夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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伝説の幕開け……なのに嫌な予感しかしない

「よっ、ほっ」

 

「えらくリラックスしてないか?メイクデビューとはいえ初のレースだぞ?」

 

「ん〜、まぁ一言で言えば『負ける気がしない』からですかね」

 

控え室の中で足を伸ばして最終チェックを念入りに行っていると、沖野トレーナーから呆れたような質問が飛んできた。

 

確かに気が抜けているかもしれないけど、体の作りは万全。故に負ける気なんて微塵もない。それに名簿を見たけど、私が唯一負ける可能性のあるやつは別のレースで参加する予定だから万が一の心配も消えた。

 

「もう一度確認するが、今回のレースは『芝2000mの右回り』バ場状態は良、先行策で囲まれないように上位をキープする……ってわけだが、お前は色々と目つけられてるから用心しろよ?」

 

「多分そんな子はいないと思うから大丈夫ですよトレーナー。それに囲まれないようにあれだけ外回りの練習したんだから今更心配しても遅くないですか?」

 

「まぁ、そうなんだがな……」

 

随分と歯切れが悪いなぁ。確かに東條トレーナーに任されたウマ娘のメイクデビュー……落としたらなんて言われるか分かったもんじゃないからトレーナーもトレーナーでハラハラしてるんだろうな。

 

程よく体が解れたので立ち上がる。そろそろ時間なので、椅子にかけておいた五番のゼッケンを取って扉へ向かう。

 

「まっ、楽しみにしててねトレーナー!私の伝説の第1歩、しっかりと目に焼き付けて!」

 

「はぁ……お前は全く。クヨクヨしてても仕方ねぇよな……よし!頑張ってこいよ!勝ったらお祝いにご馳走を食わせてやる!」

 

「それ聞いたら俄然やる気が出てきた。行ってきます!」

 

らんらんスキップで部屋へ出てレース場へと足へ運ぶ。今世は“ウマ娘”として、前世の“元無敗の馬”を越えられるように全力で結果を残してやる!

 

_____________________

 

結果から言おう。俺が担当している『レイゴウノルン』はメイクデビューで大きく期待を裏切った。………かなりいい方で。

 

彼女の人気は3番目。選抜レースを出ずにこれだけの人気を集められたのは、ひとえに『アステルリーチに勝った噂』と『東條トレーナーとシンボリルドルフの推薦』があったからだ。

 

それだけ材料が集まっていれば、彼女の走りを見ていない者も期待を寄せずにはいられない。だから3番人気にまで上り詰めていたのだ。

 

ゲートイン完了後にすぐさまレースはスタート。逃げの娘が2人、先行の娘がノルンを合わせて3人、差しが2人、追い込みが2人のあまり差がないレース展開になった。

 

問題が起こったのは第3コーナーに差し掛かった時だ。先頭とその後ろの逃げウマ娘が後続と2バ身もの差で走っていた。しかし、直後3番手に控えていたノルンが急速に速度を上げて逃げウマ娘に並ぶと一気に抜いた。

 

明らかにかかり気味な加速に見ていたトレーナーや観客はどよめき、誰もが『減速する』と思っていた。第3コーナーからの加速など自殺行為に等しい。でも、それは“普通”のウマ娘だったらの話だ。

 

1歩、また1歩とノルンがターフを踏み込めばグングンと加速していく。逃げウマ娘も先行ウマ娘も追いつけない程の独擅場で最後の直線を走り抜ける。

 

ゴールした時には6バ身というメイクデビューではありえないほどの大差で勝利を手にしていた。

 

「ぶい!」

 

「お前なんかこう……予想外が好きなやつだな」

 

「?」

 

「いや、分からないならもういい……帰ったら軽くミーティングするぞ」

 

「了解しました〜。って言いたいけど今からライブですよ?」

 

「あっ」

 

完全に頭の中からライブそのものが抜け落ちていた。そういやこいつにライブの振り付けと歌の指導したことの無い事実を思い出して汗を浮かべる。

 

「やばい、ダンスを教えてないっておハナさんに知られたら……」

 

