるかな!」

 

「あ〜、じゃあ私のこの格好も」

 

「うんとてもGREATだね!でも今回は夏だから黒物はできるだけ避けてるんだ」

 

確かに真夏の太陽をこの服装で行けば熱中症になりかねないな。ということは、白や青などがメインのコーデなのかな?

 

3人でやり取りしていると、1人のスタッフがこちらに走ってきて「準備整いました」と一言を伝えに来た。

 

「それじゃあ私ら行くから、今日の見学楽しんでいってね!」

 

こっちに手を振りながら寺井さんは現場の方へ戻っていった。遠めからでも分かるが、指示が的確だ。ここの責任者として抜擢されるぐらいだし、それなりに優秀な人だとは思っていたが、あんなにも接しやすい人だとは思わなかったなぁ。

 

「ノルンちゃん、はいこれ」

 

「なんですかこれ?」

 

「今日のモデルさんのリストだって。確認しといて損はないんじゃない?」

 

「そうですね。どれどれ…」

 

詳細なプロフィールや顔写真はないものの、書いてある名前はほぼほぼが知っている名前だった。中にはドラマ主演だった人の名前も……いや、どうやってコンタクトとってきてんの?

 

軽く流しながら見ているだけでも知っている名前がちらほらいるくらいだ。現役のウマ娘でも誰かいたりするのかな……って。

 

「オグリキャップさんだ…」

 

欄の中には確かにオグリキャップの名前が記載されていた。確かに今回のテーマならオグリキャップさんが選ばれてもおかしくはないか。他の人だったらゴールドシチーさんとかも有名だけど、あの人はカッコイイより美しい方面だからな。

 

「えっと他には……」

 

「私もいるよ?お・と・う・さ・ん♪」

 

「おまッ…ひゃん!??」

 

耳元で声が囁かれると同時に飛び跳ねてしまそうなほどの衝撃。後ろから撫でるような手つきで耳の裏を触れたからゾワゾワした感触が体全体を駆け巡る。

 

「ふっくくく……!『ひゃん!』とはまた随分と可愛らしい反応を…!」

 

「アステルッ……お前ぇ…!」

 

耳を抑えながら振り返ると今にも笑いだしそうな様子のアステルリーチの姿がそこにあった。撮影用の服装を身にまとっているので中々に決まった姿をしているが、私の頭はそれを気にするほどの余裕はなかった。

 

「いきなり耳を触るとか非常識にも程があるだろ!?」

 

「人に冷たい缶を当てた本人がよく言うよね」

 

「お前まだあれ根に持ってるの!?」

 

「冗談だって!私がそんなに心が狭そうに見える?」

 

「……見えなくもない」

 

何かとデジャブを感じるやり取りだが、さすがにあの件をここまで引きずるようなやつじゃない…はず……多分…。ただまぁ、何かしら不服だったことがあったのは明白だ。

 

しばらくの間アステルどころかリギルの人たちとも会ってないしなぁ。最近はタマモクロスさんに会ったのと…後……あと……あれ?それぐらいしかないな?

 

トレーニングが終わった後とかの空き時間はほとんど自分の趣味に費やしてるし、そこまで残ってるほどの濃い記憶はないな。……振り返ればあまり交流ってもんをしてないんだな私って。

 

「アステルリーチッ…!今期話題沸騰のウマ娘が目の前にッ!」

 

「……知り合い?」

 

「あ、うん。私の知り合いって言うか“同士”の松島さん」

 

「なるほど、よく見る過大解釈記者の右腕とか言われてるあの松島さんね……OK把握」

 

おいおいおい、今聞き捨てならない言葉が出たぞおい。“過大解釈記者”ってなに!?いやまぁ言葉のまんまの意味だとは思うけども……そんな人の右腕なの?松島さん。

 

「こんな私の事まで認知してもらっているとは!感激で身が震えますね!」

 

「あー……そろそろ撮影が始まるし一応挨拶回りに行ってきマース」

 

そう言いながら回れ右をしてスタッフの方へ走っていくアステルリーチ。紛れもなく逃げたなあれは。名前聞いた時点で「やべぇ」って顔に書いてあったし、相当苦手なんだろうな松島さんが。

 

いつもは結構頼り甲斐があってお姉さん感が強い松島さんだけど、ウマ娘が絡んだらほんとうにポンコツになるんだよなぁ。後先考えないというか…リミッターが外れてるというか…。

 

(考えても仕方ないか。趣味嗜好は人それぞれってよく言われるし、今日はこの場を楽しめるならなんでもいいや)

 

雑に脳内で結論を出して、始まった撮影に目を向ける。しかしどのモデルさんもいいスタイルしてる。スラッとしてシュッとしてる感じって言えばいいのかな?とにかくかっこいい。

 

しかし、そんな中でもアステルリーチとオグリキャップさんは特に目立っていたと思う。

 

悔しいがアステルの奴は結構いいスタイルしてるし、ちょっと高身長だからああいう服装は絵になるほど似合ってる。

 

オグリキャップさんは撮影自体が初めてなのか少しぎこちない感じだったが、寺井さんの機転で自然な体勢で撮影したところ見事に1発OK。やはり撮影にも一人一人にあった雰囲気みたいなのがあるのかもしれない。

 

「いいですね〜。走る以外にもこういったウマ娘ちゃんもかなり好きになりそう」

 

「ですねぇ〜。この雑誌が出たら絶対に買いましょう!実用・保存用・布教用・資料用の4冊になりそうです!」

 

スタジオの端で静かに興奮しながら語り明かす私と松島さん。ちなみにアステルは微妙に距離をあけてこっちを眺めていた。こうして滞りなく撮影は進んでいった。そろそろ最後の人が撮影を終えたと思い、帰る準備をしようとすると…。

 

「あっ、ノルンちゃん待って待って。まだ撮影は終わってないよ」

 

松島さんが肩を掴んで引き止めてきた。ん?まだ?貰った資料の中にあった人達は全員撮影し終わったし今日はもう終わりなんじゃあ…?

