夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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Mad & Science 【奇妙な科学者】

「次に出るレースはどうする?」

 

「とりあえずジュニア級で出れるGIに出たいかな」

 

「GIかぁ……出れるには出れるがアイツらも出てくるかも知れないぞ?」

 

オリオトメやグランロウルのことだろう。確かにあの身体の仕上がりようなら出てくる可能性もあるが、あれは中・遠距離での話だ。私は……

 

「私は朝日杯フューチュリティステークスに出るつもりだからあの二人は出てこないはずだよ」

 

「朝日杯フューチュリティ……ってマイルだろあれ!?お前マイルも走れるのか!?」

 

「だいたい私は短距離がちょっと苦手なだけで、ほとんど芝の全部の距離は走れますよ?」

 

「ぜ、全距離って……じゃあダートは!?」

 

「あっ、流石にダートは無理です」

 

「そ、そうだよな。さすがに無理だよな……」

 

疲れた様子で椅子に座りこんだトレーナー。その顔には少し疲れの色が見える。最近、何やら忙しそうだし気を使ってはいるが……。

 

「トレーナー……最近休んでる?」

 

「ん?あぁ、毎日ちゃんと寝て食べてるぞ。体調を崩したら元も子も無いからな」

 

「……ほんと?」

 

「ほんとだってば」

 

な〜んかきな臭いんだよねぇ。トレーナーって勝手にトモを触ったり、ズボラなところはあるけど、ウマ娘には絶対に一途なんだよ。心配させまいと我慢してる可能性もある。

 

ただここで踏み込んでしまうのもまずいな。トレーナーが隠したがってることだろうしここは無理しないようにそっと見守ってあげるしかない。やれることが無いのは心苦しいが、これが最善なのだ。

 

「じゃ、俺はそろそろトレーナーミーティングがあるから会議に行くが……お前はどうする?」

 

「軽く流しながらアップとしてゴルシちゃんを捕獲してきます」

 

「……そ、そうか。まぁ程々にな?それじゃあ俺は行くから」

 

そう言い残してトレーナーはトレーナー室を出ていった。メンバー集めもそうだが、最近はメイクデビューもあってドタバタしっぱなしだったからな。そろそろトレーナーにも休みが欲しいところだ。

 

しかし、それでも簡単に休めないのがトレーナーという職業なのだ。ウマ娘のトレーニングや体調管理はもちろんのこと、スケジュール管理、トレーニング内容の修正及び提案、ファンへの対応やネットワークの監視、その他etc……などなどの業務が目白押し。

 

年に休みが貰えたとしても累計で40日〜60日程度……はっきり言ってブラックである。しかし、それに見合った報酬はちゃんと払っているし、福利厚生もしっかりしている。

 

メリットとデメリットがあるこの職業だが、ウマ娘が好きの一途でもある彼らからしたらメリットしかないのだろう。だからこそ無理をして倒れてしまうリスクが高いのだ。

 

(はぁ……トレーナー達ってなんで誰も彼もこう自分に無頓着なんだろうか)

 

トレーナー室でジャージに着替えて廊下を歩く。せめて自分のトレーナーだけでもそろそろベッドにぶち込むべきだ。でも、素直に寝てくれるとも思えない……何かいい方法はないだろうか?

 

「やぁやぁ!そこのウマ娘くん!少しいいかい?」

 

「ンピッ!わ、わわ私のことでしょうか!!?」

 

急な呼び掛けに1歩も耳もピンと上に立ってしまった。振り向くとこちらに向かって歩いてくるのは、栗毛の美しい白衣のウマ娘だった。

 

「その通りさ!急に驚かしてすまないねぇ。実は君に少し協力してもらいたいことがあるのだよ」

 

「は、はぁ……それは私ではないとできない事だと?」

 

「そうでは無いのだが……他には断られてしまってねぇ。人助けなるぬウマ娘助けだと思って協力してくれないだろうか?」

 

「そ、それはもちろん構いませんが!」

 