怒鳴られるどころの話では無い。それこそ次の飲みで懐が寂しい中全額払わされるかもしれない焦りが湧き出てきた。

 

今ここで教える?だが、バックダンサーの立ち位置を教えている暇もない。これでは連携が取れなくてライブがめちゃくちゃに……マジでどうすれば。

 

「ちょいちょい、私はオタクですよトレーナー?ライブの振り付けくらい完璧にこなせますって!」

 

「……お前が女神か?」

 

「違います」

 

ノルンがオタクやっててよかったと初めて心の底から思った。『オタク活動をさせてくれ』と言われた時は不安だったが、今回は首の皮一枚繋がった……。ちなみに給料日までもやし生活をする覚悟は無駄になった。

 

______________________

 

「ちょっと聞きたいんだが……今回レースなんであそこで加速したんだ?お前くらいなら4コーナーを回った後からでも余裕で抜けたんだろ?」

 

「まぁ、示しをつけるって感じですかね…」

 

「示し……?」

 

無事なんのトラブルもなくライブを終えて、会場を後にした私たち。その帰り道でトレーナーさんが運転しながら質問してきたので、私が答えてあげると訳が分からないと言ったような呟きが聞こえてきた。

 

「そうですよ。今はその意味が分からないと思いますけど、来週のメイクデビューを見ればすぐにわかると思います。私が走る世代というものを……」

 

「来週、か。……特にめぼしい娘はいなかったと思うが……」

 

「うちのルームメイトの『ミルキークラウン』。彼女は短距離に出るそうです。実力は保証しますよ。ぶっちぎりで彼女が勝ちます」

 

「お、おぉう。お前にそこまで言わせるなんてよほどなんだな……。でもその子は短距離なんだろ?中・遠距離タイプのお前とは縁がないように思えるが……」

 

トレーナーさんの言い分はもっともだ。それに事実でもある。ミルキークラウンは生前のレースで短距離とマイルしか走ってこなかった。中距離まで持つスタミナがなかったせいだ。……その分、短距離でのスピードは凄まじかった。

 

彼女と競い合った回数は少なかったものの、毎度油断出来ない相手だったのは明白だった。いや割とガチで強いんよなあいつ…。

 

「確かに彼女は短距離タイプの娘です。事実ですし私と競い合う回数も少なくなるのですが、問題はあと2人です」

 

「二人……?」

 

「はい……」

 

ペラっとトレーナーさんから受け取ったメイクデビューの出走予定表の中にある2つの枠に丸をつけて両手が塞がっているトレーナーさんに見せてあげる。

 

「『オリオトメ』と『グランロウル』。この2人が確実に1着をとると断言します」

 

「オリオトメ……確かリギルに入った子だったな。選抜レースはパッと目立つようなものではなかったが1着。珍しくおハナさんが声をかけたって言うのは聞いたぞ?そっちは知っているが、グランロウルって名前は聞いたことがない……」

 

「最近引き抜かれましたよ……三上トレーナーに」

 

『オリオトメ』、前世で最大のライバルだった奴の名前だ。初めて競い合ったのは『皐月賞』そこからクラシック路線の『日本ダービー』と続いたが、『菊花賞』は足の様子を見て出走回避。

 

後に『天皇賞・秋』『宝塚記念』で何度も競い合ったが、無論のこと全て私の勝利に終わった。

 

しかし、実力はある。全てのレースにおいて着外になることは1度もなく、この私相手に2馬身以上で負けたことがないのだ。

 

『レイゴウノルンさえいなかったら最強の名を欲しいままにしていた』と言われるほど、オリオトメの実力は高い。

 

そしてもう1人、『グランロウル』は前世で3歳後半で実力の頭角を表した子だった。4歳の時に『有馬記念』や『大阪杯』で競い合ったことはよく覚えている。彼は晩成型という訳では無い。ただ単に足が弱すぎただけだったのだ。

 

産駒時代は自力で走ることもできないほど弱い足だったが、彼があそこまで活躍できたのは変わり者の馬主と調教師のおかげであることは間違いない。

 

その変わり者が今世において、『三上トレーナー』だったというわけだ。まぁ、あの人の腕にかかればグランロウルの足なんて手を軽く捻るようなもんだろう。

 

「三上さんか……。あの人変わってるからなぁ」

 

「それ、トレーナーさんが言えた口じゃないですよね?」

 

特大ブーメランもいいとこだぞ。あの人もあの人でおかしい所はあるけど、無断でウマ娘のトモに触るトレーナーも十分おかしいからな?

