『朝日杯圧勝“レイゴウノルン”!次期クラシックウマ娘達に宣戦布告!?』
「見事に1面のネタにされてるな。いくらなんでも煽りすぎだろ」
朝日杯を制して数日、そろそろ年末に向けて帰省する生徒が多い中、私はトレーナー室にこたつを設置してミカンを食べていた。
「これでいいんです。こういうのは煽れば煽るほど、焚き付けられる連中が強くなっていくですよ。あっ、デジたんミカンどうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
今日は年末年始の3日前。冬休み真っ只中で地方の地元へ帰っていくウマ娘達はたくさんいるが、私の実家はトレセンから交通機関で1時間ほどだ。こうやって年末前でもトレーナー室でゆっくり出来る。
デジたんも今回の冬コミは見送って、夏コミで最高の作品を出すつもりらしく、こうやって暇な時間ができたのだ。
「それにしても皐月賞か……。朝日杯を制したお前の出走は確実だろうな」
「先日のホープフルはグランロウルが1着ですし。一応、風の噂によるとオリオトメは『弥生賞ディープインパクト記念』に出るのを表明してるよ」
「つまり……ノルンちゃん、グランロウルさん、オリオトメさんの対決が皐月の舞台で見れると!?」
「オリオトメはまだ勝ってないけど、可能性は高いねぇ」
まぁ、絶対勝つだろうな。最終調整も兼ねてホープフルに出なかったんだ、1着は確実として圧勝レベルの走りはするだろうな。
「んじゃ、俺は年末に用事あるからトレーナー室は閉めるけど……ノルンは明日帰省するんだよな?」
「3日には戻りますけどね」
「君……アグネスデジタルの方は?」
「は、はい!私も明日実家に帰る予定です!」
みんな明日には帰るんだな……。あっ、ゴルシちゃんなら2日前にもう一足先に帰省してるよ。帰る時もいきなり「帰省すっから」って言ってそのまま帰って行った。
ちなみにおばあちゃんは実家に居ない。今のところお付きの人に監視されながら海外で仕事中だ。仕事を何件もほっぽり出して日本に帰ってきたから年越しには帰って来れない。
それでもしっかりお年玉は置いてってくれるから孫思いなのは確かだ。おじいちゃんも年末の“総会”なるもので実家には帰らない。忙しいのは知っているので仕方のないことだ。
「デジたんも明日帰るんだ?なら、一緒に初詣行かない?」
「い、いいんでしょうか!?私なんかがご一緒しても!?」
「いいよいいよ!一人で行っても寂しいからね!じゃ、年始に神社でね!」
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「……という出来事が3日前にありました」
「ふぅ〜ん、だから今ここで待ってるんだ」
人で混み合ってる初詣の神社の端で、私は偶然にも出会ったウマ娘と一緒にデジたんの到着を待っていた。
「君のことは待ってないね。ていうか、こっちが気づいてないなら無視すればよかったのに……」
「だって〜、あれだけ僕達のこと煽っておいて挨拶のひとつもないとかダメでしょ?」
「その後で当てつけかのようにホープフル勝ったやつが何言ってんの?」
「あはは〜」と緩く笑い返すのが、先日ホープフルステークスを制したグランロウルだ。ホントに綺麗な青鹿毛の毛並みをしてる。
「でも、オリオトメちゃんも随分と張り切ってましたよ?今回は“無敗”どころか“三冠”すら危ういんじゃないですか〜?」
「そうだね。今回は前より僅差になるかもしれない……けど、それでも負ける気はこれっぽっちもないけどね。オリオトメにも君にもね?」
「……本当にいい性格してますよね〜。学園と今、どっちが“本物のレイゴウノルン”なんですかね?」
「う〜ん……どっちも素の私なんだよね。多分、意識を切り替えるスイッチがしっかりしてるだけだよ」
オンオフは無自覚だけどね。推す時は推す、真面目な時は真面目に……みたいな感じで意識的な切り替えが自然とできてるんだろう。レース前がそんな感じだし。
私はウマ娘に触れ合うと大抵オタクになって行動しちゃう傾向がある。けど、ある程度の知り合いとか、同士とか、前世の記憶持ちのやつらとかには普通に接せられるんだよ。
やっぱり意識的な問題があるのかもしれない…………ちなみにゴルシちゃんに関してはマジで謎。今はもう考えないようにしてる。
「す、すみませ〜ん!!遅れちゃいま……ヒョエエエェェェェ!!?ぐ、ぐぐグランロウルさん!!?」
「ねっ、面白い娘でしょ?」
「うん、聞いた話より何十倍もね」
卒倒しそうになるデジたんだったが、なんとか踏みとどまって意識をブラックアウトすることだけは回避した。そのまま、グランのことを紹介していると、急にグランがデジたんに握手するもんだから石化するように固まってしまった。
あまりデジたんで遊ばんでくれ、冗談抜きに逝きかねないからマジでやめてもろて。
その後はなんの問題もなく参拝を終わらせることが出来た。順番を待っている間に色んな人からの視線を集めていたので、軽くファンサしてあげたらみんな皆満足そうに帰って行った。