ハイライトのない瞳、少しくすんだ栗毛、遠くからは見えない程度で白衣には謎の液体が付着していた。見るからに怪しいのだが、ウマ娘相手ではそんな思考など宇宙の彼方へと吹き飛んでいた。

 

「あ、あの!あなたのお名前は……」

 

「ん?あぁ、初対面なのに名乗り忘れていたね。私の名前は『アグネスタキオン』……ただのしがない研究者さ」

 

そう言いながら『アグネスタキオン』と名乗った彼女はクスリと妖艶な笑みを見せた。そして、私はその姿を直視して気を失いかけたのだった。

 

______

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_

 

「本当に大丈夫なのかい?体調が悪いのなら別日でも……」

 

「いえ!全く問題はありません!むしろ、さっきより俄然やる気が出ました!」

 

「そ、そうなのかい?それならまぁいいんだけど……」

 

気を失いながらもなんとか最後の一線でギリギリ踏みとどまった私に、タキオンさんは随分と心配してくれた。優しい……白衣も相まって天使に見えてくる。

 

それはそうとてやってきたのは旧理科実験室。数年前に新しい理科室ができてから誰かに占領されているとは聞いていたが、タキオンさんだったのか。

 

教室の扉を開けると見えたのは、様々なフラスコや試験管の中に入った薬品、実験に必要な道具のその他諸々……まさに自分のラボといったような雰囲気だった。

 

「紅茶とコーヒーがあるのだが……君はどっちがいいんだい?」

 

「えっと……じゃあコー「紅茶だろう?」いや、あのコ「紅茶だよねぇ?」…………紅茶で」

 

半ば無理矢理紅茶に決定してしまった。コーヒーになにか恨みでもあるのだろうか……タキオンさんは。

 

「さて、それでは君にやって欲しいことなのだが……」

 

「は、はい!それはいいんですけど……お砂糖そんなに入れて大丈夫なんですか?」

 

「逆に何が問題なのかな?美味しく飲めるのならどれほど砂糖を入れてもいいはずだろう?」

 

「えっ、まぁ……それぞれによるとは思いますけど……」

 

同意はするものの、タキオンさんの紅茶に入っている砂糖の量はあまりにも異常だった。角砂糖どんだけ入れてるんだ……それ5個目だぞ……。えっ、その中にミルクまで入れるの?そんなドバドバと?

 

「うん、やっぱり紅茶にはこれだね」

 

あれが普通なのかぁ……。血糖値とか大丈夫なのかあれ?多分そのうち健康診断で引っかかるかもしれない。

 

「そ、それで!?本題はなんでしょうか!?」

 

「あぁ、君には第1被検体として私の薬を飲んで欲しいのだよ」

 

「く、薬ですか……?」

 

「その通り、私はウマ娘の限界を超える研究をしていてねぇ。そのために色んな薬を試作しているのだよ。有毒性がないことはもう実証済みだから何の心配もせずにグイッといきたまえ」

 

タキオンさんから手渡されたのは試験管の中身に注がれている緑色の液体だった。正直、これをなんの疑いもなくグイッといけるほど私も馬鹿じゃない。

 

「あの〜、飲む前につかぬ事を聞きたいんですけど……」

 

「ん?なんだい?」

 

「タキオンさんって色んな薬を作ってると言ってましたよね?その中に『疲労に効果のある薬』とかあったりしませんか?出来ればこの薬を飲む対価としていだければと……」

 

「あるにはあるが……どうしてそれを?」

 

「最近トレーナーの疲労が溜まるほど無理をしているみたいで……。何とかしてあげたいと思ったんです」

 

「ほうほう……それならいいものがある。疲労困憊、肩凝り冷え性、快眠導入に効果のある素晴らしい1品だ。飲んでくれる対価としてなら喜んで譲ってあげよう!」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

「礼はいいさ。実験の対価としては安いものだからね?さぁ!私にその薬の効果を見せてくれたまえ!」

 