 

全く……東条さんと六平トレーナーを見習ってほしいものだ。

 

「それで?お前は見に行くのか?」

 

「一応……ていうか、見に行かないと後々めんどいので…」

 

「めんどい?」

 

「ん〜、まぁこっちの話です気にしないでください」

 

「そうか、お前がいいって言うならそれでいいさ」

 

「はい。あ、そこ右ですよトレーナー。どさくさに紛れて帰ろうとしないでください」

 

「……バレてたか」

 

レース前にご馳走してくれるっていたのはトレーナーさんだよね?あなたの財布が軽いのは知っているのでさすがに抑えるよ。ウマ娘の食欲を知ってるからって会話で気をそらすような真似はセコい、セコいすぎる。

 

初の勝利くらいはパーッと祝って欲しいもんだね。

 

_____________________

 

○月○日 メイクデビュー 芝2000m

 

『オリオトメ!やはりオリオトメが出てきた!4バ身にリードを広げながら、今ゴールを駆け抜けた!1番人気の実力を見せたオリオトメ、圧勝です!』

 

2日後 ○月○日 メイクデビュー 芝1200m

 

『ここで抜けてきたぞミルキークラウン!周りのペースなど気にしないとばかりに突き進んで行く!速い速い!グングンと加速していき、2バ身差でゴール!五番人気でありながらその実力を遺憾無く発揮した!』

 

翌日 ○月○日 メイクデビュー 芝2000m

 

『グランロウル!スタートと同時に抜け出した逃げ足はまるで衰えない!競り合いが予想されたレースの中でグランロウルが今、3バ身で1着を掴み取った!新星の猛者が揃う中!グランロウル堂々の1着です!』

 

______

___

_

 

「ほら、私の予想通りでしたね」

 

「お前を疑ってた訳じゃないが……いくらなんでも強すぎないか?お前と実力はほぼ同等だぞ?」

 

「はい、おっしゃる通り実力も技術もほぼ同じですよ?まぁ…違いがあるとしたら運とか気合いですかねぇ」

 

「不確定要素すぎて先が不安になってきた……」

 

学園内のカフェテリアで私とトレーナーはメイクデビューの動画を見直していた。いや〜、こういう時に公式から動画出してくれるのはすごく助かるねぇ。

 

しかしまぁ……こいつら体出来すぎじゃないか?全盛期ほどとは言わないけど、今でもGI出れば入着位は固いはずだ。そもそも、ミルキーに関しては同年代に強敵になり得るウマ娘がいないと言う確信がある。

 

しかしここまで出来上がっているとなると……確実にミルキー除く2人も“持っている”可能性が高いな。やっぱりそうなると、実力じゃなくてレース展開の読み合いが重要になってくるかもしれない。

 

「それはそうと……お前これ全部見に行ったのか?」

 

「見に行きましたよ。だから言ったじゃないですか『後々めんどくさい事になる』って」

 

「い、いや、その面倒くさいが具体的にどう言う「あら〜、トレーナーさんと仲良しですね。ノルンさん♪」ミ、ミルキークラウン……!」

 

「“ライバル”の確認をしてるだけだよ?ミルキーさん?」

 

「まぁまぁ!この私がライバルなんですね!嬉しいです!」

 

「いや、短距離であんなえぐい加速してる君がライバルじゃないわけないじゃん?」

 

ニッコニコの笑顔でトレーをもってやってきたミルキークラウン。彼女とは中距離以上でのレースでは縁が無いが、それでもマイルの舞台ではぶつかり合うこと間違いなし。今のうちに対策をしておかないといけない。

 

