夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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この孫にして、この破天荒な祖母あり

「だ〜か〜ら!なんで色は赤色とかの暖色系で統一しようとするの!私は黒とか青の方が似合うって!」

 

「いいえ!ノルンちゃんのイメージ的には暖色がピッタリよ!いいから口を挟まず私の案を参考にしな!」

 

「はぁ!?勝負服は生徒の要望で作られるんだからそっちの案を重視しなきゃいけないルールなんてないでしょ!私はこっちの方がいいの!」

 

ガミガミとトレーナー室で言い争い合うのは、レイゴウノルンと女性のご老人。お互いがお互いに自分の主張を曲げないので、言い争いが泥沼と化していた。

 

「でしたら、青や黒をベースとしたドレスと言うのはどうでしょうか?」

 

互いの主張を崩さぬようバランスを取った意見を記者の松島さんが提案するものの……。

 

「ヤダ!色はいいけどドレスはヤダ!」

 

「私も反対!ドレスはいいけど色がダメだ!」

 

両者ともに速攻で否定し、また話が最初へと戻った。『ワガママがすぎるだろ』と思っていそうな顔で、トレーナー室の端に控えている沖野トレーナーはうんざりしながら、2人のやり取りを眺めている。

 

さて……今このトレーナー室で起きていることに関しては大体内容が掴めたものの。

 

「なぁ、トレピッピ……どうなってんだ?これ」

 

「話せば長くなる……」

 

何がどうなってこうなったのかを、私は黙ってトレーナーから聞くことにした。

 

_______________________

 

遡ること2日前……

 

「取材?」

 

「そう、お前もうレースの出走届で朝日杯フューチュリティに出るのは決まってるだろ?事前調査の3番人気まではコメント付きで雑誌に出されるからノルンも意気込みとか考えとけよ」

 

「えっ、私って3番人気なんだ……」

 

「お前ほんと自分に関して無頓着だよな……1番人気だぞお前」

 

「へ?」

 

今なんと……?私の耳がおかしくなければ『1番人気』と申しましたか?3番人気以下ならまだしも、他の娘達を差し置いて私がイチバンニンキ?ありえないでしょ。

 

「なんでかは分からんが、お前に相当なファンがいるらしい」

 

「えっ、本当ですか?私ってまだデビューしたてであんまり知名度はないですよね?」

 

「そうなんだよ。なんでこんなに人気が出てるか不思議で仕方ない……」

 

私から特にしたことは……ないかな。出たレースもメイクデビューだけだし、学園外に出たのもミルキークラウンと買い物したり、ちょいちょい実家に帰ったりしてる時くらいだ。

 

他に目をつけられそうだとしたら夏休みの合宿が原因の可能性はあるのだが、あいにくチーム数2人の我らが『スピカ』ではそもそも合宿に参加すること自体が不可能。

 

だとしたらこの人気は何なのだろうか……う〜ん、まるで見当がつかない。

 

「まぁ、事実は事実だしな。取材は2日後だからちゃんと準備しとけよ?」

 

「分かりました。まぁ、何とか乗り切ってみせます」

 

_____________________

 

「……っていうやり取りが2日前にあった」

 

「なおのことさら、こんなカオスになる理由がわからんぞ?トレピッピ」

 

いつも奇行に走るゴルジでさえ真面目に話を聞きいるほど、場の雰囲気は混沌と化していた。部屋中には何枚もの衣装案と思われる紙が散らばり、机を挟んで2人が言い争っている。

 

「というか、あの婆さんどっから湧いて出てきたんだ?少なくとも2日前にはただ取材の予定だったんだろ?」

 

「婆さんって呼ぶな。あの人は世界的に有名な衣装デザイナーの『AZUKI』さんだぞ」

 

「AZUKIって……日本だけじゃなくて海外でも有名なデザイナーだったよな?中でもGIの勝負服のデザインは格別って言われてる」

 

「そう、そのAZUKIさん。んでもって、ノルンの祖母らしい」

 

「マジか。あいつの家って有名人多すぎだろ」

 

『AZUKI』、日本だけでなく世界各国を渡り歩く神出鬼没の天才デザイナー。その斬新なデザインから様々なブランド企業から声がかかるものの、本人はそれら全てを一蹴して自由気ままに世界を旅しているらしい。

 

だが、彼女が世界中から名声を集めるのはデザインだけによるものでは無い。彼女から送られる勝負服には『勝利の神様が宿る』とも言われるほど縁起のいいものなのだ。

 

だからこそ、彼女から送られる勝負服は全ウマ娘からしたら至高の1品に他ならない。

 

ピリリリ!ピリリリ!