やはりGIを勝っていたらある程度顔を覚えられるのだろうな。何故か着いてきたグランロウルもいるからなおのこと視線を集めたのだろう。
「あの、ノルンちゃんはどこでグランロウルさんとお知り合いになったのでしょうか?」
参拝を終え、グランの奴がおみくじとお守りを買いに行っているのを待っていると、デジたんがそう質問してきた。面識がないもんだと思われてんだもんな……俺とグランって。
「“どこで”と言われたら難しいけど、昔馴染みかな。そこそこ関わりが深い方だとは思う」
「なるほど……だからあんなに親しく……」
「ちなみに、あいつは子供の頃みんなから『グウちゃん』って呼ばれてたらしいよ」
「グウちゃん……?グランロウルの名前をもじった幼名でしょうか?」
「いや?ただ単にいつもぐぅぐぅ寝てるからグウちゃんなんて呼ばれてるらしいよ」
前世でもあいつの怠け癖は結構凄かったって聞いたことはある。馬房でも放牧場でも動くことが稀で、いつも目をつぶりながら眠っている。そのせいで体重管理が難しかったと、あいつの担当の厩務員さんが嘆いていたな。
まぁ、足が弱いんだからあまり動きたくないのも分からないわけじゃない。それでも馬にしては寝すぎであることは誰の目にも明らかだった。
レースの時は華麗な逃げを見せるんだけどなぁ……。どうも私生活になると気が弛みがちなのが問題なのだ。
「おまたせ〜……って何話してるの?」
「ただの世間話だから気にしないでね。グウちゃん」
「あ〜、そういう話ね」
「な、なんとも思わないんですか?」
「うん、別にそう呼ばれるのが嫌ってわけじゃないしね〜」
グランはこういうのを気にするタイプじゃないということは前々から知っている。怒る場合は自分の事じゃなくて周りのことで怒りそうなので、あんまりグラン自身のことをいじっても対して反応は見せない。
前世だと……担当の厩務員さんに馴れ馴れしく近づいた男の頭を噛もうとしたくらいだ。身近な人が関わったらコイツがいちばん怖い。かくいう私も厩務員さん達や馬主さんに手を出そうものなら蹴るけども。
「そういえば、2人ともこれから予定とかあるの?」
「私は無いかなぁ〜。家にいてもゴロゴロしてるだけだし」
「家で集まりはあるんですけど、ほとんど仕事関係の集まりなので私は必要ないですから暇と言えば暇ですね!」
「んじゃ、ちょっと手伝って貰いたいことあるからウチ来て」
「「え?」」
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「ただいま」
「おかえりなさい、ノルンちゃん。いいタイミングで戻ってきてくれたわ〜」
「はいはい、いつものね……っと、その前に紹介するよ。ウチの友達のアグネスデジタルちゃんとグランロウルちゃん」
「お、おおお邪魔しましゅ!!」
「どうも〜、グランロウルです」
「あらあら、2人とも随分と可愛いじゃない。良かったわ〜、トレセンでちゃんと友達が出来ていて」
最後に余計な一言が聞こえたような気もするけど、今はそんなことを気にしてる場合でもないのでスルーだ。さて、現状を確認しよう。家の庭には餅をついていたであろう臼と杵が放置してあった。
そこまでは普通のことだ。問題はここからなのだが、チラッと家の中を見てれば腰と肩が痛くて苦しそうにしているお父さん。その横にあるテーブルの上には『どうやったらこうなった』と言わんばかりのダークマターが積まれた皿が鎮座していた。
うん、これこそ予測可能回避不可能だな。毎年うちでは正月に餅をついて食べるという習慣がある。そして、それと同じくらい『餅のダークマター化』が習慣となってしまった。
原因は言わずもがなお母さんである。普段は普通の料理を振る舞うくらいにはちゃんとした料理スキルがあるお母さんなのだが、何故かどうして“餅”が相手になると絶望的な仕上がりにしかならないのだ。
去年までは私が何とか普通の餅を作って食べていた。お父さん?前座のお母さんを相手にして毎年腰と肩をやってるよ。
「よし、今年も作りますか。食べたいなら手伝ってよね、グランとデジたん」
「是非とも食べたいね〜。喜んで協力するよ」
「はい!誠心誠意全力で取り組ませてもらいます!」
「じゃあ私も……」
「お母さんはお父さんの介抱をしてあげて。餅はこっちでなんとかするから」
「そう?なら、可愛い娘たちに任せましょうか」
よし、とりあえず目標をこの場から引き離すことが出来たな。でも、あのお父さんのことだ「自分のことは気にせず戻ってくれ」なんてことを言いかねないので、ここはデジたんに協力してもらおう。
「じゃあ、私とグランで餅を作るからデジたんは餅用につける調味料とか作ってもらえるかな?分からないことはお母さんに聞けばだいたい教えてくれるよ」
「分かりました!お台所お借りしますね!」
そのままキッチンの方へと消えていったデジたん。これで多分時間は稼げただろう。早急に餅を作らねば…!