 

「まっちゃん!セット完了したよ!あとは…」

 

何やらギラついた目でこっちを見る寺井さん。まるでこのときを待っていたかのような表情をしている。あっ、ちょっと待ってこれやばいかも。

 

私はその場から何も言わず駆け出した。何がとは言わないが私のカンが言っていた『すぐにこの場から立ち去るべき』だと。出口に向かって逃げていると不意に足が地面から離れた。

 

「うえ!?な、なんで…………オグリキャップさん!?」

 

「君は確か海鮮丼の子だったよね?タマから聞いたよ、君もトレセン学園に入ったらしいね?」

 

私を抱えるように持ち上げているのはオグリキャップさんだ。さすがに身長差があって地面から離れてしまっている。それに抜け出そうとしても捕まえているオグリさんのパワーが尋常ではなく抜け出せない。

 

「あ、あの!すみませんが離してくれません!?」

 

「すまない。それは出来ないんだ…」

 

悲しそうにシュンとして謝ってくるオグリさん。こんな顔をするなんて一体どのような事情が…

 

「君を捕まえてないと『食べ放題フェア』に連れてって貰えないんだ…」

 

「結局食べ物じゃないですかぁ!!」

 

くっ、既に餌付け済みだったとは予想外だったッ!学生程度のお小遣いでは他に交渉の余地がない!ジタバタと暴れてみるもビクともしないオグリさんに抱えられていると、松島さんと寺井さんの2人が近づいてくる。

 

「松島さん!一体なんですかこれ!?」

 

「ごめんねぇ…。こうするしか方法がなくて」

 

「大丈夫よノルンちゃん!あなただって十分輝いて見えるわ!私達の手であなたを最っ高にBeautifulな姿を撮ってあげるから心配しないで!」

 

「そういう問題じゃなーーーーーい!」

 

「空いた穴を埋められるのがノルンちゃんしかいないと思って私が推薦したの。もちろんあなたの両親やトレーナーさんにも二つ返事で了承してもらってだけどね?」

 

「何してんのあの人達は!?」

 

松島さんの説明を詳しくするとこうだ。

 

1.『雑誌に出るはずだったモデルさんが病欠で休んでしまった』

2.『寺井さんが松島さんに「条件にあった子は居ないの?」と相談』

3.『相談を受けた松島さんは私のことを推薦』

4.『私の両親及びトレーナーにも通達して二つ返事で了承』

5.『今日の撮影』

 

ちなみにオグリさんが知っていたのは、私が逃げ出した時用のストッパー。現役選手であり、かなりのパワーがあるオグリさんならば止められると思っての起用らしい。

 

「アステル!お前からも何か言ってやれ!」

 

「ん〜、出来ればフリフリのゴスロリ姿とか見たいなぁ」

 

「アステル!?」

 

唯一の希望へ声をかけてみるが、見事にあっちサイドだった。一瞬でもあいつに期待した私が馬鹿だった。

 

「さっ!こっちに衣装とメイク室があるから綺麗になりましょうね〜♪」

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ズルズルとメイク室へ引きづりこまれていく私を見て、スタジオに居た人達は爆笑している1人を除いてほぼ全員が同情の目線を向けていた。

 

今まで何度も寺井さんに振り回されてきたスタッフ一同は、慣れてしまったのか視線を向けながらもテキパキと準備を整えていた。

 

結果から言うとめちゃくちゃ着せ替え人形にされた。雑誌用の服の他にもワンピースやドレス、何故かゴスロリなんかも着せられた。雑誌の撮影と言うよりも最後の方は完全にファッションショーみたいな感だったな。

 

雑誌の方もお母さんが『近所に広めておいたよ!』とメールでそう送ってきた。……帰省してきた時どんな顔して近所を歩けばいいんだよ。あっ、ちなみにトレーナーは私が締めておきました。

 

雑誌が出るとトレセン内であっという間に広まっていき、何回も色んな人から声かけられた。

 

あの日以来、私は松島さんとある約束をした。『今後一切なんの報告もせずに巻き込んだ場合は罰を与える』という約束だ。ちなみにお詫びとして奢ってくるというので、遠慮することなくガッツリと食べさせてもらった。松島さんの財布が軽くなったのは言わなくてもわかるだろう。

 

後日、出来上がった雑誌を念の為本屋から買って中身を見てみる。意外にも悪くない写りだった。頑張ればこっちの道で食って行けるかも……

 

「……いや、ないな」

 

パタンと雑誌を閉じて机に置くと、トレーニングのためにターフへと向かった。まぁ、将来の選択肢としてはいいかもしれないと思ったのはここだけの話である。

 

 




読んでいただきありがとうございます!

誤字の訂正を毎回来てくださってる皆様ありがとうございます!

次回はメイクデビュー戦で、オリキャラがもう1人出てくるよ予定なので楽しみにしておいて下さい。勝負服アンケートについては後日に載っけて置くので投票したい人ご自由にどうぞ。

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