 

「誰だこんな時に……ってたづなさんか。はい、もしもーー」

 

『ーーッですッ!?はやーーッ!』

 

「あの……たづなさん?音声が乱れて……」

 

『そちらは大丈夫ですか!?』

 

「「うおっ!!?」」

 

電話越しから聞こえてきた大声に沖野はもちろんのこと、近くにいたゴルシもビビるほど驚いた。しかし、言い争っている2人と松島さんには全く聞こえてない様子。

 

「た、たづなさん!?大丈夫とは一体……」

 

『詳しく話してる時間はありませんが、“彼女”がそちらにーー!』

 

ドン!!!

 

その瞬間、トレセン学園内全体が揺れ動いた。何が起こったのかは分からない。だが、これだけは確実に分かる。

 

ドン!ドン!ドン!

 

確実にこの部屋へと向かってきていることが。

 

バゴォン!!

 

部屋の扉は跡形もなく粉砕された。他ならぬ1人のウマ娘によって。

 

『……沖野さん。私達がそちらへ行くまでなんとか持ちこたえてください!』

 

「いや、無理だろこれは」

 

「激しく同意だぜ」

 

扉をぶち破って来たのは芦毛のウマ娘。しかも、生徒では無い完全に外からの来園者だった。

 

「ノルンちゃんに何やってるの!!?母さん!?」

 

「……それは私が言いたい。扉をぶち破る不良娘に育てた覚えは無いはずだ」

 

「あれ?お母さんじゃん」

 

「カオスここに極まれりだな」

 

芦毛のウマ娘の正体はノルンの母親だ。沖野は意外に思うと同時に、彼女ならあれほどの轟音は出せるか……。と謎の納得をしてしまう。

 

「す、すごい……。世界中を飛び回るデザイナー界の女王、GI累計5勝のスーパースターウマ娘、それに未来のレジェンド候補のノルンちゃんが集まるこの場にいられるとは……感極まります!」

 

「もうあの人には帰ってもらえ。雰囲気台無しだし、そのうち気絶するぞ」

 

______

___

_

 

「で?なんで今更になって帰ってきたの?」

 

「初孫の初の晴れ舞台……帰ってこない方がおかしくないか?」

 

「見に来るのはいいとして、勝負服まで口を挟むことないでしょ?」

 

とても久しぶりに再会した親子とは思えないほどのギスギスとした会話。居心地の悪さは言わずともわかるだろう。

 

「トレーナー、これどうする?」

 

「どうするつっても……たづなさんに任せるしかないな」

 

「だね、流石の私もあの中には入りたくない」

 

「しかし、見ていてやはり親子という感じがしますね!」

 

「うん、松島さんはちょっと黙ってよっか?」

 

怒ってるお母さんを知ってるからこそ、マジで避けたい。なんなら空気になって隅っこにいたいくらいだ。まぁ、今回は完全にお婆ちゃんが悪いわけだが……。

 

「6年間も海外を飛び回って何考えてるかと思ったら今度は『孫のため』?そろそろ母さんとは徹底的に話し合いをするべきかもね」

 

「あぁ、望むところだね」

 

お母さんホントにお婆ちゃんの事嫌ってる節があるからなぁ。子供の頃から日本に置いてけぼりにされてたらそりゃ遺恨くらいは残るよね。これはお婆ちゃんが悪い。でもね……。

 

「はい、お母さんもお婆ちゃんもストップ。これ以上トレーナー達に迷惑かけないで」

 

「「でも……」」

 

「いい加減にしないとおじいちゃん呼ぶから」

 

「「……」」

 

孫に言い負かされる祖母と母親。どう考えてもパワーバランスがおかしいのだが、これはこれでいつもの家庭風景なのでなんの問題もない。

 