「はい!グイッと行かせていただきます!」

 

______________________

 

「はぁッ!……はぁッ!……ど、どうでしょうかタキオンさん!?」

 

「君のポテンシャルが高かったのを除いたとしても、この距離でこのタイムは驚異的だねぇ。また一歩研究が完成に近づいたよ」

 

「それは良かったんですけど……なんか身体中が鉛のように重いような……」

 

「今回の薬は一時的なブースト剤みたいな感じだからねぇ。引き出された能力分の体力が消費されているんだろう。少し休めば問題はないはずだよ」

 

「そうなんですね……流石にこれ以上はちょっとキツいんで休ませてもらいます……」

 

薬の服用後、タキオンさんに連れられて芝コースへと移動。そこで3000mのタイムを計測して、過去のレースデータなどと比較して変化を観察するらしい。

 

タキオンさんには長距離を走れるスタミナを持った友人がいるらしいのだが、最近はあいにく予定が合わず、代役として私が選ばれたということだ。

 

もしも、私に長距離適性がなかったらどうなっていたのだろうか?とも思ったが、適正距離に関してはさほど問題は無かったらしい。短距離でもマイルでも時間の変化を計測できるみたいだが、データとの差があまりないので長距離の方が何かと都合が良かったのだ。

 

「不思議だねぇ。君のような体躯であれほどのスタミナとスピード……それほどの運動能力をどこから補っているのか興味が尽きないよ」

 

「タ、タキオンさん?なんで徐々にこっちに近づいて……」

 

ずいっと顔を近づてけてきたタキオンさんに動揺を隠せない。鼻先が触れ合ってしまうほどの近さでじっと目をのぞき込まれてしまう。

 

あー!ダメですダメです!こんな距離で見つめられたらいい匂いといい顔とその獲物に絡みつくような瞳がもう無理……しゅき……。

 

「君は随分と優秀だからねぇ。どうだい?これからも私の被検体として働くというのは……「また他人に迷惑かけてるんですか?タキオンさん」おっと、これはこれはカフェじゃないか!」

 

意識が自動シャットダウンを行う前にタキオンさんが引っ張られて、私の目の前から引いて行った。あ、危なかった……一瞬体が浮いた感じがしたけど無事だった……。

 

「また他の方を使って実験ですか?いい加減周りを巻き込むのをやめたらどうなんです?」

 

「そうして欲しくなければ君が私の実験を手伝えばいいだけの話じゃないか。今回も君が断ったから彼女に代役を頼んだのさ」

 

「それとこれとは話が別です。私が手伝うことなど有り得ませんので、そこら辺を承知した上で他人を巻き込まないでくださいと言っているのです」

 

「ほぉ〜?言ってくれるじゃないかカフェ?そこまで言われたら無理やりにでも実験に付き合わせたくなるねぇ」

 

目の前で喧嘩を繰り広げるタキオンさんとカフェさんというウマ娘。

 

バッチバチの喧嘩を繰り広げている場所で言う感想では無いと思うけど……ありがとうございます!険悪な場で言うのは流石にダメですけど、こういう喧嘩はじゃれ合いのように見えるのでセーフなのです。

 

やっぱりオタクたるもの?空気を読むスキルというのは必須な訳でして……本当に怒ってるのと、怒ってるように見えて楽しんでいるの違いを見極めるのは得意なんですよね!

 

私の慧眼(ウマ娘のてぇてぇ限定)の判定ではこの喧嘩は“白”です!私が介入する必要無し!終わるまで傍観するが吉と出ました!なのでこのまま空気として見つめさせて……

 

「あなたも大丈夫ですか?タキオンさんの薬で体調がおかしかったりとかは……」

 

「あっあっ…い、いえ!全く問題ない、でしゅ!」

 

「……ほんとに大丈夫なんですか?」

 

くれないのが現実なんですよね。カフェさんもすっごい優しいよぉ。えっ、手も足もほっそ!?これで長距離走れるって、すご。

 