特にあの加速力……あれは私でも抜かれないようにするので苦労するのだ。上がり三ハロンだと私たちの中で間違いなくお前がナンバーワンだ。

 

「そういえば、私のレースを直接ご覧になられたそうですね?」

 

「見に行ったよ。だって見に行かないと後でグチグチ言いに来るんでしょ?」

 

「まぁ……グランさんはともかく、オリオトメさんは気にしてそうですものね……」

 

「随分と詳しいね?もう会ったの?」

 

「はい!チームの練習中に少し!あっ、あとあの御二方も()()()()()()()()?」

 

「……やっぱり持ってたか」

 

ファーストコンタクトには気をつけるか……。グランの方は意外と気さくに行ってもいいかもしれないけど、オリオトメの方は慎重に行かなきゃ険悪になりかねない。

 

あいつ前世の時は無愛想だったもんな。一緒の場所で過ごしてたわけじゃないし、あいつの全部を知ってるわけじゃないけど慎重に行かないとな。

 

「それよりさ、ちょうど今からお昼みたいだし一緒にどう?」

 

「あら?よろしいので?お二人のお邪魔になるのでは……」

 

「そんなことないって!ですよね?トレーナー?」

 

「別に問題は無いぞ。ノルンの同室の子だし、仲良くなっておいて損は無いからな」

 

「さあさあ!隣にどうぞどうぞ!」

 

「では〜お言葉に甘えさせていただきますね」

 

その後、トレーニングの始まる時間までミルキークラウンと私たちは雑談をまじえながら昼食を共にした。

 

ミルキーのチームメイトやトレーナーさんのことを聞かせてもらった。代わりにスピカの現状を含めて私のことを話してみると、「なら、私にもご協力させてください」と何故かチームを立て直す協力者をゲットしてしまった。

 

私とトレーナーも猫の手も借りたい状態だったので、快くその協力に感謝した。なんかそのうちゴルシちゃんが人参の押し売りでチーム加入を迫りそうだったので、早めに解決したかったので万々歳だ。

 

それ以降も暇な時があったらミルキーと昼食を共にするようになった。そのうちミルキーのチームメイトも紹介してくれるそうだ。今から胸がドッキドキのバックバクである。

 

何はともあれ、無事に前世のライバル達もメイクデビューを果たした。これからは本当の勝負の世界……私にとっては前世同様の“負けられない戦い”…………そして、ある意味馬と人との違いに振り回される生活の始まりだった。

 

______________________

 

「今期の子達は素晴らしいですね!いい記事がかけそうです!」

 

「先輩……ってまた動画見直してるんですか?そろそろ取材の日程ですよ?」

 

資料片手に同じ部署の先輩、『乙名史 悦子』に話しかける松島。当の本人である乙名氏は画面の動画に釘付けであったが、なんとか松島の声で意識が画面から事務所に引き戻された。

 

「そういえば松島さんって今期の子の中に知り合いがいるって言ってましたよね?」

 

「あぁ、『ノルンちゃん』ですね?あの子いいですよぉ。可愛いし、気が合うし、それに強いですし。非の打ち所がないマジパーフェクトプリーチーウマ娘なんですよ!!」

 

「では、その子の取材はあなたの方がいいですね。私は他の子達をを回りますので、あなたはレイゴウノルンとその周囲の取材をお願いしてもいいでしょうか?」

 

「い、いいんですか?先輩だって楽しみにしてたんじゃあ……」

 

「いいんですって。知り合いの方が何かと色々聞けそうですし………まぁ、少し残念なんですけど」

 

「……彼女に先輩と会っていいかどうか聞いてみましょう。オフで」

 

「オ、オフですか!?いや、それは流石におこがましいというか、それに必ず打ち解けれるかどうかも……」

 

「先輩……彼女は私と同じ“同志”だから上手く行きますよ。絶対」

 

 




ご愛読頂きありがとうございます。

何ヶ月ぶりかの更新です。1度内容を全部読み直してからの内容なので、若干構想にズレがあるかもしれません。あと勝負服に関してはもう少し先にさせていただきますね。

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