ちなみにお婆ちゃんもお母さんもおじいちゃんには頭が上がらない。おじいちゃんがなんの仕事をしてるのか全く知らないけど、色んな人と知り合いなのは分かっている。

 

「すみません!遅れました!!」

 

「あっ、たづなさん」

 

「ここにいましたね先輩とAZUKIさん!入園手続きをしてから入ってください!さぁ!行きますよ!」

 

「ごめんなさいね、たづなちゃん。ほら行きますよ母さん」

 

「……しょうがないな」

 

もはや扉が機能していない出入口からたづなさんがお母さんとお婆ちゃんを連れていった。去り際にお母さんが深々とトレーナーとゴルシちゃんに頭を下げて行った。

 

「さて、片付けますか」

 

「……そうだな。手伝えゴルシ」

 

「えぇ〜、なんであたしまで……」

 

「手伝ってくれたらまた焼きそば販売を手伝ってあげますよ。ゴルシちゃん」

 

「おっしゃ!速攻で終わらせっぞ!」

 

「わ、私もお手伝いさせていただきます!」

 

______________________________________

 

「そういやさ、お前の婆ちゃんいつ帰ってきたんだ?」

 

トレーナー室のドアを修繕中にゴルシちゃんが唐突に尋ねてきた質問に、私は即答で返す。

 

「今日の朝」

 

「今日の朝!?その足でトレセンまで来てんのかよ!?」

 

「元々フットワークが軽い人だからねお婆ちゃんは、1度飛び立ったら何年も帰ってこないっていうのはざらにあるし。だからお母さんもお婆ちゃんじゃなくておじいちゃんに育ててもらったんだって」

 

「なるほど……そりゃあ、お前の母ちゃんも良い印象持ってるわけねぇわな」

 

おそらく今回は衝動的な帰国だったんだろうな。お婆ちゃんが帰ってくる時は大体あの人お付きのマネージャーさんが一言お母さんに連絡入れてくれる。

 

しかし、お母さんは慌ててこのトレセンまでお婆ちゃんを追っかけてきていた。おそらくあっちのホテルも無断で抜け出してきてるんだろうなぁ。後で謝罪のメール送っとこ。

 

「口使いが男っぽいけど悪い人じゃないんだ。やることには熱心だし、他人のことをよく気遣えてる。それがもう少し身内に向いてればなぁ……って思うことはあるけどね」

 

「中々苦労してんだなぁ」

 

「それありきでもかなり愉快な家庭だけどね」

 

さてさて、こっからどうしますかね。あのお婆ちゃんが大人しく引き下がるとも思えないしなぁ。服のことになったらホントに頑固だから納得させるのも一苦労しそうだ。

 

……そういえば、1人だけ心当たりがいる。

 

「松島さん、連絡をお願いしたいんですけど」

 

「別に構わないですけど……誰にするんです?」

 

「とっても頼りになるコーディネーターのお姉さん」

 

________________________

 

「ほんっっっっとに、もう二度とこんなことがないようお願いしますね?」

 

「苦労をかけてごめんなさいね。ほら、母さんも謝って」

 

「悪かったね。お詫びとしてイベントでの考案の件を受けてあげるよ」

 

「ほ、本当ですか?早急に理事長へ連絡させていただきますね!」

 

電話をかけながら部屋を出ていったたづなを確認すると、AZUKIは一気に脱力した。

 

「……随分と仕事熱心のようですね」

 

「私のこと、まだ根に持ってるのか?」

 

「過去は過去、すぎてしまったことにとやかく言うつもりはサラサラないですよ。でも、あの子には自分の価値観を押し付けるような真似はしないで」

 

「わかってるさ。でも、可愛い可愛い孫だぞ?何かしてあげなければとは思うだろう」

 

「孫バカが悪いとは言いませんけど、限度を持ってくださいと言いたいのです」

 

母の言いたいことは分かる。私だってノルンちゃんのことが可愛くて仕方がない。でも、私は自分がこうなって欲しいという願望をノルンちゃんに押し付けたことは1度だってありはしない。

 

あの子には自由でいて欲しいから『擦り寄ってくる虫』を裏で払い除けながら今までやって来た。そこに関しては協力してくれた父さんには感謝している。

 

「あの子にはあの子なりの生き方がある。その邪魔を祖母であるあなたがしないでください」

 