「顔が赤いですね。彼女に何かしたんですか?タキオンさん」

 

「どちらかと言うと原因は君なんだけどねぇ。だけど、このまま勘違いされたままだと面倒だ。1から説明してあげようじゃないか」

 

______

___

_

 

「なるほど……トレーナーさんのため、ですか」

 

「は、はい!タキオンさんの薬ならなんとかできるかなぁ?と思いまして……」

 

「やめておいた方がいいですよ。この人のトレーナーさんはほぼ毎日ゲーミング色に光ってますからね。何が入ってるか分かったものじゃないですよ?」

 

「随分と酷い言い草じゃないか」

 

所戻ってタキオンさんの研究室。どうやらここはタキオンさんとカフェさんが共同で使用しているらしく、タキオンさんが紅茶しか飲まないのにコーヒーを置いていた理由はカフェさんがコーヒー好きだからだそうだ。

 

正直言って最高。同棲?同棲じゃんこれ、険悪に見えてほんとはお互いの事をよく知っている感じのアレじゃん!ものすごく好きなてぇてぇ展開ですこれ。

 

「そうそう、これが報酬の薬さ。錠剤タイプはあまり好きじゃないんだがねぇ。まぁ製造過程の問題で錠剤になったと思ってくれ。寝る前に1錠で効果があるから容量はしっかりと守って使ってくれたまえ」

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

「……どうなっても知りませんからね?」

 

意気揚々と薬を受けとった私は早足でその場を後にした。タキオンさんからは「暇な時にいつでも実験の手伝いをしに来てくれないかい?」とお誘い頂いたので、レース期間ではない時に限り協力するとだけ言っておいた。

 

そのままトレーニングにやってきたトレーナーに錠剤を渡し、寝る前に1錠飲むように伝えて、その日は悩み事もなくそのまま布団の中でぬくぬくと安眠を迎えたのだった。

 

_______________________

 

「これはどういうことか説明はあるか?」

 

「……」

 

「ッ!ッ!!アハハハハハハ!」

 

次の日、トレーナー室では正座させられた私と、腹を抱えて床をころげ回ってるゴルシちゃんと、そして()()()()()()()()()()トレーナーの姿があった。

 

「昨日お前に渡された錠剤を飲んで朝起きたらこうなってた訳だが……お前マジで何飲ませたんだよ」

 

「疲労に効果が抜群の錠剤です」

 

「……だから、いつも以上に体が軽いのか。まぁそれはいいとして、出処は?発光してるから心当たりは一人しかいないが……」

 

「アグネスタキオンさんです」

 

「はぁ〜、やっぱりあいつだったか」

 

ガジガジと頭をかくトレーナー。ちなみに副作用について私は一切知らない。まさか飲んだ人があんなスー○ーサ○ヤ人みたいになるとは思わなかった……光ってるのがトレーナーだとすっごく面白く見える。

 

「関わり合うな……とまでは言わねぇけど、あんまり過度な付き合いはやめとけよ?」

 

「はい……」

 

「とりあえず言いたいことはこれで全部だけどさ……これいつになったら消えるんだ?」

 

「わ、分かりません……説明とか何も受けてないので……。タキオンさんに聞く他ないかと……」

 

「……ほんとにあいつと関わる時は気をつけろよ。ほんとに……」

 

トレーナーと会ってから1番重い言葉だった。現状何も手の打ちようがないので、最悪今日一日だけはそのまま過ごすしかない。……自分に置き換えたら本当に耐え難いなぁ。

 

「す、すみませんでした……」

 

その後のトレーニングでは周りの目が気になりすぎて、私とトレーナーの間では気まずい雰囲気が漂い続け、珍しくトレーニングに参加したゴルシちゃんはずっと笑いを抑えるようにプルプルと震えているのだった。

 




ご愛読いただきありがとうございます!

タキオン、カフェ登場回となりましたね。こういう風にここのキャラと出会う話をちょいちょい盛り込んでいこうと思っていますので、楽しみに待っててください。

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