「やるぞグラン。お前も普通の餅が食べたいだろう」
「……あのダークマターだけはさすがの僕も遠慮したいね〜」
「私が水を足すから叩いてくれ」
「了解だよ〜」
阿吽の呼吸と言える速度で餅を交代でついていく。ウマ娘パワーのおかげで作るのに関してはなんの苦もないが、これはお母さんが帰ってくるまで完成させるというタイムアタックなのでめちゃくちゃ焦る。
なんとか餅として食べられる程度までつくと、キッチンの方から調味料を持ったデジたんとお母さんが歩いてきた。
「あら?もうできちゃったの?私も作りたかったわ……」
「そ、それはまたの機会にしよっか!それよりも早く食べようよ、冷めちゃうし」
「それもそうねぇ」
あっぶねぇ……あとちょっと作り終えるのが遅かったらお母さんが参戦してしまうところだった。ナイスな足止めだよデジたん、今年の正月は平和に過ごせそうだ。
「やっぱり餅は醤油をつけて食べるのが美味しいよね!」
「きなこも負けてないよ〜」
「おしるこで食べても美味しそうですね」
「あらあら、正月からみんな食いしんぼねぇ」
テーブルを囲んで出来上がったお餅を皆で食べる。こういう大人数で正月を過ごしたことがあまりないから新鮮だ。人数が多いと話も盛り上がるな。
『先日○○トレーナーが引退を表明。今月いっぱいでトレセン学園から第一線を退き、育成施設への転勤が決定しました。これにより–––––––』
「このトレーナーって前にお父さんが知り合った方じゃないかしら?随分と急な引退ね」
「去年の夏ぐらいに1度会ったくらいだね。確か『初めての教え子がシニア級で大変なんですよ』とか『最後まで走りきったら慰安で温泉旅行につれてあげるつもりです』なんて話をしながら一緒に飲んだな」
(不思議も何も絶対に寿退社でしょ、これ)
初めての担当、一緒に走りきった3年間、2人っきりの温泉旅行……何も起きないはずがないよね。これは担当の子というよりも完全に距離感をバグらせたそのトレーナーが悪い。
お母さんとお父さんは結構ピュアなお付き合いで結婚したんだろうし、こういう話を理解するのは難しいだろうなぁ。なのになんで私が知ってるかって?そんなのオタクだからだよ。ほら、現にデジたんも悟った顔してるよ。
「ちょ、ちょっと眠くなってきたかな〜。少し眠らせてもらいますね〜」
「露骨に動揺してるね?こういう話は苦手なのか?」
「そういうのはまだ僕には早いかな〜。まぁ、オリオトメほどでは無いけどね」
「2人とも何の話をしてるんだ?」
「お父さん達には関係ないから話に割り込まなくていいよ」
これで赤くなってるグランより耐性ないとかどんだけなんだよオリオトメ。いや、逆にこれで恥ずかしがるってことは意外とそっちに詳しかったりするのか?……会ってみれば分かることか。
テレビを見たり、テーブルゲームをしたりして一通り元旦の日を遊び尽くしてその日は解散となった。そして、翌日は一通り家の掃除などを手伝って、3日にはトレセン学園へと戻ってきていた。
トレーナーには『あと2日くらい休んでも良かったけどな』なんて言われたけど、大見得切った皐月賞があと数ヶ月後にあるのだ。ここで手を抜いてなんかられない。
たくさんの夢へと向かうため、今日も今日とて私はトレーニングに励むのだった。
ご愛読いただきありがとうございます。
今回は日常話として投稿させてもらいました。上手い小説の書き方とかあんまりよく分からないんで、適当な感じで書いてます。並行して、少し別のウマ娘シリーズを書いてみたいと思ってますが、その辺はおいおいで。
次回からはクラシック級を本格的に書いていくつもりなのでお楽しみに。
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