「……分かってるよ。全く、あんたも爺さんに似たもんだな」

 

「私をほっぽり出して海外を飛び回ってるのに、性格が似るわけもないでしょう」

 

「それもそうか」

 

何気に数年ぶりの会話だ。別に話せない訳では無いが、子供の頃から父との二人暮しの方が長かったため、普通に母親とどう接していいのか分からなかっただけだったりする。

 

あれだ。他人とは違っていても自分の中では普通だと認識しているような感じだ。

 

「お待たせしました。手続きは問題なく完了しましたので、これからは自由に学園内を見回ってもらって構いませんよ」

 

「ありがとう、たづなちゃん。わざわざ許可まで取らせちゃって」

 

「いえいえ、理事長秘書なのでこれくらいは片手間で終わりますよ」

 

たづなから自分の名前が入ったネームタグを受け取る。これさえあれば外部のものであろうが、学校公認の来客として認められるというわけだ。

 

「それで、ノルンさんの元に戻られますか?話をするなら別の空き部屋を用意しますけど……」

 

「その必要は無いですよ、たづなさん!」

 

たづなの言葉を遮るようにして部屋に入ってきたノルンちゃんに、一同全員が驚いた。しかも、ノルンちゃんの後ろから先程の記者さんが何やらとんでもないスピードでメモ帳に何かをメモってる。

 

「必要は無いってのはどういう意味だい?」

 

「だって、もう私の勝負服のデザインも発注先も決まっちゃったもん」

 

「「「え?」」」

 

私、母さん、たづなの3人ともが声を揃えるほど、あまりに衝撃的な言葉だった。

 

「待て待て待て、その件についてはさっきまで私と話してたよな?どれがどうなったらこんな事になるんだ?」

 

「実はこの前雑誌のモデル(無理矢理)やったんだけど、その時の現場担当だったお姉さんから撮影の報酬を貰ってなかったんだよね。だから代わりに勝負服のデザインとかその他諸々全部の手伝いをお願いしたの。いまさっきだけど」

 

「先方からは快諾してもらっておりますし!何よりノルンちゃんのデザインはあまり修正点がなかったので、できるまでそれほど時間はかからないようです!」

 

我が娘ながら随分と行動的な子に育ったと思う。そこら辺はやっぱり母さん譲りのアグレッシブの因子が多く継承されたからかもしれない。

 

それにしてもノルンちゃんのデザインか……。さっきの様子を見るに母さんとは違ったファッションセンスをしているようだし、ちょっと……いや、かなり気になる。

 

「せっかくなら見せてくれないかしら?ノルンちゃんが考えた勝負服のデザインを」

 

「うん、いいよ。3つほど考えてたけど、やっぱり1番気に入ったのはこれかな」

 

1枚の紙を渡されると、中身を見てみる。なるほど……確かに似合いそう。それに母さんとはまた違ったデザイン性で斬新さがある。

 

せめて付け加えるなら……

 

「私の髪飾りあげるからそれも付けてくれないかしら?」

 

「おぉ!お母さんの髪飾りくれるの!?ありがとう!」

 

現役時代につけていた髪飾り。私よ無事を祈ってトレーナーさんが神社で願掛けしてもらったこともある。だけど、引退した私にとってはもう必要のないものだ。

 

「私の期待も一緒に乗せて走ってね」

 

「うん!頑張るよ!」

 

その瞬間に見せてくれたノルンちゃんの笑顔は、私が今まで見てきた中で1番輝いて見えた。




ご愛読頂きありがとうございます

勝負服の見た目に関しては前から言っていた通り、アンケートを取ります。『この勝負服がいい!』と思った選択肢に皆様方のたくさんのご投票をお願いします。

次回はちょっと初めての試みを行うので、更新まで少しお時間をいただくことになるかと思います。気長に待ってくださると助かるので、楽しみにしててくださいね。

感想・評価 よろしくお願いします!

勝負服のデザインについて

  • シンボリルドルフのような『軍服系』
  • シャカールのような『カッコイイ系』
  • マンハッタンカフェのような『神秘系』
  • フジキセキのような『エンターテイナー系』
  • キタサンブラックのような『日本伝統系』
  • チゲゾーのような『スポーティ系』
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